眠れぬ夜を抱いて(talk)

2002・4・11~6・27放送(TV朝日)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
 

  夢:『眠れぬ夜を抱いて』ですよぉ~。 「進藤要士」という名前だけで、なぜかドキドキ。(笑)
  翔:私も、要士という役は ものすごく好きだったし、演じている田辺さんも素晴らしくて、途中まで、「これが俳優・田辺のベスト1」とまで思っていて。 だから、なおさら、ちょっとでも納得行かないところがあると引っ掛かってしまって、残念な気持ちを引きずってしまっていたりしたんだけど。
  夢:え? そうなの?
  翔:好きには違いないけれど、TV放送時に観た時は、最後まで、その気持ちがハイテンションのまま続いたわけでもなくて。
  夢:と言うと?
  翔:最初に観た時には、類子(伊藤裕子)をめぐる二人の男(欧太と要士)の物語、という捉え方をしたので、特に初回や6話の、要士と欧太の拮抗したバランスがすごく心地よくて。
  夢:あの時の要士(田辺誠一)、かっこよかったものね。
  翔:で、8話で、一気に形勢が逆転して、要士が欧太(仲村トオル)に銃を突き付けられた時、怯えた表情になったのを観て、自分の中の要士と欧太のバランスが崩れたように思えて、それがすごく残念で。
  夢:・・・・・・・・
  翔:銃を突き付けられてなお、欧太に挑みかかるような強い視線を送り、欧太と冷静に対等にやりあう要士であって欲しかった。 欧太に対して、寸分の弱みも見せて欲しくなかった。 最後まで、類子をはさんで対極にいる存在であって欲しかった。 そうすることで、最終回の遊園地のシーン、彼の中で一気に崩れるものが、より顕(あら)わになったはずなのに、と。
  夢:うーん・・・・
  翔:でも・・・今回、1年半という時間を置いて、改めて観直した時に、7話までの要士に、欧太と対等にやりあうほどの「強さ」が描かれていなかったような気がして。
  夢:強さ?
  翔:そう。 この復讐譚(ふくしゅうたん)の主人公は、あくまで中河欧太。 進藤要士は、彼に翻弄(ほんろう)される、心やさしき犯罪者でしかない。 ドラマを観ながら、ついつい、自分の中で、「欧太vs要士」という対決の図式を勝手に作ってしまっていたけれど、実は、最初からそうじゃなかったのかな、と。
  あがいてもあがいても、要士は、欧太の手のひらの上にいることしか出来なかったのかもしれない。 そういうふうにしか描かれていなかったのかもしれない。 最初から対等でなかったふたりを、私が勝手に対等にしようとしていたのかもしれない、と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:それは、ひょっとしたら、田辺ファンである私が、そこに、「新しい 俳優・田辺誠一の姿」を見た気がしたせいなのかもしれなくて。 脚本・演出が意図していた「進藤要士」像より以上のものを、田辺さんから感じたような気がしたからかもしれないんだけど。
  夢:その辺の話が、すごく興味深いところなんだけど。
  翔:まぁ、そのあたりは、後で改めて詳しく、ということで。
  夢:そうだね。 ・・・で、ストーリーに話を戻すけど。 今回、欧太と要士を、対等にではなく、強の欧太と弱の要士、という力関係で観た翔としては、作品としての印象も、違って来たわけ?
  翔:そうだね。 大きかったのは、以前感じた8話の違和感が、まったく薄れてしまって、物語の流れとして、すんなり受け止められたということ。
  夢:欧太がメインなら、あの、要士の「怯え」も、納得がいく?
  翔:そう。すべて欧太のなすがままに ならざるをえない状況だったわけだし。
  夢:うーん・・・・ あたし、どうも解かんないんだけど、8話のどんでん返しで、完全に欧太に首根っこを掴まれた状態になった直後、逃げ出そうとした康平(筧利夫)に、「これは戦いなんだ」と要士は言ったけど、それなら、要士は、いったい、欧太と どう戦おうとしてたの?
