『地の塩』(第2話)感想

『地の塩』(第2話)感想 【ネタバレあり】
【地の塩・・神は人をそう呼ばれた。
それは闇の中でも信頼と誠を尊ぶ唯一無二の存在だから。
だがその心が失われた時、美しい塩は悪魔の砂と化すであろう----】

『地の塩』第2話は、このナレーションからゆっくりと動き出します。

全4話のうちの第2話というのは、
物語の流れから行くと「起・承・転・結」の「承」の部分。
目立って大きな変化はないものの、じんわりと‘闇’が広がって来て、
初回でまったく繋がりのなかった遺跡発掘と殺人事件が、
徐々に渾然と混じり合って来たように感じます。

特に、柏田(板尾創路)が
ひたひたと神村(大泉洋)たちのテリトリーに入り込んで来る、
その不気味さというのは、何とも堪(たま)らないものがありました。

柏田の動きが呼び水となったかのように、
神村も 沢渡(陣内孝則)も 桧山(津嘉山正種)も
互いが顔を合わせて何か話すたびに
観ているこちらがダークな方向に引きずられて行くような気がして、
いったい誰が正しいのか、誰の言うことを信じたらいいのか、
まったく分からなくなって来る・・

中でも、神村と沢渡の会話には不穏な色合いがどんどん蓄積されて、
「おいおい神村〜あんたがそんなことサラッと言ちゃいけないだろう」と
ちょっと切ない気持ちになったり、
「余計なことは言わない」という二人の言葉に
共有する秘密がありそうで、ついつい勘ぐってしまったり。


一方、犯人の手掛かりになる腕時計が神村によって発見されたことで、
殺人事件の方もようやく進展を見せはじめます。
死体を埋めた時になくした時計を密かに探しに来た柏田は、
神村の捏造の証拠を見つけようと発掘現場にやって来た
国松(きたろう)をめった打ちにして殺害、
二つの糸が完全に絡(から)まって、思わぬ展開になりそうな気配・・

次回第3話は「転」の部。
ドラマがどう転がって行くのか、ますます興味は深まります。



さて、今回は、
細かいところなんだけど、人間描写という点で
興味を惹かれたシーンをいくつかランダムに挙げてみたいと思います。


被害者の見つかった場所で柏手を打ち「なんまいだぶ」と唱える柏田。
これはもちろん本当に信心深い人なら絶対にやらないことで、
(柏手かしわで南無阿弥陀仏は宗旨違い)
柏田に対して馬場(田中圭)が疑いを持つ伏線になるのではないか、
という気がします。


「自分を曲げるってことがどういうことかお前に分かるのかね、
研究者を全うしているお前に・・」
直後の回想シーンで沢渡の屈折を見せられるだけに、
この神村に対する一言が
どれほど複雑な心境の上に成り立っているのかを考えると、
ちょっと沢渡に同情してしまった。


妹の遺骨が発見されたことで世間の好奇の目にさらされる
小枝子(岩崎ひろみ)に 行永(田辺誠一)が言った
「似合わないこと言いますが、俺を・・私を信じて下さい」
発見した腕時計を持って来た神村に言う
「虫がいいけど、どんどん掘って何でも持って来て」
この自分を一歩引かせた言い方に、
行永の人間性が伝わって来るような気がしました。


人間性、と言えば、神村が講演会で話した
「小学校の友達が鎌倉幕府の成立を[よいくにつくろう]と覚えていて、
テストの答案に4192年と書き、周囲から‘未来人’と言われた」
という笑い話は、神村という人間の振り幅の広さを伝えるのに
非常に役立っているように思えます。
この話の流れの最後に、
「2014年春には、鎌倉幕府成立の時期を6学説紹介する教科書が出る。
いずれの学説にも軍配を上げない、それも正しい歴史の捉え方だと思う。
なぜなら、歴史は常に変化するから」
と話す神村の言葉にも深い意味が込められているのではないかと。

「神の手」と呼ばれる神村が、
母親(朝加真由美)とのコミュニケーションツールとして
その手を使って手話をする、というのも、興味深いところ。
このシーンがあるから、彼が沢渡とどんな物騒な会話をしても、
芯から悪い人間には思えないのだけれど・・
はたしてそれらは脚本の井上さんが周到に張った罠なのかどうか。


国松の調査を依頼しながら、娘(大野百花)には会わせない、と言い、
コーヒー代を置いて行く里奈(松雪泰子)と
元夫・新谷(袴田吉彦)の、絶妙な距離感。

そして何より、今回私が すごい!と思ったのが、
リビングで寝過ごした里奈が、娘・亜子を学校に送り出す時に、
玄関先で傘を渡そうとして、ふと外を見ると明るい・・というシーン。
本当に何気ない一瞬の出来事なのだけれど、
このワンシーンに込められたものを想像すると、何だかドキドキして。
傘というアイテムひとつで、伝わって来るものがあるんですよね。

おそらく里奈が寝過ごしたのは、夢を見ていたから。
その夢は、おそらく、雨の日に発掘現場を掘っている男の姿・・
つまり彼女の夢は、
そのひとつ前のカット(柏田が雨の中で掘ってる)の情景と同じもので、
しかし掘っているのは神村だったのではないか・・
そんな 何とも重苦しい雨の夢を見ていたのではないか、と。
里奈は、そんな夢を見てしまうぐらい、自分の仕事に責任を感じている
非常に真面目でストイックな人なんじゃないか・・
そんな彼女の性格まで伝わって来るような、
意味のあるカットだったように私には思われました。


そういう何気ない、でもいくらでも深読み出来そうな
シーンやカットが他にもあちこちにあって、
だからこそ人間描写が平板にならず、厚みや深みが出て、
ドラマとしての面白さに上乗せされた
独特のコクを醸し出してるんじゃないか、という気がしました。

そういうシーンが、今後もたくさん見られることを期待したいです。


追伸
ドラマの中で非常に有効に使われている雨のシーンですが、
ラストクレジットの後、何もない画面に雨の音だけが続く・・
この余韻の残る終わり方も好きです。


新約聖書「マタイによる福音書」(第5章13節)
 汝らは地の塩なり,塩もし効力を失はば,何をもてか之に塩すべき。
 後は用なし,外にすてられて人に踏まるるのみ。

   (あなたがたは、地の塩です。
    もし塩が塩けをなくしたら、何によって塩けをつけるのでしょう。
    もう何の役にも立たず、外に捨てられて人々に踏みつけられるだけです)

『地の塩』     
放送日時:2014年2月16日-毎週日曜 22:00-(WOWOW
脚本:井上由美子/演出:鈴木浩介 演出補:権野元/音楽:村松崇継
プロデュース:青木泰憲 河角直樹 制作協力:国際放映
キャスト:大泉洋 松雪泰子 田辺誠一 田中圭 板尾創路 陣内孝則
袴田吉彦 岩崎ひろみ 勝部演之 朝加真由美 大野百花 河原崎健三 きたろう 津嘉山正種   『地の塩』公式サイト