『ゴーチエ短編集』(ラジオドラマ)感想

 『ゴーチエ短編集』(ラジオドラマ)のことを、
なんにも書いてなかったなぁ、と。

 

ゴーチエの作品は、「素材」としては、とてもいいと思いました。
それを「田辺誠一に読ませる」というのも、いい発想だったと思う。

ただ、ゴーチエが、ホラー作家ではなく、幻想小説家なのだと言うのなら、
もっと真正面から、逃げずに、
その「幻想」や「耽美」といった雰囲気を、
徹頭徹尾作り上げようとする姿勢を示して欲しかったようにも思うのです。

 

たとえば、田辺さんの語りにしても、
「午前0時と言えば、日本ではゼロアワーの始まる時間」とか、
「しんがっこうと言っても、ラサールや開成のような」とか、
そういう「遊び」は必要なかったのではないか。
合間に入る、女性のナレーションもしかり。

中途半端に現代的なものを組み入れて、取っ付きやすくしないで、
あの、時代や、空気や、背景や、登場人物を崩さずに、
最初から最後まで、
あくまで幻想・耽美・気品の香り漂う作品にして欲しかった。

 

田辺さんの語り。
とても柔らかく暖かで、自由自在。
枠にはまり切れないスケールも感じて、素晴らしかったのだけれど。

少なくとも今回の主人公たちは、
むしろ、きっちりと枠にはめてしまったほうが、良かったのではないか、
とも思う。

たとえるなら、田辺さんの語りは、
ギリシャやローマの明るさを受け継ぐ、とても人間的なルネサンス
しかし、今回の登場人物は皆、重々しく几帳面なゴシック、
だったのではないではないでしょうか。