『鋼鉄番長』感想【ネタバレあり】

『鋼鉄番長』感想 【ネタバレあり】
劇団☆新感線のネタもの初体験。
くだらなくて!ばかばかしくて!しょーもない!んだけど、
とにかく笑って、ひたすら笑い続けて、涙が出るほど楽しかったです。


脚本・演出のいのうえひでのりさんの頭の中(の一部)って
こうなってるのかぁ!って、ちょっと覗かせてもらったような感じ。
どんなマンガやアニメに惹かれて、どんなテレビや映画を観て、
どんな芸能ニュースに興味を持って、
どんな音楽を聴いて50年生きて来たのか・・
これって、ある意味、「いのうえヒストリー」でもあるのかな、と。
で、そんないのうえさんの お〜〜っきな掌の上で、
橋本じゅんさんやら、古田新太さんやら、池田成志さんやら、
坂井真紀さんやら、田辺誠一さんやらが、
嬉々として、(いい意味で)いのうえさんのコマになって、楽しんでる・・
というか、大変な思いさせられてる・・というかw。


内容はねぇ・・説明のしようがないです。(爆)
ストーリーあってないようなもんだし。

あえて言うなら、
仮面ライダー」と「スケバン刑事」をメインにして、
沢尻エリカ」と「東方神起」と「マッチ(近藤真彦)」と
村野武範」と「假屋崎省吾」を大雑把に加えw
ジブリ」と「愛と誠」と「富良野塾」で味を調(ととの)えて、
借りぐらしのアリエッティ」と「アバター」で仕上げした、みたいなw
で、実際食べてみたら、
マトリックス」やら「マイケルジャクソン」やら「AKB48」やら
マカロニほうれん荘」やら「あしたのジョー」やら「松竹新喜劇」やら
「押○学」やら「渡部陽一」やら「内野○陽」やら「ジャニー喜多川」やら
石川遼」やら「せんとくん」やら「かくし芸大会」やら「ひょうきん族」やら
龍馬伝」やら「夜はドッカーン」やら「がっちりマンデー」やらetc
が、細かく刻んで入ってたのね〜あらびっくり、みたいな。w


私が今ちょっと思い出しただけでこれだけあったわけだから、
(勘違いしてるのがあったらごめんなさい)
ほんとにもう ありとあらゆるものが入ってる、というね・・w
――ほ〜ら、もう読んでてワケわかんなくなっちゃったでしょう?

だから、もうこれは、笑いどころも人それぞれだろうなぁ、と思う。
幸いなことに、私はいのうえさんとほぼ同年代(しかもちょっと上 爆)で
昭和のど真ん中を生きて来て、元ネタが分かったものが多かったので、
笑いどころも、その分多かったような、ちょっと得した気がしますがw。
(元ネタ知らなくても十分楽しいけど)



登場人物では、
何と言っても古田新太さんの存在感が大きかった。
痩せてかっこよくなって、雰囲気はまるで東方神起だしw
でもそれは、主役じゃなくて、あくまでもボスキャラとしてのオーラで、
全力全開でぶつかって来る主役・橋本じゅんさんを弾き飛ばすだけの
強さと大きさがしっかりとあって。(悪のボスはそうでなくちゃね)


一方の橋本じゅんさんは、このお芝居の「勢い」を背負って奮闘、
ず〜〜っとハイテンションのまま頑張ってました。
その一直線のテンションの高さが、
通常の重厚華麗な新感線のイメージをぶち壊して、
舞台の上を「マンガ」にしてくれてるから、
他のみんなは、自由に好きなことが出来てる、って気もしました。


坂井真紀さんは、おいしいところをさらってましたね〜。
橋本さんと一緒の出が多いので、イジられ役になってて、
それがまた可愛かった。


池田成志さんは、もう何だかワケわからん人ですw。
掴みどころがなくて自由自在。
で、今後田辺さんが目指すべきは、この人なんじゃないかな、と。(爆)


右近健一さんはこういうキャラなんだなぁ、と再確認。
逆木圭一郎さん、村木仁さんら男優陣もいい味出してたんですが、
今回は女優陣がよく使われてて、
保坂エマさん、村木よし子さん、山本カナコさん、中谷さとみさんが、
それぞれキャラの濃い役をやっていて面白かったです。


ちょっと残念だったのは、
川原正嗣さん、前田悟さんの殺陣が存分に観られなかったことと、
高田聖子さん、粟根まことさんの出番があまりなかったこと。
高田さんが もっとヒロイン・坂井さんに嫉妬心燃やして、
粟根さんに もっとマッドサイエンティストとしての
ドロドロした感じが出ていたら、
さらに面白くなったんじゃないかなぁ、と。
まぁそれじゃ小六魂より大人寄りになっちゃうのかもしれないんだけどw。


