『SRO〜警視庁広域捜査専任特別調査室〜』感想

『SRO〜警視庁広域捜査専任特別調査室〜』感想 【ネタバレあり】
原作(富樫倫太郎さん著)は未読です。


面白くなりそうな要素はいろいろあったんですが、
正直、それらが あまり うまく機能していなかったように思われました。
SROのメンバーに対しても、事件そのものに対しても、
深く踏み込んで行く前に終わってしまった、という感じ。


■事件について〜「猟奇」をどう描くか〜
近藤房子(戸田恵子)には、息子を失った哀しい過去があるんですが、
そのことと、夫・一郎(温水洋一)の猟奇犯罪との関連性が、
私にはイマイチ理解出来なくて、そのせいか、
この夫婦に対して共感も同情も寄せることが出来ませんでした。
この夫婦をどういう人間として描くか、というのは、
ドラマにとって、すごく重要なポイントだったはずなんですが・・


犯人を、単なる猟奇趣味を持った変人、とか、
快楽殺人鬼、として描くなら(近藤一郎が本当にそういう男だったとしたら)
今回のような生ぬるい「猟奇」の描き方でも良かったかもしれない。
でも、そこに、‘息子を失った痛み’が少しでも含まれるなら、
そこから殺人に至るまでの「悲劇」を、しっかり描かなければならない、
殺人を「猟奇ごっこ」みたいな安易な表現にしてはいけない、
と、私は思うのですよね。 
まして、彼の背後にいる房子を、
「伝説のシリアルキラー(連続殺人犯)」と呼ばれるような
“特別な狂気”を内在している人間、として描きたいのなら、
なおさら、猟奇行動に「切れ味」がなければならない、と思う。
(『ストロベリーナイト』『淋しい狩人』等は、そのあたりの表現が上手かった)


そもそも、
「SRO」というチームの背景を 1 からきっちりと伝えつつ、
平行して 近藤房子の魅力(という言い方をあえてさせてもらいますが)
を2時間で描くのは、かなり難しかったような気がします。


同じぐらいの時間尺で描かれた猟奇殺人事件の犯人というと、
私は『踊る大捜査線THE MOVIE』の日向真奈美(小泉今日子
を思い出すんですが、
あの時は、連ドラの時点で「踊る・・」の外ワクがしっかり出来上がっていて、
湾岸署のメンバーについても かなり描き込まれた後だったので、
日向の猟奇性を表現するために十分な時間を費やすことが出来たし、
日向に対峙する刑事たちの動きや感情についても、
不自然なく、観る側に伝えることが出来ていたように思います。


そう考えると、このドラマも、
「SRO」の成り立ち・メンバーの背景や個性、と、
シリアルキラー・近藤房子の事件、を同時に描くためには、
もっと多くの時間をかけた方が良かったんじゃないでしょうか。
そして、じっくりと腰をすえて、
SROの立ち上げから 徐々に組織として育って行くところも、
事件を通して房子の狂気(息子の死から猟奇殺人に至る感情の蓄積)
に迫って行く過程についても、丁寧に密度濃く描いてくれたら、
かなり面白いドラマになっていたのではないか、と。


■SROについて。
もともと、山根(田辺誠一)が総理に掛け合って作った部署なのだから、
同僚を殴った尾形(木下隆之)も、
威嚇なしに犯人を撃ち殺した針谷(徳山秀典)も、
警視庁のブラックノートを持つ富田(日野陽仁)も、
そのノートの在り処を探るスパイ・木戸(安藤玉恵)も、
情報局にいた芝原麗子(木村佳乃)も、
全員、その素性と能力を熟知した上で山根が選んだ、という設定には
出来なかったでしょうか。


たとえば、針谷に対しては、人質を救うために外聞を恐れずに発砲した、
その積極的な防御の姿勢を見込んだ、とか、
警察上層部からSROに対して圧力をかけにくくするために、
ブラックノートを持つ富田を引き入れた、とか、
柴原にしても、SROの解体を願う胡桃沢(山口馬木也)の
息の掛かった人間と知った上で、情報捜査の才能を買った、とか、
山根に、そんな きわどい人選をするだけのしたたかさと鋭さがあったなら、
SROに集めたメンバーの顔ぶれの意味も、かなり深まったでしょうし、
メンバーそれぞれの個性も、「はみ出しゆえの魅力」となって
伝わったのではないか、という気がします。


