『ハッピーフライト』感想:2
『ハッピーフライト』二度目の鑑賞。
『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の!
あの矢口史靖監督の!!っていう先入観に囚われ過ぎて、
きっと笑わせてもらえるに違いない、
きっと泣かせてもらえるに違いない、
きっとラストは大盛り上がりで感動するに違いない、と、
勝手な期待感を膨らませて行ったら、
何だか自分の思ってたとおりの映画じゃなくて、
そこそこ笑って、そこそこジーンと来て、
そこそこラストに達成感があって、でも「それだけの話」で、
あれれ?と、ちょっと肩透かしをくらったような気がした、試写会。
『WB』『SG』の矢口監督だから、
さすがに人物描写はコミカルながらリアリティもあるし、
キャスティングも適材適所、確かに面白い、面白いんだけど・・・
うーんうーん、この小じんまりした内容の映画に、
本当の空港、本当のジャンボ機って必要だったの?
かえって「本物」であることが、この映画を重苦しくしてないか?
コメディとしても、パニック映画としても、どうも中途半端だよなぁ・・
かと言って、真面目なお仕事映画と言い切ってしまうにはふざけてるし・・
監督の遊び心は買うとしても、
映画としてスクリーンに映し出されたものに、
自分なりに、どういう感想を書いたらいいのか、正直悩んでしまって、
あげく、100点取らなくてもいいじゃないか、
80点で面白い、20点欠けた分の自由な魅力のある映画ってのが
あってもいい、なんていう、
褒めてるんだか貶(けな)してるんだかよく分からないような
感想を書いてしまった前回。(苦笑)
で、先日、二度目の鑑賞。
この映画の「本物」の部分を除いたら、ひょっとしたら、
矢口監督とこの映画の本当の魅力を見つけ出せるんじゃないか、と、
そんなことを漠然と考えながら観始めたのだけれど。
鈴木が操縦に失敗してシュミレーション機を海に突っ込ませた後、
本物のジャンボ機の鼻先(コックピット)から胴体下が大きく映し出され
やがて格納庫から滑走路に向かってゆっくりと動き出す、
その、ちょっと不気味なほど巨大な姿をカメラが追い始めた時、
ふいに、ザワザワと鳥肌が立つような何とも言えない緊張と感動が
身内から湧いて来て、そして・・・私は早々に、
自分が大きな勘違いをしていたんじゃないかと思い始めた。
監督が撮りたかったのは、きっと「これ」なんだ、
この、とてつもなくでかくて重い、
どう考えても空を飛びそうにない、鉄の生き物。
生き物・・? うん、やっぱり「生き物」としか形容しようがない、
まるで、眠りから覚めて、さぁこれからお仕事に行きますよ、
とスタンバイしてる、みたいな。
ドクンドクンと鼓動している、みたいな。
そんな「彼女」を、隅々まで理解し、愛して、
彼女に惚れ抜いた監督は、
どうしたら彼女の魅力を観客に伝えられるか、を考えに考えて、
彼女の頭脳やハートとして機能している人たち(パイロットとCA)、
彼女を美しく磨き上げる人たち(整備士)、
傷ついた彼女を心配し、
HOMEで待ってる人たち(OCC、管制官、GS等々)といった、
彼女の内部や周辺にいる多くの人々を、
生き生きと魅力的に描くことで、
彼女の素晴らしさを浮き彫りにしようとした。
本当にね!
監督は、なんて飛行機が好きなんだろう、
なんて空港が好きなんだろう・・
まるで少年のように、眼をきらきらさせながら、
「ねぇ知ってた?ジャンボ機ってねぇ・・空港ってねぇ・・」
と、人に話すのが嬉しくてしょうがない、まるで子供みたいに・・
というか、健全なおたく、と言っていいのかもしれないけど。(笑)
でもそれが、単に知識のひけらかしになっていない、
純粋な愛情から出たものだから、
こっちもついつい熱心に見入ってしまう。
そして・・まんまとその魅力に嵌まってしまうのだ。
監督が、本物のジャンボ機、本物の空港、にこだわったわけが、
ようやく分かった。
パイロットやCAが主人公なんじゃない、
この「B747-400ジャンボ機さん」こそが主人公なのだ、
置いてある備品ひとつ、使っているネジ一本まで大好き(たぶん)なら
そりゃ「本物」を使わなくちゃ意味がないよね。
そして、そこで働いている人たちも、ヒーローやヒロインはいらない、
ドラマチックな展開もいらない、
「彼女」の骨となり肉となり血となって、
地道に一生懸命(時に失敗はありつつも)働いてくれる、
普通の人(仕事上のプロではあるが)でいいわけだ。
「『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の矢口史靖監督 」
という眼で観ると、いかにも物足りなく感じる映画かもしれない。
だけど、飛行機大好き矢口青年(いや、おじさん?笑)が、
そのひたむきな情熱で、
航空会社の全面的なバックアップまで取り付けて、
一途に隅から隅まで愛情込めて作り上げた、
優しくも楽しい「飛行機&空港賛歌」だと思って観た時、
私としては、とても満足出来たし、何だかすごく嬉しくなった。
そして、コメディという味付けはされていても、
実は、監督は、ちょっと心許なげなコーパイ(田辺誠一)や、
ドジなCA(綾瀬はるか)が、
先輩(時任三郎・寺島しのぶ ら)の力を借りて、
徐々に、この魅力的なヒロイン(B747-400)の本当の血や肉となって行く
その過程を見せたかったのかな、なんてことを考えついて、
ますます、興味深いと思った。
だって、こんなふうに、本当に「飛行機(と空港)が主役」で、
そこにいる人間が、その魅力をより鮮やかにするためのパーツとして
描かれている、なんて映画を、私は観たことがなかったから。
そしてさらに・・・
プログラムに書いてあるキャストの細かい性格描写を読み、
――え?あいつってそんな性格だからあんなふうだったの!?
矢口監督と佛田洋特撮監督の対談を読んだ後には、
――え?あのカットってひょっとしてミニチュアやCG使ってたの!?
等々、新たな興味倍増。(笑)
うーん、恐るべし矢口史靖!
こりゃもう1回や2回は映画を観に行かねばなるまい。(笑)