『約三十の嘘』感想

 油の乗り切った俳優さんがたくさん出てて、とてもきれいで、
後味の良い映画でした。
どちらかと言えば好きな肌触りの映画だったし、
決して悪くはないと思った。

・・・・でもねぇ、なんだか「それだけ」なんですよね。
あれだけのメンバー集めて、あれだけのシチュエーションがあって、
なのに、出来上がって来たものは、たったこれだけなのか、という思いを、
最後のクレジットまで、どうしても拭い去ることが出来なかった。

だって、椎名桔平だよ!?中谷美紀だよ!?妻夫木聡だよ!?
八嶋智人だよ!?田辺誠一だよ!!??
これだけのメンバーが、列車の中、という限られた空間で、
ほとんど出ずっぱりで動いてしゃべるんだよ!?
だったらもっと・・・もっと・・・・!!

 

たとえばラスト近く、
椎名さんと中谷さんのやりとりは本当に素敵だったと思うけど・・・・
椎名さんにしたって、中谷さんにしたって、あんなもんじゃない、
あんなもんじゃないはずでしょ。
彼等は、自分の持ってるものを見せ切っていない、
まるで不完全燃焼でケムに巻かれたように、
彼等の魅力が、最大限にクリアに全部伝わって来ない気がして、
何だかすごく・・すごく・・淋しかった。

 

その歯痒さは、田辺さんに対しても同様。
あの情けなさ、あの純情さ、確かに上手い、上手いんだけど・・・・
彼なら、求められたら、もっともっと違うものを、
違う形で見せられたんじゃないか、
たとえば、もっと煮え切らない心情を、もっと複雑な色合いで。

 

彼等は皆、彼等の表面的な魅力だけで、
勝負させられてるような気がしてならなかった。
彼等はもっともっと考えられる、深められる、
その「役を演じる力」を十分発揮する前に、物語が終わってしまった、
という感じが否めませんでした。

 

中で、いつも 役=自分という捉え方をしてる妻夫木くんがただひとり、
健闘してたと思えたのが、何とも皮肉。

 

伴さんは、私はどうも今回の役にはうまく結びつかない気がしてしまう。
たとえば、酒井若菜さんだったらどうだろう、と考えてしまった。

 

結果的に今井だけが一流の詐欺師だった、というオチは良いとして、
なら、なぜ他のメンバーはニ流なのか、
なぜ彼等は「チーム」を組まなければならないのか、
もっと言えば、そもそも彼等の「欠けているもの」は何なのか、
という部分が不明瞭だから、
彼等が、最後にまた一緒に仕事をしよう、という決断をする、
その理由が理解出来ない。
ただ、馴れ合いで一緒にいることにしたとしか思えない。
だから、彼等のことがどうしても心から好きになれないで終わってしまった
のも残念でした。

 

田辺さんの久津内。
彼が三枚目志向なのはよく知ってるし、
そのことについてとやかく言うつもりもない。
こういう役をやらせると、なるほど上手い、とも思う。
だけど、時々、あと半トーン落として役作りをしてくれないだろうか、
と思うことがある。
明るいのも、楽しいのも、情けないのも、もうちょっと、
ほんの少しだけ抑えて、と。
今回、わずかなシリアスシーンが見事にはまってて、
すごくこちらに伝わって来るものがあっただけに、
何だかとても、もったいないなぁ、という気がしてしまいました。
その点、ナビオ(サボテンジャーニー)は最高だったなぁ、
と、改めて思う。

正直、田辺さんが口端をちょっと持ち上げて笑い話す、
あの感じが苦手だったりする私・・・・

 

何だか、田辺さんに対して、
どんどんハードルを高くして行ってる気がするんですけど、
それでいい、と思ってる自分がいるもので。
よほどのことがない限り、絶賛・賞賛出来なくなっちゃってますわ、私。
(笑)