ナイトホスピタル(talk)

2002・10・14-12・16放送(日本テレビ
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
 

  夢:このドラマ観てて、まず第一に思ったのは、つくづく、いろんな病気があるもんだ、と。
  翔:特に前半の何本かのエピソードは、信じられないようなことが病気の原因になリ得るんだ、という、そこのところが大きなウエートを占めていたような気がする。
  夢:でも、なんで「‘ナイト’ホスピタル」なのか、よくわかんなかった。 別に普通の病院でも良かったんじゃないか、って。
  翔:確かに、「ナイト」である必然性、みたいのは、薄かった。 着眼点が面白いと思っただけに、その辺の描き込みの弱さに関しては、すごく残念だった。
  夢:うんうん。
  翔:「夜」である、というところで、何か、病気や病院の特殊性みたいなものが出て来ていたら、もっと面白くなったんじゃないか、と思ったんだけど。
  夢:それと、患者さんが来る→原因を探る→原因が解かる、という繰り返しだけで、こっちは、「そういう病気もあるのね」ってだけの感想しか持てない、っていうか。 ‘病気が主人公’のドラマだとしたら、ちょっとつまんない気もしたんだけど。
  翔:それが、森沢(仲間由紀恵)とか東(田辺誠一)とかに、何かしらの影響を与える、みたいなところまで・・患者と接することで、彼らに、何かしらの成長・変化がある、ってところまで・・行って欲しかった?
  夢:うん。
  翔:確かに、私も、前半は、そういう感じがした。 でも、それはそれとして、地味だけど、一話ごと、けれんみなく、真剣に、病気と向き合っていた感じはした。 それに、特に後半には、きちんと一貫したテーマがあった、という気もしたし。
  夢:ん?
  翔:「自分で選ぶ」ということ。 病気をどうやって治療して行くのか、それを決定するのは、医者じゃなくて、患者本人なんだ、ということが、たとえば、乳がんや人工内耳、そしてラストの東の病気のところで、特に明確に語られていたんじゃないか、と。
  夢:ああ、そういえば・・・・
  翔:実際に病院に行ってみると、患者本人や家族の意思というのが、どれほど通りにくいものか、よく分かる。 まるで、ベルトコンベアに乗せられているみたいに、薬や手術が決められて行く。
  もっとも病気に詳しい医師と、もっとも病気に真剣に立ち向かわなければならない患者とが、どれほどのコミュニケーションを持って病気と闘えるか、限られた診察時間の中で、それを突き詰めて行くのは、本当に難しいことだと思う。
  夢:・・・・・・・・
  翔:ドラマの中で、夜だからゆっくり時間をとって診察してもらえる、みたいなことも言っていたけれど、たとえば、その辺、もうちょっと深く突っ込んでくれたら、ある意味「ナイトホスピタル」の存在価値に繋がる話にもなったのかもしれない。
  夢:確かに、特に大病院って、毎日毎日、膨大な患者数をこなすわけだしね。 設備が整っていて、医師団も優秀で、なおかつひとりひとりの患者に対して、しっかりと時間をかけて診察してくれるこの病院みたいなところがあったら、と思ったものね。
  翔:森沢みたいに、丁寧に真剣に一人一人の患者に接してくれる医師がいたら、患者は、どれほど安心して自分を委(ゆだ)ねることが出来るだろう、と。
  夢:うんうん。
★    ★    ★
  夢:ドラマの中に、いろんなエピソードが出て来るけど、翔は、何が一番心に残ってる?
  翔:大久保蛍子医師(高島礼子)の子供・礼(須賀健太)かな。 自分の子供に人工内耳を埋め込むことに消極的な蛍子が言う、「耳が聞こえないのは、あの子の個性」、「耳が聞こえないから不幸だなんて、誰が決められるの?」という言葉には、すごくいろんなものが含まれている、と思った。
  夢:東と森沢が、礼と一緒に水族館に行った時に、解説してくれる人の話が聞こえなくて、ただ、じーーっと水槽を見つめてる礼の姿が、すごく印象的だったんだけど。
  翔:そうだね。 あのシーンは、私も、とっても好きだった。 ひょっとしたら、耳が聞こえている他の子供たちよりも、ずっと深く、魚たちと会話出来てたんじゃないのかな、って。
  夢:うん。
  翔:「耳が聞こえない=不幸」という図式は、健康な人間が勝手に作ったものなんじゃないか。 どんな障害も、自分と違うことで排除しようとする、そういう危険性はないのか、というあたりまで、言おうとしていたような気がする。
  夢:・・・そうか・・・
  翔:この社会が、そこまで成熟するのは、なかなか難しい、とも思うけれど、でも、蛍子の口を借りて、ひとつの問題提示をしてた気がするし、それが、一方からではなくて、ちゃんと双方から(受け入れる考え方と受け入れない考え方)描こうとしてたところが、私は良かったと思う。
  夢:うんうん。
★    ★    ★
  夢:・・・というところで、さて、田辺さんですが。 
  翔:・・・・はい。
  夢:あたし、医師としての東って、すごく好きだったんだけど・・・・
  翔:私も、ちょっと斜(はす)に構えていて、何かと言えば森沢につっかかって、でも、患者である子供たちには、「苦手」と言ってるわりに優しくて・・・みたいな、一色(ひといろ)では表現出来ない役で、すごく好きだった。
  夢:うん。
  翔:ドラマの中での「東浩太郎」という役そのものの立ち位置も好きだったけれど、それを演じてる田辺さんの演じ方というのも、好きで。 無駄な力が入っていないというか、東浩太郎として、ブレがない、というか。
  夢:翔、ただ立ってるシーンが良かった、って言ってたよね。
  翔:俳優が作り出す「気配」って、私はすごく大切なんじゃないか、と思っていて。 たとえば、ただ黙って立っている、というシーンだったら、俳優が、その役に注(そそ)げるものって、「気配」しかない、と思うので。
  夢:うんうん。
  翔:公園で、東が、森沢と一緒に、ただ黙って大久保医師の話を聞いている、というシーンがあるんだけど、その時の田辺さんの気配って、東そのものに思えて、私はとても好きだったんだよね。 「役になりきって立っていた」と言えばいいか、大久保の背景として、嘘がない、というか。
  夢:「背景として、嘘がない」?
