今さら『青天を衝け』感想(その2/第13回~21回)

2021年2月14日 - 12月26日NHKで放送された大河ドラマ『青天を衝け』(第13回~21回/一橋家臣編)の、今さらながらの感想です。

▶第13回~21回(一橋家臣編)
物語は、血洗島村から京へと移ります。
栄一(吉沢亮)と喜作(高良健吾)は、江戸で平岡円四郎(堤真一)の妻・やす(木村佳乃)から二人が平岡の家臣だという証文を受け取り、侍のこしらえをし、平岡を追って京へ向かいます。
その頃、政(まつりごと)の中心は江戸から京へ。孝明天皇尾上右近)は、慶喜(草彅剛)・松平春嶽要潤)・松平容保(小日向星一)などを朝議参与に任命、参与会議を開かせますが、その中心にいたのは武力に勝る薩摩・島津久光池田成志)でした。

京に着いてほどなく金を使い果たしてしまう栄一たち。攘夷の連中は幕府への不満をべらべら言ってるだけでちっとも動かねえ、それならば、と、「ここに眠る志士たちの目を覚まし、横浜焼き討ちの悔いを晴らす。今一度共に画策致したい」そのために長七郎(満島真之介)に京に来て欲しい、と惇忠(田辺誠一)に手紙を送り、長七郎は京へ向かいます。しかし、道中で狐の嫁入りの幻想を見、誤って飛脚を斬ってしまい、捕えられてしまうことに。
もうねぇ‥長七郎の全身から絞り出されるようなやるせなさが、観ていて本当に切なくて苦しくてつらい。

長七郎が捕まったことで、自分たちも追われるのではないかと心配し逃げようとするところを、栄一たちは平岡に呼ばれます。
平岡相手に臆することなく「一刻も早く幕府を転覆せねば、と悲憤慷慨している」と正直に胸の内を明かす栄一。本当にこの人は怖いもの知らずで、いつも誰にでも臆することなくまっすぐぶつかって行きますね。
しかし平岡から「おまえらが幕府を駄目だと思っていても、一橋が同じとは限らねぇ。一橋の家来になれ」と言われます。
栄一は、「今仕官すれば俺たちはただの逃げ回る百姓じゃねえ。幕府からの嫌疑は消え、長七郎を救い出す手立てがみつかるかもしんねえ」と、平岡に「一橋様に手前どもの愚説を建白いたしたい」と申し出ます。
すごいですよね、まだ何者でもない人間が、直接 慶喜に会って物申したい、と言ってるのですから。
―とんでもない、この頃の慶喜は大変だったんです。朝議参与に勝手なまねはさせまいと、家茂(磯村勇斗)と幕府老中たちが京にやって来る。将軍後見職であり、朝議参与でもあった慶喜は板挟みに―と家康(北大路欣也)の解説。
平岡はどうにか二人の顔だけでも拝謁してもらおうと、遠乗りの折に強引に会わせる算段をする‥そして、これが、初回の「渋沢栄一でございます!」に繋がるんですね。
ここからはその続きとなります。

慶喜の前に進み出た栄一は、「すでに徳川のお命は尽きております!」なんと思い切ったことを!そりゃあ、慶喜だって馬も止めちゃいます。そして「天下に大事があった時のためにこの渋沢をお取り立て下さい!」と言うのですから、肝が据わっているというか図々しいというか‥
数日後、拝謁を許される二人ですが、慶喜は、特に聞くべき目新しい意見もなかった、とけんもほろろ。しかし、ずけずけと遠慮なく物申すところなど平岡と似ていて、その出会いを思い出した慶喜は、平岡の進言もあり、二人を召し抱えることに。
平岡は二人に、今 慶喜が置かれている立場を語って聞かせ、「異国を追い払うのではなく、これからは日本も国を国としてきっちり談判するんだ。わが殿も、朝廷や公方様や老中や薩摩や越前やら毎日一切合切を相手にしながら一歩も後に引かねえ強情もんだ。この先は一橋のためにきっちり働けよ」と。
栄一と喜作は、この時初めて、今までただ想像していただけの「この国の政治を実際に動かしている現場」に足を踏み入れた、ということになります。

