今さら『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』感想

今年1月からTV朝日系で放送された連続ドラマ。 今さらながらの感想となります。

全10回、久しぶりの1回30分のドラマでしたが、すんなり馴染むことが出来たし 観やすかったです。

花やモノと会話することが出来るモコミ(清水萌子美/小芝風花)と、その家族の物語。
設定はメルヘンチックなのだけれども、決して甘くはない。特に、不思議な力を持ったモコミの話を信じようとせず、それを隠して「普通の人」として生きることを強く望んでいる母親・千華子(富田靖子)の言動というのは、彼女自身 それが正しい、と固く信じ切っているだけに、本当にしんどかったです。
千華子は、決してモコミのことを憎んだり疎ましく思ったりしているわけじゃない。彼女なりに真剣にモコミのためを思い、モコミのことを心配して、幸せになって欲しくて、彼女なりに考えて考えて、それが愛情だと信じていろいろ手を尽くすのですが、「世間一般の’普通’が一番の幸せ」という自分の価値観を一方的に押し付けるだけで、じっくり考えて自分で答えを出す余地をモコミに与えない。
それが(千華子にとっての)善意から来るものだけに、モコミも思い切って振り払うことが出来なくて、背負い続けるしかなかったんだろうなぁ、と。

千華子のカチンコチンに凝り固まった「普通」という概念をぶち壊し、この家族に新鮮な風を吹き込んでくれたのは 突然やって来たおじいちゃん(千華子の父・須田観/橋爪功)で。
モコミは、「普通って何だ?」と何度も問いかけるおじいちゃんに背中を押されてお母さんに本音をぶつけます。
「お母さんはいつも私を隠そうとした。私も自分を隠さなきゃいけないってずっと思ってきたけど、そんなのお母さんが勝手に決めたことだから‥ずっと隠そうとしてたから生まれて来ないほうがよかったのかなって思ってた。ずっと誕生日が嫌いだった。今年の誕生日は自分を何とかしたいって思ってバイト辞めるって言って来て‥そしたらわかったことがあって。(会社の)みんなに迷惑だって思われて避けられてるって思ってたけど違ってた。私がみんなを避けてただけなんだ。辞めるって言わなかったら私は自分の思い込んでた世界に閉じこもったままだった」

考えてみたら、自分も千華子と似たようなところがあるのかもしれない‥というか、確実にあるんだよなぁ。
自分の常識の範囲内に収まらない特別な資質を子供が持っていたら、不安や、心配や、焦りの気持ちを抱いてしまうし、何とか周囲の子と同じように育って欲しい、とも思ってしまう。「他の子と違う」ということへの不安に押しつぶされそうになる。

だけど、普通じゃないことが本当に不幸なのか、他人と違うことは本当にいけないことなのか、自分らしく生きるための道筋は本当に一つだけなのか、子供は親から押し付けられた生き方・考え方を唯一の正解として背負わなければならないのか‥真正面からそう切り込まれたら、答えに詰まって たじろいでしまうのも確かで。

子供を信じて待つことが出来ないのは、子育てに自信が持てない自分自身の弱さだったり、世間体を気にし過ぎたりしているせいなのかもしれない。
たとえ間違っても、失敗しても、自分で考え、自分で立ち直り、また行動して行く、それが一番大事なのだろうけれど、少しでも手助けが出来るものなら、何とかしてあげたい、と思うのもまた親心で。
でも、歯がゆくても、まどろっこしくても、親は見守るしかない、ということ。
親は子供の幸せを願っている。だけど、その子の幸せはその子にしか分からない。親が自分の物差しで勝手に決めつけてしまってはいけないのだ、と。

モコミの不思議な言動を自然に受け止めてくれた 工場の人たち(小倉久寛 他)、花屋の涼音(水沢エレナ)や真由(内藤理沙)、モコミの力を素敵なことだと言ってくれた佑矢(加藤清史郎)‥周辺にいる彼らがモコミを認めて信じてくれたことが大きかった。
そして、何と言っても、おじいちゃんが、いざという時にモコミを支え、結果的に千華子の重い重い鎧を脱がせてくれたこと。(なぜか『わたしのおじさん』の妖精(遠藤憲一)を思い出した)

千華子は、モコミに「お母さんは、自分が前に進めなかったのをおじいちゃんのせいにする、誰かのせいにして自分の正当性を保とうとする」と言われて考え込んでしまう、自分が正しいと思っていたことは、困難なことからただ逃げていただけ、世間一般の「普通」という概念にしがみついていただけだったのではないか、と。
彼女が、そうやって自分の非をちゃんと受け止めて、素直に夫(伸寛/田辺誠一)に話せる人だったのが救いでした。

万事 上から押さえつけてくるような千華子に対して、時々切れたり愚痴ったりしながらも、伸寛の千華子への愛情には揺らぎがなくて、二人の関係性というのが、殺伐になり過ぎなくて、ちゃんと繋がっていると感じられたのが嬉しかったです。

