アウトリミット(talk)

2005・10・10放送(WOWOW)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:岸谷五朗主演、下山天監督、ということで、田辺さんには珍しくハードボイルドタッチの作品だったけど、どうだった?
翔:いやもう暑苦しくて暑苦しくて、夏場に観るものじゃない、と思った。(笑)
夢:太陽がジリジリ照り付けてる感じが、画面全体から漂ってきてたよね。
翔:ずーっと、ミンミンゼミが耳元で鳴いている、という感じだった。(笑)
夢:出てくるメンバーがまた、みんなコッテリしてた。 黒谷友香さんのケバケバの化粧とボディコン、存在そのものが濃い、永澤俊矢さんや本田博太郎さん・・・(笑)
翔:井川(岸谷)を追うヤクザの親分が、宮史郎さんだったり、とか。
夢:そうそう。(笑) 
翔:私は本来そういうベタベタしたのが苦手なんだけど・・・でも、このドラマは面白かった。 ベタベタの中に、どこか爽快感のようなものがあったからかもしれないけれど。
夢:それは、岸谷さんが主演だったから?
翔:それもそうだけど、下山監督の撮り方、というか、全体に流れる空気感みたいなものが、シャキッとしていた感じがしたので。 
夢:翔は、岸谷五朗萩原聖人コンビに対して、「『傷だらけの天使』の萩原健一・水谷豊コンビを彷彿とさせる」って言ってたけど、正直、そこまでの魅力があったかなぁ・・・
翔:いや、ショーケン・水谷コンビのようなスタイリッシュな感じは、このふたりにはカケラもないんだけどね。(笑) でも、岸谷さんも萩原さんも、キャラが立って、すごくいい感じで絡(から)んでいた気がしたので。 
夢:うーん・・・
翔:強引に無理難題吹っ掛けて来る井川(岸谷)にうんざりしつつも、結果的に言うことをきいている大成(萩原)が、ある時、一瞬だけ形勢逆転させたり、でもそれも、またすぐ井川に押さえつけられたり、という、結果、絶対的な力を持つ井川に負け続けてる大成の情けなさ、みたいなところが好きだった。(笑)
夢:・・・・・・(笑)
翔:ストーリーとして、あまり新鮮味が感じられなかったのは確か。 誤って殺してしまったチンピラ、偶然手に入れた3000万円の価値のあるCD、それに絡む暴力団と殺し屋、携帯の向こうの女の子、可愛がっていた後輩の死、その恋人、井川を追う刑事たちの真の目的・・・ ひとつひとつの設定としては、こういうドラマにはよくありがちなものだったし・・・。 だけど、そういうパーツを画面の中でどう見せるか、という部分で、うまいなぁ、と思ったところがいろいろあった。
夢:翔は、このドラマはジャンクフードだ、って言ってたよね。
翔:全体的に、極彩色の絵の具をぶちまけたみたいな、いい加減だけどすごく魅力的なところがあったと思う。 で、このドラマに関しては、それが正解だった、とも思う。 監督としては、全体をうまくコーディネイトして「物語」として緻密に計算して組み立てることよりも、逃げる井川、追う殺し屋、それを追う警察、という、スピーディな展開を大切にして、あえて、場面ごとの面白さを優先しようとしていたような気もするから。
夢:・・・・・・・・
翔:追っている殺し屋ふたり(浜田学・真胡珠央)の個性がものすごく強くて、彼らに追われてる井川や大成とのコントラストがはっきりしていて、彼らが追いかけっこしているのを観ているだけでも面白かった。(笑) 
夢:確かにそう言われてみれば、そういう観方も出来ると思うけど、あたしは、正直 消化不良のところもあった。 特に、田辺さんが演じた田村の扱いが中途半端だったんじゃないか、という気がして仕方なかった。
翔:ああ、それは私も思った。 
夢:あ、そうなの?(笑)
翔:そうだよ。(笑) あの田村という役は、もっと膨(ふく)らますことが出来る役だったと思うし。 田村だけじゃなくて、神埼(黒谷)や渡辺(永澤)ら警察側の事情みたいなものを、もっともっと書き込んでくれていたら、井川 - 殺し屋 - 警察 それぞれの力関係が拮抗して、もっともっと緊張感が出て来たんじゃないか、と・・・
夢:うん。
翔:ジャンクフードなりの旨(うま)みが足りない、というか、全体が魅力的に絡んでいない、というか、もうちょっと、クライマックスに向けて盛り上がる感じがあったら、もっと良かったんだけど・・・最後が、あまりにもあっさりし過ぎていたような気がする。 せっかく警察側にも面白いメンバーを集めたんだから、もっと使ってやっても良かったのに、と。
夢:うんうん。
翔:田村にしても、神崎や渡辺にしても、彼らがどういう理由で、どういう目的でそこにいるのか、という背景が、もっとしっかり描かれていたら、物語としての層が厚くなって、さらに面白くなったんじゃないか、と思う。 実は そのCDには警察も一枚絡んでいて・・・という どんでん返しの設定に、深みや味がなくて、淡白なクライマックスになってしまったのが残念だった。   
夢:そうだね~。 
翔:それと、亡き後輩の恋人(伊藤歩)に対する井川の気持ち、というのも、もっと深くてもよかったんじゃないか。 血も涙もないような いいかげんに生きている井川の中にある「人想い」の部分、というのが、もっと繊細に出てきたら、面白かったのに、とも思った。
