平成中村座『法界坊』感想

平成中村座『法界坊 串田戯場』感想WOWOW
WOWOW(ステージ)見放題、という感じの今日この頃w。


歌舞伎は分かりづらい、という先入観があったのですが、
これは、もう、文句なく面白かったです。
串田和美さんの演出の工夫なんでしょうが、
最初に、ざっくりとした背景説明があって、
登場人物のプロフィール紹介みたいなことをしてくれたので、
話がテンポ良く進んでも、置いてけぼりになることもなかったですし、
序盤の、敷居の低い、分かりやすい笑いから、
徐々に歌舞伎本来の魅力を絡ませ、
大喜利でその真骨頂を魅せる、という流れが とてもスピーディ、
かつ、観る者を惹き付けるいろんな仕掛けもあって、
最後までまったく飽きることなく、楽しむことが出来ました。


出演者も、出て来る人出て来る人、
とにかくお客さんを喜ばせよう、楽しませよう、という意識が高く、
歌舞伎のワクをあまり感じさせないように演じているところもあれば、
歌舞伎としての見どころ(所作としての美しさ等)を
うまく生かしているところもあり、と、
歌舞伎を観た事がない人でも気軽に楽しめる娯楽作品になっていて、
見応えたっぷりな3時間でした。


前半は、特に笹野高史さんと片岡亀蔵さんに笑わされました。
笹野さんは、
新感線の橋本じゅんや右近健一的面白さ、と言ったらいいか、
本当に自由に、好き放題やってるように見えて、
ギリギリの線を踏み外さず、
客席の空気をうまく見計らっている、という感じがしました。
亀蔵さんの方は、きちっと笑わせる、というか、
すごく安心感・安定感のある笑いで、
笹野さんとは違った意味で惹かれるところが多かったです。


中村勘九郎さん・七之助さん。
3歳ぐらいの頃からTVでよく観ていたのですが、
本当に魅力的な役者さんになりましたね。
この2人に関しては、ほとんど笑わせどころはなかったのですが、
逆に、この2役を歌舞伎としてきちんと美しく演じることが、
他の人たちの面白さを、
より一層引き出す結果になっていたようにも思います。


中村扇雀さんや中村橋之助さんが、
抜群の安定感で お芝居を下支えしてくれていて、
勘三郎さんや笹野さんらが どんなに自由な遊びを入れ込んで来ても、
自然に歌舞伎の空気に戻してくれたので、
全体がとっ散らかることなく、品のある舞台に仕上がっていたのも、
興味深いところでした。


さて、中村勘三郎さん。
とにかく観客の人心掌握術に長けていて、
捨て身で徹底的に皆を楽しませようとするところが、
これだけ人気のあるゆえんなのでしょうね。


法界坊というのは、
序盤から中盤にかけては、
主要人物の周りをうろついて話をどんどんややこしくして行く
トラブルメーカー的な役どころだと思うのですが、
殺されて、怨霊となった野分姫が乗り移って、
二つの人格が同時に現れる終盤から大喜利の「双面」まで、
一気に主役としての存在感を増して行き、
早替えの連続の中、
お組に対する法界坊、要助に対する野分姫を
瞬時に演じ分けるところなどは、
しろうとの私が観ても、とにかくすごい!と感嘆するしかなく、
これでもか、の桜吹雪が乱れ舞う中、
本物のスカイツリーを背景に見得を切る勘三郎さんの姿に、
命を懸けて(賭けて)演じる、というのはこういうことなんだ、と、
見せ付けられたような気がして、
ただただ心奪われ言葉失うしかなく・・


最後には、
これはもう、勘三郎さんが演じる平成中村座の舞台を
また観るっきゃないな、と、
半ば強引にそう思わされた気がします。


おこがましい言い方かもしれませんが、
中村勘三郎・・本当に凄い人だ、と、改めてそう思いました。