『撃てない警官』(第4話=随監)感想

『撃てない警官』(第4話=随監)感想 【ネタバレあり】

ネタバレ注意!これからドラマをご覧になる方はご注意下さい。

警察という組織はいったい何のために存在しているのか。
  ――国民の安全を守るために。
では「国民」とは誰なのか。
  ――この国に住む人々。
だけど…案外 誰の顔も思い浮かべることが出来ないことに気づく、
国民と言う言葉があまりにも漠然とし過ぎていて。

このドラマを観ていると、
警察という組織が守ろうとしているものが、
顔のない 実体のない 「国民」という言葉そのものでしかない
ように思えてきます。


暴行され傷つけられた女性も、わずかな金のために老婆を殺した女も、
客の嫌がらせで店に働きに行けなくなってしまった子も、その弟も…
街の片隅でひっそりと生きている彼らが関わった事件は、
ただ単純に 加害者と被害者として判別されるだけで、
事件の底に沈んでいる“本質”が、
警察の作る調書や被害届という紙切れの上に
文字によって正確に書かれることはないように思います。
より事件に近く、より関係者に近く 寄り添った者でなければ、
寄り添おうとした者でなければ、
見つけ出すことが難しい 事件の本質…

警官として一番大事なものは何か、
警察は誰をこそ守らなければならないのか…
今回は、広松巡査部長(菅田俊)の背中を観ながら、
そんなことを深く考えさせられました。


その広松は非常に魅力的な人間でしたね。
がさつでギャンブル好きで荒っぽくてどうしようもない奴だと思ったら、
実は面倒見が良くて街の人たちから信頼されているおまわりさんだった…
このあたりの二面性も、
このドラマの登場人物に共通する魅力的なところで、
初体面で広松の強烈な個性にあっけにとられた柴崎(田辺誠一)が
その人柄や言動に触れるたびに少しずつ彼を受け入れて行く様子が、
一片の言葉もないかすかな表情の変化だけなのに
ごく自然に伝わって来て、沁(し)みるものがありました。

なのに、助川(島田久作)との電話で「ああいう人間は嫌いです」なんて、
助川が自分に言ったことをそのままお返しするあたり、
こいつもなかなか自分を曲げない奴だな、と。w
この時の柴崎と助川の電話のやりとりがすごくいい空気感で、
お互いに 好きじゃないけど認めている、という関係がとても新鮮で、
私としては好きなシーンでした。

助川が、柴崎の能力を測るために「事件を調べてみろ」と けしかけ、
案外しっかり調べているのを知って、
広松に不利になってしまっては困るから「もう止めろ」と言い、
ところが「承服しかねます」と 自分の命に反して調べを続行しようとする、
その時の珍しく熱の入った様子にちょっと驚きながら、
こいつなかなかやるじゃないか、と見直してもいる助川の柴崎への評価が、
ラーメン屋で下されているw というあたりも、何だかすごく良かったです。


もうひとつ、非常に印象的なシーン。
中田(石黒賢)から
「山路(柴崎の義理の父/山本學)は私と君の共通の敵だ」
「本庁に戻ってこい」と言われた柴崎が、
川にUSBメモリーを捨てようとするが捨てきれない。
そんな柴崎の耳に、かぼそい仔猫の泣き声…
段ボールに入った仔猫が川を流されて行く、それをただ見つめる柴崎。
今 彼の手の中にあるものと、
他の誰にも気づかれることなく流されて行く あの小さな かよわい命と、
そのどちらが警官である彼にとって大切なものなのか――
これはすごく象徴的で、深く印象に残るシーンでもあり、
観ていて いろいろなことを考えさせられました。

妻(中越典子)と一緒に歩いている時、
喧嘩を目撃するも「非番だから」と見過ごした柴崎。
最後にまた喧嘩を目撃した彼は、いったいどんな行動を取ったのか。
画面がカットアウトしてしまって分からない、
つまり、結果を 観る側に委(ゆだ)ねてくれた、
そのことが何だかちょっと嬉しかった。
このカットに象徴されるような 万事説明過多にならない画面作りも、
このドラマの大きな魅力なのではないか、と感じました。


さて、速いもので、もう次回が最終回。
柴崎の前には解決出来ていない案件が山積みですが、
果たしてそれらをどう収束させ、どういう終わり方をするのか、
ここまでクオリティの高い作品になっているんだから、
尻すぼみにはならないでくれ、
いや、そんなことにはならないはず、と勝手に心が揺れていますがw
なるべく心静かに最終回を待ちたいと思います。


連続ドラマW 『撃てない警官』     
放送日時:2016年1月10日- 毎週日曜 22:00-(WOWOW
原作:安東能明 脚本:安倍照雄 監督:長崎俊一 音楽:大友良英
制作:WOWOW オフィスシロウズ
キャスト:田辺誠一 石黒賢 中越典子 高橋和也 加部亜門 菅田俊
嶋田久作 山本學 他
公式サイト