張込み(talk)

2002・3・2放送(TV朝日)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

  夢:いつ出るか、いつ出るか、と、緊張して待ち続けた2時間半! で、結局、田辺さんが出たのはラスト近くの数分だけ! ・・・・ということで、消化不良も甚(はなは)だしかったですが。
  翔:・・・・・・・
  夢:翔は、放映された時、このドラマの感想をかなり詳しくBBSに載せてたよね。 あれ読んで、翔が求めていた石井像と、ドラマの石井との間に、かなりギャップがあったのかな、という気がしたんだけど。
  翔:・・・その話の前に、今回観直した感想を話したいんだけど、いい? 
  夢:うん。
  翔:どう言ったらいいか・・・すごく丁寧で、きちんとしたドラマを見せてもらったな、という気がした。 脚本も、演出も、出演者も、出過ぎず、引っ込み過ぎず、ものすごくフラットで、しかも、レベルはかなり高い、という、TVドラマも捨てたもんじゃないな、と、前回、『プリティガール』という突っ込み甲斐のあるドラマを観ていただけに、余計にそう思いました。
  夢:そうとも言えるかもしれないけど、あたしとしては、特に前半が、ダラダラと長い感じがしたけど。 展開が、ものすごく単調、と言うか。
  翔:私は、むしろ、その部分がいい、と思ったんだけど。
  夢:・・・と言うと?
  翔:「張込み」って、結局、そういうものじゃない? 毎日、毎日、ただ、淡々と、相手をひそかに追い続けるだけ、という。
  夢:・・・・・・・・
  翔:さだ子(鶴田真由)の日常も、それを俯瞰(ふかん)的に見ている刑事たち(ビートたけし緒形直人)の様子も、本当に地味に地味に、でも、ものすごく丁寧に描かれている。
  でも、その部分を、しつこいぐらい丁寧に描いたから、石井(田辺誠一)とさだ子の逢瀬を、もうしばらくふたりに味わわせたい、という柚木(ビートたけし)の温情に、不自然さがなかったんだ、とも思う。
  夢:・・・・・・・・
  翔:1週間、知らず知らずのうちに、さだ子の感情に添って生活していた。 彼女が、すべてを捨てて石井に逢いに行きたいと思う気持ちも、今では、十分に理解している。 それでも、柚木(ビートたけし)は、さだ子を、あの息のつまるような日常に帰したい、と思った。 あの日常こそに、さだ子の居場所がある、と、信じたかった。
  夢:・・・ひょっとして、自分の家庭のことを考えてた?
  翔:たぶん。 自分の感情のまま、家族を捨てて突っ走って、それで、幸せだ、と思える人間じゃないから、さだ子も、自分の妻も、ね。
  夢:・・・・・・・・
  翔:いっときの夢なのだ、と、だから、せめて少しでも長く味わわせたい、と、そんなふうに考えていたのかな、と。
  夢:・・・う~・・ん、なるほど。
  翔:・・・・あと、ビートたけしさんなんだけど・・・
  夢:ん?
  翔:「役」を演じている自分を遠くから見ている「もうひとりの自分」がいる、という感じがして、演じている自分を、ひそかに恥ずかしがっているんじゃないか、とか、役との間に距離があるんじゃないか、とか、そういうのを感じてしまって、どうも「俳優・ビートたけし」が好きになれなかったんだけど。
  夢:ふぅ~ん・・・
  翔:でも、今回は、そういう「役との距離感」みたいなものがあまり感じられなくて、自然で無理がなくて、今までのような違和感(もちろん私個人の)を持つことがなかった。
  夢:ひょっとしたら、その感じ、『ハッシュ!』以前、田辺さんの演技に対して感じてたものに似てる?
  翔:・・・たけしさんの場合は、俳優とは別に、脚本・監督としての「もうひとりのビートたけし」がいる、という感じだけど、田辺さんの場合は、俳優をやっている人格の中に、監督という部分を内包している、という気がする。
  夢:意味が違うの?
  翔:たけしさんは、ビートたけし北野武というふたつの名前を持っている。 だから、きちんとラインが引ける。 でも、田辺さんは、どこまで行っても田辺誠一だから、ね。 まあ、だからいいんだ、とも言えるんだけど。
