何度もドラマ化された「徳川家康」ですから、観る側もだいたいのイメージを固めてしまっている、今さら‘プリンス’とか‘我が君’とか言われても‥というところで乗り切れなかった人も多かったかもしれないですが、私は、新たな家康像としてこういう捉え方もありだと思ったし、それまでの家康のイメージを覆(くつがえ)そうとすることは、大河ドラマの試みとして間違っていないんじゃないか、とも思いました。
ただ‥特に序盤のVFXが厚みがなく薄っぺらに見えてしまったのは、ものすごーく残念だった。それだけでドラマ全体の価値をかなり下げてしまったのではないか、と思ってしまうほど。
どんなに型破りでもいい、いろんなチャレンジをしてもいい、でも、綿々と受け継がれて来た大河ドラマの持つ重みや厚みだけは手放して欲しくなかった。
そのあたり、後半は少しずつ良くなっただけに、本当にもったいなかったなぁ、と。
‥‥すみません、素人が生意気なこと言ってます‥が、本題に入る前に、どうしても心に引っ掛かったことを書かずにいられなかった‥
改めて‥さて、徳川家康(松本潤)です。
へたれな白兎が、数々の失敗を繰り返しつつも少しずつ成長し、信長・信玄・秀吉ら百戦錬磨の強豪たちと戦いながら戦国時代を生き抜き、やがて日ノ本をまとめ、戦のない世を作るに至る‥その道筋を描きます。
前半、織田信長(岡田准一)の圧倒的存在感(岡田さんの演技が圧巻!)に対し、元康(家康)がなんとも心許なくてウジウジしているのですが、でもそのアンバランスが私には興味深く感じられました。
ただおとなしく首をすぼめて信長の興味が失せるのを待つ元康ですが、いやおうなく引きずり回され、何度も何度も打ちのめされる‥そこから浮かび上がる信長の孤独‥おまえこそは、と信じて、でも、その表現の仕方が分からなくて、威圧的な態度しか取れなくて‥
そんな信長の自分への執着を初めてがっちりと受け止め、新たな関係を築き始める兆しの見えた金ヶ崎の戦い(第14回)が、私にとっては神回でした。
足利義昭(古田新太)を担いで天下一統を果たす、という信長の野望に引きずり込まれる家康。
浅井長政(大貫勇輔)が裏切るかもしれない、と、朝倉攻めから兵を引くことを信長に進言しますが、「おれは将軍と朝廷のために戦っている!」と応じません。
「おぬしを信じられん者もおる!」と言う家康に、「お前も俺を信じぬのか!」と信長。「おまえの心の内など分かるもんか!」「出ていけ!おまえの顔など二度と見たくない。朝倉の次はおまえじゃ」「なぜそうなるんじゃ」「俺に逆らうとはそういうことじゃ」「ふざけるな、あほたわけ!わしはおぬしの身を案じているだけじゃ!」このやりとりの時、信長の目がうるんでるんですよね。こんなふうに面と向かって自分に歯向かって来る人間って、今までほとんどいなかったんだろうなぁ、マジ喧嘩してるような状況なんだけど、信長が家康に対して心を許しているというか、本心が垣間見えるというか、すごく人間らしさが感じられるシーンでもありました。
帰って来て、なぜもっと早く止めなかった、と石川数正(松重豊)たちに愚痴ってる家康にも、国に帰って戦の準備するだけのこと、という本多忠勝(山田裕貴)の冷静さにも、思わずクスッと笑ってしまった。絶妙な緩急だったように思います。
長政の妻となった信長の妹・お市(北川景子)のことづてを、ひたすら走って走って家康に届けた阿月(伊東蒼)が、お引きそうらえ、と言って息絶えます。(お市に目を懸けてもらった恩に報いるため、走ることが唯一の取り得と心得て、10里を命懸けで走り抜いた阿月のこのエピソードがすごく好きでした)
