『37歳で医者になった僕』感想まとめ(その1/第1-7話)

37歳で医者になった僕』感想まとめ(その1/第1-7話)

2012年4月〜6月に放送されたドラマです。
1〜7話の感想を追記しましたので、
放送時に書いた後半(8〜11話)の感想と一緒にまとめておきます。
ブルーレイ&DVDはこちら。

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37歳で医者になった僕
放送日時:2012年4〜6月毎週火曜 22:00- (フジテレビ系)
脚本:古家和尚 演出:三宅喜重 白木啓一郎 プロデュース:木村淳
原作:川渕圭一「研修医純情物語〜先生と呼ばないで」
「ふり返るなドクター〜研修医純情物語」
音楽:菅野祐悟 主題歌:「僕と花」サカナクション 
制作著作:関西テレビ放送
キャスト:草彅剛 水川あさみ ミムラ 八乙女光 桐山漣
志賀廣太郎 藤吉久美子 鈴木浩介 でんでん 斎藤工 真飛聖 
田辺誠一 松平健 他 
 『37歳で医者になった僕』紹介サイ

 

 

37歳で医者になった僕』(第1話)感想

このところ医療系ドラマが多くて、
それぞれの視点も切り口もさまざまで、
それぞれに面白いところも物足りないところもあったりするのですが、
このドラマは、登場人物の設定やセリフに共感出来るところが多くて、
一人一人のリアルな心情に身につまされるものがあったり、
何かしら響くものがあったりして、毎回とても惹きつけられました。

病気を治すこと=身体を治すこと、ばかりじゃない、
患者が何を求めているのかの見極めや配慮、患者の心のケア、
患者が十分に納得した上での治療、を、
果たして医師たちは、ぎりぎり突き詰めて考えてくれているのか・・

 

第1話の患者・多田(北村総一朗)は
実はかすかに意思の疎通が出来るのだけれど、
担当医の新見(斎藤工)はそれに気づいていない。
胃瘻(いろう)の手術を控えているけれども、
普通の食事がしたい、という希望を捨てられないでいる。

37歳の研修医・紺野祐太(草彅剛/草なぎ剛)は、
そんな彼に、誤嚥(ごえん)性肺炎の危険性を説明したうえで、
やわらかいものを食べてみるテストを提案、
新見や他の医師たちに無断で多田にゼリーを食べさせてしまいます。
結果、多田はゼリーを嚥下(えんげ)することが出来、
胃瘻手術は一時見送られることに。

正直、この時は、紺野の行動をかなり危なっかしく感じたし、
助かることが前提の‘ドラマ(というフィクション)’ だから出来たこと
だとも思ったのですが、
でも、こんなふうに医師のほうから患者に歩み寄って、
患者の希望や本音を受け止め、
何とかしてそれを叶えようとする姿勢って、
本当はとても大事なことなんじゃないか、という気がするのですよね、
治療に関して患者を納得させ安心させる力を持つのは医師しかいない、
ということを考えても。

「医者は接客業じゃない」と新見は言ったけれど、
会社勤めの経験があり、しかも営業を担当していた紺野にとっては、
患者=お客様と捉えるのは自然なことで、
その紺野の視点が、すごく新鮮に感じられました。

 

内容の深まらないカンファレンス、
回診で「もう少し様子を見ましょう」としか言わない教授(松平健)・・

医師にとっては何百人といる患者の一人に過ぎないけれど、
患者にとって、その家族にとっては、
掛け替えのないただ一つの命なのだ、と。
病気の恋人を持つ紺野にとって、
医師としての視点だけではない、患者の家族という立場にいることが、
とても重要であるように思いました。
だからこそ、
今も これからも 見えるものがたくさんあるのではないか、と。

 

それにしても・・
「納得していないのに同意書にサインしたのなら
それは患者がバカだから。
インフォームドコンセントセカンドオピニオン
患者が自分の身を守るためにある。
医療訴訟がこれだけニュースになってるのに
いまだに医者の言うことが全部正しいと思ってるなら
バカとしか言いようがないでしょ。
医者に判断を丸投げした時点で患者の負けなんですよ」
という沢村瑞希水川あさみ)の言葉には、グサッと来たなぁ。
患者や家族もまた、医師としっかり対峙(たいじ)して、
病気に立ち向かう態勢を整えなければならない。
あたりまえのことを忘れがちになってしまっている自分にも、
ちょっと反省させられました。

