『ヒットメーカー阿久悠物語』 感想

以下は、BBSに載せた『ヒットメーカー阿久悠物語』の感想です。

『ヒットメーカー阿久悠物語』 投稿日:2008年 8月12日(火)
2時間半、あっと言う間でした!
『スター誕生!』をリアルタイムで観ていた世代なので、
場面ごとに「なつかし~」を連発してました。(笑)

細部まで相当こだわって作っているな、と感じられたのが、まず嬉しかった。
制作側が気合を入れて愛情込めて作っているんだろう、
と思われるところがあらゆる場面で見受けられ、
スタジオセット、メイク、衣装、壁に貼ってあるポスターに至るまで、
全体に漂うレトロな雰囲気を 凝りに凝って作り上げていて、
それが、登場人物を演じる俳優たちの演技熱にうまく結び付き、
ドラマ全体に、あの時代に似た「勢いと熱気」をもたらしていたような気がします。

編集も上手かった。
実際の映像と、現在の俳優たちが演じる部分とのスイッチの切り替えが見事で、
あまり違和感を感じさせなかったのは、
金子監督の手腕、と言っていいのでしょうね。

もちろん、ピンクレディーはもっとボリュームがあった、とか、
阿久悠はあんなに背が高くないだろう、とか、
ビジュアル自体を比べてしまえば無理があるのはあたりまえなんだけど、
このドラマは「似ている」こと自体が大事なのではなくて、
演じ手の持つ空気、というか、雰囲気というか、が、いかに実物に近いか、
あるいは、実物に近く演じられるか、が大事だったわけで、
そういう点では、今現在の演劇シーン、音楽シーンを考えると、
知名度・人気度を含め、よく考えられたキャスティングだったように思います。
(キャスティングプロデューサー 吉川威史さんについては、後ほど改めて)

ドラマの内容について。

これは「阿久悠物語=阿久悠さんの一代記」ではなくて、
今までにない画期的な番組(アイドル)を作ることで既成の常識や概念をぶち壊したい!
という強い欲求(野心)を満たそうとした男たちの熱いドラマだったんじゃないか、
という感じがしました。

頭の固い融通の利かない「大人」が何事においても実権を握り、
若者がその圧力に屈せざるをえなかったあの時代、
新しいテレビ番組の制作、という、格好の場所を得た青年たちが、
考えられるありとあらゆる手段を使って、大人に反逆する番組を作ろうとした・・・

思えば、あの頃の「大人」には、
「こうでなければならない」という確固たる信念(頑固さ)があり、
いい意味でも悪い意味でも、それを若者たちに押し付けようとしていたのですよね。
それを打破するのは容易なことではない。
しかし、その困難に果敢に立ち向かうことで生まれた熱いエネルギーは、
世間を大きく揺り動かす力になった、ということなのでしょう。

阿久悠さんも含め、『スター誕生!』に関わったスタッフが、
皆「大人の分別」を持たなかったことが、
新しい時代のアイドルを生み出す要因にもなった、と言ったら、
彼らに失礼になってしまうでしょうか。

阿久悠さんに関しては、さらにその上に、
子供の頃の「東京」(都会)への甘酸っぱい憧れや ほろ苦い劣等感を、
ずーっと心の奥に抱えていた人なんじゃないか、という気もします。

地方人としての都会的なものに対する密かな欲求は、
都倉俊一という、生粋の都会人とコンビを組む、という形で半ば満たされるのだけれども、
それでも、彼の心には、決定的に埋めきれないものがあったのではないか・・・
そして、彼がその秘めた才能を見極めることが出来なかった山口百恵は、
あの「レコード大賞」の時点で、彼にとって、
「都会」と「大人」という2つのキーワードを持ち合わせた存在になったのではないか・・・

