『まほろ駅前多田便利軒』(映画)感想

まほろ駅前多田便利軒』(映画)感想チャンネルNECO
原作を先に読んでいて、多田-行天コンビに惚れ込み、
勝手に自分好みのキャスティングに置き換えて楽しんでいたので、
正直、最初はすごく違和感があった。
違う、多田や行天は こんなに若くちゃいけない、
20代の尖(とん)がった青さをお尻にくっつけたままじゃダメなんだ・・
などと、偉そうに批評家ぶりながら、それでも観続けたのは、
多田と行天が「映画」という三次元の中でどう描かれるのか、
興味があったから、に他ならない。


勝手に抱き続けていた そんな私的違和感は、
しかし実際には、
中盤、多田(瑛太)と行天(松田龍平)がフロントガラスの割れた
軽トラを疾走させるあたりからゆっくりと融(と)け出し、
凪子(本上まなみ)が行天とのいきさつを話すあたりになると、
すっかり氷解してしまっていた。


監督・脚本は大森立嗣さん。
原作より少しだけ彩度を落とした作りで、
原作の設定より若い2人の俳優を、
落ち着いた(くすんだ)トーンで撮ることに成功している。
原作ファンの腐女子の多くが(たぶん)願っていたように、
単なるイケメン2人のBLめいた友情物語、なんてことにしてしまったら、
多田と行天の魅力がまったく損なわれてしまったと思うけれど、
この映画は、原作の底に流れる切なさをきちんと掴んでいる上に、
地味だし、美しくもかっこよくもない、
けれど、だからこそ2人の痛みがじんわりと確実に伝わる、
そういう作品になっていたように思う。
・・まぁ、その低彩度ゆえに、大ヒット作にはならなかったのだ、
と言えないこともないのかもしれないけれど。


瑛太くんと龍平くんは、
以前『アヒルと鴨のコインロッカー』で共演していて、
その映画を観ていた私は、
2人の醸し出す空気感にとても惹かれたのだけれど、
今回もまた、違和感を引きずったまま観ていた私を、
いつのまにか納得させてしまう、不思議な魅力があった。


瑛太くんは、
この役も含め、私が観た作品の中では、
「痛さ」を内に秘めているような役が多いように思う。
その痛さを自分の中に無理に引き込んで役作りするんじゃなくて、
静かに役に寄り添って自然に役に溶け込んで行っているように見える。
そのせいか、けっして押し出しが強いわけではないのだけれど、
いつも「役」としての印象が強く残る。


龍平くんは、いつも、
アップよりも、全体のフォルムから放たれるものがすごく大きくて、
今回の行天にしても、
ちょっと猫背ぎみだったり、腕をふらふらさせながら走ったり、
いつもちょっと浮いてるような感じだったり、
というのを観ているうち、
ああ行天だなぁ・・と、自然に納得させられてしまった気がする。
彼もまた、役にどっぷりと浸っている感じがしなくて、
その「役との距離感」が、特にこの役にはうまく作用していたように思う。
けっしてハンサムではないのだけれど、独特の存在感がある。
今後も、いい作品を選んで出演して欲しい・・と、つい老婆心。


この2人もだが、ワキもまた素晴らしかった。


特に印象に残ったのは、高良健吾くん。
グレイトーンの画面に、一瞬ハイライトが差し込んだように、
シャキッとした空気を注ぎ込み、注目をさらったと思ったら、
ササッと退場。
せめてあと2〜3シーン欲しかった!と思うのは、ワガママだろうか。


本上まなみさんのメルヘンチックな空気感も、
役にぴったりと嵌(はま)っていた。
「くまくま」という名のウサギのぬいぐるみが出て来た瞬間、
この難しい役にきちんと芯が通ったような気がして、
思わず「うまい」と口に出してしまった。


外事警察』以来、久しぶりに観る片岡礼子さん。
いつもながら、いかにも演じている、というような あざとさがなくて、
もう本当にこの人の「間違いなさ」には敬服。


松尾スズキさん。
情けない可愛らしさを持ってる人。
竹中直人さんに似ているところもあるが、
竹中さんほど強引に逃げ道を作ることが出来ない・・というか、
あえて逃げ道を作らない気がする。
そこが、この人の魅力のようにも思う。


大森南朋さん。
赤ちゃんおんぶして弁当屋やってる、生活感あふれる役。
彼を(役の上で)カワイイと思ったのは、久しぶりな気がする。


他に、麿赤兒さん、岸部一徳さん、柄本佑くん、鈴木杏さん等々、
主人公2人同様、存在感あふれるキャスティングで、適材適所。


この映画の続編が、来年新春に連続ドラマ化されるそうで。
脚本・監督が、『モテキ』の大根仁さんと知って、びっくり。
多田=瑛太・行天=龍平のキャスティングはそのままだそうだが、
ワキも今回のメンバーにした上で、
どういう「まほろ」にしてくれるのか、を無性に観たいのだが、
う〜ん・・さすがにそれは難しいかなぁ。