『ラストホープ』(第11話=最終回)感想

『LAST HOPE/ラストホープ』(第11話=最終回)感想
観終わった後、ふと、こんなことを考えました、
「医療の限界」・・そのラインを、このドラマではどこに引こうとしていたのか・・


人間の遺伝子レベルでの研究は、どんどん進んでいて、
キメラやクローンを作り出すことも、夢の話ではなくなっている。
もちろん、そこに、さまざまな可能性が含まれているのは確かだし、
そういう、未知の世界を切り拓こうとする研究者たちの情熱が、
医療をここまで進歩させて来たのも確かだけれど・・
でも、それが本当に「人を幸せにするもの」なのかどうか。


「研究」と「臨床」。
顕微鏡や試験管の世界から、意思(感情)を持つ人間の世界へ。
そのふたつを繋ぐものは、
その研究を生かして人の役に立ちたい、患者を救いたい、幸せにしたい、
という医師たちの切なる願い(希望)に他ならない。


世界初の救世主兄弟=ドナーベビー。
兄を救うために、遺伝子を操作して生み出された命・・
普通の人間なら、その事実を突きつけられたら、
移植をするかしないかより先に、きっと、まず、心が折れる
波多野卓巳(相葉雅紀)がそれを受け入れられたのは、
ひとえに、彼が医者だから、なんだと思う。


医者は常に患者を救うことを考える。
患者を救うにはどういう手段があるのかを探り出そうとする。
「それが患者を救う唯一の道」ならば、その道を拓くために全力を尽くす。
卓巳は、何よりもまず医者として、健(高橋一生)を救う道を選んだ・・
そして、そんな卓巳を支え、護(まも)り、救済するために、
温かい家族と、頼もしい仲間を用意した・・
それが、このドラマが出した、ひとつの答えだったように思います。


いつか・・
古牧(小日向文世)の「細胞リプログラミング」が実用化されて
自己再生治療が可能になったら、
彼らを悩み苦しませた「移植」という治療法は なくなるかもしれない・・
研究を正しく有効に使うことの大きな意義がそこにはある。
最先端医療のこれから先、医療の限界、への光明は、
そういうところにあるのかもしれない、と。


研究者二人(古牧と四十谷)を分かつもの。


古牧が、息子を再生させることを思い止まったのは、
橘歩美(多部未華子)の身を切るような鋭い説得ももちろんですが、
センターのメンバーたちとカンファレンスをする中で、
自分の研究が 誰かの「希望の光」になることの意味を、
少しずつ受け入れて行ったからなのかな、とも思います。


研究を盗んだ副島(北村有起哉)を赦したのは、
もともと古牧は、根っからの研究者で、功名心や欲がなく、
金儲けになるとか、高い評価を得るとか、
そういうことにまったく興味がなかったから、なんだと思うし、
そういう古牧だから、副島も思い切って研究を盗んでしまえたのかな、
という気もします。
この二人には、研究者とその信奉者、といったような、
言葉にしなくても通じる一種のシンパシーがあるんじゃないでしょうか。
確かに副島は悪いことをしたんだけど、
その底には古牧への深い尊敬の念があるような気がして、
なんだか 清々しさ さえ感じてしまいました。


その一方で・・
四十谷孝之(鶴見辰吾)が、
実際は正当防衛だったにもかかわらず、
自分の研究を守るために 殺人の罪を被って刑を受けた、
というのは、どうも釈然としなかった。
それが、研究者の身勝手なところ、と言われても・・
この事件の顛末が 古牧のクローン研究の歯止めに繋がる、
とは分かっていても・・
父親が捕まって以後の歩美(希子)の苦しみを
さんざん見せつけられて来ただけに、なんだか後味が悪かった。
たとえば、娘を護るため、というような、
何かしら人間味のある流れに出来なかったものか・・
彼や桐野の生きざまに どこか澱(よど)みがあったことが、
古牧と副島の関係を、より澄んだものとして見せる効果はあったにせよ。


・・・と、まぁ、割り切れないところもいろいろあったには違いないし、
キメラとか、クローンとか、救世主兄弟とか、医療の限界とか、
話を大きく広げ過ぎて、最後に畳み切れなかったうらみはありますが、
私の総括的感想としては、
毎回非常に興味深く観続けることが出来たドラマでした。
こんなに何度もリピートしたドラマは、最近なかったかもしれない。



脚本。

最初から最後まで、内容の詰め込み具合が半端じゃなくて、
毎回の患者の病状とその対応にしても、過去話にしても、
正味50分足らずの中に、よくこれだけの情報量を入れられるものだ、
と、感心しきり。


