2001年のおとこ運(talk)

2001・1-3月放送(フジテレビ系)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
 

1月のおとこ運 (第1話~第4話) 
  夢:おひさしぶりでした。 約3ヶ月ぶりのトーク、ということで・・・・
  翔:はい。 
  夢:で、トーク再開のトップを切って、『おとこ運』。 『怪』も、『グリークス』もトークし終わってて、あとは翔が編集するだけになってたのに、何故?
  翔:いや、最初はアキレウス(@グリークス)について話したかったの、無性に。
  夢:うん。
  翔:でも、『おとこ運』の4話を観たら、「これ話さないうちは 前へ進めない!」と思ってしまって。(笑)
  夢:ふふふ・・・ごもっとも!(笑)
★    ★    ★
  夢:とりあえず、≪1月のおとこ運≫ということで、1話から4話までまとめて話したいと思うんだけど。
  翔:第一印象、まず、田辺さん、変わったなぁ、と。
  夢:そうそう!
  翔:もちろん、髪を切ったりして見た目が変わったこと、気ままなフリーターという役柄的なこともあるんだけど、そういう部分を差し引いても、一気に肩の力が抜けた、というか、楽に演じている、というか。 今までの田辺さんだと、役を練り上げて行く過程で、「作り物」めいた堅さが出てしまったりしていたんだけど、今回は、本当に何も難しいことを考えないで、頭使わずに感覚で演じている、というか。
  夢:もちろん、考えてないわけじゃないんだろうけど・・・(笑)
  翔:考える時間が ものすごく短くなっている、感じて 即行動(演技)している、と言ったらいいか。
  夢:表情が、すごく豊かになってる、って気がしたんだけど。
  翔:それと、特に今回ものすごく有効なのは、あの「手」だよね。 今までだと、手が生かし切れていない、演技していないことが多くて、ものすごく残念だったんだけど、今回は、流れで動いていて、不自然さがない。 ずーっと、手を注意深く観ているんだけど、迷うことがなくて、ものすごく表情がある・・・「手に表情がある」って、変な言い方だけど、でも、本当にそんな感じ。
  夢:とにかく動いてるよね。かならず何かしらやってる。何かしながらセリフ言ってることが多い。
  翔:田辺さんの場合、今まで、わりと、動きを止めてセリフを言うことが多かったような気がするんだけど、今回観ていて、田辺さん自身、動いてやろう、という意志があって動いている、という感じがする。
  夢:ん?
  翔:たとえば、1話のラスト前、あたる(菅野美穂)がカヲル(押尾学)やさくら(片瀬那奈)にお金の工面をしている時、ひょいっと画面に天羽の顔半分が映ってしまったり、4話であたるがベッドでパニクってる時、天羽の頭がふいに動いて、画面に入ってきたり。 自分が映っていなくても、その場で何かやっている、動いている、というのが、良く伝わって来る。
  いたずらに動く、と言うと、語弊(ごへい)があるかもしれないけれど、撮っている邪魔になるから動かないんじゃなくて、カメラの思惑抜きで、好き勝手に動いている、という感じがする。 カメラを意識しながら動くんじゃなくて、自分の動きをカメラに追いかけさせている、って言えばいいか。    
  夢:うーん、それって、今までの田辺さんにはなかったような・・・・
  翔:これは正しいかどうかわからないけど、田辺さんって、自分でも映像を作っている人だから、ひとつの役を貰った時、純粋に俳優として見ている部分と、監督として見ている部分が半々だったんじゃないかな、と思う。 貰った役を、まず、監督・田辺が分析し、監督として、俳優・田辺に、どう演じさせるか考えて、それを、俳優・田辺が体現する・・・
  夢:うわ! まどろっこしい!
  翔:だけど、そうしないと、田辺さんの内にある創作者としての自分を満足させることが出来なかったんじゃないか、という気がする。 まぁ、俳優にも監督にも興味があったら、そうなってしまうのも、分からなくはない。 だけど・・・・
  夢:今回は違う?
  翔:純粋に、俳優・田辺の感覚だけで演じている・・・・ 監督・田辺には、ちょっとの間眠っていてもらって、自分の中を俳優モードで満杯にして、天羽を演じている・・・ と、そんな気がする。
  夢:はぁ、なるほど。 で、「頭使わずに感覚で演じてる」って、さっきの翔の言葉に繋がるのね。
  翔:あくまで想像だけど。(笑)
★    ★    ★
  夢:「天羽良之」という役について、話したいんだけど。
  翔:これはねぇ、よくぞ田辺さんに与えて下さった! という役だよね。 と言うより、天羽もあたるも、まず田辺&菅野ありき、で、作られた役なんじゃないか、と思う。
  夢:つまり、キャスティングが決まってて、その人たちに何やらせようかと考えて、生まれて来たキャラ、ってこと?