宇都宮出身の森昌子、秋田出身の桜田淳子、静岡出身のピンクレディー・・
阿久悠が手掛けた多くのアイドルは、ほとんどが地方出身だったのに、
山口百恵は東京出身で、神奈川育ち。
お人形のように言われるままに歌い踊るピンクレディーに対して、
自分の価値観を客観的に見極めて行った百恵さん・・
人気絶頂の時に結婚を決め、きっぱりと芸能界を引退した、その潔さも含めて、
彼女は、何事にも非常に大人だったように思います。

少年のような心と、果敢な(尖った)チャレンジ精神を抱きつつ、
『スター誕生!』というおもちゃ箱をTV画面から世に放った阿久悠は、
ピンクレディーという「人形」を使って、
当時まだ「大人の領分」だったレコード大賞への乗っ取りを果たす。
それは、地方出身の青年がTOKYOを制し、
ついに大人たちをねじ伏せた瞬間でもあったのだけれど、
しかしまた一方で、決定的なものが崩れる瞬間でもあったのではないか・・・
阿久悠は、それを、山口百恵の背中を通して感じ、
ある種の敗北感を味わったのではないか・・・
すなわち、「自分のやったことは〈遊び〉でしかなかった」
「スタ誕は〈無邪気に遊ぶ場所〉以上のものには成り得なかった」
そして「本当の意味の<スター>を生み出す土壌を奪ってしまったのだ」と―――

その後、急速にしぼむおもちゃ箱の魅力。
「挑戦すること」自体に意味があった『スター誕生!』の存在は、
ピンクレディーというモンスターを育て、レコード大賞を獲らせたことで、
くしくもその役目を終えることになる。
それは、阿久悠や都倉俊一らが、挑戦する側でなく、挑戦される側、
何かを壊す側ではなく、作り上げたものを積み上げて行く側、
に移り変わって行く前兆であり、
すなわち、彼らの「遊びの時間」が終わったこと、
挑戦を許された「青年の時代」に決別しなければならない時期が来たこと、
をも意味していたのではないか、と・・・

・・・そんなこんな、あいかわらず勝手な妄想を目一杯膨らませつつ、
あの頃の熱くて懐かしい芸能界に想いを馳せながら、
興味深く観入った2時間半でありました。

さて、出演者について、ですが。

まずは、綺羅星のごときアイドルさんたち。
これはまぁ、よく見つけて来たなぁ!という感じです。
ピンクレディーを、高橋愛さんと新垣里沙さん(モーニング娘。)、
桜田淳子を、鈴木愛理さん(℃-ute )が演じましたが、
このあたりは、話題性、アイドル性を含めて、妥当な人選だったように思います。

森昌子を、素朴なイメージで舞台経験もある平塚あみさん。
そして、山口百恵を、TVドラマでもお馴染みの星野真里さん。
百恵さんの役というのは、相当プレッシャーがあったんじゃないか、とも思いますが、
彼女が持っていた独特の空気感の片鱗は、
星野さんから、ちゃんと感じることが出来たような気がします。

他にも、タイガース役のパウンチホイールには個人的に興味を持ったし(笑)
萩本欽一役の五辻真吾さん、土居甫役の榊英雄さん、松田トシ役の佐藤真弓さん、
モップスのマネージャー役の原沙知絵さん、あたりは、さすがの上手さ!

スタッフの池内博之さん、黄川田将也さん、青山草太さんも手堅く、
チョイ役のテリー伊藤さん、田中要次さんもおいしかった。

都倉俊一役の内田朝陽さん。
阿久悠役の田辺誠一さんとのバランスが良くて、
ふたりが並んでると、ふたりとも似ていないのに あの当時の雰囲気が立ち昇る感じで、
何だか妙に嬉しかったです。
当時もきっと、お互いに欠けている部分を補い合える存在だったんじゃないか、
なんてことを、ふたりを観ていて思いました。

