BLUES HARP(talk)

1998・7・11公開
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

 夢:『BLUES HARP』だよぉ♪
  翔:やはり、「映画Movie」では、この作品が 一番トークしたかった?
  夢:『MIND GAME』も好きだったけどね。 翔は、絶対に「これ」だったよね。
  翔:そうだね。 この映画の存在を知ったのは、『ガラスの仮面・2』が終わってすぐ、雑誌の映画情報欄に、「田辺は、ホモのやくざ役を好演」と出てて、すごく興味を持った。 「速水真澄」を演(や)った田辺さんの、何処をどう押せば、ホモのやくざになるんだろう、って。
  もし、その記事を読まなかったら、これほど 田辺さんを追いかけるようになる事は、なかったんじゃないか、とさえ思う。
  夢:で、念願の『BLUES HARP』は、どうだった?
  翔:もう、最初から最後まで、「裏切りの連続」だった。
  夢:裏切りの連続?
  翔:そう。 ≪BLUES HARP≫というタイトルが出た直後、バッバッとフラッシュで健二(田辺)の顔が映るじゃない。その顔を観られただけで、十分、苦労してビデオ借りた価値があったな、って。
 その後、「走る」「血を流す」「けんかする」「ニヤリと不敵に笑う」etc、今まで観た事ない田辺さんのオンパレードで、始まって わずか10分で、すっかり「健二」に 嵌(は)まり込んでしまったから。(笑)
  田辺さんの中に、こんな部分もあったのか、あんな部分もあったのか・・・って、こういう「裏切られ方」って、ファンとしては、たまらないよね。
  夢:最初から、「あ!違う!」って、今までのイメージ、簡単に壊されたものね。(笑)
  翔:ヤクザの役なんだから、「速水真澄」と同じにはならない、というのは、当たり前なんだけど、それにしても、この映画の導入部というのは、新しい「田辺誠一」を印象付ける意味では、最高の出来だったんじゃないかと思う。
  夢:うわ~、もう、最高の賛辞!
  翔:もう半年も前になるのに、こうして話していると、初めてビデオ観た時の、全身 鳥肌が立つ感じが、よみがえって来るからね。
★    ★    ★
  夢:順を追って話そうか。ふたりとも、好きなシーンがたくさんあるし。
  翔:タイトル後のフラッシュはいいとして、その後、殴り合いやってる時、ゲームの絵と重なったり、BOOM!とかふきだし(?)がついたりして、すごくマンガチック、アニメチックな始まり方だな、と思ったんだけど。
  夢:そう言えば、出演者の名前も、落書きみたいだったよね。
  翔:健二を追いかけてきた相手が、健二を見つけて、ホントにうれしそうに「てめぇ!」って言ったり、言われた健二の方も、ボンネットの上で、いたずらっこみたいに、ニヤリと笑ってから逃げて行ったり、子供の喧嘩(けんか)みたいに見えなかった?
  夢:うんうん。でも、あの ボンネットの上でのニヤリ、には、クラッと来ちゃった。(笑)
  翔:私も。(笑) ・・・ところが、楽しい喧嘩が終わると、追う者と追われる者、という、厳しい現実が待っていた。
  夢:忠治(池内博之)が健二を見つけた時、健二が、まるで、捨てられた犬みたいな眼をしてるじゃない。
  翔:すごく無防備な・・ね。
  夢:それが、追っ手の声で、パッとピストルを構えると、眼光が鋭くなって、何度も修羅場をくぐり抜けてるヤクザの顔になる。
  翔:その変わり身が、いいよね。
  夢:で、やっぱり大人だよな、と思うと、ときこ(関野沙織)に 腕の傷 縫われるとこなんか、また、かわいい健二くんになる。(笑)
  翔:ときこが、犬猫相手の看護婦と知って、おでこに手をあてて、やれやれ、という感じで、首を振るところ、リーゼントが取れちゃって、カールされた髪が おでこにかかって、「ああ、いい顔してるなぁ」って、惚れ直してしまった。(笑)
  夢:あたしも。 あと、ときこに 傷を縫われる時、ぎゃあぎゃあ騒ぐのもいい。
  翔:ヤクザだろうが何だろうが、生身の人間なんだなぁ、ってね。 肩肘(かたひじ)張ってない、素(す)の新藤健二が見られた、って感じ? 栄治や ときこ といると、普通のおにいちゃんだものなぁ、まるっきり。(笑)
  ★    ★    ★
  夢:健二が、撃たれて血の海に浮かぶ夢を見るでしょ? 「死への恐怖」って、やっぱり強いのかな。
  翔:日頃から「死」に近い生き方をしているからね。 それと、健二って、無意識のうちに、自分を虐(いじ)める方向へ虐める方向へと、自分自身を向かわせてしまってるような気がする。
  夢:自分を、わざと追い詰めてる?