 

さて田辺誠一さん。
研修開始早々カンファレンスで無駄を指摘した紺野へのまなざし・・
最後に紺野を見送った時のほんのかすかな笑み・・
その表情に含まれるものの深さ・複雑さに、
やっぱり一筋縄じゃ行かない俳優さんだ、と再認識。
初見の時、そんな 万事‘大人’ な森下が好きだったのを思い出しました。
2話以降が楽しみです。

 

ゲスト:北村総一朗 岩本多代 演出:三宅喜重

 

37歳で医者になった僕』(第2話)感想

気軽に話しかけるのがためらわれるほど てきぱきし過ぎていたり、
診療の時パソコンの画面ばかり見て患者の顔をまともに見なかったりで、
結果、患者に名前さえ覚えてもらえない医師・・
レントゲンやら血液検査やら 不案内の病院を動き回らせられたあげく、
希望していない個室に入院させられる患者・・
今回も、大病院ならこんなこともあるある〜と思いながら観ました。

佐伯教授(松平健)が、
総合内科のベッド稼働率がトップになったことを喜んだり、
森下准教授(田辺誠一)による
他の科との連携を強化するシステム構築の提案を、
それは利益にならない、とつっぱねたり、
「儲けを出すために大事にしなければならない3つのこと、
1・ベッドコントロール、2・関係各所への根回し、
3・患者のためなんていうきれいごとは言わない」といった言葉にも、
医療をビジネスライクなものとしてしか捉えていない姿が露骨に出ていて、
患者目線でこのドラマを観ている者としては、ちょっと切なかったです。

まぁこれはドラマだから いくらか大げさに作ってあるとしても、
実際に自分の周りでもそういう空気が感じられる病院もあったりして、
何だかちょっと むなしく思うことも・・

確かに、病院のトップの立場からしたら、
新しい設備の充実やサービスのためには利益を上げなければならない、
「経営」というシビアな現実が立ちはだかっているのも
事実ではあるんでしょうが。
(ふと『空飛ぶタイヤ』の狩野を思い出しました)

 

そんな病院経営の損得勘定などおかまいなし、
患者さんのためなら何でもしますよ、と、
自分の担当外の患者にまで声を掛ける紺野(草彅剛/草なぎ剛)。
でも、その言葉を拡大解釈して、
ジュース買ってきて、なんて使い走りを頼む患者も出てきたりして、
(いるよね〜、こういう人も)
研修医仲間に迷惑をかける結果になってしまいます。

そんなふうに、自分の意図するところが
なかなか患者や周囲の人たちに通じないこともあるけれど、
それでも、患者の望むこと・求めていることを出来る限り掬(すく)い取ろうと、
紺野は動き続けます。

 

患者が抱えている悩みが、病気ばかりじゃない場合もあって。
今回の患者・桑原(徳井優)にとって
身体の不安とお金の不安は同じくらい重い問題。
これ以上お金が掛かることを心配して、
病院にいながら自分の身体の不調を医師に伝えることをためらう、
そんな哀しいことってない。

そんな患者(しかも担当外)の病気以外の問題にまで
積極的に係わろうとする紺野は、当然のことながら周囲と衝突。

医師が治療するのは、病気なんだろうか、
それとも病気を抱えた人間なんだろうか・・
なんてことを考えさせられました。
(そんなセリフ、ドラマ内のどこかで出て来たような気がするけど)

「沢村先生(水川あさみ)の言う通り、理想だけじゃ患者は救えない。
けど、技術や知識だけで理想を持たない医者にも
患者を救うことは出来ないと思う」という紺野の言葉が重かったです。

 

そんな紺野に感化され始めた沢村瑞希が、
少しずつ桑原との距離を縮めて行くところが良かった。
紺野が桑原に医療費減免についての資料を持って行ったら、
すでに沢村が持って来た ていねいな注釈つきの資料が・・
そして、桑原も彼女の名前を憶えてくれて・・
このシーンにグッと来てしまいました。

いやいや、いいですね、ツンデレ風味の瑞希ちゃん。
彼女、このドラマで私の一番好きなキャラになりつつあります。

 

