●第1話/「FIRST KISS」
もうこれは、田辺誠一さんのはっちゃけ二枚目ぶりを楽しめばそれでいい、
ってことなんですが。
途中、黒い学ランを着た軽音楽部(クドカン他)の連中が登場した
あたりから、何だか愕然としちゃったんですね、
この高校の制服が、実は白じゃなくて黒だったんだ、と知り、
追い討ちをかけるように「田辺くんもまた転校生だった」ということが
発覚したところで、
このお話の底にあったものが、急に浮き上がって来たような気がして。
「転校生は、次の転校生が来るまでずっと転校生でいなけりゃならない」
これって、決して目新しい題材(テーマ)じゃないんだけど、
普通は、新しい転校生(尾美くん)が、次のターゲットになる、
というところで収まるのに、
なんか、このお話は、そういう収束の仕方はしなさそうで、恐くなった。
きっと永遠に白い田辺くんはいじめられる、
永遠に「転校生」のままでいなけりゃならない、白いうちはずっと。
そんなことを思った時に、ふと、
この、白い田辺くんの「浮いた状態」というのは、
『No where』(ライフ・イズ・ジャーニー)の「男」に繋がるものなんじゃないか、
などというところに思考が飛んでしまい、
ならば、たとえば宮藤さんなら、
「田辺さんが『No where』で伝えたかったもの」を
今回のように、ものすごい笑いの詰まった中に、スコンと入れ込んで
みせることも出来るのかもしれない、と、
そういう作り方も‘あり’なのかもしれない、と、
ちょっとそのあたり、
田辺監督に突きつけてみたい衝動に駆られたのでした。
●第2話/「ナンバーワン・イン・ザ・UNKO」
この新人ホストの役を観た時に、内心、
「田辺さん、看板・阿部サダヲと堂々ガチンコ勝負してる〜タイマンだ〜」
と嬉しくなりました。(笑)
最初は、さも先輩を立ててるように見せて、
実はマイペースでどんどん進めて行っちゃうあたり、
それを苦もなくやっちゃってる田辺さんと、
すかさず、ちゃちゃ入れつつ突っ込んでる阿部さんと、
そのやりとりを観てるだけで、なんだかすごく嬉しかった。(笑)
あの『月下の棋士』の時、
5年半後に、こ〜んな役(爆)をふたりが同じ舞台で
(しかも阿部さんのフィールドで)演じることになるなんて、
まったく予想も想像もしてなかったよなぁ、なんて、
今、改めて、そんなことを考えて、幸せな感慨にふけってみたり。(笑)
●第3話/マタニティ堀内
阿部サダヲさんの独壇場。(笑)
その世界に割り込んで来る五十嵐医師(田辺)は、今度は第2話と違って、
かなり‘受け’の演技をしてました。
しかし、同じ名前でも『熊パン』の時のひ弱さはなく、
田辺さん自身の持ち味、というより、
「演じること」で作り上げたキャラなんだな、と感じました。
五十嵐が廊下を歩いてて、ナースとすれ違うんですが、
その時、お尻をさらっと触るのね。
それがいやらしくなくて(笑)、触られたナースはきっと
「きゃっ♪五十嵐先生に触られちゃった」なんて、
内心喜んでたりするのかな、などと思いました。
松尾スズキじゃそうは行かないもんなぁ、なんて。(笑)
ラストのシメが、どうも私には弱いと思えるのですが。
内容的にも、田辺さんの言い方にしても。
ひょっとしたら、私、クドカンが、このラストに含ませようとしたものを、
読み損(そこ)ねてしまったかもしれない。
まぁ、こういうストーリーで あーだこーだ「読んでる」こと自体
間違ってるのかもしれないんだけど。(笑)
●第4話/ほとんど×三宅マン
これはもう、三宅弘城さんのキャラあってのお話なんでしょうね。(笑)
三宅さんって、いじられ強い(って言葉があるのか?笑)んだなぁ、
とつくづく。
このお芝居を観る前、私の中に何となく出来てたイメージを、
一番壊してくれたのが、三宅さんでしたね。