正直に言うと、面白い、というより、勉強になった、という感じで、
そういうドラマ感想って どうなの?・・とも思わないではないけれど、
ドスンドスンとこちらの心に重く強く響くセリフもたくさんあったし、
最先端医療の現状を(ほんの一端だけど)学ばせてもらったし、
医者が持つべき患者への想いや姿勢(の一種理想の姿)を、
こんなに丁寧に描いてくれたドラマは、
少なくとも今まで私が観た中には ほとんどなかった気がするので、
毎回、きちんと襟を正して観なければ、と思っていました。


物語の中に細かく差し挟まれる過去話は、難解なパズルのようで、
読み解くのが本当に楽しくて、
しかも、たいして重要じゃないパズルまで何枚も入っているものだから、
謎解きするぞ!と気負っていた私は、どれだけミスリードに引っ掛かったか。
そのせいで、見当はずれなことを書いたり、余計な妄想を連発したり・・で、
次の回を観て、あらら〜、なんてこと、たびたび。(恥)
(ちなみに、私は、最終回、大森(小木茂光)が帝都大にいた頃に
偶然 四十谷事件のキーを握る立場にいて、
それが公になることで、四十谷の無罪が証明されるようになる・・
古牧の研究を盗んだ副島が実用化させた治療法で、
1年後、健が救われる・・と妄想していましたw)


妄想がはずれた時は、
脚本の浜田さんに負けた気分になって悔しかったですが、
最近のドラマで、ここまで熱心にウラを読もうと思った作品が
私にはなかったので、面白かったし、楽しかったです。
まぁ、正直、もうちょっと過去の伏線を整理して欲しかった気もしますが、
すべての出来事が、後々大きな意味を持つ、なんて、
実際には有り得ないわけですから、
繋がるものと繋がらないものがごっちゃに存在する、というのも、
ある程度は あり かな、という気はしました。


6人それぞれの回想がこま切れに入りすぎて、
全体の流れを滞らせた、と見る人もいますが、
過去が紐解かれるにつれ、彼らの言動の意味や理由まで
浮き彫りになって来るようで、私はとても興味深かった。
特に、終盤、
ドラマで現在進行している場面のほんの半歩後ろをなぞるように、
彼らのいろんな行動や考えの空白部分が埋まって行くところは、
なんだかパズルの残りのパーツが収まって行く瞬間に立ち会っているような
気分になって、ちょっとドキドキしました。


最終回、初見では、
いきなり キメラや救世主兄弟の話が出て来て面食らったせいか、
人間的な温かさや、先端医療への限りない希望、というより、
どこか冷え冷え(殺伐)とした空気ばかりが伝わって来た
ような気がしてしまったのですが、
考えてみると、
ここに至るまで、さまざまな患者を手術・治療して行く上で、
医師としての冷静な視線の中に、控えめに・・ではあるけれど、
人間としての温かいまなざしを、ちゃんと注いで来たメンバーだった、
というのも間違いないことで、
そのあたりの押し付けがましくない感じも いつも好(この)もしかったし、
最終回にしても、その部分は変わりなかったなぁ、と。



キャスティングの妙。

登場人物のキャラ設定・・たとえば、性格とか年齢とか過去とか、
一人一人しっかりした明確な色づけが出来ていて、
人間的な厚みが感じられたこと、と、
演じる俳優さんたちが、その役をしっかり自分の色に染め上げて、
土台になるキャラをさらに魅力的にしていたこと。


結果、特にセンターの6人の医師たちの、
6人全体から醸し出される雰囲気がすごく魅力的で、
それを観るだけでも、このドラマを観る価値があったのではないか、
という気がしました。
ま、それは私が、田辺誠一さん演じるところの高木に惚れた勢いで、
卓巳も、歩美も、副島も、荻原も、古牧も、
みんな好きになっちゃったから、なのかもしれないけれど。w


以下、一人ずつ。


相葉雅紀くん(波多野卓巳)
この人の魅力は、役に向き合う際に、
ピントを絞り込まないところなんじゃないか、という気がします。
役をがっちり掴んで演じるタイプではないから、
全体的にシャープにシャキッとは伝わって来ないけれど、
でも、だからこそ、全体にふんわりと優しい雰囲気が醸し出されて、
好感が持てるし、心がざわつくことなく観ていられるし、
しかも、芯には何かしっかりした硬いものがあるから、
甘ったるい感じはしない・・
重い宿命を背負っているにも関わらず、
波多野卓巳に、何もかも受け入れて浄化させてしまう、
不思議な包容力と馴染みやすさが感じられたのは、
相葉くんがそういう人だから、のように思いました。(例によって妄想)