担当じゃなくても患者の個人的な相談にのれるように
名刺をくばることにした、という紺野、
若い研修医の下田(八乙女光)や谷口(桐山漣)から、
医者の仕事は接客業じゃないって言われたばかりじゃないですか、
と諌(いさ)められますが・・
「じゃあ医者の仕事って何だと思います?」
「そりゃ患者を治療すること・・」
「もちろんそうです。
でも、患者さんが納得して治療を受けるためには、
医者の側がちゃんと向き合って分かりやすい説明をしたり、
患者さんに安心感を与えてあげる必要があると思うんです」
「それって・・」
「接客、ですよね、患者さんはお客さんなんですから」

・・ああ、ほんと、こういうお医者さんに診てもらいたいものだ、と
つくづく思いました。

 

ゲスト:徳井優 演出:三宅喜重

 

37歳で医者になった僕』(第3話)感想

今回は、何だか息苦しくなるほど切なかったです。
患者が亡くなった、ということもそうですが、
その死に関わった人たちの痛みが無理なくじんわりと深く表現され、
だからこそ余計に「死」の重みが伝わって来る・・
立場によって違う 彼らの感情の流れにリアリティがあって、
身につまされるものがありました。

 

末期の膵臓がんで余命半年、
ホスピスへの転院を勧められている木島(甲本雅裕)に、
治験段階の新薬の存在を伝える紺野(草彅剛/草なぎ剛)。
薬を使って助かったのは10人のうち7人、
しかし、残り3人は、長くて3週間 短くて5日で死んでしまっている。
「紺野さんが、治る、大丈夫だ、って言ってくれたら使う」
と、死の確率に不安を抱えた木島は言いますが、
森下(田辺誠一)や沢村瑞希水川あさみ)からは、
「医者の言葉には責任がある、
軽々しく治すとか治るとか言ってはいけない」と釘を刺されます。

医師として患者の気持ちにどこまで踏み込んだらいいのか、悩む紺野。
この時、一種のリトマス紙になっていたのが、
木島の娘から渡されたキャンディ。
担当医の新見(斎藤工)や沢村が受け取らなかったキャンディを、
紺野は受け取り、それを食べるのですが、
最後の一個は道路に落ちて、車に轢かれて粉々になる・・

キャンディをもらってしまったら、
医師は、患者のささやかな喜びや幸せばかりではなく、
死に至る哀しみや痛みも、全部まともに浴びてしまうことになる。
日々、多くの患者と接する医師にとって、
患者一人一人の想いや願いまで一緒に背負う、ということは、
とても大変なこと、辛いこと、とても苦しいこと。
だからこそ、医師は皆 キャンディを受け取らない、という線を引く。
だけど・・

木島からの、
紺野の献身的な治療に対する御礼と、
彼のおかげで、死にゆく準備ではなく生きる可能性に向かえた、
そのことに感謝する手紙を読んで、
「医者として失格かもしれないけど、治るって言ってあげればよかった。
ぼくはお守りを渡せなかった」と、堪(こら)え切れず涙をこぼす紺野。
「大丈夫」「治る」という言葉を、
最後までどうしても木島に掛けてあげることが出来なかった、
その紺野の苦渋に、こちらの気持ちも思わずシンクロ。
隣に座っていた沢村が、
そんな紺野の胸の名札をはずし、
医師ではなく紺野祐太という一人の人間に戻してあげる、
その無言の優しさにも胸が詰まりました。

 

たぶん・・
紺野は、きっとこれからもキャンディを貰い続ける気がします、
それがどんなに辛く苦しいことでも、
患者の「病気」や「死」に 慣れない自分でいるために。

 

追記。
1話の北村総一朗さん、2話の徳井優さん、そして今回の甲本さん・・
患者さんを演じた俳優さんたちはそれぞれ迫真の演技で、
その、役との向き合い方、病気との向き合い方に、
非常に真摯で丁寧で優しい気持ちや心がこもっているように思えて、
すごく惹かれました。

特に今回の甲本さんの、余命半年のがん患者の姿には、
それらしい、とか、うまい、とかいう言葉では十分でない、
もっともっとぎりぎりまで突き詰めた真剣な佇(たたず)まいがあって、
惹き込まれてしまいました。
伝わるものがたくさんある俳優さん、リスペクトです。

 

ゲスト:甲本雅裕 演出:三宅喜重

 