  翔:そこまでではないかもしれないけれど、物語の大筋だけは出来ていて、キャストが決まった段階で、ディテールを詰めて行ったんじゃないか、と。
  夢:野依美幸さんって、『ガラスの仮面』の脚本を担当した人だよね。 そう思って観てるせいかもしれないけど、天羽の中に、速水さんが入ってる感じがする。(笑)
  翔:あ、夢もそう思った?(笑) 天羽とあたるの関係って、どこか、速水とマヤを彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。だけど、キャラクターとしては、まったく違う。
  速水真澄って、今にして思えば、ものすごくフラストレーションがたまる役だったと思う。 マンガのコアなファンもついているし、きっちりイメージが出来上がっていて崩しようのない役だったから、演じる側とすれば、型の出来ている中に、自分をアメーバのように侵入させて演じるしかなかった。 
  ・・・まぁ、それにしては、田辺色みたいなものがすごくいい感じに出ていたとは思うけれど。
夢:うんうん。
翔:今回の天羽良之は、逆に、田辺誠一という個性の中に、速水真澄的キャラを押し込んだらどうなるか、という、野依さんの魂胆があるんじゃないか、と。(笑)
  夢:だとすれば、天羽はやっぱり「見守る人」ということになる?
  翔:いや・・・なんとなく、深読みすればそちらの方向に行ってしまいそうなんだけど、4話を観ていて、今の田辺さんなら、泣くまで待とうホトトギスじゃなくて、泣かせてみせる、というような、ものすごく強引かつテクニシャン(?)な天羽も出来るんじゃないか、と、思えてきた。
  夢:強引かつテクニシャン、って、凄くない?(笑)
  翔:凄いでしょ?(笑) でも、待ち続けたり、護ってあげたりするばかりじゃない田辺さんというのも、今、無性に観たい!とも思う。 野依さん(脚本担当)に、もし、天羽=田辺版速水というイメージがあるとしたら、それをぶち壊して欲しい。
  夢:あの、天羽のキャラで?
  翔:そう。 優しくて、あったかいけど、その優しさもあたたかさも自分の哀しみや痛みから生まれ出たもので、だから臆病で、踏み込みたいのに踏み込んで行けない・・・というんじゃなくて、あたると出会ったことで、天羽のそういうところがどんどん壊されて行く、というような。
  ふざけ合って、じゃれ合って、あたるの想いを抱き取りながら、一方で、自分の正直な気持ちをぶつけて行って、あたるが誰に惚れていようが、絶対自分の方を向かせてみせる、という、そういう自己チュウで強引な天羽も、観てみたいと思う。
  夢:うんうん。
  翔:あの天羽のキャラだから出来ること、今まで観たことのない田辺さんが観られるチャンスだから注文も多くなってしまうんだけど、あまり、天羽に重荷を背負わせないで、背負っているとしたら、それを早く下ろさせてあげて、と、思う。
  4話の最初、ベッドであたると会話している天羽が、あんまり楽しそうだったから、「あたるを簡単に手放しちゃダメだよ、自分が幸せになるために、周りの誰かが傷ついても仕方ない、というぐらいわがままになって」なんてことを考えていました。(笑)
  夢:うーん、そうかぁ。 もし天羽がそうなれたら、演(や)ってる田辺さんとしても、また一歩、役の幅が広がる感じがするなぁ。
  翔:そうでしょう? あたるの幸せを願って、ふわっと消えていってしまう天羽も、それはそれで、いかにも田辺さんらしくて素敵ではあるんだけど、この際、徹底抗戦する天羽も観てみたい、と。
★    ★    ★
  夢:田辺さんの演技という点について、もうちょっと話そうか。
  翔:はい。 
  夢:2話のキスシーンも、うわっ、と思ったんだけど、4話のベッドでのシーンとか、あたるを抱きしめるシーンとか、何て言ったらいいかなぁ、相手との間に距離がない、って言ったらいいか、肌と肌とのぶつかり合い、っていうか・・・・あ、変な意味じゃなく。(笑)
  翔:肌と肌!(笑) ・・・でも、夢の言いたいこと、良く分かる。 
  今までの田辺さんは、どんなに間近にいても、愛し合っていても、どこか相手との距離があって、ガラス1枚挟んで演技しているみたいな、すごくもどかしい感じがあったんだけど・・・で、そのもどかしい感じが、たとえば『ガラスの仮面』等ではうまく嵌(は)まっていたんだけど・・・今回、まったくそういうところがなくて、肌と肌とがちゃんと触れ合っている、その体温みたいなものを、ほのぼのと感じるんだよね。 相手が菅野さんで、やりやすかった、ってこともあるんだろうけど。
  夢:田辺さんのこの変化って、もしかしたら、すごいことなのかもしれない、って思ったんだけど。
  翔:大袈裟(おおげさ)かもしれないけど、俳優として、とても大切なものを手に入れたのかもしれない。 まだ、この作品だけで結論づけするのは早いかもしれないけれど。
  夢:うんうん。
  翔:今なら、菅野さんとのベッドシーンも、観てみたい気がする。
  夢:え~っ!?