夢:・・・うーん・・・なるほど。
翔:さっきも言ったように、そのあたりを詳しく描いてしまうと、せっかくのスピーディな展開が弱まってしまう、という懸念があって、あえて最小限に刈り込んだんだろう、とは思うけれども。
夢:田辺ファンが こんなに物足りない想いを抱いているのを、知ってか知らずか・・・?(笑)
翔:・・・・・・・(笑)
★    ★    ★
夢:岸谷さんを始めとする強烈な個性集団の中での田辺さん、一服の清涼剤、って感じで。
翔:清涼剤・・・だった?(笑)
夢:え・・違う?(笑)
翔:さわやか、って感じじゃなかったよね。 何だろう、そのあたり・・・同じ刑事でも船木健一(@恋人はスナイパー)とはまったく違う どこかにちょっとダレている感じがあって、それがまた面白い、と思えたんだけど。
夢:・・・・そうか、そう言われてみれば・・・・
翔:さっきも話したように、田村の立場がきっちりと描かれていたわけではないし、あまり出番も多くなかったので、役として物足りない感じはあったけれども。 
夢:神崎との力関係、ってのは、あれで良かったのかなぁ。 ドラマとは逆に、実は神崎を操っていたのは田村だった、ぐらいの大きさが、田村にあってもよかったようにも思えるけど。
翔:そのあたりを、もっともっと掘り下げてみたら、どうなっていたんだろう、という興味がすごくあったんだけどね、私も。 だから、ドラマとしては確かにあれでいいと思ったけれど、田辺ファンとしては、あれだけで終わってしまったのが、すごく残念で。
夢:そうだよね~。
翔:田村という役の背景にもっと深みが出ていたら、ドラマの盛り上がり方はどうなっていたんだろう、という興味も、すごくあったし・・・
夢:そのぐらい重い役になってこそ、クレジットの最後に「田辺誠一」の名前が出る意味もあったんじゃないか、と思うんだけど。
翔:ただ、私の場合、そういう気持ちがどうして湧いたか、と言えば、出ている時間が短かったから物足りなかった、というんじゃなくて、田辺さんが、田村という役をもらった段階で、かなり掘り下げてしっかり背景を作って、その上で演じようとしていたのが感じられたから、なんだけど。
夢:・・・・・・・・
翔:その「田村の背景(過去や、今背負っているもの)」への着眼点や、組み立て方が、少ないセリフや動きの中に、ギュッと凝縮されて詰め込まれていたような気がした。 出番の多少じゃなく、そういうことをあれこれやろうとしていた田辺さんには、出番が多い少ないなんて、関係なかったんだろうな、と。 でも、だからこそ、もっと観たかった!とも思う。 田辺さんが演じる田村を観ていて、その「役の作り方・演じ方」に、すごく興味を惹かれたから。
夢:翔は、田村が井川(岸谷)を追い詰めて、銃を向けるシーンが、すごく好きだった、って言ってたよね。
翔:特に、あの場面での田辺さんの「田村の作り方」というのが、ものすごく魅力的に感じられたから。 もう、あのシーンだけで、大満足させられてしまった自分がいたので。(笑)
夢:かっこよかったよね~! 耳に手をあてながら銃を撃つところなんか特に。
翔:でも、ただかっこいいだけじゃなくて。 何だろう・・・あの場面、井川と話しているうちに、ゆるゆると彼の中で もたげてきた不気味な虚無感みたいなものに、ゾクゾクさせられた、というか。
夢:虚無感・・・・?
翔:何だか、欠落した恐さ、みたいなものがあったような気がした、あの時の田村に。 道徳観念がスコーンと抜け落ちてしまっている感じ・・・と言ったらいいのか。
夢:・・・・うーん・・・・・・
翔:それなのに、対峙している井川に対して、どこかで甘えているようなところもあって・・・
夢:そう言えば、翔は以前、「銃を撃つことが、まるで井川に対する屈折した愛情のように感じられた」と言ってたよね。
翔:そのあたりはもう、あいかわらず私の妄想でしかない、とは思うんだけど。(笑) 何だか、田辺さんが、こちらが勝手にそんなことをあれこれ考えたくなるような役作りをしていたように感じられたので。
夢:あれだけの出番しかなかったのに?
翔:うまく言えないけれど、すごく不思議な感覚があったから。 『らせん』の織田や『サイコメトラーEIJI』の沢木みたいに、置いてきぼりくらった人間がねじれてしまった、みたいな、どこかに痛々しさのある恐さ、というんじゃなくて、もっと普通の、だからこそ不気味な、掴みどころのない感じ・・・というか。
夢:・・・・うーん・・・・
翔:いや、だから、それは、あくまで田辺さんの演じ方として、ということで。 その演じ方に対して、私としては、「こんな田辺誠一に初めて出逢った!」という感覚があった、ということなんだけれどね。
夢:初めて出逢った・・・?
翔:そう。 内面に弱さを隠し持っていない、強い恐さ、と言ったらいいのかな・・・ そういう田辺さんを、私は今まで一度も・・ああ、いや、滑川(@フリック)ぐらいしか観た記憶がなかったので・・・・
夢:・・・・そうか・・・・
翔:これもまた、俳優・田辺誠一の弛(たゆ)まざる「進化」のひとつの形なのかもしれない、などと、ひとりで勝手に喜んだり嬉しく思ったりしているわけだけれども。(笑)
夢:・・・ん~・・・なるほどね~・・・・(笑)