37歳で医者になった僕』(第4話)感想

今回の患者は、引退した大女優・羽山早苗(江波杏子)と、
自殺未遂で入院した吉野香織(岡野真也)。
キーワードは「役割」。

 

紺野(草彅剛/草なぎ剛)の婚約者・葛城すず(ミムラ)から
自分の患者が亡くなった時の気持ちを訊かれ、
「医者は神様じゃない。
どんなに適切な処置をしても、治るのは患者さん自身の力です。
逆に、明らかな医療ミスでもない限り
医者が患者の死に関わることはありません。
医者の出来ることはその程度だというのが私の考え方です」
と森下(田辺誠一)が答えるのですが、
この言葉、患者にとっては非常にドライに感じられるものではあるけれど、
でも、的確に「医師の役割」というものを示しているように思いました。

以前『ラストホープ』というドラマを観た時に、
医師たちが何度か「自分にまかせろ」的な発言をしていて、
それはそれで頼もしいと思ったのだけれど、
それは、医師の‘技術’ が治療の成否を大きく左右する外科と、
外科ほど‘技術’に頼れない内科の違いから来るものなのかな、
という気もしましたし、
いずれにせよ、私たち患者や家族の側は、
医師に多くを望み過ぎているのかもしれない、とも思いました。

 

さて、森下から、
「紺野先生がどう判断するかは別。どこに線を引くかは人それぞれ」
と言われた その紺野は、どう ‘医師としての線引き’ をするのか・・

 

今回の患者のひとり、
羽山早苗(江波杏子)は手の施しようがない末期がんで、
ホスピスに移るまでの少しの間だけの入院なのだけれど、
疑似家族をレンタルし、「幸せな引退女優」を演じ続けることで、
最期まで「女優」という役割を全(まっと)うしようとします。

刹那に出会う人々(観客)の前で女優として生きる、
そのプライドが自分自身の支柱になる、
それもまた潔(いさぎよ)い生き方だけど、どこか寂しげなのも確かで。

 

一方、リストカットした自殺願望者・吉野香織(岡野真也)は、
下田(八乙女光)の杓子定規な言葉に傷つき、
「誰にも迷惑かけない自殺の方法を考えなさい!」という
沢村(水川あさみ)の言葉を振り切るように退院。

彼女の後を追った紺野は、
「医者として患者とちゃんと線引きしろ」と森下に言われた言葉を思い出し、
病院のドアを出て行くことを一瞬 躊躇(ちゅうちょ)しますが、
その脇を下田が一気に駆け抜け、紺野もドアから一歩踏み出して外へ。
バス停まで追って来た下田や紺野に説得され、病院に戻る吉野。

「何にだって正しい役割はあるんです。
世の中には手首を切るために作られた剃刀なんてないですし、
首を吊るために編まれたロープなんてないんですよ」
この紺野の言葉も、なかなか印象的でした。

 

羽山が退院してホスピスに向かう日、
紺野は、吉野と一緒に見舞いに行く、と言って羽山を驚かせます。
自己満足だけど、「吉野さんも僕も羽山さんに関わったから」と。

しんどくても怖くても、人は人と繋がって生きている。
誰も一人では生きられない。

人と深く関わろうとしない孤高の大女優にしたって、
女優として多くの人たちの心を掴んで影響を与えて来たんですよね、
彼女の演技によって自分の未来を決めた人間(=森下)も いるほどに。
それもまた関わったことには違いない。

 

羽山の見舞いに行く・・、亡くなった木島(甲本雅裕)の墓参りに行く・・
それが、紺野が決めた「患者との線引き」であり、
悩みながら探り当てた「医師としての自分の役割」。

前回、木島の死に引きずられそうになっていた紺野に
「線を引け」とストップをかけた森下も、今回は彼の選択を認めてくれた。
まぁ、森下の‘大人’っぷりは、あいかわらず半端ないですね。

でも、羽山早苗の『ミラクルドクター治子』観て医者を志したなんて、
なかなかキュートな一面を披露してくれて
彼女のサイン貰って嬉しそうにはにかんだりして、
出番少なくとも 印象的な存在であることには違いなく。
さらってくれるなぁ、と、森下贔屓(びいき)が加速する私なのでした。

 

ゲスト:江波杏子 岡野真也 阿部力甲本雅裕(回想) 演出:白木啓一郎

 