  翔:あ、過激発言でした?(笑)
  夢:4話の最初みたいなベッドでのシーンみたいなんじゃなく?
  翔:それも含めて、このドラマらしい温かみのある感じの。
  夢:カヲルと洋子さん(山本未来)みたいな?
  翔:うーん、もうちょっと激しくてもいいかな。(笑)  「寒いから、もうちょっとくっついてよ」とか「そのパンツあったかそうだな」とか「今度こそエッチするぞー」とか「やだよー」とか、ふたりで毛布かぶっていろんなこと言い合いながら、キスするシーンとか、観てみたい気がしない?
  夢:はは・・するする!(笑)
★    ★    ★
  夢:今回、すごく好きなシーンも多くて。
  翔:それぞれ、1話から順に好きなシーン上げてみようか。
  夢:1話はやっぱりコタツの取り合い?
  翔:あと、天羽の言い回しがすごく好きで、コタツ取りに来た時の、「おめぇいねぇし、ほんっとまいったよ」の言い方とか、好きでした。(笑)
  夢:2話は、やっぱりキスシーン。予告の時から、きゃ~、と思ってた。
  翔:私もだけど、セリフで好きだったのが「自分のこともままならないのに、人の世話ですか、たいした余裕ですね」という、ちょっと嫌味の入った言い方。 あと、伊倉さん(吹越満)とのやりとりは、ちょっとアドリブが入っているみたいで、楽しそうだった。
  夢:3話は、「泣きたい時は泣いていいんだよ・・・そういうこと言われたいんだろうな、おまえみたいなタイプ」って、思いっきり速水モード壊してくれたところ。(笑)
  翔:洋子さんがHATCHに来た時、「ここは飲み屋じゃないんだけどなぁ・・」って言いながら、洋子さんに飲み物を頼まれて、「はい」って作ってあげるところ。 あと、酔いつぶれたあたるに抱きつかれた時、手がグーになっていたのが、妙にツボでした。
  夢:はは・・・翔らしい。 で、4話ですけど、これは選べないよ、いいシーンばっかりで。
  翔:ふふ・・・そうだね。
  夢:最初のベッドでの会話もいいし、起きてきて、天羽さんがコーヒー入れてくれて、その時の会話もいいし、抱きしめてみてって言われて、抱いてあげたところも、銭湯でのシーンもよかった。
  翔:同感。 『月下の棋士』の6話みたいなものだよね、みどころ満載で。
  夢:うんうん。
  翔:特に好きなのは、ベッドでパニクッてるあたるの脇で、「あー、なんか久しぶりに良く寝れた」という、天羽さんのすがすがしいセリフ。 やはり、ひとり寝は淋しかったのかな、と。(笑)
  あと、銭湯から出て来て、「今からでもいいぞぉ」って、あたるを連れて行こうとして失敗して、「わおぉ!」って驚くところ、笑っちゃいました。
  夢:うん。(笑)
  翔:とにかく、天羽さんとあたるのやりとりは、観ていて、ほんとに楽しい。
  たぶん、誰も気にとめなかったシーンでは、抱きしめて、ってあたるに迫られて、いやだって逃げていた天羽さん、追いかけてたあたる、どっちかが階段のとこで何かを踏んじゃって、グチャって音がして、菅野さんが、ちょっと素が入りながらセリフを言ってる、それをじっと見て、助け舟出すみたいに腰かがめて「なにが?」って言った田辺さん・・・・好きでした。
  夢:ひえ~、ぜんぜん気がつかなかったよぉ!(笑)


2・3月のおとこ運 (第5話~11話) 2001・2-3月放送 * トーク/2002・7・3
  夢:今まで「おひさしぶり」という言葉は何度か使ってたけど・・・でも、今回は、本当に、正真正銘の「おひさしぶり」だよね。(笑) いったいどれだけ休んだんだろう。 
  翔:うーん・・・1年半ぐらい? 去年2月の『グリークス』トークが最後だったから。
  夢:『インタビュー』のトークは、去年の10月ぐらいからボチボチ始めてて、このあいだ、ようやく去年いっぱいの分が終わって・・・・でも、やっぱり『ドラマトーク』が始まって、やっと「本格的に再スタート」って気分になったような気がする。
  翔:そうだね。
  夢:で、『おとこ運』。 再出発にはもってこいのトーキングテーマ。(笑) あいかわらず律儀な翔は、全部 観直したって?
