『ハッピーフライト』感想:1

ハッピーフライト』感想:1(試写会@郡山テアトル)
はなまるカフェ』を観た時の高いテンションを持続したまま(笑)
11日夜、『ハッピーフライト』試写会に行ってまいりました。
仕事を済ませて、開場25分前には映画館に着いたのですが、
もう30人くらいの人が並んでいました。
150人が当選したわけですが、全体の年齢層は思ったより高め。
20代後半から60代、男性3割、女性7割、ぐらいの比率。

東北の片田舎なので、TV局の営業担当者の挨拶があっただけで、
「田辺さん登場!」なんてサプライズも特になく(笑)
映画が始まりました。


   **


ストーリー自体は単純で、
ホノルルに向かったジャンボ機にトラブルが発生して、
台風直撃中の空港に戻って来る、という、ただそれだけの話で、
その飛行機にいろんな形で携わっている人たちの動きを、
仕事の内容紹介も兼ねて、断片的に繋ぎ合わせ、重ね合わせた映画、
ということになります。

まぁ「ただそれだけの話」ではあっても、
そこはそれ矢口史靖監督なので(笑)
とにかくユル〜フワ〜の小ネタ満載で、
どの部署のエピソードも、笑わされること間違いなし。

特に、厳しい上司(寺島しのぶ時任三郎)のもとで
仕事をするはめになって、
緊張しまくりの新人CA(綾瀬はるか)やコーパイ(田辺誠一)は、
これでもか、というぐらいヘマをしてくれます。(笑)


ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』でも思ったことだけど
この監督の笑いは、すごくゆるいです。
大爆笑、って感じじゃなくて、クスクス、って感じ。

その笑いが、高校生がシンクロやったりジャズやったり、という
どこまでも安心・安全な部活動的フィールドじゃなくて、
人々の命を乗せたジャンボ機に絡むものなので、
観客の中には「なんて不謹慎な!」「人の命を預かる仕事なのに!」
と思った人もいるかもしれないですが。


だけど、逆に、仕事ってああいうもんだよなぁ、とも思う。
人の命がかかっているならなおのこと、
一日中、神経張り詰めて仕事していたら、身が持たない。
いい加減にやってるわけでも、手抜きしてるわけでもないなら、
むしろ、うまく息抜き出来る人間こそ、向いているのかもしれない。

一生懸命頑張ってるのに、ミスしてしまう新人・・・
プロフェッショナルだから許される、わずかな息抜き・・・
その緩急が絶妙で、くだらないと思っても、
つい笑ってしまうシーンも多いのですが。


しかし、この映画が、思ったより笑いの部分が抑え目で、
「コメディ」と言うよりむしろ
「真面目でクールなお仕事ムービー」になっているのは、
各部署のプロが、確実に的確に自分の仕事をこなして行くその姿が、
ものすごくカッコいいからに違いないし(特にトラブル発生時)
新人は新人で、必死で仕事をこなして行く中で、
確実に何かを掴み、プロに近づいて行くステップが見えるから、
なんだと思う。


今回は、過去2作に共通した
「一生懸命練習したんだね、よく頑張ったね」的な、
クライマックスに向かう温かい一体感・達成感 があまり味わえないので
物足りない、と思う人も多いかもしれないけれど、
仕事をしている彼らにしてみれば、これは「日常」でしかないわけで。
いちいち劇的に盛り上がる、なんてことはしないわけで。
プロは、ひとつの危機が去ったぐらいのことで、
延々と喜んではいられないのです、すぐ次の仕事が待っているんだから。


何だか、その、あまり余韻のないクールでドライなラストにも、
私は感じるものがあったし、
映画を観終わった後、仕事してる大人が本当にみんなかっこよく見えて
帰りに食事したお店の人や、パーキングの管理人さんに対してさえ、
温かい感謝の気持ちが自然と湧いて来てしまった自分に、
自分でびっくりしたりして。(笑)


それにしても・・・(以下、まったく私の勝手な思い込みですが)
矢口監督が、これからも、こんなふうに、
いい意味で無邪気な映画作りをして行くのなら・・
どこかきっちりと描き切らない、
手作り感の残る映画を作り続けて行くのなら・・
生真面目に100点を狙う必要はないんじゃないか、と思う。
80点で十分・・という気がする。
満点を狙って80点、じゃなくて、
最初から80点を狙って80点を取る、
あえて100点にしない、完璧じゃない、
どこかにゆるい遊び心が残っている、
20点欠けたゆえの自由な魅力を持っている、
そういう映画の作り方があってもいいのかもしれない。

