シネマ歌舞伎『二人藤娘/日本振袖始』感想

シネマ歌舞伎『二人藤娘/日本振袖始』感想

坂東玉三郎さん編集・監修の『二人藤娘』と『日本振袖始』。
シネマ歌舞伎初体験でしたが、楽しかったです。
最初に玉三郎さんの解説があったので、
内容が分かりやすく すんなり入って行けました。


『二人藤娘』
玉三郎さんと中村七之助さんの舞踊。
玉三郎×七之助を一度ちゃんと観てみたい、というのが、
今回シネマ歌舞伎を観に行くきっかけだったのですが、
予想以上の美しさで、もう眼福。
舞踊なのでセリフは一切ないのですが、
何かしらのストーリーを感じさせるものになっていて、
興味深く観ることが出来ました。

少し硬さのある七之助さんを玉三郎さんがしっとりとリード、
二人の間に フッと中世的な・・というか、
自在に男性性と女性性を行き来しているような
不思議な空気感が生まれる瞬間があり、
それがなんとも魅力的でした。

私は、舞踊に関してはまったくのしろうとなので、
うまいとかどうのこうの言えた筋合いじゃないんですが、
それでも、玉三郎さんの視線の流し方とか、
七之助さんの身体をのけぞらせた時のしなやかさとか、
二人の指先の細やかな美しい動きとか、
ほーっとため息が出るほど素敵で、
それらが、画面を通してとはいえ間近で観ることが出来る、
地方で観ることが出来る って、本当に幸せなことだな と思いました。


『日本振袖始』
こちらも舞踊劇と言ったらいいんでしょうか、ほとんどセリフがありません。
しかし、土台となる物語がちゃんとあって、
そのあたりを玉三郎さんが先に解説してくれていたので、
引っかかることなくその世界観に入り込むことが出来ました。

岩長姫、実はヤマタノオロチ
いや、岩長姫の怨念の深さが彼女をヤマタノオロチに変えてしまった、
と言ったほうがいいか。
娘を差し出さなければ洪水を起こす、と村人を脅し、
差し出された娘たちを喰らってきたオロチ。
だけど、憎々しくもおぞましいオロチのもとが岩長姫であることで、
そこに ちょっと違う意味合いが生まれて来る。
(岩長姫は帝に見初められた美しい妹(木花開耶姫)を嫉(ねた)んでいた)

赤い振袖の岩長姫の姿で酒甕に首をつっこんで酒を喰らう、
その姿には、性を超絶した凄みがありました。
性を感じさせない藤娘とは対照的に、
男性性も女性性もしっかりと持っていて、
シャキッとしていてダイナミックな男性的な動きの中に、
岩長の女性としての切なさや哀れさが滲んでいる。

それがヤマタノオロチになると一気に禍々(まがまが)しくなって、
すさまじい隈取 口の中まで真っ赤に塗りたくった姿は、
玉三郎さんだと分かってるんだけど すぐには信じられないほどで。
 (前列のお客さんがびっくりしてのけぞってました)
とにかくもう玉三郎さんが本当に巧みで、
観ているこちらは ただただ圧倒されてしまいました。


一方、オロチを退治するスサノオノミコト中村勘九郎さん。
いつも思うのだけど この人はいい意味で余裕がない。
逃げない、遊ばない、流して演じていない、
目一杯自分の持ってるものをさらけ出して演じている気がする。
その生真面目さが、私にはとても好もしく感じられます。
凛として立つ姿に濁りや澱(よど)みがなくて、惚れ惚れしました。

オロチにいったんは呑み込まれながら
腹を裂いて出てくる稲田姫中村米吉さん。
ぷっくりと可愛らしい風情で、
七之助さんとはまた違った魅力のある女形さんだと思いました。

そうそう、忘れちゃならない、
岩長姫からオロチへの早変わりの間を上手く使った
三味線方と唄方のソロパートが、
ロックコンサートみたいでかっこよかったです。


あたりまえのことですが、シネマ歌舞伎は生の舞台ではないので、
カメラワーク頼りというところがあって、
自分の観たいところに視線を送ることが出来ないもどかしさも
若干あったのは確かだけれど、
アップでこそ観られる細やかな表情とか仕草とか、
隈取の凄さとか、そういったものを堪能出来て楽しかったですし、
バックステージの様子等めったに観られないシーンも豊富で、
お得感もあり、
ゲキ×シネ(@劇団新感線)を観た時も思ったことですが、
TV中継とは違って周囲の雰囲気も芝居を観るのに近いものがあって、
すごく興味深かったですし面白かったです。

次は6月に『三人吉三』をやるらしい。また観に行こうかな。


シネマ歌舞伎『二人藤娘/日本振袖始』     
上演:2014年3月 歌舞伎座 シネマ歌舞伎公開:2015年1月17日-
キャスト:『二人藤娘』/ 藤の精:坂東 玉三郎 藤の精:中村 七之助
『日本振袖始』/ 岩長姫実は八岐大蛇(ヤマタノオロチ):坂東 玉三郎
稲田姫:中村 米吉 スサノオノミコト:中村 勘九郎