  翔:そう。 その最終的な到達点、と言うか、結末が、「撃たれて死ぬ」事だと、どこかで思い込んでるんじゃないか、って。 もちろん、そうなりたくない気持ちも強いには違いないんだろうけど、なぜか、健二を見てると、「生き急いでる」という感じがしてしょうがないんだよね。
  夢:次の日、金子(ボブ鈴木)が迎えに来るんだけど・・・・
  翔:「元の世界」へ、ね。
   ―― このあいだ、ビデオ観直した時、すごく気になったことがあったんだけど。 健二が立ちあがって上着を着ようとすると、すかさず金子が手を貸すじゃない? その時、ふたりの視線が合って、ちょっとの間(ま)があるんだけど、「何なんだよう、この視線は!」って。 まさか、「ありがとう」「どういたしまして」じゃないだろうし・・・・なんだか、ずーっと頭から離れなくて。
  夢:え~?あたし、全然印象にない。
  翔:何てことのない、ほんのちょっとのシーンだからね。私も、このあいだ、初めて気づいたくらいだから。
  夢:後で、もう一度観てみよう。
★    ★    ★
  夢:工場の脇の原っぱで、「命の恩人だから」って、健二が 忠治にお金を渡すよね。 封筒が、すごく分厚くて、いったいいくら入ってるんだろう、なんて、つい考えちゃったんだけど。(笑)
  翔:あれは、5万や10万じゃない。へたすると、100万ぐらいは入っていたかもしれない。
  夢:なんで、そんなに?
  翔:まあ、自分に手を差し伸べてくれた、ということが、嬉しかったんだと思うけど・・・私が思ったのは、健二は、かなりの「格好つけ」で、「見栄っ張り」だな、と。 ヤクザは こうでなくちゃならない、って、自分なりの理想の型があるんだろうね。    
  夢:ふ~ん、その辺は、あたしには分かんない世界だな。 それより、健二が、金子に呼ばれて戻ろうとして、立ち止まって、忠治に訊(たず)ねるじゃない、「おまえ、俺の事、好きか?」って。 
  翔:うんうん。で、忠治が「好きだよ」って答えるんだけど、「・・・そうじゃねえんだよ」って、健二が、ちょっとがっかりしたように、伏目がちにつぶやく。 あの、「そうじゃねえんだよ」の前の「・・・・」の中に、健二の、どれだけの想いが詰まっているのか、と思うと、なんだか、胸がぎゅっと痛くなってしまった。
  夢:それまで、特別、忠治のことが好きだ、なんて素振りなかったじゃない。死ぬ夢を見た後、ちょっと それっぽい感じがあるだけで。 健二は、いったい、忠治のどこが好きになったんだろう?
  翔:うーん、どこだろう。 忠治が、と言うより、彼がいる世界が、って言ったほうがいいかもしれない。 だって、健二が生きてる世界って、彼の性に合ってない感じがするもの。 あんたには、この世界は向かないんだから、はやいとこ足洗いなさい、って、言ってあげたくなってしまった。(笑)
  夢:そう? だって、「這い上がってやる!」みたいな気持ち強そうだし、喧嘩も、あんなに楽しそうにやってたじゃない? 
  翔:喧嘩は好きだよね。 だけど、あとのことは、辛そうに見える。 玲子(組長の女/金久美子)との関係なんて、その最たるものじゃない? あれだけ必死になって歯磨きしてる姿を見てしまうと、すごく滑稽(こっけい)なんだけど、すごく切なくて、何でそれまでして、って思う。
  夢:そうそう、あの歯磨きは、切なかったなぁ。SEXした後、あんなに、吐きそうになりながら歯磨きしてる姿見ちゃったら、女性としたら、かなりショックだよねぇ。
  翔:だって、言葉より何より、あの姿を見ただけで、自分が拒否されているということが一目瞭然だものね。
  そうして見ると、彼女との関係ばかりじゃなく、健二のやってる事って、喧嘩以外は、みんな好きでやってるんじゃないように思えてくるんだよね。 組長の後釜を狙ってる事だって、本気は本気なんだろうけど、本心から組長になりたいのか、と言うと、ちょっと「?」マークじゃないのかな、って。
  夢:えーっ?でもそれは・・・・組長になるために、危ない橋 渡って、言わば、命賭けてた訳だから。 本心じゃないってことは・・・・
  翔:いや、もちろん、命懸けじゃなければ、組長を殺(や)るなんて出来ないんだけど・・・・うーん、何て言ったらいいか、「行き掛かり」でそうなっちゃった、みたいな感じがする。
  夢:行き掛かり、で?