二人は一橋家で働くことになり、一緒にぼろ長屋で暮らすことに。
薩摩が中川宮に取り入り朝廷への影響力を強めようとしていることを知った慶喜は、中川宮に直談判に行き、島津・山内・松平を天下の三愚物と言い放ち、「天下の後見職である自分が大愚物と同様にみられては困る。私の言うことが心得違いと申すのなら、明日からは参内致しませぬ!」と宣言。これを機に参与は解散、政治が幕府の手に戻ります。
慶喜の内に秘めた熱いものがやっと外に出て来た感じ‥固い意志と並々ならぬ覚悟とが伝わった場面でした。
慶喜の大愚物発言騒ぎをきっかけに朝議参与は勢いを失い、慶喜への期待が高まり、第一の家臣・平岡円四郎の名も広く知れ渡るようになります。

栄一と喜作は、平岡から「篤太夫(とくだゆう)」「成一郎」と新しい名を授かります。恥ずかしがる栄一がかわいい。
太夫の初仕事は、摂海(大阪湾)を異国から守るため防備の要職につく薩摩藩士・折田要蔵(徳井優)の隠密調査でした。折田のもとには台場つくりを学ぼうと諸藩から大勢の武士が出入りしていて、篤太夫は、そこで西郷吉之助(博多華丸)と出会います。
折田がさほどの人物とは思えない、と平岡に告げ、優秀な家臣を増やしたいなら、知り合いの志士たちを召し抱えて欲しい、と頼む篤太夫。金がないと嘆く平岡ですが、高い禄や身分を望まずに一橋に仕えたいという者が必ずいる、という篤太夫に、平岡は慶喜への建言を約束します。

折田の元を去る篤太夫。国のあちこちから来ている者たちのため、仕事が円滑に進むよう薩摩方言をまとめて冊子にし、喜ばれます。
このエピソード好きでした。癖の強い方言を相互理解させるためのツールって、実はこの時期すごく必要なものだったんじゃないか、大きな政治とは別に、こうした実務の中からも世の中を変えて行く土台が少しずつ育まれて行ったんじゃないか、という気がして。
西郷は篤太夫と一緒に鍋を囲み、この先この世はどうなると思う?と尋ねます。「幕府には力がない、天子様には兵力がない、徳川の代わりに一橋さまが治めるべき」と即答する篤太夫に、西郷が「薩摩が治めてはだめか」と聞くと、「薩摩の今の殿様にその徳がおありならそれもよい。それがしは徳ある方に才ある者を用いてこの国をひとつにまとめてもらいてぇ」と。
太夫の明瞭な物言いは、朝廷だ公儀だ薩摩だと狭い空間でしか物の見えない連中に、もう一つ上から見ることを示唆しているようで、彼の視野の広さと考え方の柔軟さがうかがい知れたような気がしました。

太夫は、「無理に死ぬのを生業にするこたあねえ、侍は米も金も生むことが出来ねえ。この先の日の本やご公儀はもう武張った石頭じゃあ成り立たねえのかもしれねえ。だから渋沢、おめえはおめえのまま生き抜け。必ずだ」という平岡の言葉を胸に、成一郎と共に一橋家の兵を集めるため関東に旅立ちます。
その頃、水戸藩は攘夷を唱え決起した天狗党の対応をめぐって大きく揺れており、藩主・徳川慶篤(中島歩)は家臣に天狗党を捕らえることを命じなければならなくなります。
党の者が惇忠のところにも軍用金を集めに来ますが、「水戸のご主君はご承知の上か。兵を挙げるのに大事なのは大義名分。それがなければただの争乱となる」と断ります。このあたりは、長七郎や栄一(篤太夫たちによって天下の動きを天狗党より広く深く聞き知っていたゆえの言葉だったように思います。
しかし、岡部の役人から水戸の騒動とのかかわりを疑われ、惇忠と弟・平九郎(岡田健史)は捕らえられてしまいます。
一方、京都では土方歳三(町田啓太)ら新選組池田屋を襲撃。この襲撃を命じたのが一橋慶喜であるといううわさが流れ、水戸の攘夷派志士の怒りは、慶喜と側近・平岡円四郎に向かっていきます。
そして‥死亡フラグが何本も立ったうえでの平岡の最期・・
「死にたくねえぞ‥ 殿、あなたはまだ‥‥ やす‥」との言葉を残して・・ 
その死があまりにも唐突にやって来たので、こちらの感情が追い付かない・・泣

一橋家のために人を集め、江戸に向かう篤太夫と成一郎。惇忠からの文が届き、村の者たちが岡部の陣屋に押しかけ惇忠の放免を直訴し平九郎の手錠もはずされたと知ります。惇忠(の中の人)推しとしては、このエピソードは嬉しかった。惇忠、名主さまとして村人たちにそれだけ信頼されていたんだなぁ。