そしてそして、池田プロデューサー役の及川光博さん。
いや~、昭和のプロデューサー役がこんなに嵌まると思わなかった!
普段の王子様キャラはどこへやら。
番宣でも思ったのだけれど、彼は、決して上から目線にならないんですよね。
そして、何だか「浪花節」が似合う。(笑)
ミッチーを観ていて、
彼みたいな人に支えてもらう快感って、実はすごく大きいんじゃないかな、
なんてことを考えました。
私は実際の池田さんを知らないけど、池田さんが本当にああいう人だったら、
そりゃ阿久悠さんもさぞかし仕事がしやすかっただろう、と。
そして、阿久悠を演じた田辺さんも、実際にミッチーと組んで、
同じような気持ちになったんじゃないだろうか、と。

田辺さんは一歩引いて熟考するタイプ。
ミッチーはひらめき型で、
前に出て引っ張ってくれたり、後ろから押してくれたりするタイプなので、
これはすごくいいコンビかもしれませんね~。
またいつか別なシチュエーションでふたりを組ませてみたい、と、
無性に思ってしまった。

さて、田辺誠一さん。
『いのうえ歌舞伎IZO』で武市半平太を演じた時、
「確実な重さ」を演じられるようになって来たなぁ、と思ったのですが、
今回はさらに、激しさや強さをも揺らぎなく表現していて、
それが、以前から田辺さんが持っていた真面目さやユーモラスな部分と相まって、
厚みとコクのある阿久悠像を作り上げていたように思いました。

何と言っても、あの「眼力(めぢから)」は素晴らしく、
少年のような一途さ、古いものをぶち壊して新しいことを始めようとする情熱、
複雑に揺れ動く心の奥の想い、等々が、
くっきりとこちらの心に伝わって来たのが嬉しかった。

発声の仕方がいつもと違っていて、
低くてハスキーな声を作っていたのですが、
うーん、そこまでしなくてもいいんじゃないの、という思いと、
そこまでとことん本人に似せた阿久悠像を作ろうとしたことに対する、
ちょっと面映い(おもはゆい)程の頼もしさ、が、
私の中で交錯していました。

外見的にはまったく似ていないんだけれども、
ドラマを観続けて行くにつれ、
田辺さんがどんどん阿久悠さんにオーバーラップして行って、
それどころか、終わりに近づくにつれ、
きっと阿久悠さんってこういう人だったんだろうな、とさえ思わせられる、
決して強引ではない、ナチュラルな説得力が、
田辺さんの阿久悠には、満ちていたように思いました。

それは、外観や声を似せるだけでなく、
阿久悠さんの持っていた「色」だとか「空気感」だとかを、
田辺さんが、役を演じる上で徹底的に想像し、勉強し、
自分の中でしっかりと練り上げて、固めて、そうして演技にして行った、
その生真面目で真摯(しんし)な役作りの賜物であったのだろう、とも思います。

田辺さんファンとしては、
せっかく『阿久悠物語』と銘打っているのだし、
田辺さんがあそこまで阿久悠さんに迫っていたのだから、
役自体をもっと掘り下げて描いて欲しかった、という想いも正直強くて、
たとえば山口百恵へのあの「瑠璃色の想い」とは別な「琥珀色の想い」を、
沢田研二というキャラクターを通して描くことは出来なかったのか、
とか、ついつい考えてしまうのだけれど、
阿久悠物語』が、ひとつの「昭和歌謡史」にもなっていたことを考えれば、
それはあまりにも贅沢な願いだったのだろう、と思うことにします、
ちょっと(いや、かなり・・)残念だけれど。

以上、何度も観直したら観直しただけ、どんどん書きたいことが増えて行く
ような気がしたので(笑)あえて初見のみで感想をまとめました。
再見したら、まったく違う感想になってたりして。(笑)

公式サイトを見て、とても興味を持った、
キャスティングプロデューサー 吉川威史さんについて。

スタッフページに「キャスティングプロデューサー」という欄を見つけた時、
何故だか妙にどきどきしてしまって(笑)で、吉川さんについて調べてみたんですが、
いや~これがね~興味深いことがいろいろ分かって面白かったです!

