平成中村座『め組の喧嘩』(wowow)感想

平成中村座『め組の喧嘩』(wowow)感想
『法界坊』とともに、中村勘三郎さんの追悼番組として放送されました。
『髪結新三』の時も思ったのだけれど、
歌舞伎の世話物というのは、物語の面白さというよりも、
江戸の風情(情緒)を味わうものなんじゃないか、という気がしました。
ストーリーそのものは単純で、ラストもあっけないのですが、
出て来る人たちが、とにかくかっこいいし、いなせだし、
キレの良いセリフがポンポン飛び出して、
いちいち、ああ江戸の空気ってこういうものなんだろうなぁ、と、
納得させられてしまうのですよね。


中でも、やはり、辰五郎を演じた勘三郎さんが素晴らしかった。
法被(はっぴ)の裾をクイッとたくし上げる後姿とか、
煙管キセルを扱う仕草だとか、
ひとつひとつキリッとポーズを取る姿が美しくて、もう惚れ惚れ。
立ち居振舞すべて決まっている上に、
奥さん(扇雀さんがかっこいい)や子どもとの情にも、
め組の若い者たちとの信頼関係にも、
力士たちに対する爆発寸前の感情にも、
辰五郎という人間の輪郭をしっかり際立たせて演じていて、
観ていて本当に気持ちが良かったです。


勘九郎さんは、
力士たちとの喧嘩のきっかけを作る血気盛んな鳶の若者。
あとは、ラスト前に纏(まとい)を持つぐらいしか出番はないのですが、
ものすごく大勢の人間が右往左往する舞台でも、
きっちりと居所が分かるのは、さすが。
でも・・いつかは・・そう、もう少し色気が増してきたら・・
ぜひ辰五郎をやって欲しい、と思いました。


ラストは、舞台奥から本物の三社神輿が登場する、というサプライズ。
総勢100人以上の人が舞台上にいる光景は壮観。
それにも驚いたけれど、
担ぎ手の中に、坂東彌十郎さんや笹野高史さんがいて、びっくり。
(お芝居には出ていないのにわざわざ駆けつけた)
その姿に、勘三郎さんとの長年の深い親交が感じられて、
なんだか胸が熱くなりました。