  翔:細心の注意を払って、綿密な計画を立てて、なんていうものじゃない。 ちょっと目端がきいて頭のいい男が、ギリギリの所まで 自分自身を追い込んでいったら、自然と道が拓(ひら)けてた、という感じで、「おいおい、ホントにいいのかよ」って、健二自身が疑ってしまうほど、トントン拍子に話が進んで行ってしまう。 だけど、「どうしても、俺は組長になりたいんだ!」という、ギラギラした熱意が、どうも、健二には欠けているような気がして、仕方がないんだよね。    
  夢:うーん、あたしは、ちょっと違うと思うな。 健二が、忠治に、「夢は、必ず実現させる」と言ったように、「末端のジャリのままで終わるもんか!」という気概を持ってたと思うし、彼なりの上昇志向はあったと思う。
  翔:確かに、「何か でっかい事をやってやる」という思いは 強かったかもしれないけど、なんだろうなぁ・・・すごく「形」とか「格好」とかに こだわってるところがあったんじゃないか、と。
  夢:たとえば?
  翔:忠治に、ポンと100万渡した事もそうだし、組長狙うなら、まず、組長の女房をたらし込む、そして、敵組の話の分かりそうな奴に、手を組むように持ちかける、遺言状なんて小道具も、もちろん利用する・・・・って、一事が万事、昔 夢中になって観たヤクザ映画のマニュアル通りに、自分を生かそうとしていた、って言ったらいいのかな。
  夢:・・・・そうかなぁ。
  翔:忠治の方が、本当にやりたい事、やりたい物を見つけて、生き生きとしてたよね。
  夢:うん、忠治は、そうだと思うけど。
  翔:夢を見つけた男(池内)と、夢を途中で捨てなきゃならなかった男(奥野敦士)と、間違った夢を追いかけてた男(田辺)、って感じがするのは、私だけかなぁ。
★    ★    ★ 
  翔:順調に行っていた健二の計画が、金子の、「忠治を、コジマ(山田辰夫)に売っちまったんです」という告白で、一変するんだけど・・・・
  夢:あっ、あの時、「兄貴・・・すみません」って金子に言われて、「おまえ、何した!?」って訊いた後の健二、凄(すさ)まじかったよね、金子を めちゃくちゃ殴って蹴って。
  翔:ちょろいと思ってた組長殺しに、暗雲が立ち込めた一瞬だもの。 しかも、金子の口から出た言葉が、「忠治を児島に売った」という最悪のものだったから、二重三重のショックだったよね。
  夢:二重三重?
  翔:まず、忠治に 人殺しをさせてしまうかもしれない、ということ。 2つ目は、忠治が殺されるかもしれない、ということ。 3つ目は、それらの計画を立てたのが、自分自身だった、ということ。
  夢:そうか、健二は、自分の手で、忠治の首を締めようとしてる事になるんだ。
  翔:ここから、健二は、俄然 本気(まじ)になる。それこそ、命を賭けて、忠治を救い出しに行く。
  夢:組長の座より何より、忠治の方が大事だった、って事だよね。
  翔:忠治が好き、忠治のいる世界が好き、っていうのは、健二の心の奥の一番やわらかい部分にある、大切な大切な感情だからね。 それを壊される、というのは、健二にとって、耐えられない事だったんだと思う。
  夢:車の中で、健二が、「わーーっ!」って叫ぶじゃない。 忠治が死ぬかもしれないって事が、本当に辛(つら)いんだな、って。
  翔:だから、忠治の顔を見た時、ほんとにホッとしたと思う。
  夢:ところが・・・・
  翔:玲子からすべての事情を聞いた組長が、健二の裏切りを知り、逆に、罠を張って待ち構えていた。 「女を甘く見るんじゃねぇ」という組長のセリフ、「ヤクザ社会を」「弟分を」「世の中を」って言い換えてもいいかもしれない。
  軽い軽い、楽勝だ、と思っていた健二に、甘さがあった。 現実には、現実の大人たちには、通用しなかった、という事だよね。
  夢:「笑えよ」って言われて、指をピクッと動かした後、突然、忠治を突き飛ばしざま、組長を撃つじゃない。
  翔:健二最大の見せ場。 リーゼントが乱れるって、ほんとに色っぽい。
  夢:カッコよかったぁ!