  翔:4話からだけど。
  夢:どう? 田辺さんの天羽良之を久しぶりに観た感想は?
  翔:いやぁ・・・面白かった。
  夢:・・・え? そんな、しみじみと。(笑)
  翔:・・・本当に面白かった。 安心して楽しめた、って言ったらいいかな。 本当は、早送りで、田辺さんが出ているところだけ拾って観ようと思ってたんだけど、観ているうちに 嵌(は)まってしまって、結局全部観てしまいました。(笑)
  夢:うんうん。(笑)
  翔:以前観た時は、いまいち天羽という男の気持ちの流れみたいなものが掴めなくて、「何なんだ、こいつは!?」とか思ったんだけど、今回は、どういうわけか、すんなりいろんなことが受け入れられた、という感じがした。
  夢:・・・・・・・・
  翔:天羽だけじゃなくて、以前はイライラしなら観ていた伊倉(吹越満)や洋子(山本未来)、ぎゃあぎゃあ騒ぐだけに見えたあたる(菅野美穂)やさくら(片瀬那奈)やカヲル(押尾学)にも、すんなり気持ちを重ねることが出来る自分がいて、自分でも、ちょっとびっくりした。
  夢:翔は、前に、脚本について、途中からついて行けなくなった、と言ってたけど、その部分については?
  翔:「子供が出来たかどうか」という話を、ものすごく軽く扱う、仔猫が生まれるかどうかぐらいのニュアンスで、簡単に話題にする、というあたりが、どうしてもネックになっていた。 そんなに軽く扱う問題じゃないだろう、と。 出て来る人たちが、みんな、子供を‘物’みたいに扱うような言い方をするのには、どうしても馴染めなかったし。
  夢:うん。
  翔:天羽にしても、良介が遥(森口瑤子)と自分との子だったら、義務感だけで遥のところに行く、みたいな考え方をしているみたいで、「それじゃ、良介は、ただの‘足枷(あしかせ)’じゃないか」って・・・みんな、自分の都合ばかりで、良介や、生まれてくる子供のこと、子供の気持ち、何にも考えてないじゃないか、って、それがすごく嫌だった。
  夢:うん。
  翔:『フードファイト』でも話したけれど、たとえドラマでも、それがコメディーだったとしても、やはり「生命」をぞんざいに扱ってはいけないと思う。 私の頭が古いのかも知れないけど・・今は、みんなこうなんだよ・・って言われるかもしれないけどね。
   あたるは、まぁ、「赤ちゃんが出来てなかったと知って泣き出す」というシーンがあったから、何とか許せたけど。
  夢:翔は、ストーリーとしても、「前に進んでない、堂々巡りだ」と言ってたよね。
  翔:それぞれ、同じところを行ったり来たりしている、という感じがしたので。 特に大人組3人(伊倉・洋子・天羽)が、のらりくらりと大切なものから逃げまわっているようで、正直、観ていてイライラさせられたこともあったし。
  夢:そうだね。
  翔:でも、今回、改めて観直して、「誰かを好きになったからと言って、一足飛びにジャンプ出来ないのは当たり前」だとか、「大人だから足踏みしない、ということはない」と思うようになって、そうしたら、いろんなセリフや行動が、以前に比べ、すんなり自分の気持ちに馴染むようになった。 まぁ、もちろん、さっきも話したように、引っ掛かるところはたくさんあったのだけど。
★    ★    ★
  夢:天羽さんについては? さっき、「以前は天羽の気持ちの流れが掴めなかった」と言ってたけど、今は、納得してるの?