「阿月の命を無駄になさるな。逃げんかあほたわけ!」と、こうなったら怖いもの知らずの家康。信長の鋭い視線を真っ向から受け止め返す家康がかっこいい!(初めてかっこいいと思った)
一方、しんがりを任されて、こりゃ終わったわ~と絶望しつつも、「これでもし生き延びれば、わしゃ まっとまっと上に行けるだがや!一緒にやろまい、ここで逃げればあんたは殿を見捨てたことになるに。将軍様を裏切って浅井・朝倉と手を組むつもりだとわしゃあ言い触らしたるでよ」と家康になかば脅しをかける秀吉(ムロツヨシ)のクズぶりが見事。
「この金ヶ崎で迎え撃ち、信長殿の逃げる時を稼ぐ」と秀吉にこの先の戦い方を示し、「のち、退き戦に移る!」おお、ついに家康覚醒ですね。
朝倉・浅井との戦いからようやく逃げ延びたと思ったら、今度は武田との戦い。
「誰だって人殺しなどしたくないはずなのに、どうして戦はなくならぬのでしょう」と心を痛める家康の妻・瀬名(有村架純)。
「勝者はまず勝ちてしかるのちに戦いを求め、敗者は戦いてしかるのちに勝ちを求む。 戦は勝ってから始めるものじゃ」と、余裕しゃくしゃくの戦巧者・信玄(阿部寛)に敗れる家康。
三方ヶ原の合戦。
信玄との戦いは、一時は家康の死が伝えられるほどの惨敗。
しかし、実際は、夏目広次(甲本雅裕)が身代わりになってくれたことで家康は救われたのでした。
メインではなかったにもかかわらず、私が大好きだったキャラが、阿月の他にあと二人います。この夏目広次と鳥居強右衛門。
なかなか家康に名を覚えてもらえない夏目広次のエピソード、切ないんだけど、悲惨な戦争の最中の清涼剤のようでもあったような気がします。
竹千代(家康の幼名)の傍にいながら織田に捕らわれるという失態を犯し、広次と名を変えて仕えた過去。
「殿が死ななければ徳川は滅びませぬ。殿が生きてさえおれば、いつか信玄を倒せましょう。殿は‥きっと大丈夫」そう言い残して、家康の金具足をまとって敵陣に飛び込んで行く‥長い大河の物語の中でしっかり爪痕残して去った夏目、好きだったなぁ。
信玄の病死で、窮地を脱する家康。
信長の敵対勢力の一掃で、足利義昭は追放、浅井長政は自害、市は娘たちとともに織田家に引き取られることに。
信玄の三回忌が済み、これからはわしのやりたいようにやらせてもらう、と武田勝頼(眞栄田郷敦)。
岡崎城が狙われ、実際の戦場で人の死と向き合うことになる瀬名と長男・信康(細田佳央太)。
長篠・奥平信昌(白洲迅)の家臣・鳥居強右衛門(岡崎体育)が、窮地を報せ、助けを求めて家康の許に駆け込んで来ます。
同じ頃、信長が岡崎を訪れ、家康の娘・亀姫(當真あみ)と信昌の結婚話を進めよ、と迫ります。
「話を受け入れなければ今後は徳川と手を切る。臣下になれ。ならなければ信長の敵となる、今決めよ」と、あいかわらず有無を言わせぬ態度。
「わしは桶狭間以来この手で我が国を守って来たんじゃ。多くの犠牲を払って!なんで今さらおまえの家臣にならねばならんのか」と、ちょっとは歯向かえるようになった家康。
「ならばそれでよい」と帰ろうとする信長に、話を聞いていた強右衛門が、「長篠を救ってくだせえまし」と。しかし「戻って徳川は長篠を見捨てたと伝えよ」と冷たい信長。
見かねた亀姫が、信昌の許に行く、と言い、瀬名も、臣下となるのを拒んでいるのではない、時間が欲しい、まずは長篠を救ってから、と言い、信長も引き下がります。