  翔:両手に銃持って、ひっくり返りながら、一気に撃つところね。 一瞬にして、2つの願いを叶えたからね、組長を殺(や)る事と、忠治を救い出す事。
  夢:その代わり、自分が重傷を負っちゃって。
  翔:でも、それが現実。 階段を駆け下りる時、撃った銃の薬莢(やっきょう)が ころがる音がするんだけど、これは マンガでもゲームでもない、当たったら死ぬかもしれない弾丸を撃ち合ってるんだ、って、すごく生々しく感じた。
  ヤクザ社会を、まるでゲームをするように生きてきた男が、最後に、その弾丸に当たって重傷を負い、その弾丸に当たって命を落とす、って、何かを暗示しているような気がしたんだけど。
  夢:・・・・健二、撃たれる前、また捨て犬みたいな眼をしてた。
  翔:フワフワ生きて来た健二には、自分が死ぬなんて、最後まで 実感なかったんじゃないのかな。 そして、最後まで 自分が本当は何を望んでいたのか、気づかないまま 逝(い)ってしまったんじゃないか、と思う。
  夢:健二に、最後に言ってあげるとしたら、何を?
  翔:今さら言ってもしょうがないけど、「あなたが望んでたのは、本当は、組長の座なんてものじゃなくて、忠治や ときこ と一緒に 犬のようにじゃれ合って、バカやって、楽しく暮らして行く事の方だったんじゃないの?」って。
  夢:あたしは、「今度こそ、忠治と楽しく暮らしてね」と言いたい。
★    ★    ★
  夢:一発で言えば、面白い映画だった?
  翔:うん。 なんか、肩に力が入りっぱなし、って言うんじゃなくて、時々フッと力が抜けるようなところがあって、面白かった。
  夢:全体にユーモアあったよね。
  翔:大爆笑、っていうんじゃなくて、ニヤリとさせられるシーンが多かったよね。
  同じ三池監督の『アンドロメディア』を、このあいだ、TVでちょっと見たけど、やっぱり 楽しいシーンがあったから、おそらく、監督特有の持ち味なんだと思う。
  夢:健二が、児島にチロルチョコ貰って食べるところとか? 
  翔:うん。ときこが、犬猫相手の看護婦だったところとか、あと、死体をコンクリート詰めにしている脇で、健二が ソーダアイス食べて、アタリハズレ見て、ハズレだったから、死体の上に流し込んだコンクリートに、その棒を差したところとか。
  夢:あのアイス、もしアタリだったら、もう一本貰いに行くのかなぁ。
  翔:行きそうだよね、あの車を金子に運転させて、駄菓子屋の前に横付けさせて、サングラスかけた健二が、アタリ棒しっかり持って、「・・・これ」とか言って、お店のおばちゃんに新しいの貰うの。(笑)
  夢:ははは、健二サイコーーッ!
  ★    ★    ★
  翔:好きなセリフも多くて、健二が言った、
    「半端な日陰モンに終わったんじゃ、何の為に生きてきたか分かんねぇからな」
    「100年生きてても思うもんだ、人生みじけえ、ってな」
    「いい子にしてりゃ、長生き出来んのかい」
  っていうのは、健二の生き方、考え方を、すごく的確に表わしていると思う。
  夢:「いい子にしてりゃ、長生き出来んのかい」っていうのは、言われた相手の児島にも、グサッと来るセリフだったよね。
  翔:健二から、詳しい計画を聞かされて、「・・・・おまえ、死ぬぞ」って忠告した後に言われたセリフだけど、自分も、肝臓やられて、先がない訳だから、どうせいい子にしてたって、長生き出来ないのは分かってる。一丁、この若造の話に乗ってみるか、っていうのが、児島の気持ちだよね。
  夢:児島も、いいキャラしてたよね。
  翔:私、だいすき。 健二の次に好き。
  夢:出た!翔の「渋好み」。(笑)
  翔:山田辰夫さん。 しっかり名前覚えました。(笑)
★    ★    ★
  夢:最初から一通り見てきたけど、翔、何か言い残した事は?
