新・近松心中物語(talk)

観劇/2004・3・8(日生劇場) 2004・1・28放送(スカイパーフェクTV)
★このトークは、あくまで翔と夢の主観・私見によるものです。

 
  夢:『近松』の時の≪翔夢BBS≫の書き込み、ほんとに濃かったよねぇ。 いや、いつもそうなんだけど、今回は特に。
  翔:うん・・・
  夢:なんか、今読んでも、ビンビン伝わって来るものがある。 翔が書いたものだけじゃなくて、あの時書き込んでくれた人たちの「熱」みたいなものも、思い出してみると、本当に熱かった、という気がする。
  翔:いつも思うことだけど、つくづく管理人冥利(みょうり)に尽きるなぁ、と。 私が感じたことを書く、それに反応してくれる人がいる、しかも、真剣に向き合って書いてくれている、というのがね、すごく嬉しいし。
  夢:一見、ケンカ腰みたいに見えるんだけど、決してそういうわけじゃなくて。(笑)
  翔:そうそう。(笑) 相手をねじ伏せようというんでもなく、自分の気持ちを曲げて歩み寄ろうというんでもなく、いい意味で平行線を辿ったまま、結論が出るわけでもなくて・・・・。 正直、痛かったり辛(つら)かったり、ということもないわけではないんだけど、でも、だからと言って、黙ったままじゃなく、お互いに言葉にすることで、初めて見えて来るもの、というのも、確かにある、と思うので。
   たとえば、私と正反対の考え方の人がいても、そういう人が臆せず書いてくれた、ということが、私としては とても嬉しかったし。
  夢:幸せなヤツだ。
  翔:本当に。
  夢:まぁ、ここまで深くいろんなことが突っ込まれてやり取りされてたら、あと、あたしたちで話すことは、もうないような気がするけど・・・(笑)
  翔:・・・そうねぇ・・・
  夢:終わる?(笑)
  翔:(笑)・・いや、TV版という切り口で、トークしたい気持ちがあるので。  このあいだ観直して、やっぱり、心にズンズン来るものがあったし。 主人公の周りの人たちについても話したいし。
  夢:うんうん。 じゃ、そのあたりを話そうか。
★    ★    ★
  翔:TVを観ていて、まず強く感じたのは、あの時代と今の価値観の違い、みたいなものだったんだけど。
  夢:価値観?
  翔:そう。 今回観て印象的だったのは、忠兵衛(阿部寛)が封印切りをする「越後屋」の場面。
  あのシーンに登場するお清(神保共子)や女郎達の、梅川(寺島しのぶ)への肩入れの仕方、というのは、実は、非常に危ういものを孕(はら)んでるわけだよね。
  冷静に考えたら、忠兵衛が五十両という大金を作って梅川を身請けする、というのは、亀屋の養子という彼の立場では、到底出来ないはずなんだけど、それをやってしまう、しかも、最終的に封印切りまでしてしまう、というのは、忠兵衛の破滅、でしかないわけで。
  夢:うん。
  翔:それを、何故、端で見ていた彼女たちが止めなかったのか。 あそこまで行ってしまったら、あのふたりの行く先に、明るい希望はないに等しい、それを承知で、彼女たちは、何故ふたりに手を貸したのか。
  夢:・・・・・・・・
  翔:それは、彼女たちの梅川や忠兵衛に託す想い、みたいなものが、すごく強かったからじゃないか、という気がする。
  槌屋(坂部文昭)やお清にしたら、「廓(くるわ)に生きる人間としての矜持(きょうじ)」もあっただろうし、がんじがらめにされて身動きの取れない女郎たちにしたら、梅川と忠兵衛の恋は「夢」であり「憧れ」でもあったんじゃないか、と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:ひょっとしたらまともなお金ではない、咎(とが)立てされるすじのものであるかもしれない、だから、ふたりの未来が、決して幸せなものではないだろうことも、彼女たちは薄々感じてる。 
  それでも、ふたりを祝って手を打ったのは、そこに、底辺に生きる人間たちの、「一縷(いちる)の希望」みたいなものが、凝縮されていたから、のような気もする。
  夢:・・・たとえそれが「悲劇」の幕開き、だったとしても?
