『地の塩』(第3話)感想

『地の塩』(第3話)感想 【ネタバレあり】
終盤、発掘再開を祝う塩名遺跡前での
神村(大泉洋)と里奈(松雪泰子)との静かで熱い応酬は、
非常に見応えがありました。
3話は、神村が本当に捏造したのかどうかをミステリータッチで追う、
というような展開になるのかと思ったのですが、
神村は、里奈の前であっさりと捏造したことを告白、
しかしそこからの神村の言葉には、非常に惹き付けられるものがあり、
この捏造を犯罪と言い切ることを躊躇(ためら)わせるほどの
説得力がありました。

罪を犯したはずの神村の言葉が一種神聖なものに聞こえるのは、
それでもなお、考古学者としての純粋な誇りや夢が、
彼の中に息づいていると感じられるからなのかもしれない。
私利私欲のためでなく、周囲の誰かのためでもなく、
遺跡の下から古代人の声を聴く、そのためだけに土を掘る・・

「嘘じゃないんだ。桧山先生と私の学説は疑う余地もなく正しいんです。
日本にも前期旧石器時代は存在したんですよ。
でも あの時 私が捏造しなかったら、
それが正しいと立証するための研究は出来なかった。
それは考古学において大きな損失です
だから私は石器を埋めて・・今ここにいるんです」

しかし、その学説にどれほどの信憑性があったとしても、
違った立場の人間から見れば、
神村の正しさは、正しいものではなくなるのですよね。
たとえば、塩名遺跡を教科書に載せようとしている編集者(松雪)や、
神村を‘神の手’と信じて慕う後輩(田中圭)、
真偽を糺(ただ)そうとする新聞記者(袴田吉彦)にとっては・・

一方で、一番動きそうだった警察が、
そのことにあまり興味を示さなかったのも意外だった。
行永(田辺誠一)には、事件性がなければ動けない、という建前の他に、
自分が関わったふたつの殺人事件の犯人捜査に神村の力を借り、
彼に信頼を寄せているという事情がある。
「捜査のために見て見ないふりをするとおっしゃるのですか」
と言う里奈のまっすぐな視線を受けて
「そうしてでも、私には貫きたいものがあるんです」
複雑な色を孕(はら)みながらも しっかりと視線を返す行永・・
このやりとりも、観ていて非常に惹かれるものがありました。
   (余談ですが、私が田辺さんのファンを長く続けているのは、
    こういう繊細な表情を見せてくれる俳優さんだから ・・のような気がします)


自分の学説が正しいと立証する研究を進めるために捏造した考古学者、
それを教科書に載せていいものか悩む編集者、
「本当のこと」より強いものはないと言う新聞記者、
考古学者に憧れ、だからこそ彼のやったことを受け入れられない後輩、
事件性がなければ動こうとしない警察・・
それぞれの立場の違いが その言動によって浮き上がって来て、
「捏造問題」に対する距離感の違いが明確になって行く・・
そこが、今回、私には 非常に興味深く感じられました。


一方、
13年前の殺人事件と今回の国松殺しの関連性を調べ始めた警察に
神村が協力するらしい、と知った柏田(板尾創路)は、
殺意の矛先を神村に向けて来ます。
しかし、そのことで逆に時計(証拠品)との繋がりを知られ、
追い詰められて行くことになります。

そのあたりの流れは 正直少し拵(こしら)え過ぎたような気がしますが、
柏田を演じる板尾さんには 薄っぺらな嘘っぽさが感じられず、
アブノーマルな空気をしっかりと作っていて、
どんな場面でどんな行動をとっても怖いところが凄いです。


次回はいよいよ最終回、
この柏田の神村への理不尽な恨みがどういう形で決着するのか、
捏造問題の成り行きと共に、おおいに興味を惹かれるところです。



『地の塩』     
放送日時:2014年2月16日-毎週日曜 22:00-(WOWOW
脚本:井上由美子/演出:権野元/音楽:村松崇継
プロデュース:青木泰憲 河角直樹 制作協力:国際放映
キャスト:大泉洋 松雪泰子 田辺誠一 田中圭 板尾創路 陣内孝則
袴田吉彦 岩崎ひろみ 勝部演之 朝加真由美 大野百花 河原崎健三 きたろう 津嘉山正種   『地の塩』公式サイト