37歳で医者になった僕』(第5話)感想

ナースたち(藤本泉内藤理沙)が、相澤看護師長(真飛聖)の指示で
患者一人一人に対するきめ細やかな看護記録をつけているのを見て、
紺野(草彅剛/草なぎ剛)は、
ナースをカンファレンスに参加させることを思い立ちます。
しかし、
「カンファレンスは高度な医療知識を持ったドクターが議論する場所。
ここは市中病院ではなく大学病院、より重要なのは研究だ。
日常の患者の世話はナースに任せればいい。
我々が同じ土俵に立つ必要はない」
と佐伯教授(松平健)に一蹴(いっしゅう)されてしまいます。

「ドクターとナースの関係なんてそんな簡単に変わるもんじゃない、
ここは大学病院だから仕方ない」と言う相澤師長に、
「相澤さんはいつから仕方ないって思えるようになったの。
ナースになったばかりの時、こういうふうに諦めてる自分を想像した?
仕方ない、で諦めようと僕は思わない、
状況は変わらなくても自分は変われるから」
そう言い返した紺野は、
総合内科のメンバーの前でドクターナースカンファレンスを開くことを宣言。
いやいや紺野研修医 本当にめげません。

そんな彼のもとに、彼に共感した沢村(水川あさみ)や下田(八乙女光)、
相澤やナースたち、そして森下(田辺誠一)までもやって来ます。

初回、「きみ一人が頑張ったって病院は変わらないよ」と言った森下が、
この時は「現場を変えて行くのは現場の人間だから」と言う、
そこに、少なからず紺野のやることに興味を持ち 影響を受け始めた・・
というより、若い頃には持っていたはずの変革への意欲を
森下が紺野によって呼び覚まされつつある・・
そんな気がしました。

 

最初に森下から「病院は変わらない」と言われた時、
「病院を変えようなんて思ってない。
僕は自分が変わるために医者になったんです」と紺野は言ったけれど、
もしかしたら、それって とても重要な‘意識’ かもしれない。
自分は間違っていない と思い込み、行動を起こさなくなることで
見えなくなってしまうものってたくさんあると思うし、
自分を変えようとするエネルギーって、
時に周囲を巻き込んでしまうほどの力を持つものだと思うから。

 

一方、離婚して元夫のもとに預けていた娘・葵(大出菜々子)が、
母親である相澤看護師長のもとを訪れます。
お互いに本音を言い合えず、気持ちがすれ違ってしまう二人ですが、
沢村の少々荒っぽいアドバイスや、
紺野の「自分は変われる」という言葉、
「広くて深くても、川は渡らなきゃ、だろ」という下田の言葉から、
葵の心がほぐれて行き、
少しずつ歩み寄ることが出来るようになります。

再会した当初、ガムはいらない と言ったのに、
別れ際に「ガム頂戴」と言う相澤。 
「微糖だけど」と母親にガムを渡す葵。
「甘くないわね」「そんなもんでしょ」と続く二人の会話が、
何とも素敵でした。

 

そして、もう一組の親子・・
紺野の婚約者・すず(ミムラ)とその両親(志賀廣太郎 藤吉久美子)。
相澤親子とは反対に、
病気ゆえ、近くにいるゆえ、の親の過保護が次第に重荷になって来るすず。
仕事の帰りに同僚の林田(阿部力)の前で崩れ折れてしまい・・

次回、すずの容体は?
そして、医師と患者であり婚約者でもある紺野とすずの関係は、
いったいどうなって行くのでしょうか・・

 

追記。
総合内科病棟のセットが素晴らしい、と いつも思います。
先生方がいる部屋の窓から
中庭越しにナースステーションが見えるんですが、
そんな遠景でも ちゃんとナースたちが動き回っていて臨場感があるとか、
病室のドアの開閉がすごくスムーズだったりとか、
細かいことかもしれないけれど、
スタッフがすごく丁寧に作ろうとしてるのが伝わって来て、嬉しくなります。
基本、ロケ好きの私ですが、このセットへのこだわりには痺れました。

 

ゲスト:阿部力 演出:白木啓一郎

 