でもね、だとしたら、
周囲はそれにやすやすと便乗しちゃいけないんじゃないか、
そういった性質の映画じゃないだろう、なんてことも思うのです。


ジャンボ機の提供やスタッフ協力で、
この映画に多大な貢献をしたANA、
そういう意味で、機上試写会、ジャンボと綱引き、ってのは、
ちょっと舞い上がり過ぎてたような気がするし
(あくまで私個人の感覚としてだけど)
制作側も、話題性のある矢口監督の作品とはいえ、
いろんな番組にキャストを引っ張り出し過ぎ、
って気がしないでもありません。
(いや、そのおかげで、
普段出ないような番組に田辺さんが出てるのを観られるのは、
ファンとしてすごく嬉しいんだけど)


たかが80点映画(監督ごめんなさい)に、
周囲の関係者、力入れ過ぎなんじゃないの、
あまりにも商業ベースに乗せ過ぎなんじゃないの、と。
ま、これだけきちんと飛行機に携わる仕事を描いてくれている映画に
肩入れしたいANAの気持ちは、よく分かるけれどね。(笑)

矢口監督には、
どんなに周囲がはしゃごうが、おべっか使う人間が増えようが、
自分流の映画作りを続けて行って欲しい、と思う。
監督みたいな人は、決して「巨匠」なんて呼ばれる必要はないのだから。

(以上、私の勝手な思い込みを閉じる。暴言多謝)


   **


キャスティングについては、ひとりひとり全部名前を挙げたいくらい、
非常に魅惑的でしたね〜私としては。(笑)
真の主役である、ジャンボジェットくんも含めて。(笑)


で、中心人物のひとりを演じた田辺誠一さんですが。
こういう、ちょっとムカつくけどカワイイところもある男を
演じさせたら、ほんとうまいですね〜!
・・いや、褒めてるんですが。(笑)

キャラとしては、中林(@夢のカリフォルニア)って感じなので、
ファンとしては、好き嫌いが分かれるかもしれません。
しかし、そういうウザカワイイ役を、
田辺さん自身は相変わらず的確に演じていますし、
飛行機にトラブルが発生して以降、
いろんなセクションに文句つけたり、
機長の顔色ばかり伺って優柔不断だった彼が、
いつのまにか瞬時にさまざまな判断を下し、
的確に処理して行くようになる、
その「変化して行く様子」が魅力的に描かれているので、
(時間を追ってだんだん成長して行く、っていうんじゃなくて、
彼の中に眠っていた大切なものが、眼を覚まして行く、という感じ)
とても面白く観ることが出来ました。


ただ、これはもう田辺ファンとしての贅沢
としか言いようが無いんですが、
何かしら、俳優・田辺誠一としての「新しい発見」があれば、
もっと楽しめたようにも思う。
「このぐらい出来て当然」という確実なところで演じているので、
もう一歩踏み込んだ新しい色が出せていたら、
この役が、もっともっと好きになれただろうになぁ、と。


それは、実は、岸部一徳さんら他の俳優さんたちにも感じたこと。
まぁ、これだけフラットに多くの登場人物を取り上げていれば、
あまり新しい色を出して、
脚本に描かれた「役=俳優」みたいな部分を壊すのは
逆効果になってしまうのかもしれないけど。

う〜ん、アンサンブルとしては、
どの部署もパーフェクトと言っていいぐらい、
とてもいい雰囲気だったので、
あまり贅沢は言わない方がいいのかな〜。(笑)


最後に、印象に残ったことをひとつ。
実は、この映画には、不必要な人間は出て来ないのですよね。
仲間の足をいちいち引っ張る新人CAも、
最新鋭のシステムについて行けないOCCも、
いまいち頼りないコーパイも、
飛行機の写真を撮るのが趣味のおじさんも、
いつもは邪魔にされてる飛行機オタクも、
一瞬とても重要な役を与えられる時がある。

彼らは皆、
「あなたはそこにいていいのです」という、大きな許しの掌の中にいる
そのことが、もうひとつのメッセージ「経験は無駄にはならない」
とともに、この映画を、温かくも豊かなものにしているように
思われました。

そしてそれは、おそらく、矢口監督がこの映画にそっと潜ませた、
すべての登場人物に対する「優しさと愛」に繋がるのかな、
という気がしました。


・・・・・え?
「映画を観終わった時、安心して『鈴木和博機長の飛行機に乗りたい!』
と思えたか?」って?
ええ!それはもう完璧に!!
ただし、あの優秀なプロのスタッフたちがついていてくれたら、
っていう条件つきではありますが。(笑)
だって、飛行機って、パイロットひとりで飛ばせるもんじゃ
ないんですから。