  夢:・・・・・うーん、よくわかんない。(笑)
  翔:うーん、私もうまく説明出来ない。(苦笑)
★    ★    ★
  夢:さて、さっきの、「石井像」のギャップ、という話に戻るけど。 翔としては、「こういう石井であって欲しかった」 という、具体的なディテール、みたいなものがあったわけでしょ?
  翔:原作(松本清張)は短編で、石井についての描写というのも、ほんの少ししかなくて、それにしては良く描かれている脚本だったし、演出もきめ細かかった、とも思ったんだけど、でも、BBSに書いたように、やっぱり私には、石井が、あんなに「綺麗(きれい)」(見てくれじゃなく、精神が)な男だとは、どうしても思えなくて。
  夢:そう?
  翔:私はたぶん、石井の中に、ものすごく激しいもの、熱いもの、を求めていたんだと思う。 死ぬ寸前の人間が、逢いたい逢いたい、と願い、その一途に焦がれた相手に本当に出逢った時に、ただ、話をするだけ、ただキスするだけ、で満足してしまうものかどうか、私には、すごく疑問で。
  夢:・・・・うん。
  翔:一途に思い詰めた時の、人間の恐さ、弱さ。 手を差し延べてくれた女(ひと)に、その想いをぶつけずにはいられない、もっと傍に、もっと近く、もっともっと!・・と思ったら、抱きたい!ひとつになりたい! と思うのが、自然なんじゃないか、と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:眼を合わせた瞬間に、理性も何も吹き飛んで、抱きしめてキスの雨降らせて、身体の隅々まで寄り添いたい、重なり合いたい、ひとつになりたい、って、そんなことを一途に熱にうかされたように考えるような石井じゃなかったんだろうか。
  夢:・・・う~ん・・・
  翔:少なくとも、私が脚本家なら、間違いなく石井をそういう男に描くし、私が監督なら、そういう熱さ・激しさを、俳優に求めてたのに、と。
  夢:・・・そういう・・・
  翔:ん?
  夢:・・・・いや・・・そういう熱さ、って、今までの田辺さんの役にはなかったような。 『BLUES HARP』の健二ぐらい?
  翔:そうだね。 でも、健二は、まだ、表に出していなかったものが多かった気がする。
  夢:健二でも?
  翔:健二がもし、忠治に自分の気持ちをぶつけて、忠治を戸惑わせて、翻弄(ほんろう)して、組長を殺したあと、撃たれながらも、忠治の肩抱いてゲラゲラ笑っているような、死の間際まで、眼をぎらつかせて獲物を狙ってるような・・・・そんな「毒」を抱えた男だったら・・・・
  夢:・・・!!・・・・・
  翔:私が石井に望んだのは、傷つけると分かっていて、どうしても相手を巻き込まずにはいられない、という、「沸点近い熱情で周囲の人間を振り回し、自分自身でさえコントロールが効かなくなってしまう男」 だったのかもしれない。
  夢:う~ん・・・・そんなふうに観ていたとしたら、翔としては、健二にしても石井にしても、すごく物足りない感じがしたんじゃない?
  翔:いや・・今話したのは、あくまで、出来上がった作品とはまったく別の、「もうひとつの物語」だから。(笑)
  夢:・・・・?
  翔:『張込み』にしても『BLUES HARP』にしても、出来上がった作品に対して、ちゃんと十分満足している自分もいるわけで。
  石井に対しても、激しさを求めている自分とは対極のところで、「ただ言葉をかわすだけ、手をふれあい、唇を重ねただけで十分だった。それだけで‘幸せ’と感じられる、それほどに、ふたりの望みはささやかなものだった」と思っている自分もいて。 健二にしても、ラストの、意味を持たせない眼が好きだったりするんだけど。
  夢:うん。
  翔:だから、これは、本当に、私の「わがまま」以外の何物でもないんだと、ちゃんと納得しているわけで・・・
  夢:でも、いつか、そういう 翔のわがまま を、田辺さんに叶えてもらいたい?
  翔:いつか、ね。 それでも、そんなに遠くないうちに実現するんじゃないか、と、根拠のまるでない自信を持っている自分がいるのも、確かなんだけど。(笑)