報せをもって長篠へと走る強右衛門ですが、途中武田側に捕まってしまいます。「徳川が長篠を見捨てた」と嘘の情報を流せば武田で召し抱える、という武田の提案に心が揺れ、いったんは信昌に嘘の情報を伝えますが、喜んで奥平に嫁ぐ、と言ってくれた亀姫の顔を思い出し、城の門前に戻って、「嘘じゃ!徳川さまは織田の大軍と一緒にすぐに来るぞ!」と叫びます。その場で磔(はりつけ)になった五右衛門は、「殿、徳川の姫様はうるわしい姫様じゃ。大事にしなされや」と言い残し、槍に刺されて息絶えます。ほんの短い時間だったけど、亀姫に対するほのかな恋心のようなものも感じられて、なおのこと切なかった。
阿月の「お引きそうらえ」、夏目の「殿はきっと大丈夫」と同じくらい好きなエピソードでした。(穴山梅雪もこのぐらいインパクト残す役だったら‥とつい愚痴が‥)
はじめて織田と連合軍を組むことになった家康。
一方、武田側では、「信玄公は勝ち目なき戦は決してなさいませんでした」と勝頼を諌(いさ)める山県昌景(橋本さとし)。
「だから武田信玄は天下を取れなかった。手堅い勝利を100かさねようが、一の神技には及ばぬ」と勝頼。「目の前に信長と家康が首を並べておる、このような舞台はもう二度とないぞ」と。
この時の穴山信君(田辺誠一)の表情‥今後の展開を考えるにつれ、つい 心内(こころうち)をいろいろ読みたくなってしまいます。(う~ん‥もうちょっと勝頼との絡みが観たかったなぁ)
信長の容赦ない戦い方。3000丁の鉄砲に、これはなぶり殺しじゃ、と信康。
信長に歯向かえば容赦なく叩き潰される。家康は織田の臣下となることを決意。武田との戦いの真っただ中に放り込まれ、徐々に染まって行く信康。
瀬名は、虫も殺せなかった信康の変化に戸惑うばかりです。
信康は、通りすがりの坊主を突然切り殺し、「皆が強くなれと言うから強くなりました。しかし、私は私でなくなりました。いつまで戦えばよいのですか、いつまで人を殺せば‥」と自分の変化に苦しんでいる様子。
そんな信康に、ずっと胸に秘めてきた恐れ多い謀(はかりごと)がある、と瀬名。
瀬名の求めに応じ、武田の忍び・千代(古川琴音)が唐の医師・滅敬(実は穴山信君)を連れて来ます。(剃髪姿にときめく田辺推しの私)
ここから、瀬名の謀が少しずつ見えて来ます。信長に疑われる恐れのある中、於大の方夫婦(松嶋菜々子・リリーフランキー)、氏真夫婦(溝端淳平・志田未来)らと会い、勝頼とも繋がりたい様子。
気づいた家康や信康の妻・五徳(久保史緒里)に、
「相手が飢えたるときは助け、おのれが飢えたるときは助けてもらう。奪い合うのではなく、与え合う。さすれば戦はおきませぬ」。信康も「私はもう誰も殺したくありません、戦をやめましょう」と。
「たくさんの味方を作って大きな繋がりをつくりましょう、戦はこりごり、恨みなど捨ててしまえばよい。そんなものは何も生み出さぬ。三河・遠江・駿河・甲斐・信濃・相模・越後・奥州‥それらの国々が同じ銭を使い、商売を自在にし、人と物の往来をさかんにする。さすれば東国に新たな巨大な国が出来るも同じ。そのような巨大な国に信長様は戦を仕掛けてくるでしょうか。強き獣は弱き獣を襲います。されど、強き獣と強き獣はただ睨み合うのみ」
信康も「睨み合っている間に我らのもとに集う者はどんどん増えるに違いありません。この大きな国は武力で制したのではなく、慈愛の心で結びついた国なのですから」
信君は、この策に賭けるよりほかに我らの生き残る道はない、と勝頼を説得。
徳川と武田が密かに合意、戦をするふりをし続けます。
つかのま、ささやかな幸せの日々、穏やかなみんなの顔がいいです。
でも‥うーん、これであの鋭利な信長を説得させられるのかどうか‥志(こころざし)は良いとして、あまりにもきれいごと過ぎて、正直ちょっと違和感があったのも確か。フワフワと浮いていて掴みどころがない、もっともっと説得力や切実さが欲しかった気がします。
