『笑う三人姉妹』感想:4

 こういう ゆるい形もあり、なのかどうかは別にして、
「男が父親を越えて行く時期」、ということを考えると、
まさに30代半ば、というのは、その適齢期なのかもしれないなぁ、と、
今夜の『笑う三人姉妹』を観て思いました。

 

塚越(石倉三郎)と共に父親の墓参りに行って帰って来る、その道すがら、
自然と塚越が自分の本当の父親であることに気づく。
ヘンリー〈田辺誠一〉が20代ならば、
そこでもっとナマの感情が出て来てしまうのだろうけれど、
30代も半ばを過ぎた彼には、
慌てず騒がず、事実を淡々と受け入れ、認め、
許すことが出来るんだなぁ、と。

あいかわらず、山も谷もない平板極まりない展開ではあるのだけれど、
そういう、ストーリーの物足りなさは物足りなさとして、
脚本に描かれた「父親との決別」を、
決してベタベタにならずに、あんなふうにさらりと、
しかも、きめ細やかに演じた今夜の田辺ヘンリーに、高得点をあげたい、
と私は思う。

 

いつの頃からだろう、
この人が、俳優として、本当に相手をまっすぐ見られるようになった、
と思えるようになったのは。
その思いに確信が持てたのは『サボテンジャーニー』の時だったけれど。

あの眼から、まっすぐに相手の眼へ、心へ、
優しくて、柔らかで、けれども何かを間違いなく伝えられる「視線」が
放たれる・・・
年を経て、俳優としての経験を積んで、上手くなって、
だけど、それだけではない、それだけでは表現しきれないもの、
がそこにある・・・

この人が持つ、例えば竹のような「しなり(しない)」を、
いつまでも失わないで欲しい、と思います。