以下は、BBSに載せた『張込み』の感想です。
面白かったには違いない 『張込み』 投稿日:2002年3月 6日(水)showm 
『張込み』は、とっても面白かったです。
特に演出(石橋冠さん)は、
地味でしたけど、最近、あんなふうに丹念に人を撮ってくれる演出家が少ないので、
私はとても感動しました。

2時間半のうち、まるまる2時間、カメラは、
ひたすら張込みを続ける刑事(ビートたけし緒形直人)と女(鶴田真由)を追う。
だけど、決して長いとは感じなかったし、
そこで除々に明らかになっていく3人の背景に、素直に感情移入出来たんです。

だから、7日目、さだ子が家を出、一気にクライマックスに向かい始めた時、
彼女が行きつく先には、石井(田辺誠一)がいるんだ、と思っただけで、
ものすごくワクワクした。
自分の気持ちに重い蓋をして、あきらめの中で生きているような彼女に、
一瞬にして、あれだけのキラメキを与えることの出来る男性なんだ、と。

2人の逢瀬は、それはそれは美しかった。
どうして、田辺さんのラブシーンって、いつも、初々しくて清々しいんだろう、と、
改めて、息を呑む想いでした。
暑苦しい「張込み」とは、まったく対象的な、あの清らかなラブシーンは、
ひょっとしたら、演出の深い意図によって、確信犯的に作られたのかもしれない、
とさえ思えるほどに。

そしてまた、ストーリーとは別のところで、
あのシーンを観られただけで十分、と思ってる自分がいたことも事実なのです。
(特に、田辺さんの表情は、どれも永久保存ものだったと思う)

でも、それでも・・・・
石井という男が持つ、共犯者に「怖い」と思わせる何か。
病に侵され、人を殺し、その絶望の先に、さだ子という光を見出した彼が、
すでに人妻となっている彼女に逢う決心をするまでの心の揺れ。
いつ捕まるかもしれない中で、
さだ子に逢いたい逢いたいと、ひたすらそれだけを考えていただろう1週間・・・・

2人の刑事が、ひたすら貞子を、そして、その向こうにいるはずの石井を追って、
張り込んでいたのと同じ時間のあいだ、
石井の中で発酵していたものの行き付く先が、あんなに美しいラブシーンだとは、
どうしても思えない。

さらに追い討ちをかけたのは、柚木(ビートたけし)の死、でした。
あの澄んだ美しいシーンのあとに、石井が柚木を殺してしまうというのが、
どうしても納得出来なくて。
それが、2人のあの、やさしい逢瀬の代償なのだとしたら、
あまりにも、柚木の命は軽過ぎないか?と。

そして、もし、どうしても柚木が死ななければならないのなら、
2人の逢瀬は、もっともっと激しく、熱く、強く、
しっかりと2人を結びつけるものでなければならなかったんじゃないか、と。

改めてビデオを観直して、
さだ子にも、下岡にも、石井にも、柚木の妻にも、
誰にも、何の光明も見出せない「柚木の死」というラストは、
やっぱり私には、ざらついた感触として残りました。

わかってます、わかってます、
あいかわらず、私の独り善がりのワガママだってことは。

でも・・・・
身も心も、ズタズタに傷つき疲れ果て、周りに気を巡らすゆとりも余裕もなく、
ただただ、想いはまっすぐに彼(か)の人のもとへ・・・・・
そんな、不器用な男を、他の3人のようなリアリティを持って描いて欲しかった、
と思う。

きっと田辺さんは、役の上では、どこまで汚れてもかまわない、と思ってるだろうし。
(また、勝手な想像)

う~~ん・・・
石井よぉ~、言葉よりも何よりも、まず、かたい抱擁だろっ!と思ったのは、
私だけでせうか?