今さら『青天を衝け』感想(その3/第22回~31回)

2021年2月14日 - 12月26日NHKで放送された大河ドラマ『青天を衝け』(第22回~31回/パリ~静岡~明治政府編)の、今さらながらの感想です。

▶第22回~31回(パリ~静岡~明治政府編)
昭武(板垣李光人)ら幕府使節一行は、船・汽車を乗り継ぎ、ようやくパリに到着、グランドホテルに投宿しますが、日本のしきたりを通そうとする昭武随行水戸藩士は給仕相手にさっそく一揉め。まあね、つい最近まで攘夷攘夷と騒いでた人が、外国に行ったからって急に変わるわけもなく‥先が思いやられます。
太夫吉沢亮)たちは万博会場を視察、蒸気機関やエレベーターなど最先端の西洋技術に度肝を抜かれます。
そんな中、昭武はナポレオン三世の謁見式に出席し、堂々と慶喜(草彅剛)の名代としての役目を果たします。昭武の凛とした姿がほんとに清々しかったです。

その頃日本では、慶喜が次々と幕政改革を断行。
島津久光池田成志)はかつての朝議参与を集め、政治の主導権を慶喜から奪おうとしますが、慶喜もぬかりない。ホトガラフ(写真)の機械など見せて、まんまと彼らの興味をそらすことに成功。このエピソードは楽しかった。新しいものに興味があるのは皆変わりないですもんね。で、結局、久光も写真撮るのねw
しかし、この後、薩摩は急速に倒幕へと舵を切ることになります。

パリでは使節団の滞在費用がかさみ始め、経費節約のためアパルトマン暮らしに。
薩摩の企てにより、幕府のフランスからの借款は消滅してしまいますが、篤太夫が資金繰りに奔走、昭武は無事に条約を結んだ諸国への留学の旅に出発しました。

同じ頃、日本では、岩倉具視山内圭哉)や大久保一蔵(利通/石丸幹二)が 徳川を一掃して王政復古への動きを進めようとし、西郷吉之助(隆盛/博多華丸)が軍備を整え、来るべき時に備えていました。
慶喜は、「500年政(まつりごと)から離れている朝廷に力がないのは明らか。まだ公儀に見込みはある」そして「こういうことを一人で考えねばならんとは‥」と平岡(堤真一)や篤太夫を思い出します。
平岡が生きていたら、どれほど頼りになったか。慶喜ももっと本来の力を発揮出来たのではないか、という気がします。結局 水戸藩士のやったことが慶喜を苦しめている、というところが何とも切ない。
慶喜は先手を打って「政権を朝廷にお返しし、広く天下公平な議論を尽くして天子さまの決断を仰ぎ、同心協力してこの国を守りたい」と、大政奉還を宣言します。「私が成しえることでこれに過ぎるものはない。しかしながらなお意見がある者はいささかも遠慮なく言上せよ」と。
家康(北大路欣也)が何か言いたそうにしながら前に進み、しかしその言葉を深く飲み込む‥徳川の終焉の始まりです。

一方、パリでは、各国歴訪を終えた昭武たちが留学生活に入りました。家庭教師のヴィレットの教えに従い、篤太夫たちは髷を落とし、刀も外し、洋服を着ることに。
太夫は、役人も軍人も商人も同じ、身分の違いなく皆が同じ場に立ち、皆がそれぞれ国のために励む、その風通しの良さに改めて驚き、このことわりこそ日の本に移さねば、と思いを深めます。
そんな折、慶喜が政権を朝廷に返上し開陽丸にて江戸に戻った、との知らせを受け、篤太夫たちは大困惑&大混乱。詳しい状況を掴むことが出来ず、すぐに帰ることもならず、で、彼らの焦燥感はmaxに。

ほどなく、水戸の殿様がなくなり、朝廷の思し召しで昭武が水戸家を継ぐことが決まったのですぐに戻るように、という命が下り、昭武は帰国を決断します。
太夫はエラールに礼を言います。彼の勧めで国債と鉄道債を買い、600両も儲け、さらにフランスの鉄道にも役立った、と。
キャピタルソシアル=鉄道や水道など、志は良くても一人では出来そうもないことが、多くの人から少しずつお金を集めることで可能になる、一人一人の小さな力が合わさり、皆が幸せになる、そんな術があったことに改めて感心する篤太夫。「俺が探し求めて来たものはこれだ!」と、どんなことになってもこの手で日本のために尽くすことを決意します。

