花の誇り(talk)

2008・12・20放送(NHK
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:こういう時代劇、好きだなぁ。
翔:うん、私も。
夢:田辺さんに、山本周五郎とか、この藤沢周平とかの作品(を実写化したもの)に出て欲しい、と常々言っていた翔としては、念願が叶った、ということになるね。
翔:大河ドラマのような本格時代劇も 観ていて面白いと思うけど、こういう、落ち着いた時代物の空気感というのも、とても好きなので。
夢:うん。
翔:NHKということもあるのかもしれないけど、キャスティングも飾ってなくて、華やかさには欠けるかもしれないけど、堅実で、特にワキを固めている人たち・・石橋蓮司さん、松金よね子さん、大谷亮介さん等々が、とてもいい味を出していたように思う。
夢:そうだね。
翔: 1時間半という短い時間だったので、もうちょっと突っ込んで描いて欲しい、と思ったところもあったんだけどね。 どの役も、全体的に その立場や心情にもう一歩踏み込んで描いてもらえたら、さらに深みのあるドラマになったようにも思うので。
夢:遠藤憲一さんの役(小谷三樹之丞)なんかは、もっとふくらませることが出来たかなぁ、って気もするよね。
翔:そうだね、これが、たとえば2時間の映画だったら、一人一人に もうちょっと奥行きが出たかなぁ、そうなることで、さらに、藤沢さんの持つ情趣が味わえたんじゃないかなぁ、そこまで掘り下げて仕上げられたら「佳作」と言っていい作品になったんじゃないかなぁ、という、ちょっともったいない気持ちもあったのは確かなんだけど・・・
夢:確かに。
翔:でもまぁ、このぐらいコンパクトにうまくまとめて、しかも後味もいい、というのは、なかなか ないから、高望みし過ぎかな、って気もするけど。(笑)
★    ★    ★
夢:田辺さんの所作は本当にきれいだったよね~。 
翔:そういうところって、周囲への・・特に目上の人への「礼儀」にも繋がるから、セリフがなくても、織之助という人間性が伝わって来るんだよね。 だから、観ていて気持ちが良かった。
夢:時代劇の所作にうるさい翔も、合格点出さないわけにはいかなかった?(笑)
翔:そうだね。(笑) どう言えばいいだろう・・画面がキュッと締まるんだよね、時代劇の空気感が出来上がる、というか。 ただ、カツラをかぶって 着物を着れば 時代劇になるわけじゃなくて、出ている人間の立ち居振舞いにキレ(切れ)がないと、現代劇の空気と変わらなくなってしまうので。
夢:うんうん。
翔:そのあたり、歌舞伎俳優さんはさすがで、『忠臣蔵~決断の時』の中村吉右衛門さんとか、『風林火山』の市川亀治郎さんとか、本当に動きがきれいだった。 そこまでは行ってないにしても、田辺さんもようやく時代劇の美しい所作が身について来たように思う。
夢:今回は、年上の人との絡(から)みがすごく良かったんじゃない?
翔:特に、松金よね子さんや石橋蓮司さんとのシーンは秀逸だった。何だかすごくドキドキしてしまった。(笑)
夢:わかるわかる。(笑) 松金さんとのやりとりは本当に良かったよね。「新十郎が生きていたら・・と考えたことは何度もあります。けれども、あなたを新十郎の代わりと思ったことは一度もありませんよ」というセリフは、織之助の心に沁みたんじゃないかなぁ。
翔:それこそ、織之助の浮遊感を払拭(ふっしょく)してくれる言葉だったからね。
夢:浮遊感をふっしょく・・・?
翔:寺井家における自分の立場(婿養子)としての難しさの上に、妻の田鶴は、義兄の死に責任を感じて そこから逃れられず、その義兄に似た男を殺した男に仇を討つことで、義兄の死の呪縛から逃れようとしている、そういう妻を彼はただ見ているしかない・・という、ちょっと複雑な立場だったから、織之助は。
夢:・・・・・・・・
翔:田鶴にしても、織之助にしても、自分の気持ちをどこかに置き忘れて来ているんだよね。 田鶴は義兄への想いに縛られ、織之助はそんな妻の心の中に入れなくて彷徨(さまよ)っていた・・だけど、森の中で迷った田鶴は後を追って来た父の言葉で・・織之助はこの叔母の言葉で・・やっと自分の居場所に辿り着くことが出来たんじゃないかと思う。
夢:そうか・・・
翔:一方の石橋さんは、逆の立場で、織之助の心の奥にある何かを揺り動かすことになる。
夢:石橋さんは、恐さがジワジワと迫って来る感じだったよね。
翔:いや、もう、ほんとに「俺に刃向かったらえらいことになるぞ」オーラが出てたから。(笑)
夢:うんうん。(笑)
翔:釣りに例えて、織之助を釣ろうとする仕草が、何とも憎たらしくてね~、大丈夫か織之助・・って、つい心配になってしまった。
夢:確かに。(笑)
翔:だけど、そこまで追い詰められても、田辺さんが演じる織之助には、その圧力に簡単に屈服してしまうような「弱さ」が感じられなかった・・・『忠臣蔵』(TVdrama.24)の清水一角(一学)の時のような、「優しいゆえの臆病さ」みたいなものも感じられなかった・・・ いや、勘弁してくれよ~的な、逃げ道を探している感じはあったけど(笑)、でも、それも、相手が権力者だから、恐いから、ってわけじゃなくて、面倒なことに首を突っ込みたくない、という、それもまた、彷徨っているゆえのこと、のように思えた。
夢:・・・・・・・・
翔:織之助は、ただ 釣り好き なだけの、可もなく不可もない浅い人間じゃなく、かと言って、自分の才を隠して凡庸なふりをしている策士、というわけでもなく、ただ、自分の秘めた力を出しあぐねているだけ、だったんじゃないかと。
夢:う~ん、そうかぁ・・・
翔:そんな織之助の微妙な心の襞(ひだ)を、田辺さんは、本当に的確に演じていた。 一瞬一瞬の表情が、本当に細やかなんだよね。 だからこそ、そういう複雑な屈折や葛藤を描くことが出来たんだろうなぁ、と思う。
夢:うんうん。
翔:この「人間的な豊かさ」が、織之助を平凡な男にさせておかなかった。 家老職に就くことに あまり不安を感じなかったのも、ただの「弱くて頼りない男」じゃない「深さ」を、いろんな場面で きちんと表現していたからこそ、だったように思う。
夢:確かに、『ハッピーフライト』の鈴木みたいな 頼りなさ や いい加減さ みたいなものは、織之助にはなかったものね。(笑)
翔:・・・まぁ、最終的には、鈴木にだって ちゃんと たくましさみたいなものは備わるんだけど(笑)イメージはかなり違ってるよね。 二人は、似ているところもあるし、違っているところもある。 そのあたりの微妙なバリエーションを豊富に使えるところが、田辺さんの面白い(興味深い)ところなんじゃないか、と思うけどね。