結局、勝頼が「やはりおなごのままごとのような謀には乗れん。戦い続けて死にたい。戦いこそがわれらの生きる道ぞ。わが夢は天下を手に入れ、武田信玄を超えることのみじゃ。築山(瀬名)の謀略、世にぶちまけよ!」
ままごとかぁ‥確かに、戦に明け暮れていた男たちからすれば、そう見えるのも仕方ないことなのかも。
謀が信長の知るところとなり、家康は瀬名と信康を密かに助けようとするも、結局二人とも自害することになってしまいます。
家康が「わしの弱い心じゃ」と言って瀬名に渡したうさぎの木彫りは、戦いを好まぬ優しさゆえの強さの象徴‥瀬名はそれを家康の内に見ていたのでしょうね。
この瀬名の想いは、この後ずっと家康の心に生き続けます。
妻と息子を失った家康は、信長の言いなりとなり、犬となることに甘んじます。
勝頼の最期。信長の長男に討ち取られ、穴山梅雪(信君)は徳川につくことに。
信長の前で勝頼の首を見せられるも、恨んではいない、と冷静を装う家康。恨んでいるのは他の誰かか、と信長。いやぁ、あいかわらず信長のねちっこさが重いです。
そんな中、茶屋四郎次郎(中村勘九郎)の明るさが救いでした。
家康は、堺で実力者たちと会い、信長を討った後の算段をぬかりなく進め始めます。
偶然お市と出会い、「兄はけっしてあなた様には手を出さない。あなた様は兄のたった一人の友ですもの。いずれ誰かに討たれるのならあなたさまに討たれたい、そう思っているのでは‥兄はあなたさまがうらやましいのでしょう。弱くて優しくて皆から好かれて。兄が遠い昔に捨てさせられたものをず~っと持ち続けておられるから」と言われます。
信長を討つことを決断出来ない家康。すべてはわが未熟さ、との家康の言葉に、彼の心情を察する家臣たち。いずれ必ず、天下を取りましょうぞ、それまでお方さまの思い大切に育みましょうぞ、と。
茶屋が、信長討たれる、の報せを持って来ます。そして、明智光秀(酒向芳)が家康の首を取れ!との命を下した、と。
突如追われる身になる家康たち、堺から三河までの逃避行。伊賀越え、ですね。
彼らを救うため、穴山梅雪が家康を名乗って死にます。
秀吉が明智の首を取り、信長の後継の一番手に躍り出ますが、秀吉の好きにさせないため、柴田勝家(吉原光夫)がお市を娶ることに。
いずれ秀吉と勝家がぶつかるかもしれない、と、家康は、まず周囲を固めることに。
幼い頃、お市のことは必ず助ける、と言った家康の言葉を心の奥でずっと信じ続けていたお市は家康に助けを求めますが、周囲の状況・秀吉の牽制によって家康は動くことが出来ず、「約束を一番果たさなければならん時に果たせぬ」と悔しがり、結果としてお市は裏切られることとなります。
市の娘・茶々(白鳥玉季)はドライ。 あの方を恨みます、と。母上の無念は茶々が晴らします、茶々が天下を取ります‥この思いを茶々は最期まで抱き続けることになります。
(茶々の内に「母を裏切った男」として家康がインプットされる、そのことが後々茶々の生き様や死まで繋がったのは、ドラマを流れるひとつの重要な筋として興味深かった)
北ノ庄城落城 勝家・お市自害。
このあたりから、家康におちつき、深みが出て来ます。
秀吉は欲に果てがない。乱世を鎮め安寧な世をもたらすのはわしの役目と心得ておる。秀吉に勝負を挑みたい、と。
小牧長久手の激闘。
弱く臆病であったこのわしがなぜここまでやってこられたのか‥今川義元(野村萬斎)に学び、織田信長に鍛えられ、武田信玄から兵法を学び取ったからじゃ。そして何よりよき家臣たちに恵まれたからにほかならぬ。この戦が我らの最後の大戦(おおいくさ)とせねばならん。今こそ我らの手で天下を掴むときぞ!
