昨年(2019)1月、毎週日曜22:30から日本テレビ系で放送された全10回の連続ドラマ。今さらながらの感想です。
これはすごいドラマでした!
学校を爆破して生徒を閉じ込める、なんていう とんでもなくインチキくさい話なのに、幕開きからの緊迫感が半端なくて、一気に引き込まれました。
発端は一人の生徒の自殺。
半年前のその事件の全容を解明すべく、一人の先生が立ち上がった! というと、いかにもかっこいい正義のヒーローみたいですが、菅田将暉くん演じる柊一颯は、やることなすことがとんでもなく危うくて、ヒーローと言うには毒が強すぎてすんなり「好きだ」とは言い切れないんだけど、一方で、どこまでもストイックで、生徒に向ける甘さを削ぎ落した厳しく鋭い刃を、翻(ひるがえ)って自分自身にも向けているように見えるので、突き放して観ることが出来ないんですよね。 そのうえ、喧嘩に滅法強く、しかもアクションがすごくかっこいい!
‥そんな人間が本当にいたらすごいけど、やり過ぎてしまえば嘘っぽくも白々しくもなる。 深みのない薄っぺらな人間を主人公に据えてしまったら、もともととんでもない設定のこのドラマに、さらに虚構の色合いが強くなってしまって、本当に伝えたいことがストレートに伝わらなくなってしまう可能性もある。
果たして 観ているこちら側が素直に納得出来るだけの背景が柊一颯に用意されているのか、とちょっと猜疑の眼で観ていたら‥
実は、特撮ヒーローのスーツアクターをしていたが、病気になったために断念、教師だった恋人(制作会社の社長の娘)と同じ学校の先生になり、さらには、彼女を精神的な病にまで追い詰めた男を陥(おとしい)れるためにその男の居る学校に赴任、‥って、よくもまぁ考えたものだなぁ!と素直に脱帽。
これは、特撮ヒーローを演じ、学校の先生になりたかった、という菅田くんの実際の人生とも重なっていて、だからこそ、嘘の多い設定なのに、そこにリアルな空気を吹き込めたのかもしれない、という気がしました。
いやいや、菅田将暉、とんでもない俳優ですね。そして、彼の一途でひたむきで真剣な「本気」が乗り移ったかのような 柊一颯は、非常に魅力的なダークヒーローでした。
教室の緊張感も素晴らしかったです。
あれだけ突拍子もないことが次々に起こっているのに、そこにいる生徒たちが(柊先生に引きずられるように)リアルにピリピリした空気感を作っていたので、嘘っぽさが感じられなかった。
柊に 自分のやったことを暴かれる生徒たちが、それぞれ役の持ち味を自分に限りなく近づけて自分のものとして演じていたから、こんなのありえない、と思いつつも、彼らの言動の重さに引き込まれ、ついつい前のめりになって画面を凝視してしまう自分がいました。
毎回それぞれ中心になる生徒がいるのですが、そこに他の生徒たちも自然に絡んでくるので、全体として誰かが突出してメインになることがなく、スポットが生徒全体に当たっているようで、一人一人が単なるモブになってしまっていないところも興味深かったです。
「一人一人が目の前にある問題とどう向き合うべきか、想像力を働かせていろんな可能性をかんがみる。自分だったらどうするか、相手が自分だったらどうすべきかを考えて、それぞれの想いをぶつけ合う」
「想像力を働かせて自分の言葉や行動に責任を持つ。決断をする前に踏みとどまって、これが本当に正しいのかを問いただす。考えることの大切さをみんなに伝えたかった」――
そんな柊の言葉に導かれるように、生徒たちはやがてネットの情報を鵜呑みにしなくなり、惑わされなくなり、自分でしっかり考え、分析し、正解を導き出すようになる。10日の間に葛藤しつつ確実に成長していく、その姿がとても頼もしかったです。
一方、彼らの身を案じる外の人たちは、どこかフッと抜けたところがあり、校長(ベンガル)始め 先生たち(堀田茜・バッファロー吾郎A・神尾佑)の事件に対する緩さというか甘さというか緊迫感のなさ、というか、ユーモラスなところもあり、それが逆に、3Aの閉じ込められた空間のシリアスな空気を引き立てていたように思います。
そんな中、田辺誠一さん演じる武智先生は、時に、緊張した3Aの空気感をぶち壊しにしているようなところもあって、観ていて すごく浮いているようにも、馴染めていないようにも思えてハラハラしたのですが、それは、田辺さんの役つくりに問題があるのではなくて、あえてKY(空気読めない)な人間として3Aに深く(真剣に)入り込まず、柊とは真逆の立場で「自分にはまったく関係ない」感を醸すことで、逆に「先生とは何か」という問題提起をしているところもあったのではないか、という気がしました。
ただ、結果的に先生方もそれほど深く事件に関わらず、警察関係者の五十嵐(大友康平)や郡司(椎名桔平)も陰に柊に手を貸す形になって、「悪役」という立場の人間がほとんど武智先生一人になってしまった、というのは、観ていてちょっと辛いものがありました。
う~ん、辛いというよりも‥生徒を報酬目当てで大学に斡旋したあげく早々に見限ったり、フェイク動画作成を依頼して 柊の恋人・相楽文香(土村芳)を追い詰め心の病にしたあげく、3Aの生徒・景山澪奈(上白石萌歌)を死に追いやる原因を作った、いわばとんでもない悪党でありながら、本人にその自覚が欠落している、その「怖さ」が、もう一歩、こちらに親身なものとしてぶつからない、もどかしさ、と言ったらいいか。