  翔:最初に観た時、彼は何故、好きなあたるの前で、洋子の子供の父親ぶったり、さくらと関係を持ったふりしたり、という残酷なことが出来るんだろう、って、「わかんない奴」というだけでは済まされない「いいかげんさ」に すごく悩まされたんだけど、でも、今回改めて観て、ひょっとしたら、天羽は、あたるを本当に好きなわけじゃなかったのかな、と・・・
  夢:え?!
  翔:いや、最後までその気持ちが続いたわけじゃない、とは思うけど。 ただ、私が最初に観て感じたよりも、少なくとも天羽の場合、実際は、あたるを好きになるのが ずっと遅かったんじゃないか。 そもそも、あたるが天羽を好きになったのと同じステップで、天羽があたるを好きになったわけじゃないんじゃないか、と。
  夢:うう~・・・・どういうこと?
  翔:天羽は、きっと、自分の心を開いてしまうことに、ものすごく臆病になっていたんだと思う。
  夢:・・・・・・・・
  翔:遥とのこと、バスケのこと、父親のこと・・・・過去に痛めた心の傷にフタをして、逃げるように旅に出て、それでも、それらのシガラミを、完全には捨て切れず。
  幸せに暮らしていたはずの遥が、シングルマザーとして、再び天羽の前に現れる。 手伝って欲しいと言われて、やとわれ店長になって。 
  天羽は、「遥はいい友達」と言ったけど、彼女が離婚して、独(ひと)りになった時、改めて恋人としてつきあう、という選択肢もあったと思う。 それをしなかったのは、天羽に、一歩を踏み出す勇気がなかったからじゃないか。
  夢:・・・ん~・・・・
  翔:遥は、と言えば、天羽のそんな気持ちを知ってか知らずか、彼を、完全に「友人」としか見ていない。 子供を抱えて、背筋をピンと伸ばして、凛(りん)としてひとりで立っている。「あなたの中途半端な愛なんて、いらないよ」とばかりに。
  夢:・・・・・・・・
  翔:「無理しているんだろうな」と思う。 「手を差し延べてやりたい」とも思う。 でも、自分でも、今の遥を、子供ごと支えてあげる自信はない。 その人生を、全部引き受ける自信はない。 そして、「友人」という心地良い関係に、また戻って行く。
  夢:天羽は、まだ遥を愛してるかもしれない?
  翔:うーん・・・それはどうかな。 でも、遥が「友人」と「恋人」の境界線をきっちり引いてつきあっているのと比べると、天羽の方は、まだ、それほどきっぱりと割り切れていない、という気がする。
  夢:未練?
  翔:そうじゃなくて、天羽と遥は、あたるとカヲルのように、「自分たちはこういう関係が一番いい」と納得づくで友達やっているわけじゃなくて、バスケや父親のことがあったりして、結局、遥との「恋人関係」からも逃げてしまったんじゃないかと思うんだよね、天羽が。
  夢:ああ・・・そうか・・・・
  翔:もちろん、これは、私のまったくの想像だから、脚本の本当の流れとは離れてるかもしれないんだけど・・・・
  夢:うん。
  翔:天羽がカヲルに言う、「あたるのおとこ運が悪いのは、君のせいなんじゃないか」って。
  夢:あ、うんうん。
  翔:あれは、自分自身に向かって言ったんじゃないだろうか。 遥のおとこ運の悪さは、自分のせいだ、って、どこかで思っていたんだと思う。 カヲル(自分)がしっかりとあたる(遥)を支えてあげていれば、あたる(遥)がこんなに傷つくことはなかったんだ、と。
  夢:・・・そうかぁ、なるほど。 
★    ★    ★
  夢:でも、それはそれとして・・・・つまり、天羽が遥への気持ちを引きずってるとしても、それが、「好き」という感情でなければ、彼があたるを好きになっても、別に かまわないわけだよね。 さっき翔が言った「天羽は、あたるを本当に好きじゃなかった」というのは、あたしはもちろん、誰しも反論したいところだと思うんだけど。
  翔:まぁそれも、私の勝手な憶測に過ぎないわけだけれど。
  夢:でも、そう思った根拠というのはあるわけでしょ?
  翔:・・・結局、天羽は、あたるに、遥を重ねて見ていたんじゃないか、と思う。
  夢:え?
  翔:健ちゃんに振られて、心をズキズキ痛めていたあたるに、自分に逃げられた遥の姿を、重ねて見ていたんじゃないかな、無意識のうちに。
  夢:あ!