さてさて、田辺誠一さん。
そんな何でもありのごった煮な中に、さわやかアイドルとして颯爽と登場して
歌は歌う、踊りは踊る、
いのうえさんの、「おんどりゃ〜!もっと弱みを晒さんかい!」攻撃に
とりあえずしっかり食らいついたのは、たいしたもんだ、と言っていいw。
(『七人の恋人』や『あべ一座』のクドカン
まだ少しフレンドリーだったけど
いのうえさんは、もう、性悪ないじめっことしか思えないからっ。爆)
田辺さん、苦手なことすべてほんとによくやってます。
ある程度のクオリティまで持って来てるのも確か。


・・・でもな〜、それでも、もっともっと出来るだろ、と思ってしまう。
まだまだ裸になってないよ、と思ってしまう。
特に、第一部のアイドル登場の華やかな部分で、
少しテレが感じられたのが残念。
(観ているこちらも つられてちょっとテレてしまったw)
そのかわり、第二部になって、汚くなると、
俄然生き生きしてましたけどね〜・・何なんだこの人はw。


気になったのは、ふたつ。


ひとつめ。
やっぱり、二枚目役への苦手意識があるのかなぁ、いまだに。
そこを吹っ切るいい機会だと思うんだけどなぁ。
いっそ、自分の中の別人格=赤井豪(@スクールデイズ)を使って、
アイドル・ムッチを「演じて」みたらどうですか、田辺さん。


アイドルでありながら、
あっちにくっついたり こっちにくっついたり 変わり身が素早く、
強い者にはヘコへコ頭を下げ、生写真と聞けば異常反応を示すw、
どこか屈折してる(毒を持ってる?)土方夢知彦は、
突き詰めて演じて行くと、とんでもなく面白い役にもなりそうなんだけど・・
まだそれら一つ一つのメリハリがきっちりとついていないので、
突き抜けた面白さに辿り着いていないように、私には思われました。
(かなりいいところまで行ってるんだけど、惜しい!って感じ)


だって、まだまだ、全力じゃないでしょ。
歌うことも、踊ることも、アイドルとしてのキラキラ笑顔も、
話すことも、歩くことも、脅すことも、誰かを好きになるフリすることも、
ひとつひとつに・・積み重なって全部に・・もっともっと本気になれるでしょ。
手足を極限まで伸ばし、声を細かく使い分け、背筋を張り詰め、
とことん自分をいじめて、いったん「田辺誠一」をぶっ壊して、
その上で土方夢知彦をおおいに楽しんで、
アドリブだって何だって、どんどん出して行けばいい。
もっと強く、もっと弱く、もっと甘く、もっと残酷に、もっとうざく、
もっと日和見(ひよりみ)に、もっと馬鹿に、もっと意地悪に・・
使い切ってない自分の「演じる力」を、全部出してしまうことが出来たら、
もっともっと面白くなると思うんだけどなぁ。


あれだけ自分を捨ててる田辺さんに、もっと捨てろ、ってのは
S以外の何者でもない、って言えるのかもしれないけど(苦笑)
これはもう私(翔)のサガとして、あえて苦言。


あと、もうひとつ。
田辺さんって、基本的には、
相手に突っ込まれて面白くなる人なんだと思うんですよね、
七人の恋人』や『あべ一座』の時の阿部サダヲ的な、
『三代目明智小五郎』の時の小池里奈的な、
田辺さんに対して突っ込んでくれる存在がなかったことが、
何だかすごくもったいない気がしました。
まぁ、それも、いのうえさんの仕組んだこと、と思えなくもないんですがw、
一方で、田辺誠一の一番面白い部分を使い切っていない、
とも言えるんじゃないか、と思うんですよね。
何となく、いつもの「突っ込まれ役」としての面白さが出て来ない
フラストレーションのようなものを感じたことも確かなので。

そういう田辺さんの面白味が好物な私としては、
突っ込んでくれそうな橋本じゅんさんとの絡みがほとんどなかったのが、
すごく残念だったです。
・・相当わがまま言ってる気もしますがw。



ネタが広範囲だったせいか、マチネだったせいか、
私が観た日の観客は、20〜60代が満遍(まんべん)なくいました。
そういう幅広い年代の人たちが、気持ちよくドッカンドッカン笑っている
心地良い空間だったように思います。
このくだらなくもバカバカしいネタモノ芝居(ほめてます)には、
サンシャイン劇場の狭さはぴったりだったし。


でも、徹底して遊び心を貫くなら、
入場料はせいぜい7000円程度にして欲しかったし、
パンフレットも、1000円切るぐらいの値段で、
ペラペラな薄〜いものにして欲しかった。
それでこそ、これだけ売れてる劇団全員でバカやってる面白さが、
綺麗に完結出来たように思うんだけど、いかがでしょうか。
それじゃ商売として成り立たないってのは分かってるんだけど、あえて。



(2010/10/14 12:30〜 池袋サンシャイン劇場 15列20番台)