  翔:「悲劇」と言うのは、何故だろう。 「ふたりの死」という意味でそう言うのなら、この時代の価値観には合っていないような気がする。 少なくとも、この時代、「心中」というのは、ひとつの「成就」の形、だったんじゃないだろうか。
  夢:・・・・・・・・
  翔:もちろん、「心中」を美化するつもりはないし、「死」は「死」でしかないんだけど、少なくとも、彼らにとっては、それが、彼らが出来得る数少ない「‘時代’というものへの必死の抵抗」の形、でもあったんじゃないか、と、そんなふうにも思うけれどね。
  夢:・・・・翔は、八右衛門(大石継太)の想いも複雑だったんじゃないか、と言ってたけど。
  翔:八右衛門もまた、彼なりに忠兵衛を心配していたと思う。 最初は、自分の気に入りの女郎を取られた腹いせもあっただろうけど、あまりに梅川にのめり込んで行く忠兵衛に、不安を感じるようにもなっただろうし。
  夢:うん。
  翔:ひょっとしたら、身請けの話を進めたのも、忠兵衛に目を覚ましてもらいたい、という想いもあったのかもしれないし。
  夢:うーん・・・
  翔:だからね、人それぞれの価値観というものが、今と違って、本当に人それぞれ違うのだ、複雑なのだ、ということなんだろう、と。
  夢:・・・・そうかぁ・・・・・
★    ★    ★
  夢:主人公たちについてはBBSでいろいろ話してるので、脇の人たちについて、もうちょっと話したいんだけど。
  翔:大石継太さん(八右衛門)や神保共子さん(お清)、あと新橋耐子さん(お今)とかね、今回TVで観て、やっぱりうまいなぁ、と。 舞台慣れしている、というか、足の裏がしっかり舞台にくっついてる、というか、ブレがない、というか・・・・ いや、彼ら彼女らだけじゃなく、出番の少ない人たちもみんな、なんだけど。
  夢:うんうん。
  翔:こういう人たちが、舞台の上できっちりと仕事をしてるから、主人公たちがあまり舞台の経験がなくても、芝居全体が揺らがないんだよね、きっと。
  なんだか、そのことを、実際に舞台をナマで観た時よりも、TVで観た時のほうが、強く感じられたから。なぜだか知らないけど。
  夢:うーん・・・・・
  翔:――TV中継、というのは、残酷だ、とも思うんだけど。
  夢:残酷?
  翔:今回、すごくアップが多かったよね。 
  夢:ああ・・・うん。
  翔:あそこまでアップを多用されると、表情の甘さ、というか、弱さ、というか、そういうものがどうしても浮き出てしまう。 また逆に、舞台では遠くて分からなかった細やかな表情が、きちんと観られたりもする。 そういう、TV画面で浮き彫りになってしまうもの、というのが、確かにあるんだなぁ、と。
  夢:うーん・・・
  翔:まだ、公演が始まって数日しか経っていなかった頃の撮影だった、ということもあるんだろうけれど、阿部さん(忠兵衛)の表情が、私には、いまいちしっくり来なくて。 逆に、寺島さん(梅川)は、どのシーンを観ても、ものすごく繊細な表情をしていて、涙の跡とかも見えてしまうから、生で観た時よりもかえって感情移入させられたところもあったし、TVだからこそ、あの表情が観られたんだな、とも思ったし。 
  その辺の寺島さんの表情の挿入の仕方、というのは、さすが、映像監修が廣木隆一監督だけのことはある、と。
  夢:うんうん。 ・・・・繋がる話かどうか分からないけど、あたしは、阿部さんや寺島さんの汗、というのが、どうも違和感あったんだけど。 何と言うか、あの汗を見たら、現実に引き戻される感じがしたのよね。ああ、阿部さん大変だなぁ、とか。
  翔:それは私も思った。アップにすることで、そういう、見なくてもいいものまで見えてしまう、というのはあるよね。
  夢:どうなんだろう、舞台をTVで中継する場合、あれだけアップを多用する意味があるんだろうか。
  翔:厳選すべきだろう、とは思う。 梅川のアップは、観て得をした、と思ったけど、たとえば吹雪の中の道行きに、流れる汗を見せられると、それはちょっと違うだろう、という違和感が・・・
  夢:そうだねぇ・・・・
  翔:そう言えば、田辺さんって、汗かかないよね。 なんだかとっても感心してしまったんだけど。
  夢:そう!あたしもそれ思った。
  翔:植物的な感じ、と言ったらいいか・・・存在自体もナマっぽくなくて。(笑)
  夢:うんうん。(笑)
  翔:それが、TV画面を通じてこちらに伝わって来る、ということがね、とても不思議な感じがした。
夢:うん。
翔:で、そんなこんな、いろいろ考えていて、「田辺さんなら、忠兵衛をどんなふうに演じただろう」と、ますます想像せずにはいられなくなって。(笑)
  夢:「田辺忠兵衛が観たい」というのは、翔は舞台を観た時から言ってるわけだけど、TV中継観て、なおさらそう思った?