  翔:だから、放っておけなかった。手を差し延べずにいられなかったんじゃないだろうか。
  夢:う~ん・・・そうか。
  翔:そこには、ひょっとしたら、遥への贖罪(しょくざい)の意味も込められていたかもしれない。 あたるは、天羽が遥に与えようとして与えられないでいるものを、「代わりに受け取る役目」を、負ったのかもしれない。
  夢:え~!?
  翔:あたるが、健にどんな振られ方をしたか、それでも、健に、どれほど未練を残していたか、天羽は全部知っている。 その痛みが、まるで、自分が遥に与えた痛みのように思えて、だから、銭湯の前で、彼女連れの健に、「俺たちつきあってる」と言って、あたるを護(まも)ったんじゃないか。
  夢:うーん・・・・
  翔:抱きしめて、キスをして、「俺はずっと傍にいる」とささやいて、でもそれは、「あたるが今、望んでいるもの」を、与えたに過ぎない。 今現在のあたるが、傷つかないように、痛まないように、受け止めただけに過ぎない。 それは、「あたるが好きだから」というのとは、ちょっと違っているんじゃないか、と、私は思う。
  夢:・・・・・・・・
  翔:あたるばかりじゃない。 人が傷つくのを見たくなくて、傷が痛むのを和らげてあげたくて、洋子やさくらの思わせぶりな行動にも調子を合わせて、「いいかげんな奴」「何考えてるかわかんない」と言われても、ヘラヘラ笑って、決して自分の心の扉を開けようとしない。
  それは、遥から逃げたまま、父親から、バスケから逃げたまま、正面から対峙(たいじ)しないでいる自分自身へのジレンマが、そうさせているのかもしれない、と。
  夢:ちょっ・・ちょっと待って。 じゃ、天羽さんの心の中にいたのは、ずっと遥さんだった、ってこと?
  翔:大好きとか、愛してるとか、そういうことじゃないとは思うけど、気になる存在として天羽の心に棲んでたのは、ずっと、遥ひとりだったんだと思う。    
  夢:じゃあ、あの4話は何だったの? あんなにいいムードだったふたりなのに・・・・
  翔:あの時点で、ふたりはお互いを「恋の相手」として認めてはいない。抱き合っても「ぜ~んぜん、ときめかない」んだから。
  その後、健ちゃんと別れて、妊娠騒動があって、いつもいつも胸を貸して泣かせてくれた天羽に、あたるが少しずつ惹かれるようになっても、天羽は、遥の身代わりとしてのあたるを、「かわいい奴」ぐらいにしか思ってなかったんじゃないかな。 だって、天羽は、あたるとカヲルが恋人関係になると思っていた、それがふたりの幸せだと思っていたんだから、途中までは。
  夢:・・・でも、カヲルは洋子さん一途だったわけだよね。
  翔:あたるとカヲルの関係は、友情以上に発展しそうもない。 でも、だからと言って、「あたるのことはどうするの?」と訊かれても、天羽には、明確な答えが出せない。 うすうす、あたるが自分を好きかもしれない、と気づいても、こちらからアクションを起こす気にはなれない。 もちろん、あたるを、かわいい、いとおしい、とは思っているかもしれないけど、それは、ほとんど「保護者」の感情で。
  求めてくる者に対して惜しみなく与えることは出来ても、決してこちらから求めることはないんだよね、天羽は。
  夢:あ・・・ああ、ほんとにそうだね。 あたるの気持ちに感づいてるはずなのに、洋子やさくらが救いを求めると、誤解されるの承知で、共犯者になっちゃうしね。
  翔:天羽の優しさは、自分の気持ちを‘あらわ’にしてしまうことへの躊躇(ちゅうちょ)の裏返し。 その時々、「痛い気持ち」を抱えている人を受け入れてしまうのは、決定的な一歩を踏み出せない臆病さの裏返し。
  夢:う~ん・・・・・
  翔:・・・・・でも・・・
  夢:ん?