  翔:実は私もそこのところで躓(つまず)いていて。 以後、完全に欧太ペースで牛島支店長(中丸新将)殺害のプログラムに組み込まれて行く要士に、「どうやって戦うんだ!」と突っ込みを入れていたぐらいなんだけど。(苦笑)
  夢:なんだか、そこだけでなく、全体的に、推理サスペンスとして、ちょっと弱い、というか、物足りなさがあったよね。
  翔:要士と康平に罠を仕掛けるのに、「元澄リゾート開発」なんていう大掛りなことをやったわりには、ふたりに圧(の)し掛かる恐怖や不安が希薄だったり、遊園地に登場するチンピラが、あんまりにも おマヌケで、緊迫感みたいなものが削がれてしまったり・・・・ 12年間周到に準備して、追い詰めたはずの相手(欧太にとっての要士・康平・牛島)が、あまりにも叩きのめし甲斐がなくて、何もそこまで自分の事業や家族を犠牲にしなくても、十分やっつけられるだろう、という、欧太へのあわれみみたいなものすら感じてしまって・・・・
  夢:うんうん。
  翔:欧太なりの夢や希望や幸せや、そういうものを捨て去らなければ、復讐は成就しない、そこまでしなければ、類子に申し訳が立たない、と考えていたのかもしれないけれど。
  夢:なんと言うか、サスペンス好きな人間としては、欧太にしても要士にしても、それから、たとえば葛井(古田新太)にしても、ギリギリって感じがしなかったのが残念だったよね。
  翔:そうだね。 たとえば、欧太が、殺人者である葛井を雇い、ビジネスのダークな部分を背負わせつつ、復讐計画の共謀者として使っていることだって、ただ「主従」というだけでない、ある意味の「共感」とか「同情」がなければ成立しないんじゃないかと思うんだけど、そこまで描き切れていない感じがしたし・・・
  夢:うん。
  翔:全体的に、緩(ゆる)いというか、甘いというか、そうなってしまう「必然性」みたいなものが弱いので、「人を殺す」という切羽詰まった状況に追い込まれる人間と、追い込む人間との間に流れる緊張感みたいなものが、希薄だった気がする。
  夢:うーん、たとえば欧太なら、もうちょっと巨大なものとして描いて欲しかった?
  翔:自分を追い込み、相手を追い込んで行く「狂気」みたいなものが、もっともっと欲しかった、かな。 演じている仲村さんは、すごく頑張っていたと思うけど、脚本や演出側が、欧太を追い込みきれなかった、という気がする。 その辺は、要士にしても、他の登場人物にしても、同じことだったんじゃないか、と。
  夢:うんうん。
  翔:・・・・ただ・・・・今回、推理サスペンス、という観方とは別に、欧太の妻である悠子(財前直見)の視点、というのが、すごく気になってしまって。
  夢:どういうふうに?
  翔:秘密を持っているらしい夫に、なんとか近づいて行こうとする、本当の夫の姿を、なんとか見つけようとする、これは、「‘夫捜(さが)し’をする妻の物語」なんじゃないか、と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:悠子だけじゃない、要士の妻・萌(渡辺由紀)にしても、康平の妻・君枝(秋本奈緒美)にしても、やはり「夫捜し」をしていたんじゃないか、「夫捜し」をすることで、現在の自分たちの「足場」を見つけようとしていたんじゃないか、と。
  夢:うーん・・・・
  翔:実は、放送当時、TVドラマサイトでは、「夫婦の物語」という観方をする人が結構いたんだけど、私は、「進藤要士vs中河欧太」という図式に嵌(は)まっていて、どうしてもこのふたり中心(というか、要士中心)に観てしまっていたので、そこまで読むことが出来なかったのだけど。
  夢:1年半経って、ようやく、その辺のことが見えて来た?
  翔:そうだね。 そうやって観返すと、たとえば、彼等を追う刑事・熱田(大杉漣)と美淋(りょう)の姿というのが、ある意味、「夫捜し」を終えた夫婦、のようにも思えたり。
  夢:ふーん・・・・
  翔:捜して、捜して、ようやくラストで、彼女たちは、「夫を見つけた」のかな、と。
  夢:なるほどね・・その辺が、サスペンスの裏に隠された、もうひとつのテーマ、ってところなのかな。
  翔:今回観直して、少なくとも私は、そんなふうに感じた。 もちろん、本当の制作意図がそこにあったかどうか、というのは、分からないけれど。
★    ★    ★
  夢:さて、翔言うところの「心やさしき犯罪者」である進藤要士を演じた田辺さん。 語りたいこと、たくさんあるよね。(笑)
  翔:(笑)
  夢:田辺さんが結婚を発表してすぐの仕事だったこともあって、違った意味での興味、みたいなものもあったと思うけど。
  翔:そうだね。
  夢:以前、翔は、俳優としての田辺さんを3段階に分けて、『ハッシュ!』以前を創生期、『ハッシュ!』以後『眠れぬ夜を抱いて』までを過渡期、『眠れぬ夜・・』以後を成熟期、みたいな言い方してたよね。
  翔:はい。
  夢:『ハッシュ!』で一区切り、というのは分かるんだけど、『眠れぬ夜・・』でもう一区切り、というのは、どうしてだろう?
