今さら『11人もいる!』感想

今さら『11人もいる!』感想
2011年10月〜12月テレビ朝日系で放送。
NHK朝ドラ『あまちゃん』の脚本を担当している宮藤官九郎さんが、
2年前に描いた 大家族のホームドラマ


夜11時台の放送だったせいか、
脚本も、演出も、出演者も、自由に作っている感じがあり、
大雑把なところもゆる〜いところもあったのですが、
クドカンのキャラ設定がしっかりしていて、
出演者が皆、そのしっかりキャラ設定された上に、
自分の持ち味を存分に重ねて伸び伸びと演じていたので、
安心して楽しく観ることが出来ました。
クドカンのキャラ設定の確かさは、
あまちゃん』にも通じる大きな魅力のような気がします)


真田家の長男・一男は神木隆之介くん。
ゲイバーで働いたり、でき婚して子持ちになったり、
それまでの彼のイメージをとことんぶっ壊すような役を、体当たりで熱演、
子役からのイメージをすっかり払拭してしまった感がありました。
マンガみたいな展開にきっちり入り込んで、
テンション高めの演技もほとんど違和感なくこなしていたのは、さすが。


後妻・恵は光浦靖子さん。
この役に彼女を起用した、というのが、とても大きかった気がします。
彼女が持つ真面目さ・優しさ・清潔感が、
大家族をしっかりと包み込んで、揺らがなかったので、
どんなに家族がすったもんだしても最後には納まるところに納まっていた。
真田家を支えていたのは、間違いなく彼女だったんじゃないか、と。


唯一 恵の実の子供である才悟に加藤清史郎くん。
おっぱいが大好きな小学1年生。w
清史郎くんはクセがなくて素直なので、
メグミのおっぱい狙って両手モミモミ、なんてことをしても、
本当におっぱいさわっちゃって童貞喪失したと思い込んだりする
かなりきわどい設定でも、可愛さが失われることがなかったです。


他の子供たち(有村架純金井美樹・平岡拓真・赤石那奈
福島北斗・福島海斗)もそれぞれに存在感をしっかり発揮していて、
個性があって魅力的で楽しかった。


実の先妻で、すでに死んでいるのに、
才悟だけに見えるメグミは、広末涼子さん。
ゆうれいのはずなのに、ものすごくワガママで、しかもチャーミング。
彼女に振り回されつつおっぱいを狙う才悟が可愛かった。w


そんな真田一家(+ゆうれい)の中で、
お父さんの実と その弟ヒロユキが、見事に重みがないわけですが。w


ヒロユキは、星野源さん。
役を演じる上での拠り所となる芯みたいなものが、彼には見事になくて、
自信のカケラもなさそうなブレブレ感が半端なくて、
そこがまた何とも言えない面白みがあって。
田辺さん以外に、こんなふうに芯のない役を演じられる人がいるんだ・・
と、ちょっと驚いたりもして。


その田辺誠一さんは、この大所帯の家長・・であるはずなんですが、
彼がまた、いい加減でフワフワ浮いてる感じとか、
存在感の軽さとかが絶妙で、頼りがいのないこと この上ない。w
それでも、みんなを見守る視線はやんわりと穏やかで、
愛情を持っていることがじんわりと伝わって来るし、
みんな彼を慕っている。
どこに飛んで行くか分からない テキトーさと無責任さを持ちながら、
それでも、ちゃんと家族から父親として認められている。
・・それって誰かに似ている、と思ったら、フーテンの寅さんだった。w
しっかり者の光浦さんとの組み合わせが絶妙でした。


実って、ほとんどふざけてばかりいるような父親だったけど、
その時その時の表情が本当に豊かで、
たとえばソアラのお父さんのところに挨拶に行った時、
お父さんの言葉に対する反応がものすごく細かくて端的で、
それが、実が持つ独特の浮遊感の中に違和感なく息づいていたことが、
何だかすごく嬉しかったし、楽しかったです、
ああ、田辺さんらしいなぁ、と・・


真田一家はもちろん、彼らの周囲にいる人たち・・
サム(RED RICE)や先生(小松和重)やうさぎちゃん(きたろう)や
ソアラパパ(柳沢慎吾)やダイナミック一家(皆川猿時川村エミコ等)が、
大家族の家に自由に出入りして、
人数がどんどん増えて行く、それを自然に受け入れて行く、
やがて、真田家の「家」というワクが感じられなくなる、ボーダーレス感・・
まったく、これほど風通しのいい家も珍しい。w


そうやって、多くの人が繋がって行く・・
面倒くさそうではあるけれど、でも、何だか羨ましくもあり、
その一方で、すべてを「ま、いっか・・」と受け流せる
彼らの強さ・たくましさ・いい意味での鈍感さに、
(当時の)現実の自分との距離を感じてしまったのも事実で・・
初見の時は、なかなか笑って受け流せない偏屈な自分に嫌気がさして、
同時期に放送された『家政婦のミタ』の方に感情移入してしまい、
『11人・・』はなかなか素直に観られなかった、なんてこともありました。
(再見した時は十分楽しめましたけれども)


放送されたのは、東日本大震災から半年後。
宮城出身のクドカンには、
そのことに対するいろんな想いがあったと思うのですが、
あえてこのドラマで真正面から切り込んで描こうとはしなかった。
でも、最終回、火事ですべてを失った真田一家が、
ワゴン車で旅を続け、多くの人に歌を届ける合唱団になる、という結末は、
音楽の力を信じているであろう、クドカンらしい、という気がしました。
(TVで観た『風とロック』のクドカンを思い出しました。
"音楽の力"は『あまちゃん』の今後にも繋がって行く気がします)


家を失い、ワゴン生活になってもへこたれない真田一家、
最後に、穏やかで美しい海をバックに全員で写真を撮るのですが、
そこにはメグミの姿もちゃんと写っていて・・
「あなたが忘れなければ、彼は、彼女は、あなたの傍にいるよ」と、
その写真は、そう 囁(ささや)きかけているようにも思え・・


そのあたりは、
木更津キャッツアイ』等でも描かれたクドカンのいつもの視点でもあるし、
わざわざ結び付けて考える必要はないのかもしれないけれど、
それでも私には、それが、震災で亡くなった人たちと、その遺族への、
クドカンからの控えめで奥ゆかしいメッセージだったような気がしました。


放送日時:2011年10月21日より毎週金曜 23:15-(テレビ朝日系)
脚本:宮藤官九郎/演出:片山修 唐木希浩
プロデューサー:中川慎子 中込卓也 小池唯
キャスト
神木隆之介 光浦靖子 加藤清史郎 星野源
有村架純 金井美樹 平岡拓真 赤石那奈 福島北斗 福島海斗
野村麻純 RED RICE 柳沢慎吾 小松和重 きたろう
皆川猿時 川村エミコ 高橋一生 佐藤二朗
広末涼子 田辺誠一  他