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『風林火山』(第32〜34回)感想
32〜33回の、
越後の長尾景虎(Gackt)+宇佐美定満(緒形拳)
vs 山本勘助(内野聖陽)のやりとりが非常に面白かった!
特に、木に縛り付けられた勘助と、彼に銃口を向けた景虎の、
静かな、しかし熱のこもった応酬には、
久方ぶりに、こちらの心を鷲掴みにされた気分になりました。
いや〜、やっぱりこの大河の主人公は、紛れもなく山本勘助なのだなぁ!
と、改めて思った次第。(笑)
しかも、Gacktさんがまたいい味出してるんですよね〜。
宇佐美役の緒形さんを含め、今後の展開が楽しみな初顔合わせ、
でございました。
この「勘助が越後に潜入する」というかなり無茶な行動は、
もちろん、史実にはないことなのでしょうが、
無理を承知でふたりの対峙場面を作り、思考の違いを際立たせたことで、
脚本の大森寿美雄さんがこのドラマを通して描きたいもの、というのが、
私にも、ようやく輪郭を成して見えて来たような気がしました。
あらゆる「欲」を捨て、
穢(けが)れなく正義を貫こうとする景虎と、
人間臭い「欲」の泥沼の中で、
喘(あえ)ぎ傷つきながら自己を見い出し、
人心を掌握しつつある晴信(市川亀治郎)と―――
この明確な対比の中に、
鮮やかに浮かんで来る「核心」があったように思います。
人は弱く、人は情けなく、人は哀れで、人は愚かで、人は間違いを犯す・・・
人の一生ははかなく、人はひとりでは生きられない・・・
だからこそ、人は誰かの手を必要とし、
懸命に誰かを愛さずにはいられないのだ・・・という、
「熱い血の通った‘愚かしい人間’への慈愛」とでもいうような。
勘助の耳に甘やかに注がれる由布姫(柴本幸)の声。
勘助を呼ぶその声は、今の勘助を支える大きな力に他ならない。
欲にまみれたあさましい人間である自分を丸ごと認め、
自分のあるがままに生きることを赦(ゆる)してくれている場所がある。
お屋形さまもまた、聖人君子ではなく、
弱い部分、愚かな部分をたくさん持っている。
だからこそ慕わしく、
だからこそ、彼のためにこの命を投げ出しても構わない、とさえ思う。
――勘助の「晴信への忠心」が、
また一段階高まった瞬間だったようにも思います。
描かれ始めた「物語の核心」は、
今回(第34回)の真田夫妻(佐々木蔵之介・清水美砂)によって、
さらに、美しく鮮やかな「色」を重ねられたような気がします。
誰かを心から愛し、誰かのために戦い、命を賭ける。
守るべきものは「土地」ではなく「愛する人」であり、
それこそが、戦う力の源となる。
そのことを、真田夫妻は、雄弁に物語ってくれていました。
いや、ほんとに、出てくる人みんな密度の濃いお芝居をしてくるので、
今回など、何度泣きそうになったことか!(笑)
今まで、どうもピンと来なかった真田役の佐々木さん、
今回はいきなり直球ど真ん中にストレート投げられた気分でした。
情けないくらい奥さんや家族を想ってるところが、
ものすごくかっこいい!
そこにからむ相木(近藤芳正)がまた良いのよね〜。
真田の弟・常田隆永役の橋本じゅんさんも、
たった一場面で、さまざまに揺れ動く気持ちを見事に表現していて、
もう、ぐいぐい引き込まれました。
さて、そんな中、2週間ぶりに登場した小山田信有(田辺誠一)ですが。
ノベライズを読んで、小山田の最期にいささかの違和感を持ち、
さらに、ドラマの中で、小山田が美瑠姫に本気で惚れる瞬間を観た!
という確かな感覚が得られなかったこともあって、
他の家臣とどこまでも相容れない皮肉屋の武将として
最期まで貫いて欲しいなぁ、
無理に恋愛沙汰をからませて甘くしないで、
砥石崩れで大怪我を負う、という展開のほうがいいのになぁ、なんて、
内心では、そんなことを思っていたわけですが。(笑)
越後での勘助と景虎の対峙、真田の家族愛を受けて、
ようやく、大森さんが小山田に「何」を背負わせようとしているのか、が
少し見えて来た気がして、ちょっと胸が熱くなってしまいました。
小山田と美瑠姫(真木よう子)の最期が、
勘助と由布姫、真田夫妻、とは違った角度から描いた
このドラマの芯を貫く「愚かな人間が辿った愛の形」のひとつに
他ならない、とすれば、彼らのああいう死もまた、それなりに
「意味」のあるものなのではないか、と。
そんなことをとりとめもなく考えていたので、
今回、勘助に対して、
言葉そのものは相変わらずのキツイものでありながら、
その口ぶりに、今までとは違う柔らかな優しさが滲んでいたように
感じられた小山田に、
人間・小山田信有の変化(あるいは、今まで露呈していなかった本来の姿)
を垣間見たような気がして、
私は、ひとり勝手に、感慨深いものを感じてしまったのでした。
あと2回――
脚本・演出・演技といったすべての要素を含めて、
小山田の最期がどのように描かれるか、楽しみにしたいと思います。