37歳で医者になった僕』(第6話)感想

紺野(草彅剛/草なぎ剛)が医者になった理由と、
彼の婚約者であるすず(ミムラ)の 難しい病を抱えた者としての苦しみ、
谷口(桐山漣)の医師としての成長譚が 同時進行で描かれて、
今回も充実した内容になっていました。

 

病棟の特別清掃の日、
業者の一員としてやって来た倉田(浅利陽介)は、
以前紺野が会社勤めをしていた時の下請け会社の社長の息子。
紺野が会社の命令で仕事を打ち切り、
そのせいで倉田の父親は自殺に追い込まれたのでした。

翌日、何者かによって「紺野祐太は人殺し」というアジビラがまかれ、
紺野が過去に起こしたその出来事が、
医師や患者たちの知るところとなります。

 

実はそのビラを作ったのは、
数日前 本屋で突然倒れた男性を前に医師としてぶざまな姿をさらし、
それがネットで流れるという失態を演じて
先輩医師(斎藤工)からきつく注意を受けた谷口でした。

この谷口のヘタレ加減というのがねぇ、
何だか自分の内にあるものを炙(あぶ)り出されたようで身につまされます。

そんな時、谷口は再び街中で急病人に遭遇、
沢村(水川あさみ)や下田(八乙女光)の「今変わらないでいつ変わるんだ」
という激を受けて、人工呼吸等の応急処置を施し、
救急車で病院に搬送します。
この時の谷口の「僕のファーストキスがぁ・・」という一言には、
何だかおかしいやら、ホッとするやら。

 

清掃作業中、紺野の医師としての真摯な姿に何度も出くわす倉田。
紺野はそういう形で倉田の父に償おうとしている・・
その覚悟のようなものが感じられたからか、
倉田は「今でも許せないけど、医者として頑張ってると父に伝える」
と紺野に言い、それ以上責めることなく病院を去ります。

 

一方すずは、両親(志賀廣太郎 藤吉久美子)と共に病院へ。
主治医の森下(田辺誠一)から
心機能の低下により腎移植が難しいことを告げられます。
中座したすずは、偶然出会って声を掛けて来た沢村に
「少し疲れた、病気を治したいって思うことに。
治してほしいって待ってることにも・・」と心情を吐露。
この すずの気持ちが本当に切なくて、
ミムラさんがまた透明感を持って演じてくれるものだから、
なおさら 観ているこちら側にじんわりと伝わるものがありました。

 

紺野はなぜ医者になったのか。
「会社の中の僕自身の立場を守るために
会社の命令で誠実な倉田さんを切り捨てた。
僕は会社に失望したんじゃなくてそんな自分に失望した。
それでも辞める勇気なんてなかった。
そのあと落ち込んでる僕をすずがキャンプに誘ってくれて事故が起きた。
彼女が病気を抱えることになったのが医者になることを決めたきっかけ。
シンプルに生きれると思った、
医者は病気や怪我を治して人を助けることだけ考えればいいと思って。
僕はすずの事故に逃げたんです」

この言葉に含まれる弱さと、その奥底に微かに潜む強さと・・
逃げ道を探していた過去と、
その逃げ道を絶って這い上がろうとしている今と・・
ドラマの中の紺野祐太という人間の‘中身’が
ようやく見えた気がしました。

 

余談。
前回総合内科のセットが素晴らしいと書きましたが、
毎回登場する居酒屋も味があって面白いです。
よくこんな凝ったロケ地を見つけてくるなぁ、と感心しきり。
あまりおしゃれな感じじゃないのがいいですよね。
どこも一度行ってみたい気にさせられます。

 

ゲスト:浅利陽介 阿部力 演出:三宅喜重

 

37歳で医者になった僕』(第7話)感想

前回まで観て来て、
紺野祐太(草彅剛/草なぎ剛)と葛城すず(ミムラ)って
婚約してるのに何だか距離があるなぁと思っていたのですが、
今回、ようやくその理由が分かりました、
紺野は、婚約者としてではなく医者としてすずと向き合っていたんだ、と。

以前 すずが紺野にこんなことを伝えたことがあります、
「祐太さんには、大丈夫、がんばれ、って言って欲しい。
その言葉がお守りになるから。
医者としてじゃなくていい、祐太さんの気持ちで言って欲しい」と。
だけど紺野は、医者として、軽々しく「大丈夫」という言葉を使えなかった、
ということがあって。

 

