田辺さんに演じて欲しい役 /伊集院大介@『絃の聖域』『優しい密室』

田辺誠一さんに演じて欲しい役                            伊集院大介@『絃の聖域』『優しい密室』 栗本薫:著

私が亡くなった栗本薫さんに捧げられるものといったら、
こんな妄想しかないので・・

 

実は、伊集院大介は、私が田辺誠一さんのファンになって以来、
ずーーっと、演じて欲しいと願い続けてる役なんですが、
なぜそう思うようになったのか、
以前にも少し書いたことがあるので、再褐してみます。

 

≪ 2007/5/19 ≫
田辺さんに演じてもらいたい、と、ずっと願い続けているのが、伊集院大介。
特に初期の作品は、見た目も中身も田辺誠一そのまんま!
というぐらい似ている!と、少なくとも私にはそう思えるので。(笑)
『優しい密室』『絃の聖域』あたりの作品を、ぜひ。
ミステリーとしては弱い部分もあるかもしれないけど、
伊集院のビジュアル化にはおおいに興味があるから。(笑)

『絃・・』では、藤原竜也くん・本郷奏多くんと共演して欲しい。
この3人が出逢って醸し出す空気が いったいどんなものになるのか、
興味しんしん。(笑)                  「愛の傾きバトン」より

 

≪ 2008/6/25 ≫

他の名探偵が、「どうやって殺したのか」という
「殺しの方法」を見つけ出すことに能力を注ぐのに対し、
金田一耕助は、「なぜその殺人事件が起きてしまったのか」という
「殺しの原因」をひも解こうとする。
殺人事件という悲劇にかかわってしまった人々(時には犯人でさえ)を、
事件が起きたフィールドから、何とかして救い出したい、という想いが強く、
自らの心が深く傷つくことを厭(いと)わずに、
悲劇の只中に飛び込んでってしまう。
やがて事件は解決するのだけれども、
その事件にかかわった人々の心に近く近く寄り添ってしまっているので、
彼自身も傷ついてしまう・・・

田辺さんに演じて欲しい探偵、というと、
私は今まで伊集院大介(栗本薫:作)を挙げていたのですが、
伊集院と金田一に共通するところがあるとすれば、
そのあたり―――
事件を解決することが、自分を傷つけることに繋がってしまう・・
その痛々しさを、自分ひとりで抱え込んだまま、
また新たな事件の渦中に巻き込まれ、
自分が傷つくことを知りながら、手を差し伸べてしまう・・
そんな、すべてを受け止めて、共有して、愛して、赦して、抱えようとする、
ひとりの人間としての哀しくて優しくて深い「包容」なのかな、
という気がするし、
それは、金田一や伊集院が、探偵としての自分を強く押し出さない、
自分の気配を無意識のうちに周囲に溶け込ませることが出来る人間ゆえ、
でもあるような気がします。
そして、そういう金田一耕助(あるいは伊集院大介)ならば、
田辺誠一にこそ演じてもらいたい!と、
彼のファンである私は、そんなふうに思ってしまうのです。         
                 「田辺さんに演じて欲しい役:12 金田一耕助」より

 

栗本さんって、結局、最期まで、
他人と相容れないものを抱えた異端者だったんじゃないか、
で、彼女自身、ずーっと、そういう自分を認め、無条件で受け入れてくれる
「伊集院大介」のような人間を探していたんじゃないか、
という気がしてなりません。

彼女がたびたび描く、異形(いぎょう)の者・・
あるいは、世間と何かしらの歪み(ひずみ)を生じている人たち・・は、
彼女の分身に他ならない。

 

それでも彼ら(彼女)は生きている。ここにいる!と叫んでいる。
そんな彼らに救いの手を差し延べてくれる、
彼らの痛みを理解し、自分のことのように受け止め、愛してくれる、
優しく抱きしめて、ちゃんと分かってるから大丈夫だよと言ってくれる、
そういう存在が、彼ら(彼女)には必要だったのかもしれない。

 

彼女の書く小説の中で、そういった 深い包容力を備えていたのが、
この伊集院大介と、他ならぬ 豹頭のグイン だったのではないでしょうか。

 

彼らに甘えようとすることは、
単なる「弱さ」や「幼さ」でしかないのかもしれない。
でも、そういう「手」を待ち望んでいる人が、
今の時代、加速度的に増えている、という気がするし、
実際、自分の中にもそういう部分が存在している、とも思います。

 

伊集院大介シリーズは かなりの数が出版されていますが、
その中で、私が大好きなのが『絃の聖域』と『優しい密室』。
伊集院の「無条件の理解と包容力」「透明で繊細な救いの手」を、
特に強く感じた作品です。

 

シリーズの中には、正直、あまり良い出来とは思えないものもあります。
(まぁそれは栗本さんの作品全体に言えることではあるんですが)
でも、実際の年月に添って歳を重ねて行く伊集院には、
とても惹かれるものがありました。
田辺さんに演じて欲しい、と、
いつもそういう目線で見ていたせいかもしれません。