『風林火山』(第9回)感想

風林火山』(第9回)感想
何なんでしょうか、この中身の濃さは!
脚本家も、俳優も、演出家も、
このドラマに係わっている人たちがそれぞれに、
緊迫感を持って、登場人物に生き生きとした命を吹き込もうとしている。
出てくる人出てくる人が皆本当に魅力的で、目移りして困ります。(笑)


勘助/内野聖陽
晴信に首を差し出した時の気持ち、というのは、
どういうものだったんでしょうか。
この時の勘助には、
もちろん「もっと生きたい!」という思いがあったはず。
それでも、晴信の、鮮やかな海ノ口城攻めや、
父・信虎との葛藤を知った今は、
「この人になら、討たれても仕方ない」という、
納得したところもあったのでしょうか。
晴信が討ったのは、勘助の心に棲まう「怨」「邪念」の心。
それを、16歳の若僧に一刀両断にされた屈辱――
後首で止められた晴信の太刀の穢(けが)れなさに打ち震える
内野さんの演技は、余計な脂分をいっさい搾り取った感じがして、
観ているこちらに、
ヒリヒリと皮膚感覚で直接伝わって来るものがあったように思いました。


晴信/市川亀治郎
この人はまた、
「晴信を演じるその演じ方」に、非常に魅力の感じられる人。
身も心も勘助になりきっている内野さんとはまた違って、
晴信を細かく分析・解読して、役作りをしているような印象を受けます。
(あくまで私個人の印象です)
それが、役の上に 嫌な臭(くさ)みとして残らないのは、
晴信を十分に理解したその演じ方にブレがなく、
否応なく納得させられてしまう「演技力」というスキル(技術)が
あるから。
後半、声のトーンをかすかに落として、3年の月日を感じさせたあたり、
地味な場面でしたが、私のツボでした。


板垣/千葉真一
彼が守役として仕える晴信は、
どんどん深刻な状況に追い詰められているのですが、
板垣を演じている千葉さんにはどこか、
そういう状況をやわらげる一種の明るさのようなものがあって、
随分と救われているような気がします。(晴信も、観てる私たちも。笑)
何より、動きが軽快なのがいい。
海ノ口城での二刀流での闘いなども、爽快でした。


平蔵/佐藤隆太
後半、ミツ(水川あさみ)に救われた後の平蔵が、
ものすごく良かったです。
何だろう、空虚さみたいなものが伝わってきた、というか。
こういう隆太くんを観たことがなかったので、
ちょっとびっくりしてしまいました。
勘助の節目節目に唐突に登場することが多いので、
平蔵としての気持ちを切らずに繋げ続けるのは大変でしょうが、
観る側としては、佐藤隆太という俳優さんの新しい発見があるのは嬉しい。


諏訪頼重小日向文世
いや〜、この人のこういう作り方が好き。(笑)
田口トモロウさんとか、この人とか、
ちょっとの出で、おいしいところを持って行っちゃいますよね〜。


由布姫/柴本幸
意志の強そうな眉と瞳が印象的でした。
短い出だったので、まだどういう女優さんなのか分からないけれど、
私としては、掴みはOK、というところでしょうか。
これから本格的な台詞と所作が入った時にどうなるか、が、楽しみです。


小山田信有/田辺誠一
海ノ口城から戻った晴信と信虎とのやりとりを
後ろで聞いていた時の信有が、
本当にいろんなものを伝えてくれていたような気がします。
・・って、コアなファンでもなけりゃ、
あんな後ろの様子まで気にする人はいないのかもしれないけど。(笑)
ここは、でも、信有にとっては、
とても大事なシーンだったと思うのですよね。
晴信のことを歯牙にも掛けなかった信有としては、
この短い父子のやりとりの間に、
「あの海ノ口城を攻め落としたって!?こいつが?」から、
「この人は領主になるべき人、その器量を持った人なのかもしれない」
という、心の変化がなければならないと思うのだけれど、
それが、後ろで聞いてる信有の様子から、
ちゃんと伝わって来たと思うので。
(だからこそ、信虎(仲代達矢)が、跡継ぎを示唆するように
次男・信繁(嘉島典俊)に杯を与えるシーンにも
いて欲しかったな、と思う、
あの装束の信有が観たかった、という私個人の不純な動機も含めて。笑)

晴信が去る際、誰よりも先に退き、平伏した信有の顔には、
甲斐を誰に委ねればいいのか、に、ようやく自分なりの決着を見た、という
ひそかな喜びさえ感じられた・・と言ったら、
さすがに読み過ぎでしょうか。(笑)


―――それにしても。
信有を演じている田辺さんを観ていると、
田辺さんが過去に演じたいろいろな役のリベンジをしてもらっている、
と感じることが、本当に多いです。
(あくまで私個人の気持ちとして、ですが)
『からくり事件帖』の兵四郎、『信長』の光秀、『大奥〜華の乱』の成住、
等々の時代劇はもちろん、
今回などは、『半落ち』の片桐の物足りなさも払拭してくれたように
感じられて、嬉しかったです。(解かりにくい話ですみません。笑)