病気が治る見込みがないと知ったすずから、別れを切り出される紺野。
「普通でいいと思ってた。
祐太さんと会話して、笑って、たまに喧嘩もして、
ドキドキしたりワクワクしたり、そんな風に普通でいたいって。
祐太さんは自分のために医者になったんでしょ。
でも私はあなたの患者になりたかったんじゃない。
私は今の私のままでいい。
でも祐太さんといると、これから先もずっと
治りたい って思わなきゃいけないから」

病気とケンカするんじゃない、勝ち負けじゃない、
病気を不幸だと思ったり克服しなければいけないと思うんじゃなくて、
病気を受け入れること・・そして普通に生きること・・
すずが望んでいるのは、そういう生き方。

そして、彼女が紺野に求めていたのは・・

 

すずの同僚で足が不自由な林田(安部力)は、
「普通の人とそうじゃない人の間には線が引いてある」と言います。
だけど、その線はいったい誰が引いたものなのか。
重い病気を抱えていても普通に生きたいと願うすずに出会って、
そんなすずをどう支えればいいか悩み迷う紺野に出会って、
彼は、恋人にもその親にもきっちり向き合っていない
自分の臆病さに気づくのです。

点滅し始めた横断歩道、足が悪いから渡れないと思っていた彼。
だけど、そうやって自分で最初から線を引いてしまっていたら、
永遠に点滅する横断歩道は渡れない。
勇気を出してその線から一歩踏み出すことで、
確実に拓(ひら)けて来るものがあるから・・

 

臆病だったのは紺野も同じ。
すずに別れを突き付けられた後、
「僕は7年間すずの病気のことしか見てなかったって分かった。
医者になってすずを支えるつもりだったのに、
それじゃまるっきり医者と患者ですよね」
と沢村(水川あさみ)に話す紺野。
「何が正しいとか間違ってるとか人それぞれでしょ。
人によって大事なものも守りたいものも違うんですから。
肝心なのは、自分でそれを決めて、そのために何をするかってこと。
研修始まってから紺野先生がずっとやってきたことじゃないですか」
と沢村に励まされ、本来の自分を取り戻します。

 

林田の恋人・香澄(中山ゆり)からの
「そばにいて欲しい」という伝言を彼に伝える紺野。
林田に 余計なお世話だと言われますが、
「でも僕は自分が患者さんに出来ることをしたいんです。
他人が引いた線は簡単には消せないかもしれない。
でも自分が引いた線は消せると思います、
足が不自由でも、心が不自由でなければ」
そこで林田は、紺野に、以前すずが彼の前で見せた手話の意味を訊ね、
それが「受け入れる」という意味だと知り、
一歩を踏み出す勇気を得ます。

紺野も、そこでやっとすずが自分に求めていたものに気づくのです、
医師として、彼女の病気と闘い続けるのではなくて、
一人の男として、ありのままの彼女を受け入れて欲しいのだ、ということに。
そして彼は・・

草彅さんの持ち味だと思うのですが、
「結婚しよう」という紺野の言葉に気負いがなくて、
何だかそのことにホッとさせられました。

 

個人的には、
今回はすずが主役だったんじゃないか、という気がしました。
凛として一人で立っているすず・・
ミムラさんが演じると、
そんなすずの心の繊細な揺れ具合まではっきりと伝わって来て、
観ている側も本当にすずの気持ちにシンクロしてしまうのですよね。

こういう とても細かい感情の揺れが伝わって来る俳優さん、
私には、非常に魅力的に感じられます。
たとえば、田辺誠一さんあたりもそういう部分を持っている、
だから惹かれるんだろうな、と。(あくまで私個人の感覚ですが)

でも、その対極にいるような
草彅さんのあまり振り幅の広くない演技というのも
逆に 伝わるものがすごく多い時があって、
それがまたとても魅力的だったりして、
そういう俳優さんも、私としてはすごく興味深いんですけどね。

 

ゲスト:阿部力 中山ゆり / 竜雷太 田島令子 演出:白木啓一郎

 

さて、私の感想は、この後(第8話)から、
リアルタイムで観ていた時のものに移ります。
書き手(私)の熱の違いが感じられるかもしれませんが、
(過去の作品の感想って、どうしても冷静になりがちなので。苦笑)
引き続き読んでいただければ幸いです。