多部未華子さん(橘歩美=四十谷希子)
年齢から言っても、キャラから言っても、
また、彼女の可愛らしいベビーフェイスや小柄な体型から言っても、
年300もの手術をこなすマシーンのような医師、というのは、
かなり無理のある役だったと思うのですが、
あまり違和感がなかったのは、
彼女の眼力(めぢから)が、いつもしっかりしていたから、でしょうか。
それに加え、彼女が持つ、特有のけなげさやいじらしさが、
うまく役に上乗せされていたようにも思います。
父親や卓巳にふと見せるやわらかさ・・が、
ごくごく少しだけしか表に出て来ないんだけど、
だからこそ魅力的にこちらに響いて来るのですよね。
10歳以上年上の高木(田辺誠一)へのタメ口も良かったなぁ、
何言われても嫌な気持ちになってないらしい高木も良かったけど。


小池栄子さん(荻原雪代)
小池さんが持つ、温かみがありつつ芯が強い、みたいなところが、
役にぴったりはまって、すごく魅力的でした。
常に前向きに突き進んで行く強さが、実にオトコマエでかっこよかった。
母親の死から学んだことが、
ちゃんと荻原の中に息づいているところも素敵でした。
出来れば、
相葉×多部コンビの さわやかさや初々しさと対になる形の、
田辺×小池のアラフォー二人の大人風味をもうちょっと味わいたかった。
初めて会った時の一度きりだったという高木との関係・・
せめてその口説きシーンを見せて欲しかった、というのは贅沢でしょうか。


北村有起哉さん(副島雅臣)
義経』で気になり出し、『SP』で惚れ込みました。
いつか田辺さんと共演してもらいたい、と思っていた俳優さんの一人。
なので、この共演は、すごく嬉しかった。
カンファレンスで、いつも、皆と少し距離を取っていたところとか、
冷たいようでいて、案外人情派じゃないの、と思わせてくれたところとか、
副島という役に塗り重ねた北村カラーがものすごく的確で、
いつも安心して観ていられた。
だからこそ、最後の裏切りも、納得づくで受け入れられた気がします。


ワキでこういう色彩を放ってくれる人が、私は本当に大好き。
北村×田辺という魅惑のおっさんコンビで、
スピンオフ2時間ドラマとか作ってくれないかしら、
本編で容赦なく切り捨てられた
高木の老眼疑惑エピソードwを膨らませたりして。


小日向文世さん(古牧利明)
自分の研究によって息子を生き返らせようとする・・
SFでも何でもない、普通のドラマの中で、
この設定に真実味を持たせるのは、本当に大変なことだったと思う。
でも、カンファレンスでのまくし立てるような話し方や
天敵・時田(桜庭ななみ)との微笑ましいやりとり、
何でもかんでも冷静に分析して言葉にするところなど、
ユーモアを含みつつ、研究者としての風変わりな一面をうまく表現していて、
説得力がちゃんとあって、
ほんの一瞬見せたマッドサイエンティストめいた表情がまた
うまく辛味になっていたり、と、
改めて凄い俳優さんだなぁ、と思いました。


ちなみに、古牧が聴いていた落語のお題は「子別れ」。
「聡史に会いたい・・」という一言が切なかったです。


桜庭ななみさん(時田真希)
古牧の天敵w。
だけど、古牧にとって彼女の存在は大きかったんじゃないでしょうか。
聡史を亡くした彼にとっての、娘のような存在・・に、
徐々になって行くのではないか、と。
桜庭さんは、若手女優の注目株。もっと出番があっても良かった。
小日向さんとのやり取りがいつも可愛らしくて、楽しくて、
彼女が出てくるとホッとしました。
高嶋×桜庭×田辺・・『ふたつのスピカ』の顔ぶれが揃っていたのも
懐かしかったです。


江口のりこさん(今井麻衣)
時田が古牧の天敵なら、高木の天敵はこの人・・かも。w
高木へのシニカルでドライな視線が快感でした。
江口さんにこういう役やらせると、半端なくはまります。
この人も、もうちょっと出番が欲しかったなぁ。


▼菅原大吉さん(倉本茂)
最後に病院長に歯向かったところがかっこよかった。
倉本にこういう美味しいシーンを与えるために、
鳴瀬が倒れたんじゃないか、なんて・・
いやいや、さすがにそれはないでしょうけど。
鉄面皮・鳴瀬と、彼の言動をハラハラしながら見ている倉本、
というコンビも、味がありました。
及び腰ながらも、ちゃんと倉本なりの信念がある、
それが菅原さんの演技から伝わって来て、
この役もまた魅力的なものになっていたように思います。


