『空飛ぶタイヤ』(第4話)感想

空飛ぶタイヤ』(第4話)感想  【ネタバレあり】

1時間のドラマの中に、
こんなに密度の濃い内容を詰め込むことが出来ることに、
しかもそのクオリティが、ここまでずっと持続していることに、
驚かされっぱなしです。
これだけ大勢の人間が出ているにも関わらず、
それぞれが苦悩し、挫折し、
少しの希望にすがり、勇気ある一歩を踏み出す、
そういう一人一人の心の揺れや動き、それに起因した行動、が、
どの人も、きちんと不自然なく描かれてる、って、
すごいことだと思う。


脚本も、演出も、スタッフも、そして俳優も、
「このドラマの中で、何をどう表現するか」ということについて、
それぞれの立場で、妥協なくギリギリ自分を追い込んでいる、
ストイックなまでの「ドラマ作り」への熱意・愛情・誠意・・
といったものが、画面からひしひしと伝わって来る、
だから面白いんだと思う。



いや〜不覚にも泣かされてしまいましたね、今回は。しかも何度も。
赤松の息子(小清水一揮)の気持ち、妻(戸田菜穂)の気持ち、
杉本(尾野真千子)の気持ち、
井崎(萩原聖人)と香織(ミムラ)の気持ち・・
どれも皆、真剣で、だからこそ曲げられなくて、だからこそ傷ついて、
でも、だからこそ誰かを揺り動かす力にもなって。


赤松(仲村トオル)を徹底的に追い込んで、
力づくで彼を黙らせようとするホープ自動車側と、
必死で抵抗しつつ、ホープ車欠陥の決定的な証拠を掴もうとする赤松。


赤松の無尽の行動力の出どころは、
被害者の柚木(甲本雅裕)や、自分の息子や、
自分の妻や、自分の会社ではたらく従業員(大杉漣・柄本拓ら)の、
彼に向かってまっすぐに力強く投げられた「想い」。
赤松は、彼らの想いに応えるために、
「間違ってることは間違ってると言いたいんだ!」と、
身体を張ってホープにぶつかって行く。


一方、懲罰人事で大阪に飛ばされる杉本から、
ホープ自動車が好きであの会社に入ったんです。
私まだ諦めてませんから」
と聞かされた榎本(水野美紀)も、フリーになって再び取材を開始、
その気持ちは井崎に伝わり、
もともとホープ自動車への融資に危ういものを感じていた彼は、
融資話を蹴る結果に。

しかし、この話が、実は、狩野(國村準)の姪可愛さから派生した、
井崎を出世させる手段に使われようとしていたことを知って、
彼は愕然とするわけです。


このあたりがねぇ、
このドラマの一筋縄じゃ行かないところなんですよね。
狩野が、ただ単純に、私腹を肥やしたいと思ってるだけの男なら、
もっと当人をストレートに憎むことも出来るんだろうけど、
姪に対する溺愛が絡んで来ると、
その間違った愛情の深さに対して簡単に憎めなくなってしまう、というか。


狩野の唯一の弱点が、姪の香織だということが、
その弱点が、こんな形で浮き彫りになってしまうことが、
どこか滑稽でもあり、どこか痛々しくもあり、切なくもあり。


可愛がってきた姪がやっと選んだ結婚相手は、
自分も この男ならと見込んだ、系列銀行の有望株。
父親代わりとしては、もう一押し、
この男に手柄を立てさせてやろう、と。
しかし、香織との繋がりから井崎に身内意識を持つ、
そのこと自体は間違っていなくとも、
それを仕事にまで持ち込んでしまう、ということが、
どれほど浅はかなことか、どれほど公私混同も甚だしいか、ということを、
狩野ほどの人間が気づいていない、
あるいは、気づいていながら押し通そうとしている、
そこに、人の情の愚かしさ・哀しさが潜んでいるようで。


