『功名が辻』感想

六平太の死〜『功名が辻』感想
功名が辻』での私の最近一番の興味は、
「六平太(香川照之)の最期」をどういうふうにするのか、
ということだったのだが、
今回、山内家のダークな部分をすべて背負った後、
千代(仲間由紀恵)に「好きだ」と告白し、
毒を飲み下して死んだ六平太に、
切ないとか、哀しいとか、あわれとか、そういう
どこか甘美でもある感情を差し挟めないほどの重みを感じて、
私は、ただただ、言葉なく、心の奥深く刻まれる「何か」を、
ゆっくりと噛み締めるしかなかった。


もちろん、脚本のうまさ、演出のうまさ、というのもあるんだろうけれど、
私は、香川照之という俳優が紡ぎ出してみせた六平太の、
すべてを脱ぎ落とし削ぎ落とした後に残された千代への深い深い想いが、
甘やかなものでなく、淡々と乾いた空気に包まれていたことに、
心を持って行かれてしまった。

死んでしまったというのに、この満ち足りた感覚はどうしたことだろう。
たぶん、六平太の千代への愛が、まったく欠けることなく、
すべてまるごと全部、千代に与えられた、と思えたからかもしれない。

ひそやかで慎ましい、けれども、誰よりも大きな想い――
熱くて激しくて、けれども、誰にも気取られぬ深い想い――


「演じること」は、所詮「嘘」ではあるのだけれど、
こんなにも、「絵空事でない心」を描くことも出来るのだ、と、
また、そんなことに思いを馳せた、
そしてまた、香川照之という俳優に惚れ直した、
功名が辻』でありました。