『どんど晴れ』SP感想
たとえば『TAROの塔』のように、どこにも一分の隙もないドラマは、
本当にクオリティが高くて素晴らしいと思うけれど、
この『どんど晴れ』のように、
どこか甘かったり、緩かったり、ツッコミどころいろいろあったり、
というドラマも、
それはそれとして、きちんとブレずに成立しているなら、
私としては、それなりに「面白い」と思えるわけで。
で、結論から言えば、このドラマ、なかなか面白かったです。
何より、岩手山や一本桜等々、
時折差し挟まれる岩手の風景が本当に美しかったし、
ロケが多かったせいか、ドラマ全体に流れる空気もクリアで、
気持ちがよかった。
4年前に放送された朝の連続ドラマの続編なので、
最初からレギュラー陣のポジションがしっかり出来上がっていた、
というのが大きかった気がしますし、
特に、夏美役の比嘉愛未さん、環役の宮本信子さんの
ナチュラルな存在感が、
このドラマの根底の大事な部分を、しっかりと支えていたように思いました。
また、脚本が、きちんと伝えたいことを持っていて、
それを、「座敷わらし」やら「雪ん子」やらの民話と絡ませ、
程よくファンタジー色を含ませることによって、
多少無理のある展開であっても、
不快感なく受け入れてもらえるようにしている、
そのあたりの‘さじ加減’も、私には好もしく感じられました。
そんな中、ゲストで登場の田辺誠一さん。
同じゲストである林家正蔵さん、ICONIQさん共々、
どこか浮世離れしていて、リアリティが希薄でw
だけど、だからこそ、
すでに出来上がっている民話テイストの「どんど晴れ」の世界観にも、
あまり違和感なく溶け込んでいたように思います。
ただ、レギュラー陣に比べると、どうしてもキャラクター設定が弱く、
足場がしっかりと固められていないので、
観ていて、全面的に感情移入することが出来なかったのが
ちょっと残念ではありましたが。
高木(田辺)が加賀美屋に提案した「エコ」と「見えるおもてなし」。
高木自身の取り組み方には問題があったとしても、
だからと言って、
彼の考えや、今までやって来たことが全面的に否定されることはなく、
身の丈に合った形で、加賀美屋の人たちに浸透して行く・・
一方の高木もまた、
加賀美屋の人たちの「見えない おもてなしの心」に触れて、
父親へのわだかまりをほどいて行く・・
つまり、どちらが正しいか、間違っているか、
という単純な正否の問題ではなく、
お互いの‘何’を‘どう’自分のものにして成長して行くか、
ということなのだろう、と。
そういう意味で、
主だった登場人物たち(レギュラーもゲストも)が、
それぞれ、何かしらのきっかけを掴み、それを自分の心に刻み込ませつつ、
少しながらでも前に進んで行く姿が描かれていたことが、
私が、このドラマに好感を持った、大きな要因だったように思います。
それにしても・・
高木が、登場当初から、
華やかな「成功者」という感じがしなかったのは、何故でしょうか。
最初は、演じている田辺さんの髪型やらスーツ姿の緩みやらで、
いつものようにスキッとしていないせいかなぁ、と思ったんだけど、
そうではなくて、そもそも高木には、最初から、
自信満々な力強さ、みたいなものが なかったような気がします。
それは、高木という男の心が、
実は、ずっと着地点を見出せずに彷徨(さまよ)っている、
そのあたりの寄る辺(よるべ)なさから来ているのではないか、と。
そういう、‘確かさ’を持たないところ、‘揺らぎ’が感じられるところ、が、
いかにも田辺さんが演じている人間らしい、と思うし、
その浮遊感のおかげで、
夏美同様、高木も座敷わらしかもしれない、
などという民話チックな味付けにも あまり不自然さを感じなくて、
このドラマの持ち味には合っていたように思います。
父親への想いに、もうちょっと深い意味づけがあったら、
高木の背景に、もっとずっと奥行きが出たような気がするんだけど、
そのあたりがちょっと弱かったのが残念。
田辺さんは、よく、こういう、
着地点が見つからずに浮遊しているような、
不確かで、おろかで、弱い人間を演じることがあるけれど、
正直、40歳を過ぎてもまだ、こういう役が出来ることに、
少し驚いています。
まぁ、ファンとしては、あまり好もしい役でないのは確かなんですが、
それでも、これもまた田辺誠一が醸す独特の空気感には違いないので・・
いったいいつまでこういう役が出来るのか、
(好き嫌いは別としてw)興味あるところです。
ビジュアル的には、
長髪よりも回想シーンの短い髪に違和感が・・
全体的に、スーツ姿よりカジュアルな服装(浴衣も含め)の方が、
私としては、好みでした。
特に、朝市をあちこち覗きながら歩いているところとか、
加賀美屋のロビーでくつろいでいる時とか、
どこかノスタルジックなものを感じる空間の方が、
似合っていたような気がします。
高木という役柄のせい、と言うよりも、
田辺さん自身がもともと持っている雰囲気が、
そういうものと相性がいいんじゃないでしょうかね〜。