集めた兵と共に江戸に戻った篤太夫と成一郎は、平岡の死と、襲ったのが水戸の攘夷志士だったことを猪飼(遠山俊也)から知らされ、衝撃を受けます。
その頃、京では慶喜が、長州を撃てという孝明天皇の勅命を受け、御所に押し入る長州藩兵と戦っていました。禁門の変蛤御門の変)ですね。そこに、西郷吉之助率いる薩摩藩兵も加勢し長州は壊滅しますが、この時西郷は、慶喜が長州びいきの公家を押さえつけるなど役職に違わぬ働きをしたことを知り、しばらくは一橋側についた方がよい、と思うようになります。
一方将軍である家茂は、この戦に何も為してはいないこと、慶喜に比べ無力であることを嘆きます。

水戸では、藤田小四郎(藤原季節)が率いる天狗党が、武田耕雲斎津田寛治)に首領になることを頼み、慶喜に力になってもらおうと京を目指していました。しかし耕雲斎は「上洛はあきらめて国へ落ち延びよ、でなければこの手で天狗党を討伐せねばならぬ」との慶喜の密書を携えた成一郎と面会し、自分たちが慶喜を追い詰めてしまったことを悟り、公儀に下ることを決意します。
慶喜は、公平な処置をする、という言葉を信じ、幕府に天狗党の身柄を預けますが、ことごとく首を斬られることに。
戦が終わったのに、何故そんなむごいことになった、と驚く篤太夫に、「天狗党を生かしておけば、いずれ殿が彼らを取り込み幕府をつぶす火種になる、と考えて皆殺しにした。攘夷なんぞどうでもいい、この先は一橋を守るために生きる」と成一郎は腹を決めます。
このあたりで二人の行く道がはっきりと分かれてしまった気がします。武士として慶喜のために命を懸けることに生きる道を見出そうとした成一郎と、日の本に生きる人間すべてが幸せになる道を見つけるためにまず一橋家の土台を整えようとした篤太夫と。

天狗党事件以後、長州や薩摩は一気に外国に擦り寄った。もはや彼らの敵は外国ではなく、徳川になってしまった―と家康解説。
公儀もまた財政に苦慮しており、小栗忠順武田真治)が、軍事だけでなく、財政や経済が重要であると幕府に提言。
薩摩やご公儀に侮られぬほどの歩兵隊を作りたい、その役目を自分に与えてもらいたい、と、慶喜に願い出、軍制御用掛歩兵取立御用掛に任ぜられた篤太夫は、一橋領のある備中へと向かい、漢学者・阪谷朗廬(山崎一)のもとで塾生に交じって学び始めます。港を開くべきと考える阪谷は、「異国が通商を望むのは互いの利のため。それを盗賊に対するように無下に掃おうとするのは世界の流れと相反することになる」と。それを「おかしれえ」と感心する篤太夫‥(この言い方が平岡にかぶって泣ける)
役人ではありますが、通い詰めて塾生と親しくなったり、畑に行ったり海に行ったり、この地のなにもかも知りたい、という篤太夫の気持ちが通じ、やがて、一橋家に御奉公したい、一緒に連れて行って欲しい、という者が集まるようになります。

慶喜に褒美をたまわる篤太夫。兵が増えた分、兵を賄うお金も必要。ご公儀に借りてどうにかしよう、という猪飼に、「借りた金では懐が豊かになりません。武士とて金は入り用、いかに高尚な忠義を掲げようが、戦に出れば腹も減る。腹が減り食い物や金を奪えば、それはもう盗賊だ。両方なければだめなのです。この壊れかけた日の本をまとめられるのは殿しかいない。そのためにこの一橋家をもっと強くしたい。懐を豊かにし、その土台を頑丈にする、軍事よりはそのようなことこそ己の長所でございます」とあいかわらずの熱烈自己アピールで、慶喜の許可を得ます。
武士として一歩先に行かれていた成一郎に自分の長所で追いつこうとする、やっと自分のやるべきことを見つけた篤太夫‥このあたりはもう観ていてワクワクしどおしでした。

