田辺さんに演じて欲しい役/青柳雅春@『ゴールデンスランバー』

田辺さんに演じて欲しい役/                             青柳雅春@『ゴールデンスランバー伊坂幸太郎:著
今年(2008年)の本屋大賞受賞作。
本屋さんに平積みになっていたのを、例によってパラパラと斜め読み。
普通はそこで終わって、次の本を物色する(笑)んですが、
この本は、読んでいるうちにどんどん惹き込まれて、
止まらなくなってしまって、
続きが読みたい!と無性に思うようになって。
で、衝動買いしてしまいました。


1000枚という長編ですが、
まったく飽きずに、どんどん物語に惹き込まれて行ったのは、
何と言っても、ストーリーの面白さによります。
突然、身に覚えのない「金田首相殺し」の濡れ衣を着せられた青柳雅春が
「習慣」と「信頼」を頼りに仙台の街を逃げ続ける。
誰が犯人か、というのは、だいたいの輪郭がぼうっと浮び上がるだけで、
最後まではっきりしない。
『逃亡者』のリチャード・キンブルのように、
逃げつつ真犯人を探し出し、最後には、自分の濡れ衣を晴らす、
というような、ミステリーとしての最大の醍醐味を、
放棄してしまっているのですが、
『交渉人・真下正義』のように、犯人の姿が見えない、誰だかわからない
だからこそ漠然とした恐怖感が漂う、ということもあるわけで。


一方で、情報管理、という点で、近未来小説の一面もあって、
それがまた、なかなか興味深くて。
これだけ携帯電話が普及して来ると、冗談でなく、
知らない間に自分の情報が利用され管理されて行く、というのは、
あながちフィクションとも思えなくて、
何となく背筋がぞくぞくしました。


解説にもあったように、これは、
ミステリーと言うよりは、エンターテインメント小説。
サスペンスフルな展開の中に、ほのかなユーモアと、
巧みな時間の交錯と、魅力的なキャラクターと、
綿密な伏線の張り方、等々がたくみに交じり合って、
ぐいぐいと読み手を引っ張ってくれているような気がします。


本屋さんに行った時、
最近は、基本的に「田辺誠一」が演じられるような役はないか、
という視点で小説を手に取ることが多いのですが(笑)
この『ゴールデンスランバー』では、青柳雅春=田辺誠一だけでなく、
他の登場人物も、
自分の中でほとんど悩むことなくキャスティングされて行って、
彼らが仙台市内を動き回る「映像」が鮮明に思い浮かんで、
最後には、私の頭の中で、完全に「映画」として出来上がって行く、
というような感覚を味わえたことも、
非常に楽しい、興味深い体験でした。


主人公の青柳雅春は、
今まで田辺さんが演じて来たいくつかの役とどこかダブって見えて、
読み進み、その人物描写が細かくなるにつれ、
どんどん加速度を増して「俳優・田辺誠一」に重なって行きました。
年齢としては、30代になったところ、ということで、
実年齢とはちょっと差があるのですが、
内容的には、たとえば30代半ば という設定でも全然問題ないと思うし、
何よりも、青柳が放つ、どこか頼りなくて詰めの甘い(笑)
けれども芯に揺らがない確かなものも持っている、あの空気感が、
田辺ファンである私には、
もう、田辺さん以外には考えられないくらい、
嵌まっているように思われました。


最初に青柳に「危険」を伝える友人・森田森吾は、
青柳=田辺と同様、早い段階で、
私の頭の中で「池田鉄洋」に変換されていて。(笑)
青柳と森田が、ふたりで仙台の街を並んで歩くシーンが、
フルハイビジョン並みの鮮やかさで くっきりと私のまぶたに浮かんで来て
ひとりできゃ〜きゃ〜喜んでました。(単純バカです。笑)


青柳の元恋人の樋口晴子には、
自然体のしなやかなたくましさを演じられそうな
片岡礼子さんはどうだろう、とか。


あとはもう、自然に、この役はあの俳優さん・・と、
どんどん埋まって行って。


青柳の父親が泉谷しげるさん、轟砲火店の主人が大地康雄さん、
両足にギブスをつけてるけど元気そうな(笑)保土ヶ谷寺島進さん
(年齢も風体もぜんぜん違うけど)とか。
かなり怖い役でもある三浦には、二宮和也くんがいいんじゃないか、とか。
青柳が宅配ドライバーだった時の先輩で、ロックな岩崎は、
哀川翔さんだろう、とか。
―――いやもう、おおいに楽しませてもらいました。


そんなふうにキャスティングで遊ばせてもらい、
プロデューサーやら映画監督やらの感覚を疑似体験させてもらったことで
私としては、この小説に対する満足度が、
さらに、2割ぐらい上乗せされたような気がしないでもありません。(笑)


もちろん、そんな妄想ぬきでも十分に楽しめる(笑)、
長さとしても、内容としても、
「読んだ!」という充実感、満足感が感じられる小説でありました。

ゴールデンスランバー

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