『里見八犬伝』感想:2

 一番嬉しいと思ったのは、
スタッフ・キャスト含め、皆「本気(マジ)」だ、と感じられたこと。
確かに脚本が描き切れていない部分もたくさんあって、
物語としてのスケールが小さくなってしまった、ということは言えるけれど
(むしろ、よくあれだけにまとめたもんだ、とも言えるかも)
それはそれとして、全編を通して、作り手側にも、演じ手側にも、
だいたいこんなもんでいいだろう、とか、楽にやってやろう、とか、
そういう「緩(ゆる)み」のようなものが、ほとんど感じられなかった。

特にこういう「嘘の物語」においては、
どこかにそういう緩みが出ると、
途端に、観てる側は興ざめしてしまうものなのだけれど、
非常に真摯(しんし)に、真剣に、作品と向き合ってる様子が伝わって来て、
気持ちが良かったです。

 

八犬士。
いかにも若く清らかでまっすぐな佇まい。
8人もいれば、どこかでキャラが被(かぶ)る、という可能性も
あっただろうけど、
ひとりひとりが、きちんとキャラを立たせていて、
それぞれに、見応えがありました。
これはきっと、キャスティングの妙、でもあるんでしょうね。

 

滝沢秀明くん。
この人の「何か(時間?)を超越した感じ」というのは、
特筆に価するんじゃないか、と思う。
また、『荒神』(新感線の舞台)での森田剛くんにも感じたことだけれど、
彼の持つ「いつまでも大人にならない少年らしい青さ」が、
今回は、非常に有効に作用していたような気がします。
私の中で、この作品が、「時代劇」ではなく、
明確に「ジュブナイル」という位置にあるのは、彼による力が大きい。
けっして演技が上手い、というわけではないし、
堅い、と思うところもあるのだけれど、
それがまた魅力になっている、とも言えるのかもしれない。
今後、その「未完成」な部分がどんなふうに埋まって行くか、
あるいは埋まらないままなのか、見守る楽しみも。
間違いないのは、殺陣の確かな動き。
他のどんな出演者も及ばない程の力強さと美しさを感じました。

 

佐藤隆太くん。
『熊沢パンキース03』(大人計画の舞台)の時に、
コミカルな役を多く演じている彼が、
実は、とても陰影のある俳優さんなんじゃないか、
と思うようになったのですが、
それ以後の出演作品では、十分にそういう部分を見せてもらった
覚えがなくて。
今回、ようやく、その片鱗を観せてもらったような気がしました。
でも、まだまだこんなもんじゃないだろう、
もっともっと深い表現の出来る人なんじゃないか、
とも思ってるんですけどね。

 

勝地涼くん。
いいですねぇ、まっすぐで。
数年前から注目していた人だけれど、今回ひさしぶりに観て、
久々にノーブルな若手俳優が出て来たなぁ、という印象を持ちました。
でもまだ、その魅力をちゃんと掴まえ切れてないんだよな、
きっと、私。(笑)
ともあれ、このまますくすく育ってくれることを願ってます。

 

山下翔央くん。
タッキーよりもさらに、
「この時期」にしか持ち得ない「少年らしさ」が出てました。
これからどういう成長を見せてくれるだろう。楽しみ。

 

小澤征悦さん。
実は、今まであまり印象に残る役がなかったのですが、
今回はすごく良かった。
ん〜何だろう、八犬士の中で「おちつき」みたいなものを担ってた
感じがしました。

 

山田優さん。
男役はさぞ違和感あるだろう、と思ったら、
動きも軽快で、思いのほか嵌まってました。かっこよかった。

 

・照英さん。
小澤さんが「おちつき」なら、照英さんは「なごみ」でしょうか。
明るい笑顔がよかった。

 

押尾学さん。
彼も非常に動きがいいですね。
あまり前に出ない控え目な感じもよかった。

 

八犬士も素晴らしかったけれど、脇役陣も素晴らしかった。
それぞれに個性的な役作りをしてて、
それをとても楽しんでる様子が伝わって来ました。

 

菅野美穂さんは、もはや私の中で、
「あれぐらい出来てあたりまえ」の女優さんになってますが、
彼女がどれほど頑張っても、
あれだけのドラマを動かすボスキャラが、彼女ひとりというのは、
いかにも荷が重いとも思いました。
逆に、京本政樹さんや大杉蓮さんの役あたりで、
「悪(ワル)」の部分を、もっときっちりと描いてもらえていたら、
「八犬士vs玉梓を頂点とした悪役軍団」という図式が明確になって、
さらに理解しやすかったのではないか、と。

 

泉ピン子さんや小日向文世さんの典型的な小悪党ぶり、
仲間由紀恵さん、渡部篤郎さん、長塚京三さんら里見家の
揺るぎない穏やかさ、
いつもは収まり切れない感のある陣内孝則さんの、
ぎりぎり収まってる感じ、
逆に、渡辺いっけいさん、佐野史郎さんの、はみ出して自由な役造形、
(佐野さ〜〜ん、やっぱり好きっ。笑)
武田鉄矢さんのしっかりした口跡、
佐々木蔵之介さん、皆川猿時さんらは、わずかな出ではあったけれど、
彼らでなければ出せなかったものがちゃんとあったし、
綾瀬はるかさんは清楚でかわいらしかった。
(もっと気持ちが前に出て欲しかったけど)

 

わけても印象深かったのは、船虫を演じた ともさかりえさん。
彼女の、くずれて行く様子というのは、何だかものすごく身につまされて、
痛々しくて可哀相でならなかった。

観ながら、
いけないと知りつつどんどん深みにはまってしまう薄幸の女、みたいな役で
田辺さんと共演してくれないだろうか、などと、
また妄想が・・・・(笑)

 

さて、その田辺誠一さん。
今まで、自分の意志のあるなしにかかわらず、
役の中に繊細な感情を滲ませていた彼にしてはめずらしく、
甘さ・優しさ・切なさ等々を一切排除、
泉・小日向と並ぶ典型的な小悪党としての役作りをしていたことが、
非常に興味深かったです。

出来れば、風左衛門(新感線『荒神』)がアルゴールとしての一面を
持っていたように
網乾にも、小悪党だけでない一面を見せて欲しかったけれど、
やる気なら出来たであろうそういうところを、
今回は、あえてそうしなかった、
浜路(綾瀬はるか)に対して、
複雑で切ない感情を孕(はら)ませなかった、
かえって、そのことに、意味があるような気がしました。

 

ともあれ、殺陣も謡(うたい)も合格点。
う〜〜ん、最近の田辺誠一、恐いものは何もない、って感じ。
(ほめ過ぎ?笑)
そうなると、さらに高い壁が出現してくれないものか、と思ってしまう、
これはもう、私のサガ。(笑)

 

それにしても勿体なかったですね、
これだけのストーリーを5時間でまとめてしまうのは。
脚本は、コンパクトにこの壮大なドラマをまとめていたと思うけど、
どうしても消化不良は否めなかった。
出来れば半年、せめて1クールあれば、と思ったのは、
私だけではないはず。

あの、どこまでも続く草原は、中国ロケでのものだったんでしょうか。
ああいう「広さ」を、最近の時代劇は表現してくれないですよね。
そういう点でも、画面にスケールの大きさがよく出ていたと思います。