こうして一行は帰国の途につきますが、ここまでのパリの描写が全体的にとても良かった。VFXがうまく使われ、画面全体から伝わる光の加減がちょうどよく、陽の明るさやキラキラした感じ、太陽の光の温かさや風の柔らかさが自然と伝わって来て、気持ちが良かったです。

―明治になりましたよ。しかしまだまだ各地で戦は収まらず、薩長新政府は政権を奪い返しはしたものの、金もなく内政も外交もふらふらだ。民の多くもまだピンとこず、すぐ元の世にもどるだろうと思う者も少なくなかった。篤太夫たちはそんな最中に帰って来たのです―と家康。
帰国した篤太夫は、杉浦愛蔵(譲/志尊淳)らと再会し、その時初めて鳥羽伏見の戦いで公儀が錦の御旗を掲げる薩長に負けたことを知ります。敵対すれば上様は朝敵となる、それを恐れたのだろうと。
慶喜は先の将軍・家茂の正室であった静寛院宮(和宮深川麻衣)に目通りも願わず、天璋院上白石萌音)からも失望されます。「某(それがし)は断じて朝廷に刃向かう気はございません」と言うも、天璋院は「武士の棟梁としていさぎよく腹を召されませ」と冷たく言い放ちます。

その後、静寛院は岩倉具視に、天璋院は西郷吉之助に、自分の命を懸けて徳川の存続を願い出るのですが、この二人の肝の座った姿勢、凛々しくてすごく良かったです。この時の慶喜が腑抜けた感じに見えたのでなおさら。これもまた、女性の戦い方、と言えるのかもしれません。

慶喜は上野寛永寺に謹慎、江戸城は戦もなく薩長に明け渡されました。川路聖謨平田満)は自殺、斬首される小栗忠順武田真治)の舌にはネジが!これには息を呑んでしまいました。小栗の信念を物語る印象的なシーンでした。

さらに、篤太夫は、川村恵十郎(波岡一喜)と虎之助(萩原護)から、成一郎(高良健吾)、惇忠(田辺誠一)、平九郎(岡田健史)が、振武軍と名乗って秩父の山で新政府軍と戦って敗れたことを聞きます。
惇忠と成一郎は逃げ延び、成一郎は箱館へ向かい五稜郭で戦っている、慶喜は水戸から駿府へ移り謹慎を続けている、と。
この時の平九郎最期のシーンは、観ていてとても苦しかった。激闘の中、徳川様に200年の恩があるという老夫婦に助けられ、蚕様を見て懐かしむ平九郎が本当に哀しい‥血洗島にいたら、てい(藤野涼子)と夫婦になって幸せに暮らしていたかもしれないのに‥。そして最後は、我こそは、と名乗りを上げ、敵兵に討たれ、自刃‥それは長七郎(満島真之介)が求め焦がれた武士としての本懐、というものなのかもしれない。でも、その本懐が、本当に命と引き換えにするほどの価値あるものなのかどうなのか‥泣

太夫が戻って来る、と血洗島に連絡が来ます。
千代(橋本愛)は、長七郎に「栄一さんが命を捨てるのを踏み留まったのも、今の道を歩まれたのも兄さまのおかげだ」と言いますが、「俺は死に損なったのみ、このまま生きても母様や兄いに迷惑かけるだけ」と。そして惇忠に「兄い、俺たちは何のために生まれてきたんだんべなあ」そう話す長七郎の目が澄んでいてきれいで‥そのことが余計に哀しかった。この時の3人兄妹の表情が、それぞれが背負った苦しさを表現しているようで、すごく重く感じられました。