  翔:遥に頼まれて、徹夜で荷物を運んで、疲れ切ってHATCHに戻って来て、そこにあたるがいて・・・きっとあの時、天羽は、すごくホッとしたんだと思う。
  支えてあげるだけ、応(こた)えてあげるだけ、受け止めてあげるだけ・・・・おちゃらけて、じゃれ合って、あたるの本当の気持ちも、自分の本当の気持ちも、見ないように、感じないようにしていたのに、あの時、ポロッと、自分の本音がこぼれた。 「おまえといると、ホッとする」って。
  夢:あ・・・・・
  翔:疲れ切っていた無防備な心に、あたるのあったかさが染みて、思わず、自分からあたるを引き寄せて、抱きしめてしまった。
  夢:うん・・・・・
  翔:これは、私のまったくの想像だけど・・・・荷物を預かりに行った時、そこに、具合が悪くて弱気になった遥のおとうさんがいて、彼が天羽に何を期待しているかを痛切に感じ取った時、天羽は、それが、自分と自分の父親との関係にも重なるような気がしたんじゃないだろうか。
  夢:・・・・・・・・
  翔:でも、やはり今の自分は、その期待(希望)に応えることが出来ない、と、重い気持ちになって、そのことが、天羽には、徹夜仕事よりこたえた・・ と、そんなこともあったんじゃないか、と思ったりして。 朝帰りの天羽の、あの憔悴(しょうすい)・・・・ただ仕事で徹夜した、というだけじゃない感じがしたから、そんな想像をしてしまったんだけど。
  夢:う~ん・・・・
  翔:いずれにしても、心も身体もダウンしそうになったところを、あたるに支えてもらった、受け止めてもらった。 ひょっとして、あたるなら、あたるになら、自分の弱い部分も、ずるい部分も、見せてしまってかまわないんじゃないか、と、そんなことを考えたかもしれないね、あの時の天羽は。
  夢:だから、「おまえといると、ホッとする」 ?
  翔:そう。 この時、あたるは、天羽にとって、今までより一歩近づいた存在になったんじゃないかな。
  夢:その時、初めてあたるを好きになった?
  翔:・・・・・いや。
  夢:え?
  翔:・・・・・天羽が遥とふたりでいる時、あたるが来るよね。 
  夢:あ、天羽が遥の肩をもんであげてた時?
  翔:あの時、ふたりを見て飛び出して行ったあたるを、天羽は、追わなかった。 あたるに受け止めてもらえた、そのことで、やっと遥に対して、「いい友達」という線引きが出来そうな気がしている。 今は、きちっと仕事をして、遥への気持ちに区切りをつけたい。 あたるの誤解を解くのは、それからでも遅くない、と思ったんじゃないかな。
  夢:・・・・・・・・
  翔:その夜、仕事が終わって、あたるの部屋に行く。
  夢:「エッチしに来た」って?
  翔:あの時、天羽は、きちんと話せば分かってくれる、と信じていたんだと思う。 「遥は、いい友達。おまえとカヲルくんみたいな関係なんだよ」 と。
  でも、思いもかけず、あたるの拒否に会って、天羽は、開きかけた心の扉を、また、閉ざしてしまう。 心の奥に宿した、ちっちゃなちっちゃな温かい何か・・・遥の身代わりでない「柚木あたる」という女性への想い・・・が、はっきりと形になる前に。
  夢:・・・・ああ。
  翔:外に出て、あたるの部屋の灯かりを見つめて、その時、天羽は何を思ったんだろう。 すれ違うふたつの心が、やがて重なる時が来るのかどうか、やっと一歩を踏み出したばかりの天羽には、自信があったとは思えない。
  夢:・・・・う・・ん。
  翔:ところが・・・・・
  夢:・・・・?・・・・・
  翔:心が揺れ動くままHATCHに帰って来た彼は、携帯の呼び出しに応えて、遥のおとうさんから良介が自分の子供だと聞かされて・・・・その時、ふいに、閉じ込めていたあたるへの感情が、一気に迸(ほとばし)ったんじゃないか。 好きだ!好きだ!好きだ!俺は、こんなにあたるが好きだったんだ!と。 頭を抱え、唇を噛み締めて、こんなに切羽詰まらなければ、自分の気持ちに気づくことが出来なかった自分に、ものすごく腹を立てながら。
  夢:ああ!