でも、私はこのドラマを初回から最終回までほとんど一気に観たけれど、毎回リアルタイムで謎を追い、回が進むにつれサスペンス度が増して犯人捜しが佳境に入っていたことを思えば、武智がこういう存在(立ち位置)だったということはあまり気にならなかったのかもしれないし、彼が本当の意味でのラスボスではない、と考えると、それも致し方ないことなのかもしれない、とも思えますが。
何だかんだ言っても、終盤の柊と武智の一騎打ちは見ごたえがあったし(野太い声で恫喝←いのうえひでのりさんの演技指導(@鋼鉄番長)のたまもの?)、 五十嵐から平手打ちをくらうところなど、武智の表情の絶妙さに いつもながらの田辺色を味わわせてもらったし、武智がネットの誹謗中傷によって文香や景山と同じように精神的に追い詰められて行く、自分のやったことがどれほど二人を苦しめたのか それを身をもって追体験させられる、そのことが、このドラマにとって重要な意味があった、と考えると、こういう役が田辺誠一にあてがわれた、ということは、光栄なことと言えるのかもしれないし。(以上、田辺ファンとしての戯言(たわごと)ご容赦)
さらに、そんな武智にも救いの手が差し伸べられる、というところが、観ている側としても救いになっていたように思います。「私たちはあなたの味方です」という校長先生の言葉に頷く同僚の先生方の優しさにもホロリとさせられました。
「生徒を商品としてしか見ていない!」と柊に糾弾されていた武智ですが、観ていてふと『金八先生』の「腐ったみかん」のエピソードを思い出しました。
タイプは違うけれど、柊にも金八みたいな「熱」があって、生徒に全身全霊でぶつかり、彼らを全力で守ろうとしているのは同じ。
その「熱」が、最後に、ネットの向こう側にいる人間たちに向かって放たれる。 ここから数分間の柊一颯=菅田将暉の「独白」の鬼気迫るほどの激しさ、強さ、凄さ! 画面に向かって吠える柊の血を吐くような叫びに、胸が熱く‥というより、胸が痛くなりました。
「キモイ、ウザイ、死ね、そんなおまえらの自覚のない悪意が景山を殺したんだよ! おまえらネットの何千何万という悪意にまみれたナイフで、何度も何度も刺されて、景山澪奈の心は殺されたんだ!」
柊の魂の叫びは、ドラマ上のSNS「Mind Voice(マインドボイス)」の人間たちだけでない、テレビのこちら側のリアルな生活の中で、「身勝手な正義感」や「無自覚な悪意」でPCやスマホの画面の上に言いたい放題書き散らかしていたかもしれない、このドラマを観ていた人間=視聴者の両頬をも思いっきり叩いたような気がしたし、その痛みが、ちゃんと伝わった、と信じたいし、もちろん私自身も引っ叩かれたんだ、と肝に銘じなければならない。
そう思わせる 力強くて純粋でまっすぐな何かが、間違いなく、菅田くんや生徒たちを演じた彼らから放たれた、それをちゃんと受け取ろう、それが、これだけ「真剣」に演じてくれた彼らに対する、観る側としての せめてもの「応え」なんじゃないか、という気がしました。
特筆すべき、ドラマ全編に漂っていた「特撮ヒーローもの」の空気感。
これだけストレートに伝えたいことがうまく伝わったのは、もちろん菅田くんを始めとする出演者の熱意・熱演もありますが、この空気感をうまく使っていたから、のような気もします。柊の計画に特撮ヒーローの制作会社が絡む、というアイデアが素晴らしく、学校爆破を始めとするとんでもない出来事を「それもあり」だと思わせる、その力技で、すべて納得させられてしまう形になったことが、このドラマが成功した大きな要因になっていたように思います。そのあたりは、脚本(武藤将吾)のうまさでもあり、演出他スタッフの思い切りの良さでもありますね。
以前、ある映画の感想の中で、「インチキがシリアスを凌駕する、 あるいは、シリアスがインチキと同じところまで墜ちる、という、そんなことが起き得るかもしれない、それを見せたい、という思惑は、 (映画の制作側に)ひょっとしたらあったかもしれない」と書いたことがあるのですが、このドラマを観ていて、ふとそれを思い出しました。
全体を覆うファンタジーのような空気感の中で、サスペンスフルな展開もインチキ臭くならず、一番伝えたかっただろうことがリアルにダイレクトに伝わった、まるで奇跡のようなドラマ。
出来るんだなぁ、こんなことが、まだ、テレビドラマにも!
「Let's think(レッツシンク)…考えよう、立ち止まって、想像力を目いっぱい働かせて。」
『3年A組 ~今から、皆さんは人質です』
放送:2019年1月6日 - 毎週日曜 22:30 全10回 日本テレビ系
脚本:武藤将吾 演出:小室直子 鈴木勇馬 水野格
音楽:松本晃彦 エンディング:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
チーフプロデューサー: 西憲彦 プロデューサー :福井雄太、松本明子(AXON)
協力プロデューサー:難波利昭(AXON) アクションコーディネーター:柴原孝典
制作協力 - AXON 製作著作 - 日本テレビ
出演:菅田将暉 永野芽郁 片寄涼太 川栄李奈 上白石萌歌
萩原利久 今田美桜 福原遥 神尾楓珠 鈴木仁 望月歩 堀田真由 富田望生 佐久本宝
古川毅 若林時英 森七菜 秋田汐梨 今井悠貴 箭内夢菜 新條由芽 日比美思
細田善彦 堀田茜 バッファロー吾郎A 神尾佑 土村芳
ベンガル 矢島健一 大友康平 田辺誠一 椎名桔平 他
公式サイト