久々に故郷に戻った篤太夫は、千代、市郎右衛門(小林薫)、ゑい(和久井映見)ら家族と再会を喜び合い、そこで長七郎が亡くなったことを知ります。
尾高の家で惇忠に出会う栄一。惇忠が、自分が二人の弟を巻き込まなければ‥と深く悔いているのが、容易に察せられます。
「誰にも合わす顔がねえ、戦で死ぬことも忠義を尽くすことも出来ず、一人おめおめ生き残るとは‥」と言う惇忠に、「兄いが戦で死なねえでよかった。合わせる顔がねえのは俺だ。パリまで行ってようやくわかったんだい。銃や剣を手に戦をするんじゃねえ、畑を耕し、藍を売り、歌を詠み、皆で働いて励むことこそが俺の戦い方だったんだい。ようやく気付いて お千代にも平九郎にもとっさまにもかっさまにも本当に申し訳ねえ。この恥を胸に刻んで今一度前に進みたい、生きている限り‥」と号泣します。

太夫は、成一郎たちがいる函館には行かず、まず慶喜に挨拶に伺いたい、と駿府に向かいます。駿府は、江戸を追われた徳川家家臣たちの受け皿になっていました。
昭武から預かった直書を届け その返事を貰うため、篤太夫は宝台院で謹慎している慶喜との謁見を願い出ます。
慶喜の質素な身なりに驚く篤太夫。この時の すっかり覇気を失ってしまった慶喜がすごく胸に刺さりました。圧巻でした。
旅の様子を詳しく話し始める篤太夫。穏やかな表情で聞き入る慶喜は「昭武が障りなく帰国出来たのもひとえにそなたのおかげだ」と深く頭を下げます。
立ち去ろうとするところを思わず上様と声をかけるも、慶喜の心中を図って言葉を飲み込む篤太夫
もし慶喜が公儀存続を持ちこたえていたら、フランス留学後の昭武に日の本の将来を託すことが出来たかもしれないのに‥いや、他ならぬ慶喜こそ、その任にもっとも適した人間であったかもしれないのに‥
お互いがお互いの深い胸の内を察してそれ以上の言葉を掛けずに別れる‥淡々としていましたが、苦しい無念の想いが伝わった名シーンだったと思います。

―江戸は東京に変わるやいなやすっかり寂(さび)れた。大名は国元へ帰り、商人や町人も多くは去り、100万人を超える人口は半分以下になった。一方駿府には徳川の行き場を失った幕臣やその家族など10万人が一気に流れてきた。多くがフリーターになってしまった―と家康。
そんな中、篤太夫は、駿府藩の勘定組頭を命じられます。
この命令が、昭武に重く用いられた篤太夫水戸藩士に妬まれ平岡の二の舞になりかねないことを案じた慶喜の取り計らいであることを聞かされ、駿府に残ることに。一時でも幕臣としていただいた百姓の矜持として、禄をいただくことなく百姓か商いをして余生を過ごしたい、と。
その話を聞いた慶喜がおかしろき男だ、と微笑む。平岡が使った「おかしろい」という言葉が、ポイントで使われるの いいですね。

太夫は、新政府から藩の財政を救うため太政官札が出ているのを知ります。それを使えば新政府から借金したことになり、返せなければ駿府は破産する、と、パリで学んだ知識を生かし、武士と商人が力を合わせて商いを営むコンパニ―を始めるために商法会所を設立、財政改革に乗り出します。
太政官札を2割安で正金に換える時の篤太夫と三井組番頭・三野村(イッセー尾形)のやりとりが面白かった。刀を観て、その重いのは商いをするにはさぞ邪魔でございましょうなあ、とか、食えないおやじだ、とか。刀ではない新たな戦いが、さっそく始まりそうな気配。

千代や娘のうたが駿府に来て、家族で暮らすようになります。
太夫は「武士には刀を捨てそろばん勘定を、商人には駿府の一端を担うという矜持を持っていただきたい、これからは力を合わせて共に働くんです」と得意の一席をぶち、それに応じて刀を外す川村恵十郎がかっこよかったです。
改革は徐々に軌道に乗り始めます。

箱館では、成一郎や土方歳三(町田啓太)、高松凌雲(細田善彦)らが新政府軍に最後の抵抗を続けていました。
成一郎は、死ぬ覚悟の土方から、お主も(篤太夫と同じ)生の匂いがする、生きろ、生きて日の本の行く末を見届けろ、と言われます。
数日後、五稜郭開城。すべての徳川の戦いが終わりました。