高嶋政宏さん(鳴瀬哲司)
鳴瀬の思わせぶりな発言と胡散臭さ(うさんくささ)が、
特に波多野卓巳周辺の謎に対しての迷彩になっていて、
彼が、単なる悪役ではない、という想像はついても、
どんなふうにどこまで絡んで来るのか、の全体像がなかなか読めなくて、
ドラマのいいスパイスになっていた、と思いました。
高嶋さんは、どんなことにも動じないスケールと重量感があって、
こういう役柄には ぴったり だったと思います。


平田満さん(波多野邦夫)
重い宿命を負った卓巳の父親として、
人間的な温かみが絶対に必要な役だったと思うのですが、
平田さんが演じることで、医者としての厳しさと、父親としてのぬくもりが
いい具合に混在して伝わって来たように思います。
30年近く父と息子として育んで来たものが、
しっかりと間違いのない揺らぎのないものだったからこそ、
卓巳は、自分の重い過去を受け入れることが出来た・・
平田さんと相葉くんとで作り上げた、温かくて優しくて誠実な空気が、
物語のキーとなるその部分にしっかりと説得力を持たせていて、
だからこそ、なかなか受け容れがたい卓巳の過去設定にも、
観ている側が、ついて行けた気がします。


高橋一生さん(斉藤健)
途中から、キーマンとして登場。
この役はものすごく難しかったと思うのですが、
徹頭徹尾 前に出て来ない、弱い存在、としての役作りが、
(特に眼の)表情や言葉の端々から確実に伝わって来て、
うわ〜高橋一生すごい・・と、またも思わされてしまいました。
卓巳から生体移植される側の健の感情というのは、
脚本段階できっちり描けているとは思わなかったのだけれど、
かなり強引に、観る側に斉藤健という人間を認めさせてしまった・・
高橋さんのその力技に感服。


田辺誠一さん(高木淳二)
第1話の「俺がニュータイプだったらなぁ」というセリフで、
高木という人間がすごく好きになりました。w
そういうセリフがあること自体・・つまり脚本段階で、
すでに面白い役ではあったと思うのですが、
田辺さんが そんな高木の骨格に肉付けして行った部分が、
多彩で、自在で、自由で、
めちゃくちゃ幅広い演技経験値を持つ彼だからこそ のキャラ作り
のように思えて、毎回観るのが楽しかったです。


外科医としての腕は確かでありながら、
カンファレンスでそんなふざけたことを言っても違和感ない40代・・
それをここまで軽妙に自然に演じられる。
また、その軽さの中に、自在に深い色味を差すことが出来るのも、
この俳優さんの特徴であり、興味深いところ。
本当はもっともっと繊細な表情を役に込めることが出来る人でもあるので、
今回そういうところを封印していたのがちょっと残念ではあったのですが、
でも、なぜ高木が鳴瀬からセンターに誘われたか、を考えると、
そういう繊細さ(優しさゆえの揺らぎ)は、今回は必要なかった、
と言えるのかもしれません。


それにしても・・
今まで、とんでもなく幅広くいろんな役をやって来過ぎて、
俳優としての魅力がどこにあるのか何だか掴み切れなくて、
すごい量の仕事をしているのに、案外 世間の認知度が低くて、
もうこのまま深く静かに渋いワキ役への道を邁進して行くのね・・
なんて、5〜6年ぐらい前は考えていたのに。
そこから先の、この俳優さんのはっちゃけた仕事ぶりは、どうしたことか。
やっと時代が田辺誠一に追いついた、ってことでしょうか。w


40代になって、ますます自分を開放出来るようになって、
自由な息継ぎが出来るようになって、そうなると不思議なもので、
ちゃんとこんな魅力的な役が回って来るようになるものなんだなぁ・・と、
ちょっと感無量。


波多野や橘や荻原や副島や古牧と一緒にいる時の高木が、
すごく好きでした、田辺さんが本当に楽しそうで。
一人一人の個性がしっかりと立って、
バランスの取れた、とても魅力的なカンパニーだったので、
何度も言うようですが、ぜひ、何らかの形での続編をお願いしたいものです。


それとは別に・・・改めて。
田辺さんとか北村さんとか、
誰か、このあたりの魅力的なおっさん何人かをメインに使って、
ドラマを作ってくれる奇特なプロデューサーは いませんか!


ラストホープ
放送日時:毎週火曜 夜21:00- フジテレビ系

キャスト
相葉雅紀 多部未華子 田辺誠一 小池栄子 北村有起哉 桜庭ななみ 
平田満 高嶋政宏 小日向文世 / 中原丈雄 要潤 石田卓也 高橋一生
スタッフ
脚本:浜田秀哉 演出:葉山裕紀
プロデュース:成河広明 古屋建自
『ラストホープ』公式サイト