戦いの中での徳川四天王の康政(杉野遥亮)・直政(板垣李光人)・忠勝の紹介がかっこいいです。
このあたりVFXもいい感じでした。
秀吉は織田信雄(浜野謙太)の懐柔に的を絞り、和睦に持ち込みます。総大将の和睦により徳川は戦う大義を失うことに。
「戦なき世か‥戦がなくなったら武士どもをどうやって食わして行く‥民もじゃ民もまっとまっと豊かにしてやらにゃいかん。日ノ本を一統したとてこの世から戦がなくなることはねえ」と秀吉。
北条との戦いの末、家康は今までの領地を取り上げられ、江戸に行けと命じられます。家臣たちも領国を与えられ、バラバラに。
江戸を一から作る楽しさを知った家康、すっかり落ち着いて来ました。
しかし、息子・鶴松を失った秀吉は、寂しさを埋めるように、次は朝鮮を従え明国を取る、と。大名を集結させ、朝鮮との戦いに連勝、秀吉は太閤となります。
唐入り後は南蛮へも‥と、欲は果てしないですが、水軍が破れたことにより危うくなり、石田三成(中村七之助)らが奉行として海を渡ることに。
家康は、秀吉に、戦にのめり過ぎていることを忠告しますが、秀吉は聞く耳を持ちません。
昌山(足利義昭)は、「遠慮なく厳しいことを言ってくれる者がおってどんだけ助かったか。てっぺんはひとりぼっちじゃ、信用する者をまちがえちゃならんの」と言います。(最初のちゃらんぽらんな感じがすっかりなくなってる。最初からこのぐらいのテンションで良かったんじゃないかなぁ)
「おめえさんはええのう、生まれた時からおめえさんを慕う家臣が周りに大勢おって。わしにはだ~れもおらんかった。わしを見捨てるなよ」と。
義昭が本当に欲しかったものは、心から信頼出来る人間‥だったのかも。
それはたぶん、信長も、秀吉も‥
茶々(北川景子・二役)を京へ返す秀吉。やっと、明と和睦へ。三成らをねぎらう秀吉でしたが、茶々が懐妊、拾が生まれる。ここでまた逆戻りになりそうなのがこわい。
石田三成の夢。
天下人を支えつつ合議によって政をなす。志あり知恵豊かな者たちが話し合い、皆が納得して事を進めて行く。そうなれば天下人の座を力で奪い合うこともなくなる、と。
これは瀬名の理想に近いものでもありますね。
しかし、第二次朝鮮出兵。誰も望まぬ戦がまた始まります。
倒れ、弱る秀吉。秀頼はあまりに幼い。
死期が近づく秀吉は、家康にだけ本音を漏らします。「天下はどうせおめえに取られるんだろう。知恵出し合って話し合いで進める?そんなもん、うまくいくはずがねえ。豊臣の天下はわし一代で終わりだわ」と。
「こんなめちゃくちゃで放り出すのか⁉」と言う家康に、「あとはおめえがどうにかせえ。わしはおめえさんが好きだったに。信長様はご自身の後を引き継ぐのはおめえさんだったと、そう思ってたと思われるわ。悔しいがな」
一方、秀吉に、「秀頼は私の子。天下は渡さぬ」と茶々。「あとは私に任せよ、猿」との言葉に笑う秀吉、泣きながら抱きしめる茶々。秀吉逝去。
―――正直、信長に続き、秀吉が死んだことで、私の中では、このドラマに対してひとつの大きなピリオドが打たれたような感覚がありました。家康対信長、家康対秀吉(決して徳川対織田、徳川対豊臣ではなく)という個と個のぶつかりあいがとても見応えがあったし、それが、役を背負った松本潤・岡田准一・ムロツヨシという三人の役者の真剣勝負にも思えたことに、満たされた感があったので。
こののち続く関ケ原・大坂冬の陣・夏の陣‥そこに描かれるのは、茶々の家康への憎しみと、恋情を含んでいるとも取れる執着‥
「信長にも秀吉にも出来なかったことが、このわしに出来ようか」と言う家康に、「殿だから出来るのでござる」と酒井忠次(大森南朋)。「戦が嫌いな殿だからこそ。嫌われなされ、天下を取りなされ」と。
関ケ原の戦いに敗れた豊臣側。
「秀頼が大きくなるまで、秀頼の代わりを頼みまする」と、あくまで天下を手放したくない茶々。
とにもかくにも、こうして、徳川幕府開闢となります。
関ケ原の戦いに遅参した時から生まれた、長男・秀忠(森崎ウイン)と家康との確執。
