『キレイ〜神様と待ち合わせした女』(2014)感想:1

注意! 一部ネタバレしています。
特にこれから舞台をご覧になる方はご注意下さい。
また、文中に一部差別用語が含まれています。ご了承の上お読み下さい。

 

『キレイ〜神様と待ち合わせした女(2014)感想:1 【ネタバレあり】

大人計画松尾スズキさん作・演出『キレイ』9年ぶりの再々演。
「どうだった?」って誰かに訊かれたら、
とりあえず「ほんとにすごかったよ!」と言う、
そのあと「どこが?」って訊かれたら 「・・全部!」って答えるしかない、
だって、そう答えるしかないでしょ、これはもう。

いつも思うのだけど、松尾さんの芝居は感想を書くのがものすごく難しい。
芯を貫くような明確なストーリーはないし、
何か意味のあることを考えかけると
次の瞬間には それを粉々にされてしまってるし、
そもそも、そんなことをウダウダ考える間(ま)を与えられないほど、
次から次へと場面は変わって行くし、時系列は混ぜこぜだし、
主要人物はみんなめんどくさいし、
そんな彼らが背負ってたり抱えてたりするものを
こっちにどんどんぶつけて来られて、
痛いし、切ないし、面白いし、馬鹿だし、
ただただ舞台の彼らに惹きつけられて3時間半、
終わってみたら「松尾スズキすごい!」という感想が真っ先に浮かぶ、
そういう舞台でござんした。チャンチャン。

・・・いやいやいや。
そこで終わっちゃいけない、なんか負けた気分になる。頑張ろう。

    **

《宇宙は見える所までしかない》という曲の中に
「物語で私を飾らないで」というフレーズがあるのだけれど、
松尾さんは、見た目や言葉のかっこよさとか美しさから
‘飾り’を捨て去ったところに、
醜さとか、残酷さとか、いやらしさとか、
奇形とか、異質なものとか、そういうものを普通に・・
そう‘普通に’そこに同じように並べて来る。

この芝居全体が
「物語」という綺麗事(きれいごと)にキチッと収まってしまうことを嫌いつつ、
普通でないと思われている者が 普通(あたりまえ)に存在する空間を、
あたりまえのように(普通に)表現してみせる。

頭は弱いけど枯木に花を咲かすことが出来るハリコナ、
最期まで純粋さを貫く異形のダイズ丸、
美しく何不自由ない暮らしをしていながら偽善に走るカスミ、
目を閉じることで見たくないものを見ないことにしたジュッテン、
10年間地下室に閉じ込めた女を探し追いつめて
屈折した感情をぶつけるマジシャン・・

ここに登場する彼らは、皆、表(正)と裏(負)を併せ持っている。
肉体的な正と精神的な負、あるいは、精神的な正と肉体的な負・・
どちらにしても 何か欠けたものを抱えた・・
言わば 片端(かたわ)なヒトたちなんだと思う。

   (片端という言葉が差別用語なのはもちろん知っていますが、
   ここでは自分にとってとても意味のある言葉になっているので
   あえて使わせてもらってます。不快に思った方がいたらごめんなさい)

そんな片端の彼らが 普通 に生きている世界に、
観ている者はぐいぐい引きずり込まれ、
じきに その‘普通’に慣れて、
この物語の、物語という形にならない複雑さも猥雑さも受け入れて、
舞台全体から発せられる熱にズキズキしながら、
ありえない世界のありそうな現実に引き込まれて行く・・

もしかしたら、舞台上のすべては、マジシャンがかけた催眠術で、
ケガレはもちろん、宇宙に行き損ねたハリコナにしたって、
実は「ソト」に出たわけじゃなくて、
彼らから見える宇宙の遥かその先にソレはあって、
登場人物全員、
何層かに分かれた空間に閉じ込められているに過ぎなくて、
それは当のマジシャンや神にしても同じことで・・

 

芝居が終わって、マジシャンの催眠術が解けて、
不思議な夢から醒めたように、私は少しホッとして、
それから 何だかとても淋しくなる――

自分の半分を地下室に置き忘れたまま、表だけで生きて来たミソギは、
やがて、その もう半分の自分と一つになるために地下室に戻る。
ミソギと少女ミソギは とりとめなく話し合う、
よろしくケガレるために、よろしく生まれ直すために・・

そうして新しく生まれたケガレは、
花火になったハリコナを見て叫ぶ――「花!・・キレイ」と。
そして歌う「裸で間抜けで私はキレイ ケガレてケガレて私はキレイ」と。

――何だかとても淋しくなる、
まだくっきりと耳に残るそのケガレの歌を思い返して、
これは、マジシャンの煙幕で出来た白い繭玉(コクーン)が私に見せた、
‘特別な普通’ の世界のお話なのだ、と思い知らされて。

そうして、私はソトに出て ‘本当の普通’ に帰る、
健全で、正常で、ささいな間違いをも認めず、
ケガレたもの(片端なもの)に蓋をして見ないふりをする、
あるいは徹底的に排除しようとする、
偽物の「キレイ」が幅を利かす、シアワセな世界に。

 

・・・・何だかふわふわと
身体も心も「あるべき場所」に着地しないまま2日が過ぎて、
自分の内にも間違いなく存在するケガレ(片端な部分)を、
愛おしく思うことを許されたような気がする今・・

まぁ、松尾さんは、
こんな安易で中途半端な共感など、
断固として拒(こば)むんじゃないかとは思うけれど。w

 

12月10日(水)13:30開演 Bunkamuraシアターコクーン 1階BR列
Bunkamura25周年記念
『キレイ〜神様と待ち合わせした女』     
公演日程:2014年12月5日-30日/Bunkamuraシアターコクーン
2015年1月8日-18日/シアターBRAVA!
作・演出:松尾スズキ 音楽:伊藤ヨタロウ 音楽監督:門司肇 振付:振付稼業air:man 
演出助手:大堀光威、佐藤涼子 舞台監督:二瓶剛雄
チーフ・プロデューサー:加藤真規(Bunkamura)、長坂まき子(大人計画
出演:多部未華子阿部サダヲ小池徹平尾美としのり田畑智子
皆川猿時村杉蝉之介荒川良々、伊勢志摩、猫背椿
宮崎吐夢顔田顔彦少路勇介、町田水城、伊藤ヨタロウ、
家納ジュンコ、オクイシュージ、松尾スズキ田辺誠一松雪泰子 他
『キレイ』Bunkamura公式サイト 
『キレイ』大人計画サイト