『新・近松心中物語』感想:3

『新・近松心中物語』感想:3 
与兵衛を観て。
田辺さんが、「俳優として、役を作る」という作業に、
初めて、周りの思惑を気にせず、真正面からぶつかって行ってる
ような気がしたのは、私だけでしょうか。

 

今まで、
脚本や演出の作った「型」の中に、なんとか自分を押し込もうとして来た・・
自分に求められているものを、忠実に現出させようとして来た・・
田辺さんは、そういう俳優さんだと、
私は、ずっとそう思って来たのですが、
今回は、そういう「誰かの視線の先にある自分(の役)」を
追いかけるのではなく、
自分が、「俳優として、与兵衛を作る」ことを、心から楽しんでいる、
「ああ、演じることって、こんなに楽しいものなんだ」と
肌で感じながら演じている、と、そんな気がしてならないのです。

それは、速水真澄からも、滝川幸次からも、天羽良之からも、
進藤要士からも、新藤健二からも、栗田勝裕からも、
アキレウスからも、五十嵐からさえ、(私には)感じられなかったもの。

 

いろんなことをやって、成功も失敗もして、
まだ足りない、まだ足りない、と、常に歩を進めて来て・・
組み立てて壊して、組み立てて壊して、果てしなく続くその繰り返しが、
苦しく辛いものだけではないと知って・・・
そして今、やっと、ひとつの「答え」を見つけた・・・・、
「頭」だけでなく、「身体」で「心」で、役を粘土のようにこねて行く、
ただの塊(かたまり)から、形あるものに作り上げて行く、
それが「楽しいもの」だと知ってしまったら、
             もう俳優から足を洗うことは出来ない、きっと。

過去でも未来でもない、今、そういう役に巡り会い、
そのように演じた田辺さんに、
そういう役をそのように演じる田辺さんを観ることが出来た僥倖(ぎょうこう)
心から感謝したい、と、素直に思っている私がいます。

 

★このコメントは、あくまで、翔の主観・私見によるものです。