『荒神〜AraJinn〜』感想:2

風左衛門の声。
田辺誠一さん、意識的に、いつもの声と変えています。
普段とはまったく違う、低くて艶のある声。

誰かの声に似ていると思ってずっと考えていたのですが、
ピン芸人長井秀和さん(「まちがいない」と言う人ね)の声に似てる、
と気づいた。(笑)

しかし、その声に、必ずしも囚われているというのではなく、
とても自在に、その言い回しに強弱をつけています。
特にギャグの場面では、その声をストンと外してみせる。巧みです。

圧巻は、ジンとサラサーディの前に、アルゴールとして登場した時。
今までの声が、まるで「作られたもの」ででもあったかのように、
一気に切実味を帯びた「本物の声」で訴え掛ける、
その「アルゴールとしての心情の吐露」に、
観ているこちら側は、急速に、この、哀しい運命を負った男に、
心惹かされてしまうのです。

「声」もですが、
「表情」も、「動き」も、今回の田辺さんには迷いがありません。
五十嵐の時のような、「これでどうでしょう」的な、
おずおずと観客の前に晒すようなところが、まったくないし、
与兵衛の時のような、作り上げる過程が透けて見えるような感じも、
まったくありません。

その辺も、私としては、とてもびっくりしたところでした。