『風林火山』(第6回)感想

風林火山』(第6回)感想
山本勘助内野聖陽)に対する今川義元谷原章介)の痛烈な拒否反応は、
とても見応えがありました。
義元は、勘助の醜貌を毛嫌いしているようでしたが、
実は、武田に身内を殺された恨みを晴らしたい!と明言している勘助に、
危険な昏(くら)さと危うさを感じ取り、
「怨(うら)み」という妄執に取り付かれた勘助の歪んだ心根が
その貌に浮かび上がっていることに、嫌悪を感じたのではないか、
という気がしました。


ここでもまた、勘助は、
「怨みでは武田は討てない」ということを思い知らされ、
私怨を捨てない限り、仕官は叶わない、
ということを思い知らされるわけですが、
それを勘助に突きつけるやり方が、晴信と義元とはまったく違っていて、
その辺を、上手く勘助の仕官願望と絡めて描写してくるあたり、
やはり、脚本のうまさを感じずにはいられませんでした。



一方、武田晴信市川亀治郎)は、三条の姫(池脇千鶴)を娶り、
これがまた、たおやかな中にしっかりとしたところを持った姫なので、
なかなか気に入った様子。
この時代、結婚は政略のためにあったようなものなので、
好き嫌いの感情など、二の次だったんでしょうね。
だからまぁ、相手に対して、一緒にうまくやっていけそうかなぁ、
ぐらいに思えたら御の字だったんだろうし、
そのあたり、晴信も、姫も、ちゃんとわきまえていた、
と言えるのかもしれません。

結構うまく行ってるように思えるふたりが、
由布姫(柴本幸)の登場で、どう揺らいで行くか、も、
これからの見所になりそう。


義元の拒絶に遭った勘助は、駿河出国を禁じられ、
失意のうちに日々を過ごしますが、
それもつかのま、花倉の乱で顔見知りになった青木大善(四方堂亘)から
北条にスパイあり、の情報を得ると、
それを使って、今度は北条への仕官を画策しようと、
意気揚々と、小田原へ馬を走らせます。
ほ〜んと、メゲない奴ですねぇ。(笑)
タフというか、打たれ強いというか、あっという間に立ち直るところが、
いっそ、気持ち良い。(笑)


で、北条氏康(松井誠)と出逢いますが、これがまたなかなかの人物で、
ここには、福島の息子・彦十郎(崎本大海)もいて、
勘助の貌を見覚えていたために、危うい立場に立たされてしまいます。
危うし勘助!というところで、次回へ続く。

いや〜、勘助は、どこまで行ったら浮上出来るんだろう。
でも、来週は、いよいよ信濃真田幸隆佐々木蔵之介)登場、
どうやら、勘助も、ようやくまともに働ける場を与えてもらえそうで、
楽しみ。


さて、今週の信有くん(田辺誠一)。(笑)
今回あたり、きっと見所あるだろうな、と思ったら、案の定でしたね。(笑)
前半の、甲冑姿での「焼き払えっ!」という雄叫びと、立ち回り・・
後半の、家臣たちに詰め寄られた時の、憎らしいほど冷静沈着で、
皮肉めいた、けれども内に熱いものを秘めた様子・・
3話・5話でのシーンも含め、私個人としては、
『信長』や『大奥〜華の乱』、果ては『からくり事件帖』に至るまで、
田辺さんが出演していた多くの時代劇で感じた物足りなさを、
ほとんど払拭してもらったような気がして、とても嬉しかったです。


特に、舞台で明智光秀をやった、という経験は、
やはり、この人にとってどれほど大きかったか、と思わずにはいられない。
あの時、私は随分と苦言を吐いたけれど、
光秀で もがき苦しんだことが、結果的に、今、
こういう形で「答え」になって出て来たのではないか、
という気がしました。
まぁ、それがまた舞台に戻った時にどうなるか、というのは、
何とも言えないことだけれども。(あいかわらず辛口ですみません。笑)


台詞に含まれる多少の気負いも、私としては、今回は許容範囲。
光秀の時のように、最後までこのままのテンションで行く、とは思えない、
たぶんどこかで、柔和な部分も出して来るのだろう、
その伏線として、今、この硬さがあるのではないか、
という気さえするのですが、
それではあまりに都合よく解釈し過ぎているでしょうか。(笑)
いやいや・・信有が、武田の中で、
ずっとこの隔たりを保ったままだとは思えないのです、私には。
「忠義ではない、道義にござる」「すべてこの甲斐のためじゃ」――
これらの台詞に、信有の真の志(こころざし)が透けて見えるような気がするし、
それは、詰まるところ、やり方は違え、
信虎や晴信の目指しているものと、大きな違いはない、
という気もするので。
まぁ、あのスタンドプレイぶりじゃ、
周りに理解してもらえるとしても、随分先になるだろう、
とは思いますが。(笑)


それにしても、やはりこの人の平伏する姿は好きです。
ピンと張った背筋、頭を下げる角度とタイミング、
それだけで、小山田信有の人となりや、武田におけるポジションが、
明確に表現されているとさえ思える。
信虎(仲代達矢)が晴信の嘆願を蹴って出て行くシーン、
後ろに控えた家臣たちの平伏の様子がまちまちで、
それぞれの立場や心の内を反映しているようで、面白かった。
ちなみに、いち早く頭を下げたのが信有、
晴信の方に気が行って、
最後まで頭を下げなかったのが板垣(千葉真一)でしたね。


物語のほうは、甲斐=山梨(武田)に始まり、
駿河=静岡(今川)→ 小田原=神奈川(北条)→
信濃=長野(真田/諏訪)と、
当面の舞台となる地域を、勘助の放浪と共に、ぐるりと一周し、
その土地土地の様子を簡潔に見せて行こう、という趣向。

で、次回からは、いよいよ信濃。物語も佳境に入って行くようです。