版籍奉還駿府静岡藩となります。慶喜は謹慎をとかれ1年半ぶりに自由の身に。美賀君(川栄李奈)も慶喜の元へ。
新政府(明治政府)から大蔵省への出仕を求められた篤太夫は、直接断りを入れるため東京へ向かいます。
伊藤博文(山崎育三郎)の案内で大隈重信大倉孝二)を訪ねた篤太夫は、「静岡での務めがある。大蔵省に一人の知人もおらず、租税司の職とて何一つしらぬところ。本音を申せば、先の上様から卑怯にも政を奪った薩長の新政府に、どうして元幕臣の某が務めることが出来ましょうか」と、きっぱりと辞任を申し出ます。
最初完全にビビってる大隈が面白かった。篤太夫のひややか~な目、最高。
そして大隈の大演説。
「君は 某は何も知らぬと言うたばってん、おいが何でん知っとうと思っとるのか。それこそお門違い。まったくもって新しか世ば始めようとすっとにそのやり方を知る者などおいも含め一人もおらん。これからどうしたらいいのか、おいも含め知っちょるもんはだ~れもおらん。知らんから辞めると言ってみんなが辞めてしまったらこの国はどうなるか。誰かがやらんばならんばい。新政府においてはすべてが新規に種の蒔き直しなのであ~る」
すかさず篤太夫の鋭いツッコミ。「まことに国の為を思うなら、新政府は徳川を切るべきではなかった。天子様のもと、世界の知識を第一に持ちえた徳川と諸侯が一体となり政(まつりごと)をすべきだったんだ。上様はその覚悟があった、だから政を返したんだ、それなのに薩摩や長州が徳川憎しと戦を仕掛け‥」と蒸し返すと、戦のことはおいは預かり知らん、と逃げる大隈。
伊藤は「今、外国から新政府の評判はいよいよ悪い」と。
大隈は「新政府は名ばかり、恥ずかしか限りである。御一新は終わりじゃなか。国をひとつにまとめるのはこれからばい。すべて古い因襲ば打破し、知識ば海外に求め、西洋にも負けん新しか制度を作らねばならん。そのためには外国の事情に通じた優秀なもんば一刻も早う政府に網羅し、それぞれ非常な奮励努力ばもって、協力同心するしかないのであ~る。日本中から八百万の神々を集めるようなもんたい。君もその一人、八百万の神の一柱ばい。われこそは国のためにこれをやってやりたいと思うことはなかか。皆で骨ば折り、新しか国ば作ろうではないか。おいは渋沢君に日本を作る場に立って欲しいのであ~る」‥ここで息切れしちゃう大隈さん、笑っちゃうけど、でも、この演説は凄かった!その言葉を全身に浴びて、徐々に目をキラキラさせて行く篤太夫も良かった!久しぶりに胸がぐるぐるしてる、と、観ていて鳥肌立ちました。

慶喜は、篤太夫に「まだ日本は危急存亡のときだ、私のことは忘れ、この先は日本のために尽くせ」と最後の命を下します。
慶喜なら、本当に新しい日本を作ることが出来るはずだ、と、それは篤太夫だけでなく、おそらく慶喜自身も思っていたんじゃないか、という気がします。しかし、自分がしゃしゃり出ることで、また日本中が混乱に巻き込まれ、いらぬ戦いや争いが起こることを恐れた‥この人は本当に日本を俯瞰で見ることが出来る人だったのかもしれません。この引き際も潔いです。

太夫という名を返した栄一(吉沢亮)は、各省の垣根を超えて広く日本に必要な物事を考え即実行できる “改正掛(かいせいがかり)”を立ち上げ、杉浦譲や前島密(三浦誠己)を静岡から呼び寄せます。
改正掛は、租税の改正、戸籍の編纂、貨幣や郵便制度の確立など、新たな国づくりのためまい進、このあたりのまとまらないワヤワヤ感と、同時に旧幕臣たちが自分たちの力の発揮どころを見つけてワクワクしてる様子が、すごく面白かった。
幕臣の活躍を快く思わない一派は大隈に文句を言いますが、やるべきことを次から次へと遠慮なくしかも的確に進言して来る栄一に、何も言えなくなってしまいます。