「〈キャスティング〉より〈俳優スイセン人〉と呼ばれたい」
というくだりに、思わず「おお!」と喜んでしまった私。

実は、『阿久悠物語』だけじゃなくて、『少年メリケンサック』も、『ハッピーフライト』も、
偶然にも吉川さんがキャスティング(何人かの俳優を推薦して選んでもらう?)をされていたらしく、
まぁ、『メリケン・・』はクドカン絡みで友情出演だったとしても、
阿久悠」や「鈴木和博」に、田辺誠一という俳優をスイセンしてくれた吉川さんは、
何百何千の有名・無名の俳優の演技を観尽くした眼で、
田辺さんの今までの「何」をどんなふうに観てくれていたのだろう、と、
それがすご~く気になってしまって、
何だか、しばらく動悸が治まりませんでした。

そして田辺さん。
今まで、どんなふうにして新しい役が巡って来るのだろう、と、
いろいろ想像していたのですが、
オーディションというのは、あまり考えたことがありませんでした。

最初からこの役を田辺誠一に、という選ばれ方ではなく、
吉川さんのような人がスタッフに入ることで、
ひとつの役に何人か(あるいは十何人か)の俳優さんが推薦される、
そして、その中から、さらに、制作側の意向に沿った人選が行なわれ、
最終的にひとりが選ばれる、ということになると、
多かれ少なかれ、そこに「競争」(オーディション)が発生し、
○か×かの判断をされるわけなんですよね。

そんなふうにして、ひとつの役を勝ち取る、あるいは敗れる・・・
そんなシビアな世界で、これからもずっと俳優として生きて行くのだろう
田辺誠一という俳優に、ますます興味を持ったし、ますます好きになったし、
勝手連」的に、ではあるけれど、もっともっと彼を応援して行きたいなぁ、と、
そんなふうに、改めて心を熱くした翔なのでした。

―――以上、長々とまとまらない文を最後まで読んで下さって、
ありがとうございました。多謝!



Re:ありがとう  投稿日:2008年 8月21日(木)
田辺さんの演じる「阿久悠」が、「阿久悠」としてドラマの中で成り立っていた―――
うんうん! あれだけ作り込んでいても、まったく違和感がなくて、
ちゃんと阿久悠さんになってましたもんね!
こちらが構える必要もなく、すんなりとあの世界に惹き込まれてしまった、というか、
気持ちよく「まいった!」と言える作品だったように思います。

特に「都倉俊一」の、年は離れているんだけど阿久悠の事は一番理解している、
で、阿久悠もそれを知ってて気を許している、そういう感じが見ていて「萌え」ました―――
はい!私も~。
ミッチーの池田Pとの横並び(でミッチーちょっと控え目)の感じにも萌えましたが、
内田さんの都倉俊一との、上下関係、というか、
上目線と下目線が絡まる感じというのにも、すごく惹かれました。
あと、私がすごく好きだったのが、テリー伊藤さんとのシーン。
何なんでしょうか、あの まるで「悪事」を共有してるような雰囲気は!(笑)

何と言うか、どの人との関係を見ても、
それぞれに絶妙なポジショニングで阿久悠を取り囲んでる感じがして、
で、対する阿久悠の田辺さんが、それぞれに見事に同じだけのものを返してる、というか、
役同士のキャッチボールが、すごく心地良かった、というか、
おっしゃる通り、本当に「嬉しいドラマ」だったように思います。

田辺さんが主演の二つのドラマに吉川さんが絡んでるとなれば
そりゃ興奮しますよねっ―――
そうなんですよぉ~!これにはちょっとびっくりしてしまいました。
で、ものすごく面白そうな仕事だなぁ、と思いました。
(相当ハードみたいですが)
むかし、ある文学賞の下読みをする人の話を読んだことがあるんですが、
審査員が全作品を読むことは出来ないので、
下読みをして、ある程度候補作を絞り込むんだそうです。
吉川さんのインタビューを読んでいて、その話を思い出しました。
ブログなど読んでみても、相当感性を研ぎ澄ませてるんだろうな、と思います。
どういう経緯で、役に俳優を重ね合わせて行くのか、
吉川さんの頭の中を覗いてみたい衝動がふつふつと・・