「誰がスパイかなんてどうでもいい!」という山根の言葉には、
そんな些細なことで内輪揉めしてる場合じゃない!という、
事件に対する強くて切羽詰った姿勢が示されていると思うのですが、
それが全体的な緊迫感に繋がらなかったことが、
すごくもったいなく感じられました。
マザーやブラックノートといった魅力的なアイテムを
十分に生かし切れなかったことも、同様に。


■出演者について。
▼近藤房子(戸田恵子さん)
房子が、愛する息子を失った母親の涙から一変、
山根に迫られて本性をさらすのは、ラスト近くのほんの1〜2分。
わずかそれだけで、しっかりと房子の狂気に信憑性を持たせた、
戸田さんの底力に感服しました。
それだけのことが出来る力のある女優さんだけに、
脚本や演出の段階で、近藤房子を、
もっともっと魅力的な強敵として描いて欲しかったです。


▼近藤一郎(温水洋一さん)
この人も房子と同じ、息子を亡くした痛みを持っているはずなんですが、
そこのところが何も描かれなかったので、
観ている側としては、なかなか感情移入出来なかったです。
温水さんは、最近バラエティにも多く出演されていて、
穏やかでいい人、のイメージが私の中で出来上がってしまっていたので、
より違和感が強まってしまった、ということもあったかもしれないですが・・


▼芝原麗子(木村佳乃さん)
胡桃沢から盗聴器を仕掛けるよう命令されたり、
被害者の痛みが分かっていない!と土を投げつけられたり、
その時々、彼女には、さまざまな揺らぎや陰影があるはずなのですが、
それがうまくストーリーとかみ合っていなくて、気の毒な気がしました。
木村さんがこういう役をやるのは珍しいと思うのですが、
しゃきっとした物言いは気持ち良かったです。


▼SROのメンバー(木下隆之さん、徳山秀典さん、日野陽仁さん、
安藤玉恵さん)と、胡桃沢大介(山口馬木也さん)
それぞれの設定については、興味深い部分もあり、
うまく展開して行ったら、個性的で面白いチームになるんじゃないか、と
思わせてくれるものがありました。
俳優さんたちに、きっちり背骨(芯)の通った役を渡してあげたら、
魅力的な肉付けをしてくれたんじゃないかと思うのですが、
これだけ個性的なメンバー(顔ぶれも設定も)を揃えたのに、
最後まで、ただ何となく はみだし者が集められた、
という印象しか持てなかったのは、本当にもったいなかったです。
胡桃沢も、なにやら面白そうなおじさん、で終わってしまいましたし。


▼山根新九郎(田辺誠一さん)
ちょっと優し過ぎましたかね。
昆虫好きの変わり者、というだけではない、
SROというチームに託した自分の夢を果たすための、
しっかりした信念や情熱や強さや頑固さ、抜け目なさ、したたかさ等々も、
山根の芯には あるはずだと思うし、
そういう山根を演じる田辺さんを観たかったですが、
今回の脚本・演出では、そこまでの表現を求められなかったのが残念。
たとえば、取調室で、
懐柔されそうになっている甘ちゃん柴原の後ろに、
鋭く厳しい視線を注ぐ山根が立っていて、
シリアルキラー・近藤房子と真正面から対峙し糾弾する、
房子はそれを笑い飛ばし跳ね返す、
それだけでも、3人の力関係が伝わったのではないかと思うのですが・・


それと、個人的には、
SROを潰したい胡桃沢と、それをかわす食えない山根との、
腹に一物を抱えたタヌキ同士のやりとり、なんてのも、観てみたかったです。
・・いや、山口さんと田辺さんが対面してるところを観たかった、という、
私個人の趣味が多分に入っていますが。w


・・・・うーん、出来ることなら、
原作の面白さを改めて深く掘り返し、もう一度仕切り直しした上で、
SRO+胡桃沢+近藤房子を同じ顔ぶれで観てみたいんですが・・
難しいでしょうか。


『SRO〜警視庁広域捜査専任特別調査室〜』
放送日時:2013年12月9日(月)21:00-(TBS系)
脚本:川嶋澄乃/演出:佐々木章光/
原作:富樫倫太郎『SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室』
プロデュース:佐々木章光 石田義一 吉川厚志/編成:加藤新
キャスト:木村佳乃 田辺誠一
木下隆行(TKO) 日野陽仁 徳山秀典 安藤玉恵
山口馬木也温水洋一戸田恵子 

『SRO〜警視庁広域捜査専任特別調査室〜』公式サイト