『撃てない警官』(第3話=第3室12号の囁き)感想

『撃てない警官』(第3話=第3室12号の囁き) 感想 【ネタバレあり】

今回も、最後まで一瞬も見落とせない展開でした。
実直に手堅(てがた)く作られたものなので、
エンターティンメント的面白さには欠けるかもしれませんが、
こんなに緩(ゆる)みもツッコミどころもなく、
必死で画面に食らいつかなきゃいけないドラマは
私としては久しぶりです。


始まりは酒酔いによる些細な自損事故。
その処理に当たった警官がこちらに向けて放った印象的な視線…
その直後から怒涛のようにいろんな事件やら問題やらが
一気に柴崎(田辺誠一)に襲って来るので、
観る側はそんなシーンなんかすっかり忘れてしまってるわけですが、
最後の最後になって、すべての事件が繋がって、
初めてそれがどんな意味を持つものだったのかが分かって、
私は思わず「あーっ!」と声をあげてしまいました。

世界柔道選手権の「警備計画書の紛失」、
留置担当官による被留置者への「便宜供与」、等々、
縦横に複雑に絡み合っているプロットを、
柴崎と一緒に事件全体に繋げ、読み解いて行く面白さ。
さらに、柴崎の前には、
彼の本庁復帰へのキーマンである中田(石黒賢)の「収賄疑惑」、
さらには一人息子・克己(加部亜門)の「万引き」…と、
簡単には済まない問題がどんどん積み重ねられて行きます。

観る側がハラハラしながら画面に釘付けになる中、
あらゆる問題をすべて背負い込んだ柴崎が、
それでも解決に向けて淡々と一つ一つ丹念に推理し 動いて行く姿には、
決して天才肌ではない、彼なりの仕事への取り組み方が垣間見えて、
(ひ)かれるものがありました。

国家の一大事に繋がりかねない計画書を紛失した八木(駒木根隆介)が
責任感のカケラもなく子どもの水泳の記録会に行っていたり、
計画書がないと分かっていて、
あえて中田が警視総監(中丸新将)に足立署の視察を提案したり、
柴崎目線で観ると イラッとすること てんこもりなのですが、
この人は案外 へこたれないし 声高に騒がない、
ひたすら冷静に対処して、解決策を導く。
(八木がシュレッダーの紙屑に埋まりながら汗かいて書類を探している
姿には思わず笑ってしまいました。
柴崎が所轄の警官から嫌われているというのも むべなるかなw)

また、警視総監視察のタイムリミットが迫る中、切羽詰まった柴崎が、
キーパーソン・坂本(陽月華)に最後の切り札として使った手が、
「今までいろいろ面倒見て来ただろ、今度はそっちが俺を助けろ」という、
何とも人間臭い 脅しめいた言葉だったのも、
柴崎の人となりを示していたように思われて 非常に興味深かったです。

一方、計画書紛失の責任を柴崎になすりつけろ、という中田の提案に
迷う署長(諏訪太朗)と すんなり呑まない副署長(嶋田久作)、
このあたりの描き方もやっぱりいいなぁ、
二人とも、上司に従う、楽な方に逃げる、ということを
あっさり簡単にはしないから。
(署長は内心かなり揺らいでいたと思うけど、
少なくとも 彼なりの倫理に照らして躊躇(ちゅうちょ)はしていたわけだし)

助川副署長、柔道の稽古で柴崎をさんざんいたぶっておいて、
肝心なところになると さりげなく擁護してくれる ツンデレ加減が素敵。w
いや、だけどそれは、柴崎に歩み寄る前兆 ってわけじゃなくて、
ただ中田の提案が、助川なりの信念やスジの通し方に合わなかっただけ
なんだろうな、とは思いますが。

あれも これも それも と仕事上とんでもなく緊迫した慌ただしい時に、
いじめに遭っているらしい息子・克己(加部亜門)が万引きをした、と、
妻・雪乃(中越典子)から柴崎に連絡が入ります。
しかし、妻のようには しっかりと息子に向き合わない様子に、
さすがに仕事であれだけ問題山積していたら
こちらは逃げ腰になっちゃうか、とちょっと残念に思っていたら、
親としての感情に流されず、冷静に息子を観察し推理していた柴崎。
いやいや、ひょっとしてこの人
なかなかの捜査能力を持っているんじゃないだろうか。

正しいところもそうでないところも、長所も短所も、
いろんなものが 柴崎の内には当たり前のものとして共存している、
彼がそういう人間である、ということが、
不自然でなく 許される(認められる)ものとして伝わって来た今回、
地味ではあるし 万人に愛されるなんてタイプでもないけれど、
その複雑さがキャラクターの魅力にもなりつつあるなぁ、と、
これは少しファンとしての欲目があるかもしれませんがw
そんなことを感じました。


それにしても…
1時間足らずの中に毎回こんなにぎっしり内容を詰め込んで、
このドラマの制作陣は 視聴者が
スジを追い切れなくて置いてきぼりになる、とは思わないのでしょうか。
…いやいや、
おそらくは そうならないように作り上げる自信がある、ということだろうし、
多分、視聴者を信じてもくれているんですよね。

万事簡単に分かりやすく、という最近のドラマの風潮に満足出来ない、
自分の想像力をフルに使ってドラマを観たい、という人だって
絶対いるに違いないのに、そういう作品があまりにも少ない。

WOWOWのドラマが面白いのは、
放映前にすべて撮影し終わっていて、
視聴者の感想やら意見やらが反映されない、ということも
大きい気がします。
こんなふうに始めてみたけど、視聴者はどう思っただろうか、
どんな感想を持ったか、どんな展開を望んでいるか、
それを調べチェックした上で撮影中のドラマに反映させて行く
ということをしない(出来ない)から、
おのずと、自分たちはこういうものを作りたいんだ、という主張と
作っているものに対する責任をしっかりと担(にな)った作品が
出来上がって来るのではないか、と。


話が逸(そ)れてしまいましたが…
このドラマがいったいどんな収束の仕方をするのか、
それを 画面を通してどう表現してくれるのか、
特に、中田を今後どう描くか、柴崎が克己のいじめ問題にどう向かうのか、
というのは すごく興味があります。
あと2回、楽しみに観続けたいと思います。


連続ドラマW 『撃てない警官』     
放送日時:2016年1月10日- 毎週日曜 22:00-(WOWOW
原作:安東能明 脚本:安倍照雄 監督:長崎俊一 音楽:大友良英
制作:WOWOW オフィスシロウズ
キャスト:田辺誠一 石黒賢 中越典子 高橋和也 加部亜門 陽月華
嶋田久作 山本學 他
公式サイト