  翔:はい。 忠兵衛の気持ちって、とことんまっすぐに梅川だけに向かっていて、他には何もない、ただ「好きだ」「惚れた」でひたすら梅川を愛し、掻(か)き抱くしかなくて。
  その、「好きだ」という想いだけで見境なく突き進む忠兵衛の一途さを、ぜひ、今の田辺さんで観てみたい!という望み、というか、願いみたいなものがあったから。
  夢:そうか・・・
  翔:TV、という場所でもね、あの箱の中に、これ以上ない程くっきりと映し出されてしまう忠兵衛の表情・仕草を、田辺さんなら、どういうふうに観せてくれるんだろう、と思ったら、もう・・・(笑)
  夢:なるほどねぇ・・・(笑) 正直、あたしは田辺さんの与兵衛が大好きだったから、今さら忠兵衛を田辺さんで、とは思わないけれども。
  翔:私、たぶん田辺さんを追い詰めたいんだ思う、与兵衛のような「笑い」への逃げがない、田辺さんにとって二進(にっち)も三進(さっち)も行かないようなところに。(笑)
  夢:手も足も出ない、とは思わない? 
  翔:思わない、ね、今は。
  夢:お、断言してる。(笑)
  翔:『荒神』の風左衛門を観たからね。
  夢:風左衛門かぁ!
  翔:あれを観る前は、正直、不安もあったけど、あれ観てから、きっと大丈夫だ、きっと忠兵衛をふられても演じ切ることが出来る、と、謂(いわ)れのない自信みたいなものが、田辺さん本人はどうであれ、私の中には、しっかり芽生えてるから。
  夢:田辺さん本人はどうであれ、ね。(笑)
  翔:(笑)
  夢:謂(いわ)れのないことが、不安じゃないの?
  翔:「賭け」だけどね。(笑) でも、そういう 賭け みたいな不確かなことを、私みたいなガチガチのカタブツ人間に自信を持って言わせる田辺さんが、最近、すごく好きになってるのも確かなので。(笑)
  夢:ますます?
  翔:ますます!どんどん!もりもり!
  夢:う~ん、いいよ、翔。≪翔夢≫もますます安泰だね。(笑)
★    ★    ★
  夢:フィナーレが入ってたのは、すごく嬉しかったよね。 田辺さんのあの表情が・・・
  翔:まだ現実に戻ってない、どこか与兵衛を引きずってる顔、ね。
  夢:何だか、ぎゅっと胸を締め付けられるような感じがしたんだけど。
  翔:他のみんなと違って、最後まで舞台の上で与兵衛を演じてたからかもしれないけれど、すんなりにこやかに笑えない、かと言って、弱々しいとか心もとないとか、そういう感じでもない、なんだか、どうしたらいいか分からない、みたいな、でも、確かなものは身体全体に染(し)みてる、みたいな・・・・
  夢:うんうん。
  翔:たぶん、私は、あの芝居が終わった後、ああいう顔をする田辺さんだから、彼のファンになったんだろうなぁ、と、そこまでしみじみ感じられるような、嬉しい幸せなフィナーレだった。
  夢:そうね、ああいう田辺さんだからね・・・
・・うん、だから、ますます好きになって行ってるのかもしれないね。