  翔:この時初めて、天羽は、あたるの存在が、自分にとってどれだけ重要なものだったか、大切なものだったか、を、思い知らされたんじゃないか。 受け止め、支え、護って来たはずのあたるに、実は、天羽の方が、受け止められ、支えられて来たのだと。
  夢:うん。
  翔:でも、それは同時に、気づいたばかりの恋の終焉(しゅうえん)でもあった。 良介が天羽の子なら、彼は、遥に対しても、良介に対しても、責任を取らなければならない(と、天羽はそう思っている)。
  ついさっき、自分の心で爆発した感情を、また、扉の奥に閉じ込めるしかない。 さいわい、まだ、あたるは自分の存在を、それほど重要とは思っていない(と、天羽はそう勘違いしている)。 今、自分の気持ちを封印することが出来れば、踏ん切りをつけることが出来れば、誰も傷つくことはない・・・・
  夢:あ、だからクジラを飛ばしに行ったのか、ひとりで。
  翔:そう。 でも、あたるに見つかって、HACTHに戻って、思いもかけず彼女から告白されて・・・あの時、天羽は、今までとは違う気持ちで、彼女の前に立っていたんだと思う。 あたるの告白を聴きながら、どんどんどんどん彼女を好きになって行く自分に気がついて、受け止めるだけでない、自分の心から堰(せき)を切ったように溢れ出る想いにブレーキが効かなくなって・・・・キスした。
  夢:あのキスは、今までと全然意味が違うものだったわけだよね。
  翔:そう。 思わずキスしてしまったけれど、あたるの気持ちに応えることは出来ない。 遥への気持ちを、ずーっと中途半端にしてきたツケが回ってきた。 いろんなことから逃げまわってきたツケが回ってきた。 今度こそ、どこに逃げることも出来ないはずなのに、でも、まだ、天羽は、どこかに逃げ道を探している。
  夢:・・・・・ずるい?
  翔:・・・自分ひとりの問題なら、天羽はとっくに決断していたんじゃないかな。 逃げ道を探しているのは、あたるのため、なんだと思う。 自分が責任を負うことについては、覚悟を決めることが出来たとしても、そのことで、彼女をまちがいなく傷つけることになるから。
  夢:・・・・うん。
  翔:でもそれは、現実を直視することから逃げていることには違いなくて。
  夢:・・・・・・・・
  翔:あたるに、「ちゃんとぶつからないとダメだよ」と背中を押されて、天羽は決心するんだけど、この時、ふたりの立場は逆転している。 天羽は、あたるに支えられている。
  夢:うんうん。
  翔:本当に弱かったのは、どっちだったのか。
  夢:(笑) 
  翔:結局、遥が再婚する、ということが分かって、天羽とあたるは、また手を繋ぐことが出来た。ということで・・・・
  夢:めでたしめでたし。・・・・なんだけど、さて、本当に遥は再婚するのか、というところで、ちょっと疑問に思ったりしたんだけど。 ようするに、遥は、天羽の幸せを願って嘘をついたんじゃないか、と。
  翔:・・・まぁ、それは、皆さんのご想像におまかせします、ということで、いいんじゃないか、と思うけど。
  ただ、どっちにしても、遥は、天羽の手を必要とはしていなかった。 その点が、そのすごく明確だったので、良介が天羽の本当の子供だった、という、ふくらませればどんどんふくらみそうな危なっかしい事実があっても、天羽は、うしろめたい気持ちを引きずらなくて済んだのだと思う。
  夢:遥のキャラって、すごく大事だったよね。 
  翔:そうだね。 結局、天羽は、あたるだけじゃなく、遥からも護られていた、と言えるのかもしれない。
★    ★    ★
  夢:さて、「天羽はいつからあたるに惚れたのか」というテーマのもと、ずっと、翔の解説を聴いてきたわけですが。(笑)
  翔:(笑)
  夢:演じた田辺さんについては、どう?
  翔:それより、まず、「天羽良之」という役そのものが、ものすごく魅力的だった、ということを、声を大にして言いたいんですが。(笑)
  夢:うんうん!(笑)
  翔:スコーンと抜けるように明るいかと思えば、特にラスト近く、すごく苦悩する場面もあったり、と、いろんな見せ場があったから、演じている田辺さんも、楽しかっただろうし、やり甲斐があったんじゃないかと思う。
  夢:あたる役が菅野美穂さんだった、というのも、大きいと思うけど。
  翔:それが一番かもしれない。 彼女って、直感ヒラメキ型の女優さんだから、周りがへたに「演技」すると、ふっ飛ばされてしまう。 彼女の、あの「あたるそのもの」のようなナチュラルさに対抗するには、周りもナチュラルでないと。
  そういう意味では、押尾学くん、片瀬那奈さん、吹越満さん、山本未来さん、森口瑤子さん、泉谷しげるさんら、今回のキャスティングは見事だったと思う。
  夢:うん。
  翔:そんな中で、今までどうしても「演技しています」と肩に力の入っていた田辺さんが、彼らに混じって自然に息をしていた、無理なく天羽良之になっていた、そのことが、ものすごく嬉しかったです。
  夢:うん! まったく同感です。