いい長男、いいお兄ちゃん、であったはずの俊祐(工藤阿須加)がブラックな面を持ってるというのも、なかなかつらいものがありましたが、根っからのワルではないし、モコミみたいな妹を守らなきゃならない立場というのは、歳が近いからなおさら大変なんじゃないか、ストレスを溜め込んでいたんじゃないか、とも思うので、家族の前で不満を爆発させてくれて逆にホッとしました。
俊祐にとって、周囲の自分に対する期待や要望を先読みしていい人を演じる、ということを一旦辞めて、自分の思いのままに生きてみることがとっても大事だったんでしょうね、たとえ、あっけないほど早く帰って来てしまうにしても。


普通に生きてほしいと願う母親と、そういうふうには生きられない娘と、二人の間に入ってうまく仲裁することが出来ない父親と、ちょっと変わったキャラの妹を持ったおかげでいい人を演じなければならなくなった兄と・・お弁当という糸で辛うじて繋がっていながら本当の自分を解放してやれずにいたこの家族は、モコミの小さな抵抗をきっかけに、やがてそれぞれに、「家族」という小空間から一歩外に出る勇気を持つようになります。
そして、自分が囚(とら)われて来たものの窮屈さを知って、大きく深呼吸して、たくさんのことに気づかされながら、それぞれがそれぞれの普通じゃない(他の人とは違った)部分を認め合うようになり、お互いの新たな魅力を発見し、新しい一歩を踏み出すようになります。
結果的に、モコミだけじゃなく、父・伸寛の、兄・俊祐の、そして母・千華子の成長譚でもあった、ということになるんですね。

根っからの悪者が出てこないお話でしたが、主要人物それぞれに抱えたものがあって、それを吐き出して、結果それぞれに清々と自分の道を見つけて行く‥もっと自由に自分の思うままに生きていいのだ、と、自分に対しても他人に対しても認め合い、尊重し合って、そうやってまた別の形の新しい家族のきずなが保たれて行く‥そうなるまでの道筋が、痛みを伴っていてもギスギスし過ぎることなく、やがて優しく柔らかく伝わって来て、心地良く最後を迎えることが出来ました。


モコミ/小芝風花さん。佑矢/加藤清史郎くん。
二人の、恋愛に至らない友達‥というか、女性とか男性とかいった性を超越したような空気感というのが、ふんわりと優しくて、さわやかで、このドラマにすごく合っていたように思います。
小芝さんは、以前 震災シミュレーションドラマにニュースキャスター役で出演していた時に、イントネーションが完璧で驚いて、それから気になっている女優さん。
清史郎くんは、以前『11人もいる』というドラマで田辺さんと共演していた時の、かわいい子役さんのイメージからすっかり青年になっていてびっくりしました。

兄・俊祐/工藤阿須加さん。清々しいイメージだった工藤さんが、内にブラックな面を持つお兄ちゃん、という意外性にも驚きましたが、鋭角的な強さを感じさせない工藤さんが演じているから憎み切れない、というところもあったような気がします。
何だかこのお兄ちゃん 私は嫌いになれなかったし、シンパシーを感じてしまいました。

祖父・観/橋爪功さん。10数年ぶりに会って、いきなり家族の問題にきっぱりと切り込んでくるのはすごい。かと言って威圧的じゃないし、過去の不倫話も嫌らしく感じない。橋爪さんだからそういう空気がサラッと出せたんじゃないかと思うし、最終的には、観は千華子をこそ一番に救いたかったんじゃないかなぁ、という気がしました。

母親・千華子/富田靖子さん。実はこの千華子が一番の問題を抱えていたわけですよね。過干渉過ぎて観ていてイライラすることも多かったですが、ああいう形で吐き出さなければ自分が崩れてしまいそうで不安だったんだろうなぁ。そのあたり、富田さんはすごく説得力がありましたね。私自身が千華子に近いものを抱えていたせいか、何だか身につまされました。最後には自分がやりたいことを見つけ出せたようで、良かった。

父親・伸寛/田辺誠一さん。どんなに無下にされても、毒を吐かれても、思い余って自分から毒を吐いてしまっても、千華子への愛情は変わらない。ふとした時に千華子をいたわる姿がいつも自然で、どんなことがあってもこの夫婦は繋がってるんだなぁ、と思わせてくれた。ふわふわと柔らかくて、どこかモコミと共通しているところがあって、相変わらずの掴みどころのなさも田辺さんらしくて良かったです。

『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』    
放送:2021年1月23日-毎週土曜 全10話 TV朝日系
脚本:橋部敦子
演出:竹園元(テレビ朝日) 常廣丈太(テレビ朝日) 鎌田敏明
製作総指揮:内山聖子テレビ朝日
プロデューサー:竹園元(テレビ朝日) 中込卓也テレビ朝日) 布施等(MMJ
製作:テレビ朝日 メディアミックス・ジャパン
音楽:森英治
エンディング:GENERATIONS from EXILE TRIBE「雨のち晴れ」
出演:小芝風花 工藤阿須加 加藤清史郎
水沢エレナ 内藤理沙
田辺誠一 富田靖子 橋爪功 他
公式サイト