『風林火山』(第26回/苦い勝利)感想

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『風林火山』(第26回/苦い勝利)感想
うーーん・・・重いなぁ・・深いなぁ・・あいかわらず。(笑)
登場人物の性格描写が、皆それぞれ単純じゃないので、
観ていてすごく面白い。
すごく面白いんだけど、すごく疲れる。(笑)
武田晴信市川亀治郎)なんて、
ほとんど別人のようになっちゃってますからね〜。


由布姫(柴本幸)のもらした一言、
「あなたは人の情けを大事にする。謀(はかりごと)を重んじる
勘助がいなかったら、早くに負けていた」
が引き金になったのは確かでしょうが、
それによって自らをどんどん追い詰めて、悪鬼になろうとする晴信は、
やはり、若いゆえの未熟さ、みたいなものがあるんですね。
外側は、ガッチリと鎧をまとって、
誰にも有無を言わせない!という「強さ」を自分自身に鼓舞しながら、
内側では、そうやって無理をしている自分に、
どんどん疲れ果て、追い詰められている。


いかに晴信が知略に優れた武将であっても、
自分自身の持ち味を消し去って、無理に別キャラを作ろうとしたら、
どこかで綻(ほころ)びが出て来るのは当たり前。
山本勘助内野聖陽)が由布姫の産んだ子・四郎にかまけていたあいだ、
晴信は、そういう自分自身に押しつぶされそうになってたわけで。
やはり、勘助あっての晴信なのだ、ということが、
はっきりと見えた回でもありました。


一方、自分がちょっと留守にしていたあいだのお屋形さまの変貌ぶりに、
付いて行けない勘助のとまどい、というのも大きくて。
まるで軍師なんか必要ない、みたいに、
勝手に相木市兵衛(近藤芳正)を村上義清(永島敏行)に差し向けたり、
最終的な判断を、以前のように勘助にゆだねる、
ということをしなくなったり、
事情を知らない勘助にしてみれば、
「急にどうしちゃったの?お屋形さま!」という気持ち
だったのではないか、と。


あれだけ「阿吽(あうん)の呼吸」で絶妙な関係を築いていたはずなのに、
いきなりの、この不協和音。
画面のこちら側で観ている視聴者の立場としては、
ふたりの心の痛みが どちらもはっきりと見えているだけに、
由布姫にしがみつく晴信にも、
三千の首をさらして志賀城に投降を促す勘助にも、
なんだか胸が詰まってしまいました。


それにしても―――改めて、なんてクオリティの高い俳優陣!


晴信を演じてる亀治郎さんの牽引力というのは凄いなぁ!と改めて感嘆。
セリフの強弱や眼力で、場を圧倒する、
その演技についつい引き込まれてしまいました。


また、内野聖陽さんにも、また改めて惚れ直してしまいました。
(何度目だ?笑)
この人は本当に「役」に埋没してしまう人で、
地味な役だと、本当に地味〜に演じてしまうので(笑)
大河の主役だというのに、亀治郎さんほどの強いオーラも感じられず、
押し出しも強くない感じがしてしまうのですが、
今回のように、複雑な戸惑いや葛藤が求められる場面では、
役の中にきっちりと収まった上で、
みっちりと表現してくれるのですよね〜。
本当に、演劇センスのある人なんだなぁ、と思います。


ようやく本格的にセリフも与えられるようになった、長尾景虎Gackt)。
思ったより声も通って、演技それ自体にはそれほどの違和感がなく、
ああいう「異質」なキャラということで、
晴信役の亀治郎さんとはまったく違う種類の、
独特の色彩のオーラを放っていて、それはそれで非常に興味深かったです。
実は、景虎ひとりのシーンはともかく、
家臣団と一緒のシーンでは浮いてしまうんじゃないか、と、
多少心配していたのですが、
私が観た感じでは、それほど違和感なかったように思いました。
・・・いや、違和感はあったんだけど、私は意外とすんなり入って行けた、
と言った方が正しいかな。(笑)


他には、真田幸隆役の佐々木蔵之介さんが、
すーっと素直に役に乗ってる感じがして、
まったく引っ掛かりを感じさせなくて、観ていて心地よかったですし、
相木役の近藤芳正さんも、
いつもとは違った役柄を演じていて、心に残りました。


この真田-相木に、勘助が加わった3人の密談場面は、
いい感じの「おっさん風情」(笑)が漂っていて、私としてはツボでした。


あと、このドラマは、ワキにいい俳優さんが揃っているなぁ!
といつも思います。


   *


さて、今週の小山田信有(田辺誠一)ですが―――


(ひげ)小山田、初見参!でしたね。
第22話(三国激突)で一度プライドを断ち切られた後、
ここからまた新たに小山田ストーリーが動き出す、という感じなので、
装いもあらたに、ということなのでしょう。

性格も、より一層ダーク。(笑)
戦になるとホントに生き生きしてるし。(久々のお仕事だもんね。笑)

ただ、ずっとこの人を見てきて思うのは、
自分の中にしっかりとした「お屋形像」が結べない焦燥があるんじゃないか、ということ。
信虎の時代には信虎に、晴信の代になったら晴信に、
自分が理想とすべき「お屋形の輪郭」を、
知らず知らず求めているような気がする。

「自分はお屋形のうつわではないのかもしれない」という
屈折を味わってなお、まだ、諦め切れない、断ち切れない未練があって。

当の晴信は、小山田の存在など歯牙にもかけないのに。
評定の場での冷たいあしらいに、ただ唇を噛み締めるしかないのに。

「似非(えせ)晴信」と化した姿は、
ただの道化(ピエロ)にしか見えないのに―――


それでも、晴信が髭をはやせば髭を、ダークに染まればダークに、
奪い取った城の姫を側室にすれば、自分も同じように側室に・・・
なお、まるで鏡に映った「お屋形」の幻を追うように、
同じ姿を自分に写し取ろうとする。
そして・・・まるで晴信を模倣したような、勘助に向けた高笑い―――


その笑いの陰に、完全に武田に下ることの出来ない、
「郡内領主としての矜持(きょうじ)」と板ばさみになっている
小山田の苦しみが滲み出ているのではないか―――
という気がしてしまったのですが・・・
さすがに、それは、小山田好き〜の読み過ぎ・妄想し過ぎ、
というものでしょうか。(笑)


それにしても、さっきも書いたように、
今回の小山田は、思ったよりずっとダークで、正直びっくりしました。
どん底まで落ちた、という感じ。(笑)

ここから、笠原夫人(=美瑠姫/真木よう子)との関係を経て、
おそらく少しずつ変わって行くのだろう、とは思いますが、
それほど多くない出番の中で、
田辺さんが、小山田をどういうふうに浮上させて行くか、
「戦国ロボット」(田辺さん談)だった彼の凍った心を、
どんなふうに融かして行くのか、
次回以降が、ますます楽しみになってきました。