1年で将軍を秀忠に譲る、と言う家康に不安げな秀忠。「秀でた者は一代で家をつぶす。偉大なる凡庸でいいのだ」という康政や本多正信(松山ケンイチ)の言葉が少しの救いになったでしょうか。
秀頼(作間龍人)の人気、秀忠の不安。
家康は秀忠に、自分とよく似ている、と。「弱いところ、それを素直に認められるところじゃ。だがわしは戦乱の中でそれを捨てざるを得なかった。捨てずに持っていた頃のほうが多くの者に慕われ幸せであった気がする。わしはそなたがまぶしい、それを大事にせい。戦を求める者たちに天下を渡すな。徳をもって治めるが王道、武をもって治めるが覇道。覇道は王道に及ばぬもの。そなたこそがそれをなすものと信じておる。わしの志を受け継いでくれ」と初めて本音を打ち明けます。
一方、家康を倒して手に入れてこそまことの天下であろう、と茶々。秀頼の成長に、柿が落ちる(家康の死)のを待ちきれない様子。
秀忠に任せてみては?という正信に、家康は、「秀忠は戦を知らんでよい、人殺しの術(すべ)など覚えんでよい。徳川が汚名を着る戦となる。信長や秀吉と同じ地獄を背負い、あの世へ行く‥それが最後の役目じゃ」と。
大坂の冬の陣。
大筒の準備、容赦ない大坂城への砲撃。
自分の娘・千姫がいることもあり、やめろという秀忠に、「主君たる者、身内を守るために多くの者を死なせてはならぬ。これが戦じゃ、この世でもっとも愚かで醜い‥人の所業じゃ」と家康。
冬の陣から夏の陣へ‥豊臣の終焉です。
秀頼に道を選ばせる茶々。余は戦場でこの命を燃やし尽くしたい。余は決して皆を見捨てぬ。と。
秀頼と茶々の死。
ふと、この人が天下を治めていたらどうなっていただろうか‥なんてことを考えてみたりして。
そうしてついに、家康の最期‥
枕元に瀬名と信康の姿。
「やってきたことは‥ただの人殺しじゃ。あの金色の具足をつけた日から望んでしたことはひとつもない。望まぬことばかりを‥したくもないことばかりをして‥」
孫の竹千代が、そっとうさぎの絵を置いて行きます。
「あの子が鎧をまとって戦場に出なくてよい世の中をあなたさまがお作りになったのでしょう。あの子があの子のままで生きていける世の中をあなたが御生涯を懸けて成したのです」と瀬名。
死の瀬戸際、生涯戦い尽くした家康も、その言葉で、少しは安らげたのではないかと思いたいです。
——— と言うわけで、2023年の大河ドラマ『どうする家康』をざっくりと観てきました。
我が推し・田辺誠一さんについて、今回は大きなインパクトを残す役ではなかったですが、初めて観た剃髪がすごく似合っていて、それはとても良かったです。
ただ、もっと感情を丁寧に深堀り出来る役を与えてもらえば、きちんと期待に応えられる人だと思っているので、今回、そこまで観る側に対して訴えるものがなかった(とファンとして思ってしまった)のが残念ではありました。
もっとも、それは梅雪だけでなく、家康の家臣たちにも同じことが言えるのではないか、と。長い時間を掛けることの出来る作品だからこそ、家康や信長や秀吉やお市だけでない、周囲の人々の生きざまも、もうちょっときめ細やかに描いて欲しかったし、それだけの力量を持った俳優さんたちだったのに、十分使い切らないまま終わってしまったと感じられたのが、もったいない気がしました。
NHK大河ドラマ 『どうする家康』
放送: 2023年1月8日 - 12月17日 NHK総合 毎週日曜 20:00 - 20:45
脚本:古沢良太 音楽:稲本響
演出:加藤拓(演出統括) 村橋直樹 川上剛 小野見知
田中諭 野口雄大 梶原登城
制作統括:磯智明 プロデューサー:村山峻平 川口俊介
製作:NHK
出演:松本潤 有村架純 岡田准一 ムロツヨシ 北川景子
松重豊 大森南朋 山田裕貴 杉野遥亮 板垣李光人
山田孝之 松山ケンイチ 細田佳央太 甲本雅裕 岡崎体育
中村七之助 伊東蒼 作間龍斗
野村萬斎 溝端淳平 阿部寛 眞栄田郷敦 田辺誠一
松嶋菜々子 中村勘九郎 古川琴音 古田新太 他
語り・寺島しのぶ