太夫は、領内の出来の良い米の大坂での入札制、火薬の製造、など、一橋家の懐を豊かにするために動き出します。やるべきことを見つけたら行動は早い。一気に才能開花、って感じですね。
一方幕府でも、小栗が、フランスから軍艦を買い長州や薩摩を討ってしまえば日の本は上様を王とするひとつの国となる、と、考えをめぐらし、交易の利益を得るためフランスからの万国博の誘いにも応じることに。
―新たな世は経済の知識なしには成り立たなかった―と家康。
イギリスから、公儀が勅許を取れなければ じかに朝廷と話をして勅許をもらう、と伝えられた家茂は、慶喜に将軍職を譲る決心をし、江戸に戻るところに慶喜が早駆けで追いかけて来ます。「上様あってこそ臣下は懸命に励むのです。私が将軍になったところで誰もついては来ぬ。将軍はあなた様でなければならぬのです」と家茂を説得。そして、慶喜は、公儀が調印した条約の勅許を切腹覚悟で天皇に願い出、7年越しの修好通商条約の勅許を得ます。
このあたりはもう慶喜にとって内も外もギリギリの攻防、という感じですね。

一方、篤太夫は、一橋の木綿をまとめて買い入れブランド化して商品の価値を高めることに成功、百姓を潤すことでやがて国そのものが豊かになることを確信、さらに紙幣の流通にも取り組みます。
紙幣作り、面白かったです。こういう場面って普通の時代劇じゃなかなか出てこないんですよね。お侍さんばかりが明治維新の礎を築いたわけじゃない、というところが爽快。渋沢栄一を主人公にしたがゆえの面白さだと思います。
‥で、紙幣作りに話を戻すと‥ 貨幣だと重すぎる。しかしどうすれば紙切れに価値を与えられるのか‥精密な版木を3つに割って、3つ合わさってはじめて印刷が出来るように工夫し、半年かけて銀札引換所を作り、百姓たちが木綿を作って紙幣に替え、それを銀に替える仕組みを作った。一橋家は額面通りの銀に引き換えたことで信用を得た。またたくまに一橋の懐が安定、篤太夫は、慶喜にその成果が認められ、勘定組頭に抜擢されます。面白いほど打つ手が当たる、ほんと楽しいなぁ。
成一郎は軍制所調役組頭に昇進、別れて暮らすことに。勘定方に納得がいかない成一郎ですが、自分はこっちの方が向いている、と篤太夫。一橋の勘定方として幕府の勘定方・小栗にも負けねえ差配をしてやんべえ、と。
「俺は命を懸けて殿のために戦う。長七郎が志士として名を遺す好機を俺たちは奪っちまった。しかし死んじまったら何にもならねえ。俺はいつか長七郎と揃って一橋家の雄となる。‥道は違えるが、互いに一橋を強くすんべえ」と成一郎。

ついに幕府は2度目の長州征伐へ…しかしひそかに薩長同盟を結んだ長州を前に、幕府は大苦戦。
そんな中、大坂城で指揮を執る家茂(磯村勇斗)が亡くなり、慶喜は徳川宗家を相続、事実上次の将軍になることが決まります。
長州追討は、幕府の敗北が決定的に。出陣前だった大坂城慶喜は、引き際と考えて和睦を進めようとします。
一方、薩摩の大久保一蔵(石丸幹二)は岩倉具視山内圭哉)と共謀し、幕府を捨て王政復古することを画策していました。

一橋家の家臣の一部は将軍家に召しかかえられることとなり、篤太夫や成一郎も一橋家を離れることに。慶喜が上様になってしまうことで、もう二度と建言など出来ない、と悲しむ篤太夫
大坂の幕府陸軍奉行所で働き始める篤太夫と成一郎。そんな中、血の気が多いと目をつけられた篤太夫は、新選組副長・土方歳三(町田啓太)とともに謀反人の捕縛に向かい、土方に助けてもらいます。
武士となって国のために戦うのが目当て、潔く命を捨てる、命に未練はない、という土方の言葉に割り切れないものを感じる篤太夫
土方の言う、武士らしい潔い死、というのは、成一郎と考え方が同じなんだろうと思います。しかし、篤太夫は、もはや侍らしく死ぬことが誇らしいとは思えなくなっている。勘定方として百姓らとやりとりしたり、天狗党の失敗を目の当たりにして、日の本を発展させるには経済力が不可欠と理解する、刀よりも鉄砲よりも日の本を強くする力がそこにあることを知った篤太夫‥それは、子供のころより父親について商いしてきた彼自身がもっとも得意とした分野でもあったわけですよね。