  翔:私、最初に、マンガチック・アニメチックだと言ったけど、初めだけじゃなくて、全編を通して、どこか滑稽(こっけい)で、物悲しくて、リアリティ濃くなくて、すごく今風(いまふう)だな、と。
  よく分からないけど、もしその辺が、本当に監督の狙いだったとすれば、田辺さんは、見事に嵌(は)まっていたな、と思う。
  夢:田辺さんに、ヤクザ役なんて 出来るのかなぁ、と、最初は半信半疑だったけどね。
  翔:普通の、骨太のヤクザ映画だったら、合わなかったかもしれないけど。
  ――私、プロデューサーは、どうしてこの役を、田辺さんに振り当てたんだろうって、ずっと考えていた。 例えば、健二を、永瀬正敏さんがやったら、浅野忠信さんがやったら、まったく違った映画になっていたかもしれない。 何故、田辺誠一だったのか、田辺誠一でなければならなかった理由は何なのか・・・それを解くカギは、忠治との関係・金子との関係に顕(あら)われていると思う。・・・もちろん、それは、私個人の見解で、原作者や監督の意向は違うのかもしれないけれどね。
  夢:健二と金子の関係って、ほんとにいろんな観方が出来るんだろうと思う。 「健二は金子と関係があった」とぶち上げて、BBSで波紋を呼んだ(笑)張本人の翔としては、その辺のこと、どう思ってる?
  翔:まぁ、それは、いろいろな人から指摘してもらって、私の勘違いだったことがはっきりしたわけだけど。(苦笑)
  関係があった、と言ったのは、現実問題として、そうでもなきゃ、自分を、それこそ「命懸け」で守ってくれる奴なんて どこにもいない、という事なんじゃないのかな、と思ったから。 「男気(おとこぎ)」だけで自分の命を捨てられる人間なんて、そうそういるもんじゃない。 健二と金子のバランスを考えると、何か見返りを求めてもおかしくないんじゃないか・・・と、そんなふうにも思ったので。
  夢:何かのメリットがあるから、その人の為に命懸けになってくれる、って事?
  翔:断定してるわけじゃなく、健二と金子の繋がり、って、そんなふうに考えることも出来るんじゃないのかなぁ、と。 ひとつの選択肢としてね。
  だけど、そういう繋がりだからこそ、健二は、金子が、自分の為に身体を張って守ってくれる、という確信がある。 金子の献身に、絶対的な自信を持っている。 ・・・・それは、作品上の事実ではないのかもしれないんだけど、そういう観方もあるんじゃないか、という気もするので。
  夢:・・・・うーん、そうかぁ・・・・
  翔:健二が、金子を連れて、敵組の若頭・児島(山田辰夫)に会いに行くじゃない。 健二が、向こうのチンピラに いきなり 銃を突きつけられて、同時に金子も、相手に 銃を突きつけたシーンがあったでしょ?
  夢:ああ、翔が すごく好きだ、って言ってたシーン?
  翔:そう。 あの時の健二、上目づかいに相手を見るんだけど、鋭いけれど普通の眼なんだよね。 あの状態で、あれだけ冷静でいられるのは、度胸が座ってる事もあるだろうけど、むしろ、金子に、絶対的な信頼を置いているからじゃないか・・・ いざとなったら、金子が、身を楯(たて)にしても 自分を守ってくれる、という安心感があるから、健二は、無鉄砲な事も平気で出来る。 その「安心感」に自分の命を委ねられるのは、身体の繋がりがあるからこそ、なんじゃないか・・・と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:ご不満、おありのようですね。(苦笑)
  夢:うーーん・・・・
  翔:実は、関係があったかなかったか、というのは、正直、どっちでもいい、って気持ちもあるんだけど・・・・
  夢:え?
  翔:話の流れで、そんなふうに思ったんだけど、健二の性格からしたら、自分が納得しなければ、絶対、自分に指一本触れさせない、というところもある、とも思うしね。 それもまた、ひとつの選択肢として。
  夢:うんうん、あたしはそっちの選択肢を選びたいな。 健二って、すごく潔癖症だと思うし。
  翔:潔癖症、というのは、当ってるよね。 ただ、もうひとつの考え方が、私の中にはあって・・・・
  夢:どんな?