愚かしくも哀しい男がもう一人。
商品開発部に異動した沢田(田辺誠一)。
「企画を出してくれ」と言われて、
ルンルンで書き上げたのはいいけれど、あえなく却下。
自信を持って提出したものだけに、納得が行かず、
それとなく周りの人間に聴いてみると、
どうやら最初から彼の企画はボツになることになっていたようで。
帰り際、狩野常務とすれ違った時に、
「君が企画した新車が開発されることを期待してるよ」と言われて
はたと気づく、
自分が狩野のワナにかかった、ということに・・
釣った魚に餌をやる必要はない、と思われていることに・・


で、恒例、奥様・英里子(本上まなみ)によるお悩み相談w。
「今の会社には、あなたの求める夢はない。
もう一度闘いを挑んでみたら? 夢を持てる会社にするために」
そう言われて、沢田は・・・


実は、先週観ていて、どう描かれるだろう、
と一番気になっていたのが、
この、商品開発部に移ってからの沢田の去就。
そう簡単に車を作らせてもらえないだろうことは予測が出来る、
とすれば、その後、この男はどういう行動に出るだろう、と。
で、奥さんのアドバイスを受けて、
簡単に会社を糾弾する側に戻るのは、何となくイヤだな、と。


沢田が、自分の夢のために簡単に告発文を捨ててしまうような、
愚かしく弱い人間であっても、
せめて、その幻の夢から覚めたら、自分自身の力で、
本当の正義を自分の内に呼び覚ます努力と勇気と強さを持って欲しい、
と、そう思っていたので、
今回、奥さんのお悩み相談に頼る沢田に
「やっぱりそうなっちゃうのか・・」
と、ちょっと残念な気持ちを抱いたのも事実で。

うーん、うーん、沢田よぉ、
そこは自分で何とかしなくちゃならないところだろうが!
自分の去就ぐらい自分で決められなくてどうするんだ!
と、内心、この甘ったれのクレバー男に、ツッコミを入れてた自分w。


沢田が、このまま妻のアドバイス通りに動いてしまったら、
この非常にグレードの高いドラマに、
納得の行かない部分が出来てしまうなぁ、と、
このドラマのファンとして、沢田を演じている田辺さんのファンとして、
ちょっと残念に思ったのですが・・

いやいや、さすがにこのドラマは、そんなに甘くはなかったようですw。
最後の最後に、沢田は、
単身ホープ自動車に殴り込みをかけて来た赤松の前に引っぱり出され、
彼の全身全霊を賭けた執念の深さを目の当たりにするのですが、
その赤松の、相手を呑むほどの気迫、真っすぐな一念は、
沢田に大きな衝撃を与えたに違いないし、
彼の内なる正義を必ず揺り動かしてくれる!と信じたくなるほどの
激しさがあったように思えました。


次週予告。
沢田の胸に光る社章。
その社章を賭けるぐらいの勇気がなければ、この会社は変わらない。
赤松が自分の会社に注いでいるのと同じくらいの本物の強い愛情を、
沢田もまた、ホープ自動車に抱くことが出来るのかどうか・・
そういう想いを自分の内に呼び覚ますことが出来るのかどうか・・
次回・最終回を楽しみにしたいと思います。



今回の沢田悠太=田辺誠一
一番好きだったのは、狩野に声を掛けられた後の表情。
いやはや、どれだけ微妙で繊細な感情を表現してくれるんだか。
私としては、特に この人の自嘲めいた表情というのは、
いつも絶品だと思っております。
(ひいきの引き倒しには なってませんよね、ね・・w)


あと、何だかんだ言って、
英里子役の本上さんとのツーショットはやっぱりいいな、とw。
愛妻にグチ言ってる甘ったれ沢田にはついツッコミを入れたくなるけど、
そういう沢田を演じてる田辺さんは嫌いじゃない・・というか、
むしろ好きなんですよね、実はw。