『撃てない警官』(第2話=孤独の帯)感想

『撃てない警官』(第2話=孤独の帯)感想 【ネタバレあり】

ネタバレ注意!これからドラマをご覧になる方はご注意下さい。

うわ〜、何だか正座して観なきゃ申し訳ない気分になって来た!
とにかく 登場人物一人一人の描写から その場の空気、匂いに至るまで、
画面の隅から隅まで どこにも嘘がないように感じられるのが凄いです。

どんなにシリアスで丁寧に作られた作品でも、
人物や背景の描き方に どうしても「あ〜これは“作り物”なんだよなぁ」と
感じてしまうことがあって、
観ている側としては「しょうがないね、だってドラマなんだし」と
内心あきらめてしまうのが常なのですが、
このドラマは、いわゆる観る側がそそられるような
(視聴者の多くがそれを求めている と作り手が勘違いしているような)
ドラマチック(劇的)な盛り上げ方を放棄しているにもかかわらず、
非常に緊迫した空気感を作り上げていて、
映画ならいざ知らず、
TVドラマでそういう作品に出逢えるとは思っていなかったので、
観ている間中、嬉しくてたまらなかったと共に、
全身に力が入ってしまって、緊張感が半端なかったです。

なぜそんなことが出来るのか。
多分、人間の描き方(脚本・演出)と演じ方(俳優)に
共通の意識が綿密に出来上がっているせいなのかな、と。
どう作りたいのか、と、どう演じたいのか、が、見事に融合している、
と言ったらいいか。 (偉そうな言い方ですみません)

人間は、そんなに単純じゃない、薄っぺらじゃない、
いい人間か悪い人間か、なんて線引きは、そう簡単に出来るもんじゃない。
ここでは、登場人物それぞれが、どういう生き方・考え方であれ
作り手(演じ手も含めて)から認められ、許されている気がします。
登場人物に対する白か黒かのジャッジを視聴者に委(ゆだ)ねる前に
作り手側が先に いい人間か悪い人間かを安易に決めつけてしまう、
という、あさはかな作り方をしてないんですよね。
だから、一人一人が深くて魅力的なのかな、という気がしました。

第一、 柴崎(田辺誠一からして、ヒーローでもアンチヒーローでもない、
「ヒーロー」という言葉そのものから遠い存在で、
主人公らしからぬ清濁併せ持った複雑な設定になっているし、
普段の刑事ドラマなら単純な役どころになりやすい所轄の署長(諏訪太朗
にしたって、ちゃんと真面目に仕事しているし、
(確かに それなりに仕事が出来なきゃ署長にはなれないはずですものね)
助川副署長(嶋田久作)に至っては、言うことなすこと得心、
おとなしいようで芯があり なかなか従順にならない柴崎とのシーンは
どの場面も味わい深くて面白くて、
内心わくわくしながら喜んで観ていました、
こりゃ なかなか二人の間の溝は埋まらないぞ、と。w

そんな見どころ満載の1時間の中で、今回私が一番惹かれたのは、
助川副署長による被害者の娘(水島かおり)の取り調べシーン。
助川の後ろで調書を書いている柴崎も含め、
緊迫した駆け引きの中で三人がそれぞれ醸す空気感が絶妙で、
見ごたえがありました。
水島さんのまったく何の飾り気もない言葉がリアルで重くて、
失礼ながら うっすら名前しか知らなかった私は、
うわ〜こんな女優さんがいたのか、と ちょっとびっくり。
母親に生命保険をかけていた、その意味が
最後の助川と柴崎の会話から浮かび上がって来た時、
犯人以上の(身内だからこその)慈悲のなさがつらかった、
改めて水島さんの演技に裏打ちされた怖さが伝わって来ました。

普通の刑事ドラマのように、
このドラマも1回につき一つの事件を取り上げて行くことになりそうですが、
事件自体の描き方は決して突飛なものではなく、
日常の中でこういうことも十分にありうる、
地方版のニュースで取り上げられるようなもので、
何だか人間の内側が透けて見えるようで、
観る側の心にじわりと沁みて来るものがあるんですよね。
もちろん犯人は悪いのだけれども、そうなってしまった世の中の仕組み
そのものに原因があるんじゃないか、というような、
どこにもぶつけられない息苦しさというか切なさというか。
1時間の中に、事件そのものの占める割合はそんなに多くない、
犯人もすぐに見つかる、
なのにすごく密度が濃くて、メッセージ性もあって、
ズシンと伝わって来るものがありました。
初回を観た時に、これだけ登場人物を綿密に描いていたら、
事件の内容まで丁寧に描くのは1時間じゃ厳しいかな、と思ったのですが、
無用な心配だったようです。


さて、柴崎令司(田辺誠一)。
主人公という設定なのに いけ好かない奴ですよね、柴崎って。
だけどちゃんと物語の中で魅力的な中心人物として成立している。
どんな部署の仕事もそつなくこなし、
腹の中では深謀遠慮を巡らせるも 感情過多にならずに冷静に対処。
ガンガン自分のやり方を押し付けてくる助川とは水と油で、
嫌な奴だと思いながらもやるべきことはやり、最小限言いたいことは言う。
この人の本質はひょっとしたら今後も変わらないかもしれない。
だけど、いろいろな経験をし、いろいろなものを受け入れて行くにつれ、
彼自身のキャパシティが大きくなって行く…そんな予感がします。


連続ドラマW 『撃てない警官』     
放送日時:2016年1月10日 毎週日曜 22:00-(WOWOW
原作:安東能明 脚本:安倍照雄 監督:長崎俊一 音楽:大友良英
制作:WOWOW オフィスシロウズ
キャスト:田辺誠一 石黒賢 中越典子 高橋和也 加部亜門
嶋田久作 山本學 他
公式サイト