  翔:健二って、自分の身体を、あんまり大切にしていると思えない。 だから、金子の自分に対する気持ちを利用するために、武器に出来るものは、自分の身体さえ武器にしても平気、と言ってしまったら、語弊があるかな・・・・ うーん、そんなギラギラした感じじゃなくて、むしろ、そういう事に関する道徳観念が、スコンと抜け落ちてる、と言ったらいいか。
  夢:・・・・・・・・
  翔:たとえば玲子との情事にしても、あれほど嫌な事を我慢してしまう、というのは、「それほどに上昇志向が強いんだ、組長になりたいんだ」 というだけじゃない、健二のそういう性質そのものが関係してる気がしてしょうがないんだよね。
  夢:うーん、そういう道徳観念がない、ってこと?
  翔:・・・・・と言うより、自分が「痛み」と感じること(実際の傷の痛みであれ、良心の呵責みたいな心の痛みであれ)を、精神力とか忍耐力でカバーするんじゃなく、スパッと切ってしまえる、って言ったらいいか。 
  夢:痛みを切る?
  翔:・・・うーーん、待って。 痛みを切る、と言うより、「心」を切る、って言ったほうがいいかな。 だから、玲子に対しても、金子に対しても、あれほど残酷になれる、彼等の自分への想いを、ただ自分の都合のいいように利用するだけ利用出来るんじゃないか。
  しかも、そこには、そのこと(心を切ること)によって傷ついている自分自身もいるんだけど、その痛みもまた、切り捨てられてる・・・・んじゃないか、と。
  夢:自分に対してさえも?
  翔:そう。 そこが「田辺誠一らしさ」かな、と。 自分の気持ちも痛んでいる、傷ついている、という、ある意味の弱さ・不器用さ、が・・・・ そんなものがなくても、「新藤健二」という役は成立するし、ない方が、やくざ映画らしいと言えるのかもしれないんだけど。
  夢:うーん・・・・
  翔:そんな健二が、初めて、忠治にだけはナマの感情を揺れさせる。
  忠治をかばって撃たれて、初めて、身体も心も、軋(きし)むように痛んで、車の中で吼えるように叫んだ健二は、「痛い」も「すまない」も「愛してる」も、今まで切ってきた(OFFにしてきた)感情すべてをONにして、爆発させているように見えた。
  夢:あ!
  翔:撃たれる直前の健二が、どうしてあんなに無防備な顔をしていたのか・・・・
  私、さっき「自分が死ぬなんて、最後まで 実感がなかったんじゃないのか」と言ったけど、結局、健二はあの時、生まれたての赤ん坊だったのかな、と、今、ふと思った。
  夢:さっき、翔が、「健二役が なぜ田辺誠一だったのか、田辺誠一でなければならなかった理由は何なのか・・・」と言ってたけど、その辺が、カギってことなのかな。
  翔:そうね、私はそう思ってるんだけど・・・・
★    ★    ★
  夢:「私の一番」・・・・難しいね。
  翔:どうしよう・・・・健二の サングラス掛けたところも好きで、銭湯に乗り込んで来るところなんかも、わ~っ!と、眼がハートになってしまったし、ときこに 傷 縫われるところも良かったし、敵のチンピラに銃を向けられても 動じなかったところも好きだし、組長に向かって 銃をぶっ放つところも、格好良かったし・・・・
  うーん、でも、最初の最初に、頭をハンマーで叩かれたっていうぐらいの衝撃を受けた(笑)、タイトル直後の、健二のフラッシュ、という事にします。
  夢:あたしは、やっぱり、「・・・・そうじゃねえんだよ」かなぁ。 クライマックスの、組長撃つところも 大好きだけど。
  翔:あと、派手なシーンじゃないんだけど、忠治が ブルースハープ演奏してるところを、健二が見に来て、ときこに「けんちゃん」とか呼ばれて、思わず吹いちゃうところ。 帰りがけに、ときこに「もう、帰るの?」と訊かれて、「似合わねえだろ」って、自分の背広ヒラヒラさせながら言う所なんかも、すごく穏やかな健二で、好きでした。
夢:うんうん。
翔:健二って、本当に、忠治やときこといると、やさしくなるよね。それが、健二の、本来あるべき姿だったんじゃないか、という気がします。   thanks to まみい 

on twitter  2011年07月10日(日)
ブルースハープ』(映画)を久しぶりに観て、田辺誠一の壮絶な美しさに改めて心奪われる。あごのラインがシャープで、胸板が薄く、いかにもドライで体温の低そうな健二を、一切の甘さを排除して演じていて、見応えがあった。これだけのものを彼から引き出した三池崇史監督、やはり並みの人ではない。