  翔:『恋人はスナイパー』のトークの時に、「田辺さんの背景に、家庭的な雰囲気を初めて感じた」という話をしたけれど、この『眠れぬ夜・・』の進藤要士を観た時に、そこからさらに一歩前進したような気がして。 そうだな、「初めて‘人生’を背負っている感じがした」 と言えばいいか。
  夢:それは、役柄としてそうだった、ということもあるよね。
  翔:そうだね。 船木(@恋人はスナイパー)も、そういう役柄だったから、とも言えるのかもしれないけど、でも、それとは別に、田辺誠一という俳優が、演技として浮き立たせた部分も大きかった、という気がするので。
  夢:「田辺誠一佐藤浩市に見えた夜」?(注・「BBSpickup」↓参照)
  翔:(笑) 
  夢:田辺さんと佐藤浩市さん・・・・このふたりが並ぶ、って、あたしなんかは「何故?」と思うんだけど、驚くべきことに、そう感じたのは翔だけじゃなかったみたいで。 あの頃、BBSとか私信で、「私もそう思った」という人が、何人かいた、という話を翔から聞いて、びっくりした記憶があるんだけど。
  翔:それは私もびっくりした。 同じことを感じた人がいた!って。
  夢:どうしてそう思ったのかなぁ。 田辺さんの、何がどう変わったんだろう?
  翔:・・・私は、田辺さんが今まで演じた役で、「周囲を自分の空気に引きずり込むほどの吸引力」を感じたものって、一つもなかったのよね。 あくまで私の感覚だけど・・・ 勝裕(@ハッシュ!)も、天羽(@2001年のおとこ運)も、草杖(@おらが春)や船木(@恋人はスナイパー)でさえ、これほど、「役に対して裸でぶつかって」、なおかつ、「‘強引’に、自分のテリトリーに引きずり込もうとしている」田辺さんを、観たことがなかった。
  夢:うーん・・・・「強引に」ねぇ・・・・
  翔:いや、おそらく田辺さん本人は、そういう意識・・・・強引に引きずり込もう、なんていう意識は、さらさらなかったんだろうと思うけど。 結果的に、観ている側が、そういうものをビシビシ感じた、感じさせられた、ということで。
  夢:うんうん・・・・
  翔:もちろん、それは、「演技力」という、必要欠くべからざるものがあって、初めて成し得ることなわけで。 役にのめりこむ力、背景を際立たせる力、と、演技する力、それらが、それぞれにMAXまで引き出せた、そのおかげで、何かプラスアルファの力が生まれた、というか。 そのプラスアルファが、のちのち、「主役」を張ったり、主役と対等にやりあう重要な役を演じたりする時に、とても大切な役割を果たすのじゃないか、と。
  ・・・・もちろんこれは、いつものように、あくまで私がそう感じた、に過ぎないわけだけど。
  夢:そうか、だから『眠れぬ夜・・』以降が「成熟期」ということになるのね。
  翔:田辺さんは、またここで、大きなハードルを越えた、そして、もう、これ以上大きなハードルはない、うんと視界が開けた状態だと思うので。 たぶん、もう、口うるさく注文をつけることもないんだろうな、と。(笑)
  夢:嬉しくもあり、少し、淋しくもある?
  翔:・・・・いや、淋しくはない・・かな。 だって、ずっと待ち望んでいたことなんだから。
  夢:どうなんだろ、それって・・・・そういうふうに、俳優として変わって来た、って、やっぱり、結婚したことと無縁ではない?
  翔:はい。
  夢:あ!断定してる。(笑)
  翔:あ、いやいや・・・(笑) もちろん、いろいろな役を演じているうちに、徐々にステップアップしてきたには違いないんだろうけれど。 でも、やはり関係あると思う。 進藤要士や中林倫太郎(@夢のカリフォルニア)をこんなふうに演じた、想像以上の形で表現してくれた、それが、ちょうど結婚した時期だった、ということを考えると、まったく関係ない、とは、とても思えないし。
  夢:・・・・・・・・
  翔:田辺さんが、結婚したことで満たされたものって、すごく大きかったんじゃないかと思うし、その結果、解(と)き放つことが出来たものも、きっと、ずいぶんたくさんあったんじゃないか、と思うので。  だから、今から、だと思う、この俳優さんが面白くなるのは。 それをこれから追いかけることが出来る私たちって、とても幸せだと思う。
  夢:そうだね、ほんとに!