『八犬伝』感想:1

八犬伝』(シアターコクーン)感想:1 【ネタバレあり】
注意!一部ネタバレしています。
これから舞台をご覧になる方は、あらかじめご了承の上 お読み下さい。

 

すごく面白かったし楽しかったです!
エンターテイメントとしての思い切りの良さが いい形で出て、
スピーディな場面転換の中、
軽妙なセリフのやりとり、激しい立ち回りの連続、
物語の中に違和感なく差し込まれる和太鼓や、
闇の中で自在に動く水晶玉、等々、
観客を飽きさせない工夫が随所にあり、
奇想天外な展開を ワクワクドキドキしながら観ることが出来ました。

 

このテイストに一番近いのは、
劇団☆新感線(いのうえ歌舞伎)あたりかもしれないけれど、
この舞台は、まだそこまで洗練されていない、イメージが固まっていない、
だからこその「自由さ」のようなものや、
熟成されていないからこその「勢い」のようなものもあって、
初期の新感線ってこんな感じだったのかなぁ、
なんてことを、ふと思いました。(あくまで想像ですが)

 

そのあたりは、河原雅彦さんの演出のたまものでもあるし、
「エンターテイメントの申し子」と言ってもいい阿部サダヲさんの、
不思議といつも初々しい、独特の存在感によるものが大きい気もします。
阿部サダヲが出ている、というだけで、「面白いに違いない」
と思わせてしまう不思議な力が 彼にはあるんですよね〜、
それで実際本当に面白いんだから・・凄い人です。

 

それと、何と言っても、青木豪さんの脚本が、
滝沢馬琴の原作を大胆に脚色して、
あまりにも有名なこの物語に、終盤、現代の空気を吹き込んでみせ、
安易に、大義を果たしてめでたしめでたし、としなかったところに、
(数多く映画化・ドラマ化・舞台化された)他の八犬伝にはない
独特の辛味と深みがあったように思います。

 

1幕から2幕中盤まで、
原作の有名なエピソードをピックアップして八犬士の背景を描き、
八犬伝』の世界観をきっちりと作って、
8人勢ぞろいでかっこよく見得を切った・・その直後から急転直下、
物語がまったく違った様相を呈して来て、
そこからグイグイ観る者を引き込んで行くところが凄かった!

 

大義」という名分のもと集められた八犬士、
彼らが持つ8つの水晶玉をなぜゝ大(ちゅだい)法師が欲しがったのか、
その本当の理由を知った時に、
青木さんがこの芝居に託したテーマが浮き上がって来る仕掛けで、
それが、人間でありながら犬に非常に近しい八犬士ならでは
への重い問いかけにもなっていて、
うわ〜そう来たか!と、しばし絶句してしまいました。

 

大義や使命といった言葉に踊らされ 殺生を繰り返す人間・・
おろかで浅はかで欲にまみれた人間・・
それならいっそ、
むやみな殺生はせず必要以上なものは欲しがらない獣(けもの)になった方が、
ずっと幸せではないのか・・?

 

信乃は叫ぶ、「それでも わしは人間であることを選ぶ!」
大義とは遠く離れたところで、小さきものに心を寄せようとする・・
欲にまみれた自分を自分でどうにかしなければと考える・・
そういう人間として生きる、と。

 

敵との闘いが終わった後、信乃はまた、こんなことも言います。
「あらゆるものの声を・・聞くことだ。
がれきや、死んで行った人間たちの小さな声を聞くことだ。
これから何をしたらいいか、どこへ行ったらいいか分からないが・・
このむちゃくちゃな世の中をむちゃくちゃに生きて行くしかない。」
この場面で、私は不覚にも胸にグッと来るものをこらえ切れなかった。
むちゃくちゃに生きて行く、とは、がむしゃらに生きて行く、ということ。
饒舌(じょうぜつ)過ぎ、とも取れるセリフではあるけれど、
そこからじんわりと青木さんのメッセージが伝わって、
背中をポンと押されたような気がしました。

 

出演者について。
先程 サダヲさんの存在感、ということを書きましたが、さらに驚いたのは、
他の出演者が、それぞれに、自分の色味(個性)を
きっちりと役に乗せて魅力的に演じていて、
観る側に、サダヲさん一人だけが突出して頑張っている、
という印象を ほとんど持たせなかったこと。

 

特に、八犬士については、
よくもまぁ これだけのメンバーを揃えたなぁ!と、内心驚嘆してしまった。
瀬戸康史くん、中村倫也くん、尾上寛之くん、太賀くん・・
イマドキの若い俳優さん、皆うまいですし、
自分の出し方をちゃんと知っているのがすごい。
そこに、サダヲさん始め、津田寛治さん、近藤公園さん、辰巳智秋さん
といった、しっかり若手を下支え出来る手練れが入って、
非常に魅力的なメンバーになっていました。

 

八犬士以外では、二階堂ふみさんが、堂々の初舞台ぶり。
前半と後半でまったく違うキャラを見事に体現していて、凄かったです。

 

・・もっと詳しく一人一人のことを書きたいのですが、
ものすごく長くなってしまいそうなのでw、改めて。
演出・殺陣・音響効果・映像等々についても、
改めて詳しく書きたいと思います。

 

ゝ大法師を演じた田辺誠一さんについては、『八犬伝』感想:2 をご覧下さい。

 

観劇日 2013.3.13 13:00- XC席/18:30- I席