ドラムもほんとかっこ良かったし。
このお話の時の田辺さんは、
まだ、ちゃんと自分の位置を掴み切れていない感じがしました。
どこか、踏み切れてない、というか、思い切って飛んでない、というか。
だから、逆に、今後変わって行くのだとしたら、
このあたりなのかもしれない。
●第5話/SHOW-Z.com
これは、何と言っても、阿部さん扮するゴスロリ少女に尽きます。
もう、見事!という他はない。(笑)
「いじって欲しい〜!」光線出まくりでした。
でも、三宅さんに対する阿部さん的ないじり役が、
このお話には出て来なかった、それがちょっと残念。
田辺さんは出てないのですが、
このラストに、例えば暴走族の強面(こわもて)兄ちゃん
みたいな役で出て来て、ゴスロリ阿部ちゃんのココロをワシ掴み〜
なんて展開でも面白かったのに・・などと。(笑)
ふたりをもっといろんな形で絡ませてみたかったなぁ、と思いました。
●第6話/むねさん
実はこの作品、私の中で、ちょっとやっかいな位置にあるんです。
確かに面白いんだけど、どうも「笑い」としては捉え切れていなくて、
すごく重い感じなんですよね。
それはひとえに、むねさん、という役から導き出されてるものなんですが。
宮藤さん、『木更津キャッツアイ』でも、
ちょっと頭の弱いオジー(古田新太さん)を登場させてますが、
むねさんやオジーを通して伝えたいこと、というのが、
ちゃんとあるんだろうな、という気がします。
それはたぶん、『熊沢パンキース03』の底辺にも流れていた、
地方ゆえに切り捨てられない「何か」、地方ゆえに許されている「何か」
でもあるのかもしれない、なんてことを考えたり。
それを、『木更津・・』ならともかく、
「爆笑コント集」(笑)みたいなこの舞台にさらりと乗せてしまう、
そういうクドカンが、私には、ちょっとピリッと痛い感じがしました。
むねさんを演じているのは、尾美としのりさん。
正直、彼にとって、この役を舞台で演じる、というのは、
非常に難しいことだったのではないか、と、推察するのですが、
実際はどうだったのでしょうか。
例えば古田さんなら、あるいは荒川良々さんなら、
むねさんの外身と中身のバランスを上手く取ることが出来るだろう。
だけど、尾美さんには、まだ、「そこ」まで突き抜けて行くには、
わずかな躊躇(ちゅうちょ)や戸惑いが残っているような気が、私にはしました。
そしてそれが・・
(少なくともまだ)自分の中に壊せないものを持っている尾美さんが、
私には、古田さんたちとは違った意味で、
魅力的であるようにも思いました。
むねさん、という非常に危ういバクダンを抱えたせいか、
物語自体も、5話までとはまったく違う色味を帯びています。
これは、まるで新劇。
そんな中、田辺さんが、非常に柔軟に役を捉え、
「白い恋人・田辺くん」とはまったく違った演技
(与兵衛的と言えばいいか)を見せて、
有無を言わせず観客を「向こうの世界」に引きずり込んでいたのが、
私には、とても印象的でした。
●第7話/七人の恋人
「むねさん」という見た目も中身もハードな作品の後だったせいか、
何となくゆる〜〜い流れで、
正直、もう終わっちゃうの?という感じだったのですが・・・・
6人が、ひとりずつ「ありがとうございました」と言って
第二ボタンをはずして行き、
その後に、田辺さんが「ごちそうさまでした」と言ってどんぶりを置く、
という、
言わば「このお芝居の幕引き」の役が田辺さんに与えられたこと、が・・
それを与えてくれたのが、名にしおう宮藤官九郎だったことが・・
そして、それが、ただ「田辺誠一」という名前だけではなく、
彼の、この作品におけるすべての演技に対する正当な評価として
与えられたと信じられたことが・・
私にとっては、とてもとても、嬉しく、幸せなことでもありました。