報知映画賞2002

ひとつの糧(かて) 報知映画賞主演男優賞受賞

田辺さん、報知映画賞・主演男優賞受賞、おめでとうございます。
いつかは・・・と、夢見ていたことでした。
しかし、こんなに早く、その日が来るとは思ってもいませんでした。

「俳優」という仕事の上に載せているもの、重ねているもの、が、他の人と違う・・・・・・
あなたを5年半追い続けて、いつも感じていたのは、そのことでした。

役に挑み、そして跳ね返され、また挑み、また跳ね返され、
まるで身を切るように自分自身を痛めつけながら、
それでも壊せない頑丈な壁に向かって行く。
ただ「演じる」のではない、
「演じる」ことで、自分の内にある何かを壊そうとしている・・と。

だからこそ、『ハッシュ!』との出逢い、橋口亮輔監督との出逢いは、
とてつもなく大きかった。
殻を壊して孵化した(壁を壊されて外に引っ張り出された)あなたは、
以前のあなたとは、別人のようだった。

あなたが望めば、「勝裕」を演じたあの時、
ハッシュ!』以前の「俳優・田辺」を、捨て去ってしまうことも出来たのに・・・・

・・・・・でも、あなたは、そうしなかった。

「勝裕」だけではない、
あなたにとっては、あなたが今まで演じてきた役すべてが大切なものだった、
無駄なものは、何一つなかった、
それらひとつひとつが積み重ねられ、練り込められ、
その上に、『ハッシュ!』という作品、『栗田勝裕』という役があったのだ、
だから、俳優として、たとえ遠回りになっても、
自分に求められるすべての願いを受け止めよう、と、
あなたが、あの時も、そして今も、そんなふうに考えてくれているように思えてなりません。

・・・・そんなあなただからこそ・・・・・・

「俳優として賞を取る」
それは、「田辺誠一」という俳優が、やっとスタートラインに立った証(あかし)。
綺羅星のごとき人々の末席に、ようやく腰を下ろすことを許された証(あかし)。

この受賞が、あなたにとって、進むべき道標になるのではなく、
無限に続くであろう「俳優人生」の、ひとつの糧になることを、
そして、あなたが、今後も、
この受賞にとらわれず、伸び伸びと「俳優」という仕事を楽しまれることを、
心からお祈りしております。

   *

今、声を大にして言おう。
ご来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました。
「俳優・田辺誠一」を真に堪能出来るのは、さあ、これからです!

★この文章は、あくまで、翔の主観・私見によるものです。