そんな中、日本随一の輸出品である生糸の質が悪いとフランス商人から文句を言われた、と愚痴る大隈。お蚕様も知らない大隈を前に生糸の作り方をレクチャーする栄一に、養蚕のことは君にまかす、って、丸投げの大隈さん。ずるいなぁと思いつつも、かわいげがあって憎めない。
次女・ことが生まれ、栄一のもとを訪れた栄一の父母は、惇忠が村をまとめ、養蚕に精を出していること、武州の良い生糸で国を富ませたい、と話していることを栄一に伝えます。このあたり、後の富岡製糸場に繋がって行きそうです。

飛脚便を国で管理して飛脚印(切手)を貼る、それを「郵便」と名付ける郵便事始めとか、外国のやり方をまねていろんなことをどんどん進めて行く、スピード感が楽しい。
横浜の商いの帰りに惇忠が栄一の家に寄ります。栄一は、新政府に入らないか、と誘いますが、平九郎が新政府に殺されたことにわだかまりのある惇忠は拒否。
栄一は「自分たちも横浜焼き討ち計画で異人を殺そうとした。戦は、一人一人は悪くなくても、敵だと思えば簡単に憎み、無残に殺してやろうという気持ちが生まれてしまう。もう侍の世はごめんだ。壊すんじゃねえ、作るんだ。己の手でこの国を救えるんだったら何だってやる」と。この言葉、惇忠のど真ん中に刺さったと思う。

村に戻り、仕事の手を止め、自分の掌を見つめる惇忠。戦に倒れた平九郎や、「俺たちは何のために生まれて来たのか」と言った長七郎の顔が浮かぶ、栄一の「この恥を胸に刻んで、今一度前に進みたい。生きている限り」という言葉も。
そして‥改正掛に来てくれた惇忠‥涙。
栄一の嬉しそうな顔、惇忠の決意に満ちた顔‥もう‥かっこいいったらない!こっちまで嬉しくなりました。
そして、あれだけ攘夷をとなえていた惇忠が、少しの躊躇の後、強い眼差しで富岡工場の顧問である外国人と握手するシーン‥はぁ~良かった、惇忠もやっと前に進める気がします。

栄一は、大阪の造幣局で、五代友厚ディーン・フジオカ)や三野村と再会。栄一は、「世が変わっても商人がお上の財布代わりになる古いシステムは変わらん。この大阪で日本の商業を魂から作り変えたい」という五代の考えに共感します。
そして、くに(仁村紗和)との出会い‥

一方、あいかわらず政府は混乱、首脳会議では、突然、西郷隆盛博多華丸)が「まだ戦がたらん」と声を上げます。
それを、井上馨福士誠治)は “戦覚悟で廃藩置県を断行せよ”との意思表示と理解し、栄一たちに廃藩をやると宣言しますが、それには各藩の藩札の価値の違いや負債など問題が山積みであること、旧大名や士族たちの不安を取り除けば、無駄な争いは避けられる、との栄一の言葉に、ならばそのあたりを内密に改正掛でやってくれ、って、また面倒なことを丸投げされてしまう栄一。
文句を言いつつも、それからわずか4日で廃藩置県をやり遂げるのですが、これは外国からも「封建制度は一夜にして廃止、完全なる変革を成し遂げた」と、世界に類を見ない無血革命として驚きをもって報じられました。

冬のある日、栄一のもとに、父危篤の知らせが届き、栄一は馬車を走らせ会いに行きます。市郎右衛門は栄一に、心残りはなにもない、俺は渋沢栄一の父だ、天子様の朝臣になったおまえを誇りに思っている。と。2日後、家族が見守る中、亡くなります。
「なんと美しい生き方だ!」という栄一のつぶやきが胸に沁みます。
いつもすっきりと背筋を伸ばして物事を広くまっすぐ温かく見つめるこの人の生き方・姿勢が、栄一の中に息づいている気がしました。

くにが妊娠、身寄りのない彼女を渋沢家に連れてきた栄一。「おくにさんもおなかの子もここで共に暮らせばよいではありませんか。お前様の子です、共に育てましょう」と、千代はすんなり受け入れますが、その後一人になった時の彼女のため息が深くて、切なかった。
函館で戦った成一郎が2年半ぶりに釈放され、栄一は「死なねえでよかった」と、成一郎と抱き合います。