  翔:・・・どう言ったらいいだろう、後ろにただ立っているだけにしても、そこにいるのは田辺さんじゃなく、東でなければいけないわけで、大久保の話を聞いている東が、表情や動きでその話に反応するのは、自然のことなんじゃないか、と。
  夢:うん。
  翔:表現として出てきたものは、ほんのかすかな動きだったりするんだけど、それが、東という人間を的確に表現していた、という気がしたので。
  夢:なるほどね。 でもね、前半の東は好きだったのに、ラスト近くになって、病気が森沢たちの知るところとなってからの東には、あまりいい印象がないんだけど。
  翔:まぁ、病気そのものが重いものだった、ということもあるし、それを表現する田辺さんが、あまりに生々しくて、ちょっとショックだった、というのはあるよね。
  夢:うーん・・ソファで森沢に手を差し伸ばす、そのシーンの田辺さんの表情とか、手の硬直状態とか、失禁までしてた、ってのが・・・
  もちろん、そういう役で、そういう病気で、となったら、そう演じるのはあたりまえなんだろうけど、少なくとも 、「かっこいい」 と言われる部類の俳優さんがやっちゃっていいの? なんで田辺さんがそこまでやらなきゃいけないの? っていう・・・
  翔:夢の言いたいこと、よく分かる。
  夢:あそこまでやらなくたって、ドラマとして見せるなら、もうちょっと違った表現が出来たんじゃないか、と。
  翔:そのあたりについては、私も、ちょっと引っ掛るものがあった。 田辺さん、役を創って行く上で、余計なものを背負わされてやしないか、って。
  夢:・・・・ん・・・・?
  翔:単純に、演じる人物の立場とか性格とかを掘り下げるだけじゃなく、難病をどう表現すればいいか、とか、そういうところにまで神経を使わなきゃならない、その苦労が、ビシバシ伝わって来るようで、観てるこちら側も、余計な力が入ってしまって、すんなり感情移入出来なくなってしまうというか、痛々しくて、観ていられないというか。 ・・・・これは、ひょっとすると、私が田辺さんのファンで、他の俳優さんとは違う距離感で観ていたせいかもしれないけど。
  夢:うんうん。
  翔:もちろん、それを演じることの意味(=病気の真実の姿を伝える)というのは、十分理解しているつもりだけど、それを「ドキュメンタリー」としてではなく「ドラマ」として観せられる側のしんどさ・辛さ、というものも、また、間違いなくあるのだ、というあたり、難しいものだなぁ、と。
  夢:そういう難しいものを、なんで、田辺さんがやらなきゃならないのか、ということだよね。
  翔:・・・・・・・・
  夢:これは、あたしだけの考えかもしれないけど、たとえば『R-17』の乃木とか、『プリティガール』の高嶺とか、このドラマの東とか、これからトークに登場する『きみはペット』の蓮實にしても、なんで、制作側は、田辺さんに、しっかり描き切れていなかったり、すごく演じるのが難しいような役を要求するんだろう。 
  もっともっと単純に、直球でぶつかって行ける、まっすぐ役作りが出来る、そういう役をやらせてくれればいいのに。
  翔:もっと、観ていてすっきりと明快な受け取り方が出来るような・・・?
  夢:うん。 暗い役でも明るい役でもいい、性格的に曲がってても複雑でもいい、でも、こっちが余計なこと考えなくていいような、素直に気持ちを寄せられるような・・・・
  翔:そうだね。複雑なテーマを抱えていると特に、登場人物そのものが単純ではいられない、ということはあるかもしれないけれど、それにしても、やはりドラマである以上、「面白い」と単純に思える、というのは、とても大事なことだと思う。 まして、私たちのような「ファン」という立場の人種には特に。(笑)
  夢:うん。
  翔:・・・・ただ、その部分とはまったく別に、ちょっと「感無量」になっている私、というのも、間違いなく存在していて。
  夢:・・・・え?
  翔:今まで、「人に頼れなくて傷ついて」、という役が多かった田辺誠一という俳優さんに、「誰かに全面的に心を許し、誰かにすがり、そうすることで立ち直って行く」、という、今まで見たことのない役柄が与えられた、というところで。
  夢:あ!・・確かに・・・
  翔:その「心を開いてすべてを預ける感じ」が、田辺さんの新しい一面を見せてもらっているような気持ちにもさせられた・・・と言うのは、ちょっと筋違いの感想のようにも思うんだけれども。(笑)
  夢:うーん・・・そうか・・なるほどねぇ・・・