『八犬伝』感想:4

八犬伝』感想:4
もう東京公演はおろか、大阪公演も千秋楽近くになっているので、
今さら、公演始まった頃のことを書いてもなぁ・・という気もしますが、
感想:1で、「演出・殺陣・音響効果・映像等々については後から書く」
と約束していましたので、すでにうろ覚えなところもありますが、
何とか思い出しながら書いてみたいと思います。

一応ネタバレあり、としますので、
これから公演をご覧になる方は、お気をつけ下さい。


★演出
河原雅彦さんの作品というと、私が思い出されるのは
下北サンデーズ』や『ハチミツとクローバー(映画)』(共に脚本)ぐらいで
ほとんど予備知識なし、と言ってもいいくらいだったのですが、
今回の河原さんの演出は、
いい意味で、舞台を「遊びの場」と考えているような柔軟な発想があり、
エンターティメントとして堅苦しくなく面白く見せようという姿勢があり、
和太鼓とか、ストンプとか、音楽的・ダンス的要素も入れ込んでの、
みんなで盛り上がろうぜ!的な、ライブ感覚もあって、
すごく楽しかったです。


客席通路から舞台奥の高い所まで、立体的に登場人物を動かし、
場面転換もスムーズでテンポ良く、
和太鼓とか、珠の使い方とか、観客を惹き付けるアイテムも豊富で、
観ていてダレることがなかった。
緻密に組み立てて行く、という感じではないので、
正直、粗(あら)いところもありますが、
そういうところも含めて、一緒くたに「勢い」で押して来られて、
すっかり術中にはまってしまった気がします。


★脚本
これは新感線の『IZO』を観た時にも感じたことなので、
青木豪さんの脚本の特徴なのかな、とも思うのですが、
かっこ良く大団円で手拍子シャンシャンシャン、観終わって気分スッキリ、
・・といったカタルシスが、ほとんど味わえないのですよね。
IZO』の時は、幕末の岡田以蔵の話だったので、
カタルシスを得られないのは仕方ない、とも考えたのですが、
今回は、『八犬伝』なわけだし、
最後はめでたしめでたし、スカッと気持ちよく終わるはず・・と思ったら、
思いがけず重いものを突きつけられて・・
たぶん、それが嫌だ、と思う人もいたかもしれない。
こういう楽しいエンターティメントのラストに、
説教じみた辛気臭いセリフを入れ込むことはないじゃないか、と。
正直、私も少しそう思った。だけど・・


自分の生きる意味を「大義」に見出そうとした八犬士。
彼らにとっての大義は、里見家に忠誠を尽くすこと・・
自分の命を投げ打ってでも、お国や領主(君主)のために働くということ・・
青木さんは、原作のその部分にクエスチョンを投げ掛けた。


言葉はストレート過ぎたかもしれない。
あまりにも唐突で、違和感を抱いた人が多かったかもしれない。
ああいう終わり方が良かったのかどうか、の評価は、
一人一人違っていていい、と思うのですが・・


少なくとも、青木さんは忘れていなかった・・
忘れてはいけない、と思ってくれていた・・


2年前から、めちゃくちゃなことが立て続けに起きている、
そういう場所(福島)に住み続けている人間としては、
どんなに唐突でも、どんなに違和感があっても、
それでもあえてメッセージを入れようとした青木さんの気持ちを、
素直に受け取ってももいいのかな、という気持ちになりました。


★殺陣
正式な殺陣というより、これはもう、ちゃんばらごっこ
だからこその楽しさがありました。
ガムシャラに剣を振り回す(ように見える)ので、
相手との間合いや段取りが、かなり難しいのではないか、と。
私が観たのは、初日から5日目。
演者によって習得具合にバラつきがあったように思いますが、
息が合ってくると、スピード感も重量感もアップする(はず)ので、
日を追うごとに、練り込まれて行ったに違いない・・
おそらく今頃は、ちゃんと完成形が出来上がっているんじゃないでしょうか。


★舞台装置
左右端の立方体の櫓の上に和太鼓。
舞台奥、2mぐらいの高さに上手から下手まで横に続く壇があり、
そこが、道になったり、2階になったりします。
そこから手前に階段があり、それを全面使ったり、一部使ったり、外したり。
両側の櫓が自在に動き、時に中央に出て来たり、はけたり。


派手でもないし、手が込んでいるというわけでもないけれど、
シンプルゆえの観やすさがあったように思います。
中で私が一番好きだったのが、天守での闘いシーン。
シャチホコにしがみついてる信乃や、
屋根に見立てた階段上での彼と現八のやりとりをを思い出すと、
今でも笑えます。


★音響効果
まず第一に、和太鼓を使う、というアイデアが素晴らしかった。
このパフォーマンスだけでも、かなりのお得感。
メインで使ったり、効果音として使ったりして、楽しかった。


剣を交えるシャキーンという音と実際の動きがうまく合っていて、
どういうふうに音を付けているのか興味津々。
そのあたりの技術というのは、たぶん、日々進歩しているんでしょうね。
それがあったから、多少殺陣の段取りがうまく行かなくても、
ちゃんと刀がぶつかっているように見えた気もします。


★映像
普通の大衆演劇ではあまり使わないと思うのですが、
新感線とかではすごくうまい使い方をしていて、
今回も、それに引けを取らない映像効果だったように思います。
物語の流れを簡潔に説明したい場合もそうだし、
もっと具体的に、血しぶきとか、村雨の水しぶきとか、松明の火とか、
演者の動きと連動して映像が展開するあたりも、
細かいところではあるんだけれど、きっちりと作られていて、
そういうのを観るのが本当に楽しかったです。


★劇場(シアターコクーン
TVで観た『天日坊』のイメージがあったので、
舞台がかなり高いんじゃないか、とちょっと心配したのですが、
コクーン歌舞伎では、前列が桟敷席になっていたから、
そう見えただけだったんですね。
マチネは前から3列目のサイドブロックだったのですが、
舞台上も奥までちゃんと見えたし、見切れもなかったし、
前列の人の頭も、思ったほど邪魔にはならなかったです。
(前列が身体の大きい人だったら、気になったかもしれないですが)
観やすさを考えて、椅子を前列と半分ずらしている劇場もあるのですが、
この劇場は、前の列と椅子の並びが同じなので、
段差のない前列では、センターブロックの方が、かえって観づらい、
ということがあるかもしれません。
だとしても、演者の迫力を間近で正面から観られる喜びには
(か)えられない、とも言えますが。


ソワレはI列。
前から12列目ですが、中央通路のすぐ後ろなので、
今回のように通路からの出入りが結構多い演目では、
思いがけず間近に演者を観ることが出来る、なんてこともあって、
すぐ目の前を犬士たちやゝ大が通り過ぎて行った時は、
うわ〜っ、と内心大喜び・・というより、絶句。w
舞台全体を見渡せる席だったので、物語の把握も出来やすく、
ど迫力だったマチネ席とは違った楽しみ方が出来たような気がします。


   **


こういう公演だと、
幕間やマチソワ間の友人との会話も一層はずみます。
楽しい1日を過ごすことが出来て、幸せでした。