大久保や岩倉が使節団として海外に赴くことに。そのあいだ新規の改正をするべからず、という約定を残して。
栄一はそれを、廃藩置県後の処理であればおおいにやれということ、と都合よく解釈、日本初の銀行設立に乗り出します。
早速、豪商の小野組、三井組に協力を依頼、合同銀行を作りたいと提案しますが、独自に銀行を作りたい三野村はこれを拒否。栄一は三井組小野組の官金取り扱いを取りやめる、今預けている官金をすべて返納せよ、と半ば脅しをかけ、あわてた三野村たちは頭を下げ、合同で銀行を作ることを受け入れます。

富岡製糸場の開業準備を手伝うため群馬に向かった成一郎は、惇忠がフランス人とともに働く姿に驚きます。「腹を割って話せば、結局は人と人なんだ、生き残った以上おれたちも前に進まぬわけにはいかねえ」と。ここの惇忠の目力がいいです。成一郎も納得しないわけにいかないですね。

栄一からの、合同銀行を作りたいという提案も、三井組ハウスを銀行に、という申し入れも、三野村は渋々受け入れます。この時の顔がねぇ、もう最高でした。
「渋沢様もやはりお役人。しょせん私たちとは立っている場所が違う。これから先も、地べたに這いつくばって、あなたがたの顔色をうかがうのみ。徳川の世と何も変わりませんな」という三野村の痛烈な皮肉に、上納金を岡部藩の役所に運んだ時のことを思い出す栄一。

そのころ、惇忠は、富岡製糸場で伝習工女が集まらないことに悩んでおり、娘のゆう(畑芽育)に、最初の伝習工女になって欲しいと頼みます。
悩むゆうに、祖母(手塚理美)は言います、「私らはずっと男たちを観ているだけだった。何をたくらんでいるかも、外で何が行われているのかも何にも知らせてもらえねえで、ただ黙って‥その惇忠が娘のあんたに頭を下げて助けてくれと頼んでるんだ、なんだか嬉しいじゃねえか」
二人の息子を失った彼女ですが、この言葉には、国のために何をなすべきか、女性も考えて行動出来る時代になろうとしている、それをやってもいいのだ、という、新しい社会に目を向ける女性の姿があったように思います。さすが淳忠・長七郎・平九郎の母ですね。そういうところはまた、娘の千代にも受け継がれているように思います。
そしてゆうの決心がきっかけとなり、多くの女工が集まり、製糸場は操業を開始、女性の社会進出のさきがけの場となります。

喜作は生糸を学ぶためイタリアに。
千代が男子を生みます。
政府は、予算を握る大蔵省と各省の間で対立が深刻に。
栄一は、政府に入ったのは新しい日本を作りたかったから。なのに、高いところから物言うだけのおのれが、心地が悪い。おかしろくねえ、と、大蔵省を辞める決意をするのです。
俺の道は官ではない、一人の民(みん)なんだ。今度こそ最後の変身だ。と。


いや~、今回、一番楽しかったかも。
慶喜と篤太夫の邂逅(かいこう)も深い味わいがあってとても良かったですし、新政府に入ってあらゆるものをどんどん改革して行く栄一と改正掛の人たちが、過去の立場を超えて手を繋ぎ、未曽有の困難に立ち向かって行く熱量とスピード感が、半端なくビシビシ伝わって来たところも本当にワクワクしました。
大隈さんの大演説と、その勢いに徐々に吞み込まれて行く栄一の表情も良かったなぁ‥時代の境目に居る感覚みたいなものを私自身も味わえた気がして、栄一みたいに胸がぐるぐるしました。


大河ドラマ『青天を衝け』
放送:2021年2月14日 - 12月26日 NHK総合 毎週日曜 20:00 - 20:45
脚本:大森美香 音楽:佐藤直紀
演出:田中健二 黒崎博 村橋直樹 田島彰洋 鈴木航
制作統括:菓子浩 福岡利武  プロデューサー:板垣麻衣子  
制作:日本放送協会
出演:吉沢亮 高良健吾 橋本愛 草彅剛 
大倉孝二 イッセー尾形 田辺誠一北大路欣也 他
公式サイト