太夫は、慶喜の弟・昭武(板垣李光人)の随行でパリ行きを打診され、その場で快諾します。
一方、江戸からの帰りに血洗島に立ち寄り、惇忠と会って「倒幕の心つもりだった俺たちが幕臣に転じるなどあまりに変節。しかし今は幕臣として上様を支えたいと思っている」という成一郎に、「俺は今や一橋様のお考えに異論なしだ。国を開くことでかえって国威を上げるのであれば、これぞまさに水戸様の教え」と惇忠も賛同します。
「兄いにだけは、道が違うと言われたくなかった」ほっとする成一郎。そして、惇忠や平九郎に、一緒に来ないかと誘います。「上様には優秀な軍師が必要、兄いにならそれが出来る」と言われた時の惇忠の顔が、いろんな想いを含んでいるように思われて・・うん、推しのこういう表情を見られただけで嬉しい。

慶喜は第十五代征夷大将軍に就任。しかし、孝明天皇は種痘に罹り崩御
慶喜は篤太夫を呼び出し、昭武と顔合わせをさせます。慶喜は昭武に、そなたがパリの博覧会に出ることで、日の本もようやく世界の表舞台に立つことになる、と、「会が終わった後は条約を結んだ各国を回り、その地の王に挨拶すること。その後フランスにて学問を収めること」など5つの心得を伝えます。
人払いをした後、慶喜は篤太夫に、将軍になってしまった、と話をします。「内外多難の今、もはや私の力などでは及ばぬことも分かっておる。ゆえに、行く末は、欧州にてじかに広き世を見知った若き人材に将軍を継がせたい。それには昭武がふさわしい。昭武が戻れば、もし私に子があっても、昭武を世継に推す所存だ」と。
跡継ぎを純粋にその才能から選ぼうとする慶喜の我欲のなさみたいなものが、誰もかれも己の利のために動いているような中で、際立って清々しいです。
太夫が、「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし、急ぐべからず」とそらんじると、慶喜が「不自由を常と思えば不足なし、心に望みおこらば、困窮したる時を思い出すべし」と続き、篤太夫「堪忍は無事長久のもとい」慶喜「怒りは敵と思え」そして二人声を揃えて「勝事(かつこと)ばかり知りて負くることを知らざれば、害その身に至る。己を責めて人を責むるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり」と大権現(家康)の遺訓を唱えます。
いいシーンでした。初めて二人の心が本当に繋がった瞬間、という気がしました。昭武を頼む、ということは、この国の将来を頼む、というのと一緒なのかな、と、少なくとも慶喜にとっては、篤太夫はそれほど信頼のおける人物になった、ということなのでしょうね。

その後、横浜で初めて勘定奉行小栗忠順と対面した篤太夫は、幕府復権のための大きな目当てとして600万ドルの借款の考えがあること、公儀がいつまでもつか分からないが、いつか公儀のしたことが日本の役に立ち、徳川のおかげで助かった、と言われるなら、それもお家の名誉となろう、無事戻れれれば共に励もう、と言われます。

旅立ちの前、成一郎と再会した篤太夫。二人は牢に囚われている長七郎(満島真之介)とようやく会うことが出来ますが、「捨てるべきだった命を捨てることが出来ねえまま、生きながら死んでるみてえだ」と嘆く長七郎の姿に、言葉をなくします。

「お前が帰る頃に日の本はどうなっているのか‥ただ、今よりきっとよい世になっていると思いてえ。俺たちがよい世にしていくんだい」という成一郎の言葉に、頷く篤太夫

船上にて。
高島秋帆玉木宏)の「誰かが守らなくてはな、この国は」との言葉に、「俺が守ってやんべえこの国を」と答えた少年時代を思い返す篤太夫

そして物語はパリへ。外国についての情報がほとんどなかった時代、カルチャーショックも半端じゃなかったでしょうね。
また、武士として己の命の捨て方を考える長七郎や成一郎や土方に対し、己の命の活かし方を考えている篤太夫‥その対比が今後もっと色濃いものになって行くと思いますが、それは次回に・・


大河ドラマ『青天を衝け』
放送:2021年2月14日 - 12月26日 NHK総合 毎週日曜 20:00 - 20:45
脚本:大森美香 音楽:佐藤直紀
演出:田中健二 川野秀昭 村橋直樹 尾崎裕人  制作統括:菓子浩 福岡利武
プロデューサー:板垣麻衣子  制作:日本放送協会
出演:吉沢亮 高良健吾 橋本愛 
草彅剛 堤真一 木村佳乃 磯村勇斗 町田啓太  
要潤 武田真治 尾上右近 津田寛治 博多華丸  
小林薫 和久井映見 田辺誠一 満島真之介北大路欣也 他
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